悪性化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 23:39 UTC 版)
がん細胞ではほぼ普遍的にテロメア維持機構がアップレギュレーションされており、それによって無制限な複製能を獲得している。MRN複合体はテロメアの維持と関係した機能を持つことから、MRN複合体とがん細胞の不死性とを関連付ける研究が行われている。ヒトHNSCC細胞株では、NBN遺伝子の破壊(MRN複合体全体の発現をダウンレギュレーションする)によってテロメア長の減少と持続的な致死的DNA損傷がもたらされる。これらの細胞ではPARP(英語版)阻害剤(PARPi)を併用することによりテロメア長の減少はさらに大きくなり、in vitroやさまざまなHNSCC細胞株を移植したマウスin vivoモデルの双方で腫瘍細胞の増殖が停止する。PARPi処理単独でBRCA変異(英語版)がん細胞株ではアポトーシスが誘導されることが知られているが、この研究ではMRN複合体のダウンレギュレーションによってBRCAの機能が保たれている(BRCA変異を持たない)細胞もPARPi感受性とすることができることが示され、腫瘍の悪性化を制御する代替的手法が提示された。 MRN複合体は、化学治療薬や放射線療法のDNA損傷効果に対するがん幹細胞の不感受性に寄与するいくつかの経路に関与していることも示唆されており、全体的な腫瘍の悪性化の原因となっている可能性がある。具体的には、MRN阻害剤Mirin(MRE11を阻害する)は、DNA二本鎖切断の修復に必要な、ATMキナーゼによるG2/M期DNA損傷チェックポイント(英語版)の制御能力を破壊する。このチェックポイントの喪失によって、がん細胞は致死的な遺伝的損傷を修復することができなくなり、DNA損傷薬に対して脆弱となる。同様に、HNSCC細胞におけるNBS1の過剰発現はPI3K/AKT経路(英語版)の活性化の増加と相関しており、このこともアポトーシスを減少させることで腫瘍の悪性化に寄与することが示されている。全体として、がん細胞は現代の化学療法や放射線療法に対する抵抗性の獲得のために、DNA損傷に応答したMRN複合体によるシグナル伝達や修復能力に依存しているようである。
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