B型肝炎とは? わかりやすく解説

ビーがた‐かんえん【B型肝炎】

読み方:びーがたかんえん

ウイルス性肝炎の一。B型肝炎ウイルスHBV)が輸血母子感染性行為針刺し事故などによって感染して起こる血清肝炎A型肝炎比べて経過緩慢なことが多い。


B型肝炎



B型肝炎の原因ウイルスであるB型肝炎ウイルスHBV)は、1963年Blumbergらによるオーストラリア抗原発見契機となって同定された。発見当初免疫血清学的手法用いて研究されてきたが、1970年HBV本態であるDane粒子同定され、さらに1979年ウイルス粒子から、そこに含まれるウイルスゲノムクローニングされるに至りHBV一躍分子生物学研究対象となり、HBVおよびB型肝炎に関する知見飛躍的に進展した世界でHBV感染者分布には大きな地域差があり、東南アジアアフリカでは感染者率が10%上回る国もあり、大きな保健医療上の課題となっている。しかし最近では、世界的なワクチン接種活動拡大によって、感染頻度低下期待されている。

疫 学
HBV持続感染者は世界中で3億人以存在し、既感染者20億人に上ると言われている。 持続感染者が人口の8%以上のいわゆる高頻度国は、アジアアフリカ集中している。これに対し日本ヨーロッパ北米などは感染頻度2%以下の低頻度国である。HBV感染は主に、輸血不適切観血的医療行為などによる経皮感染と、性交渉分娩時の粘膜感染よるものであると考えられる我が国では1972年HBs抗原検査導入され以来輸血後B型肝炎は減少一途辿っているが、19951996年日赤血液センターでの初回献血集団においてHBs抗原陽性率求めた結果から、30歳未満では陽性率1%以下であるものの、40代では約1.5%と依然として高い値を示すことが分かっている。また、年齢層における陽性率は、母子感染防止事業開始され1986年以降年々減少し1997年調査では0.05%と報告されている。米国では、アジアアフリカ系移民除いた場合主な感染経路成人期性的接触経静脈薬物乱用であるため、10代後半から30代男性が最も高い陽性率示している。HBV持続感染出生時または乳幼児期の感染によって成立し成人期初感染では、消耗性疾患末期癌などの免疫不全状態を除けば持続感染化することはまれである。持続感染成立した場合大部分肝機能正常なキャリアとして経過しその後免疫能が発達する従い顕性または不顕性肝炎発症するそのうち8590%はseroconversionを起こし最終的に肝機能正常の無症候性キャリア移行する残り1015%が慢性肝疾患慢性肝炎肝硬変肝細胞癌)へ移行し肝機能異常持続する一過性感染場合7080%は不顕性 感染で終わるものの、残り2030%のケースでは急性肝炎発症するこのうち2%劇症 肝炎発症し、この場合致死率は約70%とされている。

病原体

病原体 HBVDNA型肝炎ウイルスで、ヘパドナウイルス科分類される直径約42nmの球状ウ イルスで、外被エンベロープ)とコア二重構造有している。表面被うエンベロープ蛋白HBs抗原その内側のコア蛋白HBc抗原呼ばれるコア中には、不完全二本鎖のHBV DNAHBV関連DNAポリメラーゼ存在している。HBV DNAは約3,200塩基からなりHBs抗原HBc抗原、X蛋白質DNAポリメラーゼコードしている。HBVは、HBs抗原エピトープ違いによって4つサブタイプadradwaywayr)に分けられている。近年遺伝子レベルでの分類が行われ、これまでに7種類遺伝子型(ゲノタイプ)が同定されている。HBe抗原コア蛋白一部可溶性抗原であるが、HBc抗原とは免疫学的に交叉反応起こさない

