豚流行性下痢
別名:ブタ流行性下痢
英語:porcine epidemic diarrhea、PED
コロナウイルスの一種、豚流行性下痢ウイルス(PEDV)によって引き起こされる、ブタおよびイノシシの感染症。家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されている。
豚流行性下痢に罹患したブタは、黄色の水っぽい下痢や激しい嘔吐などを起こし、その症状は同じく届出伝染病に指定されている伝染性胃腸炎(TGE)に酷似している。若いブタでは、重症化すると3-4日で死に至ることもあり、特に生後10日までの哺乳豚では死亡率が100%に達することもある。肥育豚や育成豚は重症化することが少なく、不顕性感染の例も見られる。
豚流行性下痢は、感染豚の糞便を介して経口感染することが知られている。新たに導入された母豚やその子豚を介した感染環が形成されることにより、養豚場にウイルスが常在化する例もあるため、感染の予防や拡大阻止にあたっては、衛生管理が特に重要となる。豚流行性下痢に対してはワクチンが開発され、1996年に承認されているが、これは接種した母豚の乳を飲んだ子豚の感染予防や症状軽減に効果があるワクチンで、母豚への感染を予防するものではなく、主にウイルスの常在地で用いられている。
豚流行性下痢はしばしば大流行を起こし、中国では2010年以降、100万頭以上が死亡したといわれている。日本国内では2006年に香川県で発生が見られた後、長らく確認されることがなかったが、2013年9月に沖縄県で報告されたのを皮切りに、九州を中心に各地で報告された。2013年9月から2014年1月までに、全国で約3万頭が感染し、5千頭以上が死亡したとされている。動物衛生研究所による遺伝子解析の結果、2013年から流行したウィルスの株は、同年に米国や韓国で流行した株と近縁であることが明らかになった。
豚流行性下痢(PED) - 動物衛生研究所
豚流行性下痢(PED)の発生について - 鹿児島県
豚流行性下痢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/19 06:28 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動豚流行性下痢(ぶたりゅうこうせいげり、porcine epidemic diarrhea:PED)とは豚流行性下痢ウイルス感染を原因とする豚および猪の感染症。家畜伝染病予防法において届出伝染病に指定されている。
原因
豚流行性下痢ウイルスはコロナウイルス科コロナウイルス属に属する。コロナウイルス科のウイルスはプラス一本鎖RNAをゲノムに持ち、120〜160nmのエンベロープを持つほぼ球形のビリオンを形成する。豚流行性下痢ウイルスは小腸の粘膜上皮細胞で増殖する。感染は糞便を介した経口感染が主であり、汚染器具を介した感染も起こる。
- コロナウイルス科 - en:Coronaviridae
- アルファコロナウイルス属 - en:Alphaletovirus
- ペダコウイルス亜属 (Pedacovirus)
- ブタ流行性下痢ウイルス
- ペダコウイルス亜属 (Pedacovirus)
- アルファコロナウイルス属 - en:Alphaletovirus
症状
食欲不振、元気消失、嘔吐、水様性下痢で、10日齢以下の哺乳豚では下痢に伴う脱水によりほぼ100%が死亡する。日齢が進むに連れて症状は軽くなるが母豚では食欲不振により泌乳減少・停止が起こり、哺乳豚の死亡の要因となる。病変は小腸に限局し、小腸壁の菲薄化、小腸絨毛の萎縮を示す。
診断
培養細胞での分離が困難であるがVero細胞で培養可能なウイルス株もある[1]。その他免疫組織化学的染色による抗原検出、中和試験による抗体検出を行う。臨床現場においての確定診断はRT-PCRによる嘔吐物または糞便中のウイルス遺伝子の検出を行い、陽性だった場合に免疫染色による抗原検出にて確定診断とする。
予防
衛生管理による発生および拡大の防止が有効、常在地では生ワクチン接種を行う。
大規模な流行例
- 2013年10月に沖縄で発見されて以来、日本でも流行が続いている。2014年4月30日のまとめでは33県の83,325頭の感染が確認されており(日本の豚の総数は約970万頭)、畜産振興事業団の福島県の農場や宮崎県公営養豚場でも確認されるなど、流行は続いている。
- 2014年にはアメリカ合衆国内で流行し、一時はアメリカ国内における豚肉の供給量が最大4%減少することが見込まれた[2][3]。2013年7月から2014年4月までの間にPEDで死亡した米国内の豚は700万頭であるが、これは米国内にいる豚6300万頭の11%にあたる(最初の発見は2013年5月、オハイオ州)。
参考文献
- 鹿江雅光、新城敏晴、高橋英司、田淵清、原澤亮編 『最新家畜微生物学』 朝倉書店 1998年 ISBN 4254460198
- 清水悠紀臣ほか 『動物の感染症』 近代出版 2002年 ISBN 4874020747
出典
- ^ 動物の感染症 第二版 近代出版
- ^ “ウイルス流行で豚肉供給減、米食肉加工最大手が予測”. ロイター (ロイター通信社). (2014年5月6日) 2014年5月6日閲覧。
- ^ この記事の「4%」とは、米食肉大手タイソン社だけの供給予測であり、米国全体の予測ではない。
関連項目
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固有名詞の分類
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