腸チフス・パラチフスとは?

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腸チフス・パラチフス


腸チフス・パラチフスは一般サルモネラ感染症とは区別され、チフス疾患総称される。腸チフス・パラチフスは、チフス菌パラチフスA菌網内系マクロファージ増殖に伴う菌血症と、腸管局所病変特徴とする疾患である。
1999 年4月から施行された感染症法では、腸チフス・パラチフスは2類感染症指定され、患者疑似患者および無症状病原体保有者(保菌者)を診断した医師は、直ち保健所長を通じて都道府県知事届け出るように決められている。腸チフス・パラチフス患者疑似患者第2種感染症指定医療機関への入院勧告、または入院措置対象となる。しかし、無症状病原体保有者(保菌者)は入院勧告入院措置対象にはならず、外来通院治療選択することができる。入院勧告入院措置による入院72 時間までで、それ以後入院については、保健所設置された感染症審査に関する協議会入院必要性検討し、10日以内の期間を定めて入院の期間を延長することができる。その後は、延長された入院の期間の経過後、協議会入院必要性再検討される。
わが国法律上起因それぞれ腸チフスSalmonella Typhi, パラチフスSalmonella
Paratyphi A である。パラチフスB Salmonella Paratyphi B)は、S. Java との鑑別が困難な点から1985 年以降パラチフス原因から除外され、サルモネラ症として扱われるようになったまた、チフス菌パラチフスA 以外にもヒトチフス症を起こすサルモネラ属菌(S. Sendai, S. Paratyphi B, S. Paratyphi C)もあるが、これらはサルモネラ症として扱われる。

疫 学
腸チフス・パラチフスは現在でも、日本を除く東アジア東南アジアインド亜大陸中東東欧中南米アフリカなどに蔓延し、流行繰り返している。わが国でも昭和初期から終戦直後までは腸チフス年間約4万人パラチフスが約5,000人の発生がみられていた。そして、1970年代までには環境衛生状態の改善によって、年間300例の発生まで減少した。その後さらに減少し、1990 年代に入ってからは腸チフス・パラチフスを併せて年間100程度推移している。そのほとんどは海外からの輸入事例で、海外旅行日常化したことにより増加傾向にある(図1)。

 腸チフス・パラチフスの集団発生としては、1993 年に首都圏50名の腸チフス患者1994年には近畿地方34名のパラチフス患者1998年には関東地方で約20名のパラチフス患者がみられている。
わが国では腸チフスパラチフス疫学調査のために、チフス菌パラチフスA菌分離菌株地方衛生研究所通じて国立感染症研究所集められ、ファージ型別を行っている。
腸チフス・パラチフス
ファージ型は感染経路追求に非常に有効な方法であり、集団発生時にはそれにより感染経路追求が行われる。現在、チフス菌106型、パラチフスA菌は6型のファージ型に分類されている。

病原体

 チフス菌パラチフスA グラム陰性桿菌で周毛性鞭毛持ち運動性がある(図2)。両宿主特異性があり、ヒトにのみ感染病気起こすヒト糞便汚染された食物疾患媒介する。感染源ヒトに限られているため、衛生水準の向上とともに減少している。
腸チフス・パラチフス

臨床症状
腸チフスパラチフス臨床症状ほとんど同じであるが、パラチフス腸チフス比較して一般的に症状は軽い。通常1014 日潜伏期の後に発熱発症する。第1病期には段階的に体温上昇し、3940達する。3 主徴である比較徐脈バラ疹、脾腫出現する。第2病期期であり、40代の稽留熱下痢または便秘呈する重症場合には意識障害引き起こす。第3病期には徐々に解熱し、弛張熱腸出血をきたす。腸出血に引き続いて、2~3%の患者腸穿孔起こす。第4病期には解熱し、回復に向かう(表1)。生化学検査では、急性期には白血球軽度減少し、3,000/mm3 近くまで低下する。GOT, GPT軽度上昇する(200 IU/l 程度)。LDH中程度に上昇し、1,000 IU/l 以上となることもある。