臨床症状

急性B型肝炎は比較緩徐発病する微熱程度発熱食欲不振全身倦怠感悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感などの症状がみられ、引き続き黄疸認められるうになる黄疸出現するのは成人例3050%小児例では10%以下である。重症例を除いて、これらの症状1カ月程度回復する。また前述のように、宿主免疫能に異常がなければ上の過程HBV生体から排除されキャリア化することはない。しかし、免疫能の不十分な乳幼児宿主免疫能が低下した病態免疫抑制剤投与受けている場合などの感染においてはキャリア化へ移行する例が存在する

病原診断
B型肝炎のウイルス診断としては、HBs抗原抗体HBc抗体HBe抗原抗体HBV DNA検 査、およびHBV DNAポリメラーゼ活性測定が行われている。図に急性B型肝炎における各種ウイルスマーカーの経過と、B型肝炎の基本的な判定基準を示す。HBV感染状態ではHBs 抗原持続的に産生されており、HBs抗原陽性であればB型肝炎と診断しうる。HBs抗体HBV対す中和抗体考えられており、HBs抗原経過とともに減少消失しHBs抗体出現してくる。しかしまれには、HBs抗原抗原決定領域変異があるために、HBs抗原検出 されないことがあるまた、HBVによる劇症肝炎場合も、診療開始され時点では既に HBs抗原消失していることがある。したがって診断の際には、IgG-HBc・IgM-HBc抗体価合わせて測定することが望ましい。すなわち、HBs抗原陰性でもIgM-HBc抗体高力であれ ばHBVキャリア疑い、さらにHBV DNA検出などを行う。IgG-HBc抗体はIgM-HBc抗体遅れて出現するHBc抗体中和抗体でなく、IgG-HBc抗体陽性場合、現在HBV感染している場合と、既に治癒している場合両方可能性がある。

HBe抗原HBV増殖時に産生される。一般にHBe抗原陽性場合、肝内でのウイルス増殖 が盛んで血中ウイルス多量に存在し感染性も強いと考えられる一方HBV遺伝子のコアプロモーター領域やプレコア領域変異によって、HBe抗原産生しないウイルスの存在明らかになっており、B型劇症肝炎例でこのような変異HBV多く観察されることが報告されている。HBV陽性血清感染力評価HBV感染自然経過解析抗ウイルス薬による治療 効果予測効果判定などを目的とした詳細な病原体診断には、高感度遺伝子検査法によるHBV DNA定量、および塩基配列解析が必要である。

図3

図 . 急性B型肝炎におけるウイルスマーカーの変動とB型肝炎の判定基準


治療・予防
急性B型肝炎は本来、自然治癒する傾向が強い疾患である。治療上最も大切な点は期を過ぎたか否か見極めることであり、劇症化への移行可能性留意しながら対処する必要がある。特に、肝予備能を反映するプロトロンビン時間ヘパプラスチンテストなどの凝固系検査明らかな改善傾向を示すまで測定し、また腹部超音波CT検査により肝萎縮程度把握する急性B型肝炎の生命予後は、重症化劇症化しなければきわめて良好である。劇症 化した場合には血漿交換人工補助療法生体肝移植などの治療が必要となる。 HBV感染予防感染経路遮断することであり、輸血血液および血液製剤ウイルス検 査、またはワクチン接種が有効である。B型肝炎ワクチン我が国では1985年認可され翌年からは母子感染防止事業グロブリン製剤との併用用いられ大きな成果をあげている。
また、医療従事者などのハイリスクグループにおいても予防接種感染防止に有効である。第 一世代ワクチンは、HBVキャリア血漿より精製されHBs抗原用いたのであるが、そ の後組換えDNA技術応用してHBs遺伝子酵母動物細胞発現させ製造した第二世代、さらにプレS蛋白HBs抗原付加させたワクチン認可されている。ハイリスクグループに おけるワクチン接種による感染予防法、汚染事故発生に伴う事後処置法については、「ウイル ス肝炎感染対策ガイドライン医療機関用‐」(1995年改訂III版、財団法人ウイルス肝炎研究財団作成)を参照されたい。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
ウイルス性肝炎E型肝炎及びA型肝炎を除く)は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって検査所見による診断なされたもの
1)B型肝炎
 ・血清抗体検出
  例、患者血清中のIgMHBc抗体陽性のもの(キャリア急性増悪例は含まない
2)C型肝炎
 ・抗原検出
  例、HCV抗体陰性で、HCVRNAまたはHCVコア抗原陽性のもの
 ・血清抗体検出
  例、患者ペア血清で、第2あるいは第3世代HCV抗体明らかな抗体価上昇認めるもの
3)その他のウイルス肝炎
 HDVHEVなど上記以外の肝炎ウイルスによる急性肝炎や、その他の非特異的ウイルスによる急性肝炎
病原体検査血清学診断によって、ウイルス性肝炎推定されるもの
(この場合には、病原体名称について報告すること)
上記ウイルス性肝炎届出基準満たすもので、かつ、劇症肝炎となったものについて は、報告書「症状」その旨記載する劇症肝炎については、以下の基準用いる。
 ・肝炎のうち症状発現後8週以内に高度の肝機能障害基づいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし、プロトロンビン時間40%以下を示すもの。発病後10日以内脳症出現急性型それ以降発現亜急性型とする。

