腸管出血性大腸菌
病原性大腸菌のうち、ベロ毒素などの毒素を産生し、激しい痛みと出血を伴う腸炎を引き起こす大腸菌。
代表的な腸管出血性大腸菌として、1996年に岡山県で起きた食中毒事件で一般的に知られるようになった「O-157」がある。他に「O-111」(腸管出血性大腸菌O-111)も腸管出血性大腸菌として知られる。これらはO抗原の違いによって区別される。
腸管出血性大腸菌はベロ毒素によって大腸の粘液細胞を死滅させる。このため激痛と血便が生じる。激しい下痢の症状がおきるが、毒素を排出しなければ死にいたる危険もある。
関連サイト:
腸管出血性大腸菌感染症 - 国立感染症研究所
腸管出血性大腸菌Q&A - 厚生労働省 食中毒に関する情報
ちょうかんしゅっけつせい‐だいちょうきん〔チヤウクワンシユツケツセイダイチヤウキン〕【腸管出血性大腸菌】
腸管出血性大腸菌
腸管出血性大腸菌
<特徴>動物の腸管内に生息し、糞尿を介して食品、飲料水を汚染する。家畜では症状を出さないことが多く、外から見ただけでは、菌を保有する家畜かどうかの判別は困難。 赤痢菌が生産する志賀毒素類似のベロ毒素を生産し、激しい腹痛、水溶性の下痢、血便を特徴とする食中毒を起こす。少量でも発病することがある。加熱や消毒処理には弱い。原因なっているものは、血清型 O157 がほとんどであるが、この他に O26、O111、 O128 及び O145 などがある。
<食中毒症状>感染後 1~10 日間の潜伏期間。初期の感冒様症状のあと、激しい腹痛と大量の新鮮血を伴う血便がみられる。発熱は少ない。患者数は多くないが、乳幼児や高齢者を中心に溶血性尿毒症症候群を併発し、意識障害に至るなど重症になりやすい。
<過去の食中毒原因食品>日本:井戸水、焼肉、牛レバーなど欧米:ハンバーガー、ローストビーフ、アップルジュースなど
<対策>食肉は中心部までよく加熱する(75 ℃、1 分以上)。野菜類は流水でよく洗う。 と畜場の衛生管理、食肉店での二次汚染対策を十分に行う。低温保存の徹底。
腸管出血性大腸菌 [Enterohemorrhagic Esherichia coli]
O157:H7とは、ベロ毒素産生性腸管出血性大腸菌、最近では志賀毒素産生性腸管出血性大腸菌と呼ばれる細菌である。ヒトの糞便のほぼ3分の2が細菌で1グラムに約1012個(1兆個/グラム)の細菌が含まれている。大部分(99.9%)の細菌は、酸素があると増殖できない偏性嫌気性菌で、残りの0.1%(109個:10億個/グラム)は酸素があっても無くても増殖できる通性嫌気性菌で、その多くを大腸菌が占めている。
大腸菌は通性嫌気性のグラム陰性桿菌での腸内細菌科細菌の一つで赤痢菌やサルモネラ菌と近縁の細菌である。
大腸菌の分類は血清学的分類という、細菌を構成している種々の物質の成分や構造の違いで決めているが、O157:H7は菌体抗原(O抗原)と細菌の運動性の器官である鞭毛(べんもう)抗原(H抗原)が、O抗原に対する157番目の抗血清とH抗原に対する7番目の抗血清で凝集するという意味である。この細菌が一躍全国的に有名になったのは、1996年に大阪府堺市で汚染したカイワレ大根を使った学校給食で多数の患者が発生し、全国でも1万人以上の人が発症して12人が亡くった食中毒である。本菌は新たに指定伝染病(食中毒)として指定された腸管出血性大腸菌症(食中毒)の原因菌で、その特徴は赤痢菌と同一の外毒素(志賀毒素、又はベロ毒素)を産生し、ベロ毒素産生性腸管出血性大腸菌と呼ばれるが、外国では一般に志賀毒素産生性大腸菌と呼ばれる。少量(100個以下)の菌を食物と共に経口摂取すると、比較的潜伏期は長いが腸管内で増殖して志賀毒素を産生して出血性の下痢を起こす。時にはその毒素が血液に入って全身に回り、腎炎や脳炎などを引き起こし死亡する事もある。
腸管出血性大腸菌
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/09 08:43 UTC 版)
腸管出血性大腸菌 | |
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概要 | |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | A04.3 |
ICD-9-CM | 008.04 |
