咽頭結膜熱とは? わかりやすく解説

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いんとうけつまく‐ねつ【咽頭結膜熱】

読み方:いんとうけつまくねつ

アデノウイルス感染により、発熱、のどのはれと痛み結膜炎症状呈する伝染性病気感染症予防法の5類感染症の一。学童プール感染して集団発生するのでプール熱ともいう。


咽頭結膜熱

咽頭結膜熱(pharyngoconjunctival fever, PCF)は発熱咽頭炎眼症状主とする小児急性ウイルス性感染症であり、数種の血清型アデノウイルスよる。季節的に地域流行することもあり、また小規模アウトブレイクとしても、散発的に発生するプールでの感染多く見られることから本邦ではプール熱とも呼ばれる

疫 学
本疾患の原因であるアデノウイルスは、特に季節特異性がなく年間通じて分離されるしかしながら疾患としての咽頭結膜熱は通常夏期地域全体流行し6月頃から徐々に増加しはじめ、7~8月ピーク形成する本邦感染症発生動向調査からみると、過去夏期流行の山がみられ、数年おきに流行規模大小していたが、1999 年より秋と春に小さな山がみられるようになっている小規模アウトブレイクとして起こる場合には、季節問わず多くプール介した発生であるが、病院施設デイケアセンターなどでも報告されている。季節性流行場合は、学童年齢罹患が主であるとされているが、感染症発生動向調査での罹患年齢からは、5歳以下が約6 割を占めている。
感染経路は、プール介した場合には、汚染したから結膜への直接侵入考えられている。
また、プールでのアウトブレイク調査結果からは、タオル共用したことが感染リスク高めたとの報告もある。それ以外では通常飛沫感染、あるいは手指介した接触感染であり、結膜あるいは上気道からの感染である。

病原体
アデノウイルスは正20面体構造をとるDNA ウイルスであり、エンベロープ有しない51種類血清型知られており、咽頭炎扁桃炎肺炎などの呼吸器疾患、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状引き起こす。咽頭結膜熱の流行をおこすのは多く3型、あるいは4型、7型、また2型11型14型もみられる散発例としては、1~8 型、1419,13/30型の報告がある。逆に、これらの血清型アデノウイルス感染しても、必ずしも咽頭結膜熱の症状来すとも限らない乳幼児急性気道感染症の10%前後アデノウイルス感染症と言われアデノウイルス小児重要な病原体である。

臨床症状
発熱発症し頭痛食欲不振全身倦怠感とともに咽頭炎による咽頭痛結膜炎にともなう結膜充血眼痛羞明流涙眼脂訴え、3~5日程度持続する眼症状一般的に片方から始まりその後他方にも出現するまた、結膜炎症下眼瞼結膜強く上眼瞼結膜には弱いとされる。眼に永続的な障害を残すことはない。また、頚部特に後頚部リンパ節腫脹圧痛認めことがある潜伏期は5~7日とされている。
アデノウイルス血清型のうち、7型は心肺機低下免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児老人では重篤症状となり、呼吸障害進行したり、さらに細菌二次感染併発しやすいことがある検査所見として特徴的なことは、血清LDH の異常高値血球減少傾向ならびに高サイトカイン血症である。高サイトカイン血症示唆するフェリチンβ2 ミクログロブリンなどの上昇を伴う場合には、ステロイド剤適応含め早急な対応が必要である。

病原診断
確定診断には、患者鼻汁唾液喀痰糞便拭い液や洗浄液胸水髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原検出する最近ラテックス凝集LA反応酵素抗体ELISA)法での抗原検出キット市販され早期診断使用されているが、血清型別判定できないしかしながら近年遺伝子診断PCR 法制限酵素切断法など)が可能となり、迅速診断有用で、簡便かつ型別判定が可能である。
血清学診断では急性期回復期ペア血清用い赤血球凝集阻止反応HI)、補体結合反応CF)、中和反応NT)などが行われる。CF感度の点でやや劣り、しかも血清型特定できないNT およびHI などは型特異的な測定法であるとされるが、実際に交叉反応があり、型の特定困難なこともある。