病 週

第1病週
段階的体温上昇3940
比較徐脈バラ疹・肝脾腫
腸管リンパ組織内で増殖
腸粘膜リンパ節腫脹
第2病週
稽留熱40
チフス顔貌意識障害
リンパ組織壊死起こし
痂皮形成
第3病週
弛張熱腸出血腸穿孔 痂皮がはがれ落ち潰瘍形成し、
出血起こす
第4病週
解熱回復 組織破壊修復される

病原診断
臨床診断臨床症状の他に、過去1カ月以内発展途上国などへの海外渡航歴も参考にする確定診断は、細菌学検査によるチフス菌パラチフスA菌検出である。細菌検出には、血液培養加えて糞便胆汁の培養を行う。有熱期に血液培養を行えば、検出率は高い。保菌者無症状者では糞便培養胆汁培養を行う。

治療予防
腸チフスパラチフスには抗菌薬投与による治療が行われる。現在ではニューキノロン系抗菌薬第一選択薬として使われている。チフス菌パラチフスA菌海外からの輸入事例では薬剤耐性菌分離されている(表2)。とくに、インド亜大陸渡航者から薬剤耐性菌多く分離される。多剤耐性チフス菌パラチフスA は、アンピシリンクロラムフェニコールテトラサイクリンTC)、ストレプトマイシンSM)、ST合剤(S×T)の5剤に耐性を持つものが多い。現在でも、多剤耐性チフス菌インド亜大陸中央アジア東南アジア流行し、集団発生が生じることもある。
現在までの疫学調査から、多剤耐性チフス菌ファージ型はE1が多いことが解っている。多剤耐性チフス菌パラチフスA菌の他に、現在はニューキノロン感受性チフス菌パラチフスA 問題となっている。これらはニューキノロン系耐性ではないが、ニューキノロン系対すMIC感性の約10倍またはそれ以上高い(表2)。

腸チフス・パラチフス

また、ナリジクス酸耐性で、第3 世代セフェム系抗菌薬には感性である。ニューキノロン感受性による腸チフス・パラチフスでは、ニューキノロン系による治療が困難である。現在までにニューキノロン系による治療奏功しなかった症例多く報告されている。ニューキノロン系効果が望めない症例では第3世代セフェム系抗菌薬使用される。現在のところ、第3世代セフェム系抗菌薬耐性をもつチフス菌パラチフスA 報告されていないこのようなニューキノロン感受性1998 年より急激に増加している。2000年では、日本分離されるチフス菌の約50%、パラチフスA の約30%が、2001年では、チフス菌の約30%、パラチフスA 菌の約50%がニューキノロン感受性であった(図3)。

 今後腸チフス治療には直ちニューキノロン系薬剤投与するのではなく分離菌株薬剤感受性試験を行ってから治療始め姿勢が必要となってきている。
腸チフス・パラチフス

感染症法における取り扱い
腸チフスパラチフス2 類感染症であり、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りである。
腸チフス
診断した医師判断により、症状所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
材料末梢血骨髄液、便、尿、胆汁
病原体検出
チフス菌分離培養
疑似症の診断
臨床所見腸チフス流行地への渡航歴集団発生状況などにより判断する。
鑑別診断マラリアデング熱A型肝炎つつが虫病など
パラチフス
診断した医師判断により、症状所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
材料末梢血骨髄液、便、尿、胆汁
病原体検出
Salmonella serovar Paratyphi A の分離培養
Salmonella Paratyphi B、Cはサルモネラ症として取り扱う)
疑似症の診断
臨床所見パラチフス流行地への渡航歴集団発生状況などにより判断する。
鑑別診断マラリアデング熱A型肝炎つつが虫病など

学校保健法での取り扱い
疾患学校保健法第一種の伝染病分類されているが、感染症法にて2類感染症指定されていることより、原則として患者指定医機関入院するので、治癒するまで出席停止となっている。


国立感染症研究所細菌部 広瀬健二 渡辺治雄)

  




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