ウエストナイル脳炎とは? わかりやすく解説

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ウエストナイル熱

別名:ウエストナイル脳炎

ウエストナイルウイルス1937 年初めて、ウガンダWest Nile地方発熱した女性から分離された。本ウイルスの間で感染環が維持され、主にを介してヒト感染し発熱脳炎引き起こす我が国において感染例認められていないが、近年まで報告のなかったヨーロッパアメリカなど西半球1990 年代中頃から流行発生している。北米流行では従来異なり感染発病死亡率ウマヒトにおける流行重篤脳炎患者発生顕著である。新興感染症輸入感染症として注意必要な疾患である。

疫 学
ウエストナイルウイルスアフリカヨーロッパ中東中央アジア西アジアなど広い地域分布している(図1)。最近のウエストナイル脳炎の流行は、アルジェリア1994)、ルーマニア19961997)、チェコスロバキア1997)、コンゴ共和国1998)、ロシア1999)、アメリカ19992001)、イスラエル2000)などで発生している。2001 年末までに、北米では149例のウエストナイル脳炎患者発症し死亡者18認められている。CDCによれば北米ウエストナイルウイルス東海岸から中部諸州拡大しカリブ海諸国にも拡がっている。ウマでの流行モロッコ1996)、イタリア1998)、アメリカ19992001)、フランス2000)などで発生している。媒介は主にイエカ仲間であるが、我が国では、日本脳炎ベクターであるコガタアカイエカヤマトヤブカなどもなり得る考えられる。本ウイルス本邦侵入すると、を介して広範囲拡がる可能性がある。

ウエストナイル熱
ウエストナイル熱

病原体
ウエストナイル熱/ウエストナイル脳炎は節足動物を介してヒト伝播するアルボウイルス感染症一つで、日本脳炎ウイ ルスと同じフラビウイルス属ウエストナイルウイルスによってひきおこされる。本ウイルスの感染環はによって維持さ れている。アジアではコガタアカイエカ主要な媒介である。ヒト動物終宿主であり、低レベルウイルス血症認めら れるフラビウイルス属中でも、特に日本脳炎ウイルスセントルイス脳炎ウイルスマレー渓谷脳炎ウイルス、Kunjin ウイルス相同性高く抗原的に交叉反応を示す日本脳炎血清型群(Japanese encephalitis serocomplex )に分類される。本ウイルスの電子顕微鏡像を図2に示す。
ウエストナイルウイルス成熟期メス吸血時に増幅動物である鳥類伝播され、腸で増殖後、唾液腺運ばれる鳥類曝露続いて1~4日の間にウイルス血症起こす流行には渡り鳥存在感染移動関与示唆されているが、成熟越冬や経卵性伝播報告もある。その他、ダニ自然感染例や、節足動物媒介なしでハムスターおよびマウス実験感染例報告されている。

臨床症状
ヒトにおける潜伏期間は3~15日である。感染例の約80%は不顕性感染に終わる。発症した場合多く急性熱性疾患であり、短期間(約1週間)に回復する一般的に、3~6日間程度発熱頭痛背部痛、筋肉痛筋力低下食欲不振などがみられる皮膚発疹が約半数認められリンパ節腫脹合併する時にデング熱似た熱型を取る。さらに重篤症状として、頭痛高熱および方向感覚の欠如麻痺昏睡震え痙攣などの髄膜炎脳炎症状挙げられるが、重篤症状を示すのは感染者の約1%といわれている。これらは主に高齢者にみられ、致命率重症患者の3 ~15%とされるアメリカ合衆国患者データでは、筋力低下を伴う脳炎40%、脳炎27%、無菌性髄膜炎24%にみられている。

病原診断
検体として血清脳脊髄液用いウイルスRNA検出培養細胞や乳飲みマウス用いたウイルス分離が行われる。RT‐PCR 法によりウイルスRNA検出する方法検出感度高く特異性にも優れているウイルス分離発病早期血液または脳脊髄液から可能である。
ウイルス分離できなかった場合血清診断に頼らざるを得ない。しかし、血清診断は、日本脳炎血清型群に属すウイルス間での交叉反応があるため、注意要する実際的にELISA法中和試験補体結合試験赤血球凝集抑制反応試験などが用いられている。IgG 捕捉ELISA補体結合試験赤血球凝集抑制反応は他のフラビウイルスに対して交叉反応を示す。IgM 捕捉ELISA 法でも、日本脳炎極めて近い抗原性を示すため、多少交叉反応を示す。感染しているフラビウイルス鑑別するためには、中和試験が最も特異的である。急性期回復期血清または髄液での中和抗体価が4 倍以上上昇すれば、陽性判断できるペア血清採取には2週間上の間を空けることが望ましい。
これらの検査は、国立感染症研究所ウイルス第一部長崎大学熱帯医学研究所分子構造解析分野で可能である。

治療・予防
一般に臨床症状呈したヒトウマなど動物における本症に対す治療法はない。実験感染動物マウス)においてゲンタマイシンメラトニンステロイドなどによって回復例が報告されている。一般的には対症療法を行う。ワクチン未だ開発段階であるが、動物実験モデル日本脳炎ワクチンにより感染防御する可能性示唆する報告がある。日本のように未だ発生のない地域においては初期段階ウイルス検査迅速に実施することが、感染広がり最小限抑えることにつながる。鳥類感染把握、特にカラス死亡などはウイルスの活動動向を知る上で最高の指標となる。あるいは、蚊のコントロールおよび動向把握公衆衛生教育確定診断を行うための検査法確立普及も重要となる。発生地域においては個人的にとの接触を防ぐことが重要である。また、海外渡航者で発熱精神症状認められウイルス性脳炎疑われる患者、あるいは髄液細胞増多、発熱伴ったギランバレー症候群、非細菌性髄膜炎、あるいは急性弛緩性麻痺呈した患者に対しては、本症の可能性考慮する必要がある