国立感染症研究所ウイルス第二部 鈴木 哲朗)






B型肝炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/01/22 08:45 UTC 版)

B型肝炎
概要
分類および外部参照情報
ICD-10 B16,
B18.0B18.1
ICD-9-CM 070.2070.3
OMIM 610424
DiseasesDB 5765
MedlinePlus 000279
eMedicine med/992 ped/978
Patient UK B型肝炎
MeSH D006509

B型肝炎(Bがたかんえん、: Hepatitis B)とは、B型肝炎ウイルス (HBV) に感染することで発症するウイルス性肝炎の一つ。B肝とも呼ばれる。

血液を介して感染するため、従来の検査体制が確立されない時期に輸血を介して、または1986年に母子間ブロックが実施されるようになる前には母子感染で感染した。感染の予防策としては、注射器を共用しない、性行為時にコンドームの着用といったことがある。

主な治療法は、インターフェロンや核酸アナログ製剤を用いた抗ウイルス療法がある。

日本においてB型肝炎ウイルス保有者(キャリア)は、150万人程度といわれている。その内の約95%は自然治癒するが、約5%は肝炎発症となり、慢性肝炎肝硬変肝臓がんへと進行することがある。

疫学

B型肝炎ウイルスの透過型電子顕微鏡写真、スケールは100nm
2002年のB型肝炎による人口10万人当たりの障害調整生存年数(en: disability-adjusted life year[1]

近年、日本ではあまり見られなかったジェノタイプA(北米、欧州、アフリカ中部に多く分布する)のB型肝炎ウイルス感染が広がりつつある。ジェノタイプAのB型肝炎ウイルスに感染した場合、その10%前後が持続感染状態(キャリア化)に陥る。本来、日本に多いジェノタイプCのB型肝炎ウイルスは、成人してからの感染では、キャリア化することはまれであったことから、ジェノタイプAのB型肝炎ウイルス感染の拡大には、警戒が必要である。

感染

B型肝炎ウイルスは、血液や体液の飛沫を介して感染する。感染経路は主に以下がある。成人以降での水平感染の多くは、一過性であることが多い。その感染力はヒト免疫不全ウイルス(HIV)より強いとされる[2]

2002年4月、佐賀中部保健所に急性B型肝炎の届出があり、保育所で25名の集団感染が疑われた[3]。感染源は、HBVキャリアである元職員が疑われたが全例で特定することはできなかった[3]。日常生活の中でも感染が起こりうることを確認し、その感染様式には出血及び滲出液を伴う皮膚疾患が関与している可能性と、感染防御策にワクチン接種を加えることが有効であることが示唆された[3]

かつては幼児期(7歳まで)の輸血による感染が多かったが、現在では先進国では検査体制が確立したため、ほとんど見られない。針刺し事故や注射針の回し打ち・刺青での針の再使用などもある。