腸管出血性大腸菌(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん、enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)とは、ベロ毒素 (Verotoxin; VT)、または志賀毒素 (Shigatoxin; Stx) と呼ばれている毒素を産生することで病原性を持った大腸菌である[1]「病原性大腸菌」の一種である。このため、VTEC (ベロ毒素産生性大腸菌、Verotoxin producing E. coli) やSTEC (志賀毒素産生性大腸菌、Shiga toxin-producing E. coli) とも呼ばれる。この菌の代表的な血清型別には、O157が存在する。
この菌による感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律により3類感染症として指定され、確認した医師は直ちに所轄する保健所などに届け出る必要がある。
歴史
- 1982年 アメリカのオレゴン州やミシガン州などでハンバーガーが原因食と推定される食中毒からEscherichia coli O157:H7 (O157) が初めて検出される[2]。
- 1987年に発見されたベロ細胞を致死に至らしめる大腸菌O26の毒素が、米国の研究者によって赤痢菌の分泌する志賀菌の抗体で中和されたことから、志賀毒素産生大腸菌と呼ばれる発端となった。1982-1995年まで、Shiga-like toxin (Slt)と呼ばれていたが、1996年にShiga toxin familyとして、まとめて志賀毒素産生菌と呼ぶようになった[3]。
- 1993年には、アメリカのシアトル周辺で大規模なハンバーガー食中毒事件(ジャック・イン・ザ・ボックスの大腸菌集団感染)も発生した。[4]
- その後もアメリカ合衆国、欧州、オーストラリアなどでも集団発生が相次いで発生している。
- 日本では、1990年に埼玉県浦和市(現さいたま市)の幼稚園にて井戸水が原因とされる食中毒が発生した(園児2名が死亡)。
- 1996年 日本において、爆発的な発生が見られる。特に大阪府堺市においては小学校の学校給食で提供された食品がEscherichia coli O157:H7に汚染されていた事により、9,000人を超える集団発生が起きる(堺市学童集団下痢症)。堺市で小学生女児3名、岡山県で小学生女児2名が死亡。
- 1997年以降、毎年千数百人の医療機関を受診した患者が報告されている[1]。
感染経路
腸管出血性大腸菌による感染は、ベロ毒素産生性の腸管出血性大腸菌で汚染された食物などを経口摂取することによっておこる腸管感染が主体である。また、ヒトを発症させる菌数はわずか50個程度と少なく、強毒性を有するため、二次感染が起きやすく注意が必要である。また、この菌は強い酸抵抗性を示し、胃酸の中でも生残し腸に達する[1]。
血清型別
大腸菌は、耐熱性菌体抗原であるO抗原160種類以上と、易熱性の鞭毛抗原であるH抗原60種類以上によって分類される[2]。
- O抗原
- ベロ毒素を産生することのあるO抗原としては、O1、O2、O5、O18、O25、O26、O55、O74、O91、O103、O104、O105、O111、O113、O114、O115、O117、O118、O119、O121、O128、O143、O145、O153、O157、O161、O165、O172などがある。そのうち、O157によるものが全体の約80%を占める。
- H抗原
- 上記で示したO抗原であっても、H抗原が異なる場合等はベロ毒素を産生しないものがある。
したがって、腸管出血性大腸菌などの血清型別を表記する場合には、Escherichia coli O157:H7などと表記する。
O1:H20 | O103:H2 | O128:H2 |
O2:H6 | O111:H- | O128:H8 |
O4:H10 | O114:H4 | O128:H25 |
O5:H- | O118:H2 | O157:H7 |
O26:H11 | O118:H12 | O157:H- |
O26:H- | O128:H- | O163:H19 |
病原性
腸管出血性大腸菌は、無症状や軽度の下痢から、激しい腹痛・頻回の水様便・著しい血便(下血)などとともに重篤な合併症を起こし死に至るものまで、様々である。感染力は比較的強く他の食中毒原因菌の1⁄10〜1⁄100の100〜1000cfuの摂取で感染が成立するとされている[6]。
- 感染患者に、性別・年齢等有意な差はない。ただし重症化しやすいのは乳幼児や小児、高齢者で、男性よりも女性のほうがやや重症化しやすい。