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
ウエストナイル熱(ウエストナイル脳炎含む)は4類感染症定められており、診断した医師直ち最寄り保健所届け出る報告基準以下の通りとなっている。
○  診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断血清学診断なされたもの
病原体検出
 例、 ウエストナイルウイルス血液脳脊髄液からの分離
病原体遺伝子検出
 例、 PCR法等によるウエストナイルウイルス遺伝子血液脳脊髄液中での検出
抗体検出
 例、 ウエストナイルウイルス特異的IgM血液脳脊髄液での検出
    ウエストナイルウイルス特異的IgG検出ペア血清における4倍以上の上昇

国立感染症研究所ウイルス第一部 伊藤美佳子)

  


ウエストナイル熱

(ウエストナイル脳炎 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 09:39 UTC 版)

ウエストナイル熱(ウエストナイルねつ、West Nile fever、西ナイル熱とも)は、によって伝播するウエストナイルウイルス(西ナイルウイルス)による感染症[1]感染症法では四類感染症に、家畜伝染病予防法において馬の流行性脳炎として法定伝染病にそれぞれ指定されている。


  1. ^ a b c d e f g h i j k l General Questions About West Nile Virus” (英語). www.cdc.gov (2017年10月19日). 2017年10月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月26日閲覧。
  2. ^ a b c d West Nile virus”. World Health Organization (2011年7月). 2017年10月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月28日閲覧。
  3. ^ Final Cumulative Maps and Data | West Nile Virus | CDC” (英語). www.cdc.gov (2017年10月24日). 2017年10月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年10月28日閲覧。
  4. ^ 貫井陽子、高崎智彦、「ウエストナイル熱」 『日本内科学会雑誌』 2007年 96巻 11号 p.2435-2441, doi:10.2169/naika.96.2435
  5. ^ 小泉加奈子, 中島由紀子, 松埼真和 ほか、「本邦で初めて確認されたウエストナイル熱の輸入症例」 『感染症学雑誌』 2006年 80巻 1号 p.56-57, doi:10.11150/kansenshogakuzasshi1970.80.56
  6. ^ a b c d e f 加藤茂孝、第6回「ウエストナイルウイルス」-アレキサンダー大王の死因? (PDF) - モダンメディア 2010年 56巻 4号「人類と感染症の戦い」
  7. ^ 黄熱ウイルスは1927年に分離されており、野口英世1928年、黄熱の研究中に英領ゴールド・コースト(現在のガーナ)の首府アクラで死亡している。
  8. ^ 加藤茂孝「人類と感染症の戦い-第6回"ウエストナイルウイルス"」(2010)。原出典は、JS Marr et al:Alexander the Great and West Nile Virus Encephalitis.Emerging infectious Diseases.9(12),(2003)
  9. ^ 河野与一訳、『プルターク英雄伝』(1956)より。


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ウエストナイル脳炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 07:42 UTC 版)

感染症の歴史」の記事における「ウエストナイル脳炎」の解説

詳細は「ウエストナイル熱#歴史」を参照マラリア」節でふれたように従来紀元前323年6月10日メソポタミアバビロン死去したマケドニア王国アレクサンドロス3世大王)は、その高熱という症状インドからの帰還での死という地理的要素から、古来死因マラリアであると考えられてきた。しかし、2003年アレクサンドロスの死は西ナイルウイルスによるウエストナイル脳炎ではなかったかという学説登場した。 その根拠は、古代バビロン現代西ナイルウイルス流行する分布域属していることのほか1世紀から2世紀にかけて活躍したギリシア人著述家プルタルコスの『対比列伝』(「プルターク英雄伝」) のなかの以下のような記述である。 .mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}アレクサンドロスバビュローン入ろうとしている時に、(中略城壁のところまで行くと、多くカラス喧嘩をして互いにつきあいその内幾羽かが大王足元に落ちた公的な記録によればアレクサンドロス大王高熱発してずっと熱が下がらず、そのあいだ激しくのどが渇いて葡萄酒飲みうわごとがはじまって、発熱10日目亡くなったといわれる。これらの症状は、ウエストナイル熱やウエストナイル脳炎の症状矛盾しない動物媒介性の感染症新たな出現伝播は、飛行機や船による人類文物大量移動基礎として、たとえば近代化工業化地球温暖化などによって媒介動物である生息条件変化して分布域変動拡散しまた、その宿主生息域変動するなどの事象によっており、「感染症生態学」と呼ぶべきひとつの研究領域成り立つような条件生じさせているが、他方では、アレクサンドロス死因のように、過去さかのぼって史実解釈さえ再検討俎上乗せる可能性有しているのである

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ウエストナイル脳炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 09:39 UTC 版)

ウエストナイル熱」の記事における「ウエストナイル脳炎」の解説

感染者0.6 - 0.7%(発症者の3〜3.5%)がウエストナイル脳炎を起こす病変中枢神経系であり、脳幹脊髄侵される。よって、激し頭痛高熱嘔吐精神錯乱筋力低下呼吸不全昏睡不全麻痺弛緩性麻痺など多様な症状呈し死に至ることもある。また、網膜脈絡膜炎併発する

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