日本では、戦後から1988年頃まで行われた、幼児期の集団予防接種における注射針や注射筒の使い回しにより、B型肝炎ウイルスが蔓延した。日本国政府は1948年には注射針・注射筒の連続使用の危険性を認識していたが、40年にわたり使い回しの現状を放任していた。

2011年現在、推定150万人の持続感染者(キャリア)の内、集団予防接種による感染者は30%前後と言われており[4]、この集団感染訴訟は、2011年6月28日に国と原告との間で基本合意が締結し、2012年(平成24年)1月13日に特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法が施行され、裁判上の和解が成立した者に対し、日本国政府は法に基づく給付金を支給することになった[5][6]

臨床像

血液中の時間経過の慢性のHBV抗原およびHBV抗体の水準値

初期感染

B型肝炎ウイルスに感染した場合、多くは無症状で経過するが、20~30%が急性肝炎を発症し、1~2%が劇症肝炎化する。D型肝炎の混合感染が生じる場合もある。成人の初感染の多くは、免疫応答でウイルスを排除しての一過性感染であるが、近年成人感染のキャリア化が報告されている。

持続感染

母子感染の90%以上は、C型肝炎と同様、B型肝炎ウイルスに持続的感染を呈する場合が多い。1986年から母子間ブロックが行われるようになってからは感染はほとんど防げている。

HBe抗原陽性無症候性キャリア
血液検査にて、HBe抗原陽性を示し、ALT高値を示さない状態。B型肝炎ウイルスが増殖しているが、肝障害は呈していない状態のこと。多くの場合、自然経過でHBe抗原陰性・HBe抗体陽性を生じ、HBe抗体陽性無症候性キャリアへ移行する(HBeセロコンバージョン:HBe seroconversionという)が、一部は慢性肝炎へと移行する。
HBe抗体陽性無症候性キャリア
血液検査にて、HBe抗体陽性を示し、ALT高値を示さない状態。B型肝炎ウイルスが完全には排除しきれていないが、ウイルスの増殖は抑えられ、肝障害を呈さなくなった状態のこと。多くの場合は自然経過を経る。ほとんどは、再活性化や肝硬変へは移行しない。一部のみがウイルスの再増殖による再活性化する。また肝逸脱酵素の上昇を伴わずとも肝硬変に進展していることもまれにある。
慢性B型肝炎
B型肝炎ウイルスが増殖し、血液検査においてALT高値持続認め、肝障害を呈している状態。肝硬変への移行・肝細胞癌の発症を生じてくる。
稀に、HBs抗原陰性・HBs抗体陽性となる場合もあり(HBsセロコンバージョン:HBs seroconversionという)、予後良好である。
de novo 急性B型肝炎
近年、さまざまな免疫抑制剤抗がん剤分子標的治療薬が開発され、それらの使用により沈静化していたB型肝炎か再燃するもの。劇症肝炎への移行率が高く、注意を要する。2001年リツキシマブステロイドの併用により加療していた悪性リンパ腫患者が、B型肝炎を発症したことが報告されてからクローズアップされている。

肝硬変

肝細胞癌

C型肝炎と異なり、B型肝炎では肝硬変を経ずに肝細胞癌の発症が見られる。無症候性キャリアであっても発症することもある。

検査

問診

B型肝炎の感染経路は、主にB型肝炎に感染している母親から出産時の子への感染(母子感染。垂直感染)、出産後の集団予防接種、それ以外による医療者の針刺し事故・集団予防接種での注射器の使いまわし・性交渉・入れ墨で器具を消毒せず繰り返し使用した場合・覚醒剤使用時に注射器を共用した場合がある(ただし、成人してからの感染は慢性化することが少なく、一過性の急性肝炎が主な症状になるので、慢性B型肝炎患者の場合は予防接種・母子感染が主な感染経路になる事も考えられる)。

したがって、出生時の母親の感染有無、集団予防接種時の時期(昭和23年7月~昭和63年)、輸血暦、手術暦、針刺し事故、覚醒剤注射・恋愛関係で感染の原因となりうることがあったかどうかを確認が大切である。