- 感染の機会のあった者の約半数は感染から3-8日の潜伏期[7]の後に激しい腹痛をともなう頻回の水様便となる。多くは発症の翌日ぐらいには血便または粘血便となる(出血性大腸炎)。ほかの経口感染症(サルモネラ、腸炎ビブリオなど)と比べると吐き気や嘔吐はみられないことが多く、あっても程度は軽い。発熱は一過性で軽度(37℃台)である事が多い。血便になった当初には血液の混入は少量であるが次第に増加し、典型例では大便成分の少ない血液(と粘液)がそのまま出ているような状態になる。
- 有症者の6-7%は下痢などの初発症状発現の数日-2週間(多くは5-7日後)以内に、溶血性尿毒症症候群 (Hemolytic Uremic Syndrome, HUS)、や脳症などの重篤な合併症を発症する。溶血性尿毒症症候群を発症した患者の致死率は1-5%とされている[8][9]。このほか、稀ではあるが虫垂炎や腸重積など、消化器系の合併症にも注意が必要である(ひどい場合は穿孔や壊死によって腹膜炎に進展する)。
- 重症合併症の危険因子としては、乳幼児と高齢者及び血便や腹痛の激しい症例が挙げられている[9]が、それ以外でも重症合併症が起こる可能性がある。
診断
症状の発症とは関係なく糞便からの病原体(腸管出血性大腸菌)の分離、分離した菌株の毒素産生性の確認または毒素遺伝子の確認。同時に毒素型、抗体型を知る事が出来ればより効果的な治療につながる[10]。
治療法
症状、季節、年齢など様々な要素を考慮した診断を基にして、それに応じた対症療法が行われる[11]。
- 下痢症状を有する場合、安静、水分の補給及び年齢・症状に応じた消化しやすい食事の摂取。
- 激しい腹痛や血便が認められ、経口摂取がほとんど不可能な場合は輸液を行う。腎機能障害の発現に注意する。
- 腸管運動抑制性の下痢止め(止瀉薬)は、腸管内容物の停滞時間を延長し、ベロ毒素の吸収を助長する危険性があるので使用しない。
- 強い腹痛に対する鎮痛剤として、ペンタゾシンの皮下注射または筋肉内注射。スコポラミン系は腸管運動を抑制するため避ける。
- 抗生物質の投与
- 小児 - ホスホマイシン、ノルフロキサシン、カナマイシン
- 成人 - ニューキノロン、ホスホマイシン
- 合併症(溶血性尿毒症症候群、壊死性腸炎など)を起こした場合は早急に入院する必要がある。場合によっては人工透析や手術が必要なこともある。
脚注
- ^ a b c 国立感染症研究所 (2002), IDWR感染症発生動向調査週報 2002年第6号感染症の話 2010年2月9日閲覧。
- ^ a b 岡田淳ほか (1994), 微生物学・臨床微生物学, 臨床検査技師講座, 22 (3rd ed.), 医歯薬出版, ISBN 4-263-22622-4
- ^ ベロ毒素の新たな知見 化学療法の領域 25(5) 39-48. 2009
- ^ 厚生労働省検疫所 (n.d.), 3類感染症・腸管出血性大腸菌 2010年2月9日閲覧。
- ^ 大阪大学 (n.d.), ヴェロ毒素産生性大腸菌(VTEC), オリジナルの2009年4月15日時点におけるアーカイブ。 2010年2月9日閲覧。を基に一部追加
- ^ 山篠貴史、太田美智男、ベロ毒素生産性大腸菌 O157 の有機酸耐性 化学と生物 2003年 41巻 9号 p.619-627, doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.41.619
- ^ 知って得する病気の知識 O157 日本医師会
- ^ なお、激しい腹痛と血便のあった場合は、その数日後に上記の合併症を起こすことがあるので、特に注意が必要である。
- ^ a b ">厚生労働省 (1997), 一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版) 2010年2月9日閲覧。
- ^ 腸管出血性大腸菌(EHEC)検査・診断マニュアル 平成24年6月
- ^ 一次、二次医療機関のための O-157 感染症治療のマニュアル 厚生労働省食中毒関連情報
関連項目
外部リンク
腸管出血性大腸菌と同じ種類の言葉
大腸菌に関連する言葉 | 大腸菌(だいちょうきん) 病原性大腸菌(びょうげんせいだいちょうきん) 腸管出血性大腸菌(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん) |
菌に関連する言葉 | ウニの斑点症菌 条件性病原菌 腸管出血性大腸菌(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん) R型菌 ジフテリア菌(ジフテリアきん) |
固有名詞の分類
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