治療・予防
特異的治療法はなく、対症療法中心となる眼症状が強い場合には、眼科治療必要になることもある。
また、造血幹細胞移植後を含む免疫抑制状態にある患者での重症アデノウイルス感染症の際に、抗ウイルス剤リバビリンが有効であったという報告があるが、一方無効であったとの報告散見され一定の見解得られていない2001年のClin. Infect. Dis. にBordigoni らが、造血幹細胞移植303名のレトロスペクティブ調査結果報告しているが、35名のアデノウイルス感染症で、治療として用いたリバビリンビダラビンには効果がなく、シドフォビルあるいはドナー白血球輸注早期試み方法報告している。しかし、リバビリンシドフォビル我が国では入手が困難状況である。
予防としては、感染者との密接な接触避けること、流行時にうがいや手指消毒励行することなどである。消毒に関しては、手指に対して流水石鹸による手洗い、および90%エタノ-ル、器具に対して煮沸次亜塩素酸ソーダ用いる。ただし、エンベロープ持たないアデノウイルスにおいては消毒用エタノール消毒効果エンベロープを持つウイルス(たとえば、ヘルペスウイルスなど)に比較すると弱いとされる逆性石鹸イソプロパノールには抵抗性なので注意要する。7型による感染症では、心肺機能に基礎疾患有する小児重症化危険性高く、特に院内感染対策上重要である。
プールを介して流行に対しては、水泳前後シャワーなど一般的な予防方法励行が大切であるが、ときにはプール一時的に閉鎖する必要もある。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
咽頭結膜熱は5類感染症定点把握疾患定められており、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告なされている。報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下の2 つ基準をすべてを満たすもの
1. 発熱咽頭発赤
2. 結膜充血
上記基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、病原体診断血清学診断によって当該疾患診断されたもの

学校保健法における取り扱い
学校保健法では、第二種伝染病位置づけられており、主要症状消退した後2日経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により伝染恐れがないと認められたときはこの限りではない

文献
1)Cherry JD. Pharyngoconjunctival fever. In Text book of pediatric infectious diseases 4th ed.WB Saunders 1998.158‐161.
2)Cockburn TA, Rowe Wp, Huebner RJ. Relationship of the 1951 Greeley, Colorado, outbreak of
conjunctivitis and pharyngitis to type 3 APC virus infection. AM J Hyg 63: 250253, 1956.
3)Faden H, Gallagher M, Ogra P, et al. Nosocomial outbreak of pharyngoconjunctival fever due to adenovirus type 4: New York. MMWR 27:49,1978.
4)Anonymous. アデノウイルス7型1995.4 ~1996.12. 病原微生物検出情報月報Vol. 18 No.4(No.206),1997.
5)Anonymous.アデノウイルス1995~1999. 病原微生物検出情報月報Vol.21 No.2 (No.240),2000.

国立感染症研究所感染症情報センター 谷口清州


咽頭結膜熱

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/29 13:34 UTC 版)

咽頭結膜熱いんとうけつまくねつ)とは、発熱、咽頭炎、結膜炎などを主症状とするアデノウイルス感染症[1]プールの水を媒介として感染しやすいことから、プール熱[1][2]咽頭結膜炎(いんとうけつまくえん)ともいわれる。

症状

主な症状は発熱、喉が腫れる咽頭炎、目が充血する結膜炎などである[1]。生後14日以内の感染は重症化しやすく全身の感染症になる[3]

発熱
38℃から40℃の高熱が4日から1週間は続く。
咽頭炎
喉の腫れがひどい場合は扁桃腺炎になることもある。
結膜炎
結膜炎を伴う場合は目が真っ赤に充血する。眼に永続的な障害を残すことは通常はない[3]

感染経路

主な感染経路は飛沫感染と接触感染[1]。ウイルスは感染力が非常に強く、結膜から体内に入り感染する[3]。一般的には乳幼児が多く感染する。

治療

ワクチンや特効薬はないため熱が下がるのを待つ対症療法(眼の症状が強い場合は眼科治療を含む)が中心である[1]。食事や水分がとりにくくなり脱水症状になりやすいことから、水分補給や柔らかく刺激の少ない食事が必要になる[1]。ぐったりしていたり反応が鈍い、意味不明の言動などの症状が現れた場合は速やかな受診が必要である[1]

熱が下がってもまだ体内にウイルスが存在しているため、症状がおさまっても2日間は登校してはいけない(指定伝染病→感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 五類感染症である)。