血液検査

  • ウイルス検査
    • HBs抗原:陽性であれば現在HBV感染を示す。
    • HBs抗体:中和抗体であり、陽性であれば既往感染・ワクチン接種後を示す。
    • HBc抗体:陽性であれば現在・過去のHBV感染を示す。現在ないし過去も含めて一度でもHBV感染すれば生涯に渡りHBc抗体陽性である。これはHBs抗体(中和抗体)取得されていてウイルスの抑制排除が行われていて、他人への感染力も低く、体内でのウイルス活動は十分に抑えられていても、生体内の肝細胞においてウイルス自体の潜伏は続いているからと言える。ワクチン接種後のみの場合はHBc抗体陰性である。
      • HBc-IgM抗体:初期感染急性期または慢性肝炎急性増悪期に上昇傾向を示す。
    • HBe抗原:HBV量が多いことを示す。
    • HBe抗体:HBV量が少ないことを示す。
    • HBcr抗原:(HBV core related antigen)HBc抗原・HBe抗原・p22cr抗原の総値。治療効果判定として保険適応あり。
    • HBV-DNA:HBVのDNA量を直接測定したもの。現在はリアルタイムPCRが用いられる。
      従前はbranched DNA probe, TMA, PCR が用いられていたが、感度の優れたリアルタイムPCRが現在は主である。

臨床的には大まかに以下のように状態評価していく。

HBs抗原 HBs抗体 HBc抗体 HBe抗原 HBe抗体 HBV-DNA 臨床像
(-) (+) (-) (-) (-) (-) ワクチン接種後
(-) (+) (+) (-) (-) (-) 既感染・感染後
(+) (-) (+) (-) (+) (+) HBe抗体陽性carrier(非活動性キャリア)
(+) (-) (+) (+) (-) (+) HBe抗原陽性carrier(無症候性活動性キャリア・慢性B型肝炎)
急性B型肝炎
B型肝硬変

画像検査

以下の画像検査によって、慢性肝炎~肝硬変肝細胞癌の発生を評価していく。

病理組織検査

  • 肝生検により肝臓の傷害について、リンパ球浸潤や線維化などの組織学的評価ができる。
    • HBs抗体陽性例やHBV-DNA量が測定感度以下であり、既感染と診断されていても肝臓の組織内にcccDNAという形態でHBVが残存していることがあり注意を要する。オカルトHBV (occult HBV) と呼ばれる。

検査機関

病院のほか、無料にて日本の各自治体が検査を行っていることがある。

予防

B型肝炎ワクチン予防接種が、感染防止に有効である。

母子感染予防

B型肝炎キャリアの多くは、母親からの垂直感染(母子感染)であり、外国では母子感染予防のため、B型肝炎ワクチンを乳児期に定期接種している例が多い。日本では、母子感染防止対策事業として、妊婦に対するHBs抗原検査が実施され、健康保険によりHBs抗原陽性妊婦からの出生児へ、抗HBs人免疫グロプリン投与・B型肝炎ワクチン接種を施行している。

水平感染防止

労働災害事故防止(対象者は、医療関係者・救急関係者等)の観点から、医療実習前の段階で、B型肝炎ワクチンの予防接種が望ましいが、日本では労働安全衛生法上の義務にもかかわらず、一部の医療機関でB型肝炎ワクチン予防接種の未実施や、接種費用の一部の自己負担を請求している問題がある。

海外旅行者も、B型肝炎ワクチンの接種対象となる。日本製、または日本で承認されているB型肝炎ワクチンのHBs抗原(B型肝炎ウイルス表面抗原)量は、10マイクログラム/0.5mLであり、日本以外の製品の20マイクログラムの半分量であること、また、いずれの場合も、"low responder"や"non-responder"という、抗体産生反応をしにくい被接種者がいることも熟知されたい。

性感染症としては、コンドームの着用で、ある程度予防することができる。

B型肝炎ウイルスに対しては、高HBIG(高力価HBs抗原ヒト免疫グロブリン)・HBワクチンにより感染の減少がみられる。

ワクチン接種

化血研製B型肝炎ワクチン
ビームゲン

B型肝炎と、将来の肝がんを予防するため、アジュバントが入っている不活化ワクチンを接種する。世界180か国以上で行われている、ワクチンの中でも最も安全な物のひとつである[7]

水平感染予防の観点から、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会は、定期接種化が必要としていて[8]、厚生労働省は2016年10月に予防接種法に基づく「定期接種」にする方針を決めた[9]

  • 母親がキャリアでない新生児は、「定期接種」で生後1ヶ月から接種可能(生後2か月からヒブ、小児用肺炎球菌ワクチンなどとの同時接種を推奨)。初回、4週間後、さらに20~24週後の合計3回接種 [10]
  • 一般的には1回目と2回目が4週間間隔(アメリカ合衆国では30日)、2回目と3回目が半年間隔である。3回接種後の抗体維持期間は5年(輸入ワクチンは15~20年)[11]。日本肝臓学会によると、獲得した免疫は、少なくとも15年間持続することが確認されている[7]
  • 緊急接種の場合(緊急でハイリスク暴露になる可能性がある場合)、アメリカ合衆国では下記のワクチン接種法が承認された。
    • 1回目と2回目が1週間間隔、2回目と3回目が2週間間隔、3回目と4回目が1年間隔。これで、10年間の抗体維持ができるとされる[要出典]

治療

  • 慢性B型肝炎は、下記の抗ウイルス治療によって、慢性肝炎の沈静化(ALTの正常化)と、その後の肝硬変への移行・肝細胞癌発症の阻止にある。
  • 急性B型肝炎は、初回感染として自己の免疫での鎮静化を期待して、基本的に保存的加療が行われるが、劇症肝炎への変化に留意し、抗ウイルス治療が適時行われる。急性B型肝炎の治療について「急性肝炎」を参照。

抗ウイルス療法

B型肝炎における抗ウイルス治療は、B型肝炎ウイルスの活動を抑制する治療である。B型肝炎ウイルスは自然経過において、ウイルスに対する抗体(HBs抗体ないしHBe抗体)が取得されることで、ウイルスの活性化が沈静化していくが、これを「セロコンバージョン(seroconversion)」と呼ぶ。抗ウイルス治療はこの状態を促していくことと、この状態に近いウイルスの活動性の鎮静が目標である。よって、現在の医療では「B型肝炎ウイルスの完全排除」は困難である。

治療適応は「HBe抗原陽性無症候性キャリア」・「慢性B型肝炎」・「B型肝硬変」である。日本肝臓学会編「慢性肝炎・肝硬変診療ガイド2016」によると[12] 抗ウイルス療法の治療対象は慢性肝炎症例ではHBe抗原陽性、陰性に関わらずALTが31IU/l以上、HBV-DNA量が4 log copy/ml(2000IU/ml)以上である。肝硬変症例ではHBV-DNA量が陽性ならばHBe抗原やHBs抗原、ALT値、HBV-DNA量に関わらず治療対象である。