予防

  • 外出から帰ってきたら石鹸で丁寧に手洗いする。
  • プールから上がったときは洗眼をしてはならない。逆効果である[4]
  • タオル等は共有しない[1]

学校関係の注意

  • 学校保健法施行規則では、主要な症状がなくなってからも2日間は原則として出席停止となっている。
  • 国立感染症研究所によると、症状が消えても約1か月間は尿便にウイルスが排出されるという。ただ、熱が下がってから後はウイルスの感染力が非常に弱くなっており、現実的な選択として、(1か月間でなく)2日間の登校禁止とされているほか、結膜の充血がなく症状が喉の炎症と発熱だけであれば、医師の判断で登校できる。通常、医師は喉の粘膜から採取する病原体検査や血液検査を見て判断する。

「プール熱」の呼称について

「プール熱」の名称はプールや温泉施設の利用者間で感染が起きることがあることによる[1]。しかし「プールが危険だと誤解を招きかねない」といった水泳競技関係者などから風評被害を懸念する意見や、感染経路はプール以外にも日常生活圏全体にあることから、2023年11月28日、日本水泳連盟などが厚生労働省に「プール熱」の名称を使用しないよう申し入れている。関係者と面会した塩崎彰久厚生労働大臣政務官は、「誤解が広がらないよう対応を考えたい」として表記の見直しなどに検討するとした[5][6]。なお、申し入れの時点で厚生労働省のホームページでは「咽頭結膜熱」の表記が殆どで「プール熱」の表記は1か所に留まっていた。

申し入れを受けて、厚生労働省のホームページは12月5日以降「プール熱と呼ばれることもありましたが、近年ではタオルの共用が減った等の理由からプール利用における集団感染の報告は見られなくなってきています。」との表記に改められている[7]。NHKでもこれを受けて「咽頭結膜熱=いわゆるプール熱」としてきた表記を「咽頭結膜熱」に統一した[8]

関連法規

出典

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i 東京都福祉保健局「ヘルパンギーナが流行、都内で警報基準を超える」 東京都北区 2020年7月29日閲覧。
  2. ^ 咽頭結膜熱 ~急性のアデノウイルス感染症。プール熱と言われることもあります。~”. 感染症・予防接種ナビ. 2019年11月22日閲覧。
  3. ^ a b c 感染症の話 咽頭結膜熱 国立感染症研究所感染症情報センター
  4. ^ 毎日新聞2008年2月22日付「洗眼:プール後は逆に危険 水道水で粘膜流れ、細菌感染しやすく--慶大教授ら研究」洗眼行為そのものに眼を保護する効果がなく逆効果である実験結果、及び眼科医の間では昔から問題視されていたことが記載されている。
  5. ^ 「プール熱」と呼ばないで 日本水連、風評被害訴え要望 - 時事ドットコム 2023年11月28日
  6. ^ 「プール熱」と呼ばないで 日本水泳連盟の鈴木大地会長らが厚労省に陳情 - TBS NEWS DIG 2023年11月28日
  7. ^ 咽頭結膜熱について - 厚生労働省ホームページ
  8. ^ 咽頭結膜熱の患者さらに増加 溶連菌感染症とともに10年で最多 - NHK NEWS WEB 2023年12月5日

外部リンク


咽頭結膜熱(プール熱)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 07:40 UTC 版)

アデノウイルス」の記事における「咽頭結膜熱(プール熱)」の解説

詳細は「咽頭結膜熱」を参照 主として3・4型による。 1日の間に3940度の高熱と、3738前後微熱の間を、上がったり下がったりが4〜5日ほど続き扁桃腺腫れ、のどの痛みを伴う。その間頭痛腹痛下痢伴い耳介前部および頸部のリンパ節腫れことがある両目または片目真っ赤に充血し目やにが出る。夏にプールを介して流行することがあるため、プール熱とも呼ばれることもあるが、プールに入らなくても飛沫糞便通して感染する。うがい、手洗いプール塩素消毒などで、ある程度予防できる。症状インフルエンザ似ているため、「夏のインフルエンザ」と呼ばれることもある。 学校保健安全法上の学校感染症一つであり、主要症状なくなった後、2日登校禁止となる。

※この「咽頭結膜熱(プール熱)」の解説は、「アデノウイルス」の解説の一部です。
「咽頭結膜熱(プール熱)」を含む「アデノウイルス」の記事については、「アデノウイルス」の概要を参照ください。

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