抗ウイルス治療は、インターフェロン(IFN)と、核酸アナログ製剤で行われる。核酸アナログ製剤は一度開始すると多くの場合終生継続していく必要性がある。

インターフェロン(IFN)
  • IFNα (スミフェロン、オーアイエフ)
  • IFNα2b(イントロンA)
  • IFNβ (IFN、フエロン)
  • PEG-IFNα2a(ペガシス)
核酸アナログ製剤
元々HIV治療薬として開発された。耐性ウイルス出現が多く、近年は新規使用には用いられていない。
ラミブジン耐性のウイルス治療薬として承認された。ラミブジン耐性ウイルス出現時にラミブジンと併用で用いられた。
ラミブジンよりウイルス抑制作用が強力で、現在はほぼ核酸アナログ製剤として第一選択で用いられている。催奇形性があり、妊娠の可能性がある女性には投与できない。
  • テノホビル Tenofovir:TFV
    核酸アナログ製剤の最新薬剤。以下の2種類がある。
    • テノゼット(Tenozet® Tenofovir disproxil fumarate:TDF)
      元々は抗HIV薬「ビリアード®(Viread®)」として開発販売されていて、日本・海外で広く認可されていたものを抗HBV薬として名称を変更して販売。催奇形性が低いとされている。
    • ベムリディ(Vemlidy® Tenofovir alafenamide:TAF)
      新規プロドラッグとして開発され、TDFより肝臓移行性が効率的とされている。
  • テルビブジン Telbivudine:LdT(Sebivo Tyzeka)
  • クレブジン Clevudine(Revoivir)

基本的に年齢によって治療選択される。

  • 35歳未満:免疫応答によるセロコンバージョンが期待され、免疫賦活作用もあるIFN治療が選択される。ウイルス量が多い場合、核酸アナログ製剤との併用療法が行われる。
  • 35歳以上:セロコンバージョンの可能性が低く、核酸アナログ療法によるウイルス抑制治療が選択される。ウイルス量が多い場合、IFNとの併用療法が行われる。また、挙児希望の場合はIFNまたはTDF投与が行われる。

肝庇護療法

抗ウイルス療法以外に、ALTの正常化を計る目的で、以下が用いられる。ただ、肝庇護療法はC型肝炎には比較的効果はあるが、B型肝炎にはあまり効果を示さない場合も多い。

脚注

  1. ^ Mortality and Burden of Disease Estimates for WHO Member States in 2002” (xls). World Health Organization (2004年12月). 13 November 2009閲覧。
  2. ^ B型肝炎について(ファクトシート)|FORTH_厚生労働省検疫所
  3. ^ a b c 保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について”. 佐賀県健康増進課(佐賀県感染症情報センター) (2004年8月5日). 2018年12月26日閲覧。
  4. ^ B型肝炎訴訟とは ウイルス性肝炎患者の救済を求める全国B型肝炎訴訟・大阪弁護団
  5. ^ B型肝炎訴訟について(救済対象の方に給付金をお支払いします) 厚生労働省
  6. ^ 全国B型肝炎訴訟弁護団
  7. ^ a b B型肝炎ワクチンについて知ろう!”. 日本肝臓学会. 2016年1月8日閲覧。
  8. ^ H27年度感染症危機管理研修会 B型肝炎ワクチンの定期接種導入をめぐる話題” (PDF). 厚生労働省肝炎等克服政策研究事業「小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究班」 (2015年10月14日). 2016年1月8日閲覧。
  9. ^ B型肝炎ワクチン、10月にも定期接種化 厚労省が方針”. 朝日新聞 (2016年1月4日). 2016年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月8日閲覧。
  10. ^ B型肝炎ワクチン”. Know! VPD(NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会). 2016年1月8日閲覧。
  11. ^ B型肝炎ワクチン”. 品川イーストクリニック トラベルクリニック渡航者センター. 2016年1月8日閲覧。
  12. ^ 慢性肝炎・肝硬変診療ガイド2016 ISBN 9784830618895

出典

関連項目

外部リンク

政府機関
学会
NPOなど

B型肝炎

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/21 06:31 UTC 版)

ラミブジン」の記事における「B型肝炎」の解説

HBe抗原陽性のB型肝炎のセロコンバージョン(英語版)を向上させ、また肝臓の組織学的病期分類改善するラミブジン長期使用耐性B型肝炎ウイルス(YMDD)突然変異体出現に繋がるが、忍容性が高いので広く用いられる2004年肝機能改善するのみならず肝不全肝細胞癌リスク低下させることが報告された。

※この「B型肝炎」の解説は、「ラミブジン」の解説の一部です。
「B型肝炎」を含む「ラミブジン」の記事については、「ラミブジン」の概要を参照ください。

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