住血吸虫症とは? わかりやすく解説

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住血吸虫症


住血吸虫症は、成虫静脈内寄生することで生じ疾患である。尿路住血吸虫症に属すビルハルツ住血吸虫症(病原体Schistosoma haematobium )、腸管住血吸虫症に属すマンソン住血吸虫症(S. mansoni )、日本住血吸虫症S. japonicum )、メコン住血吸虫症(S. mekongi )、およびインターカラーツム住血吸虫症(S. intercalatum )の5種類分けられヒトが河、湖、沼な どの淡水入って感染する。本疾患流行地では、社会経済的、公衆衛生的にマラリア次いで2番目に重要な寄生虫症とされている。わが国では以前日本住血吸虫症特定地域多発していたが、今では撲滅され新たな患者発生見られない。しかし最近日本人流行地に旅行滞在したり、さらに外国人日本訪問増えるにつれて輸入感染症としての重要性高まりつつあり、国内医療機関適切な医療対応を行なう必要が増大している。

疫 学

世界保健機関推定では、世界中で2億人が本疾患罹患しており、それによる重篤合併症での死亡毎年2万人あるとされている。ビルハルツ住血吸虫症は中東マダガスカルを含むアフリカ広範な地域モーリシャスに、マンソン住血吸虫症はアラビア半島アフリカ赤道より北の殆どの国(エジプトリビアスーダンソマリアマリセネガル)、モーリシャスブラジルカ リブ海諸国いくつかスリナムベネズエラなどに分布する日本住血吸虫症中国揚子江流域フィリピンインドネシアスラウェシ島などに、メコン住血吸虫症はカンボジアラオスメコン川流域分布し、インターカラーツム住血吸虫症は西~中央アフリカ限局して分布する

旅行者については、高度流行地であるアフリカへの旅行者が多いヨーロッパにおいても、本疾患届出疾患ではないので、その全体像明らかにされていない。しかし、ヨーロッパにおける旅行者疾患のサーベイランスネットワークであるTropNetEuropは、旅行者のみならず流行地 からの移民対象に、マラリアデング熱とともに住血吸虫症の症例集計解析行なっている。そこでは19992001年の期間に、参加医療機関22カ所より333例が報告されている。そのうち種別記載されていた226例のうち、92例がビルハルツ、130例がマンソン、4例がインターカラーツム住血吸虫症であり、日本およびメコン住血吸虫症はみられなかった。感染地域としてはアフリカが殆どを占めなかでも西アフリカ多く国別ではマラウイガーナマリブルキナファソエジプトの順であった

アフリカでは住血吸虫症のリスクが高いことは一般に知られていたが、英国有名なガイドブックに、マラウイ湖では住血吸虫症にはかからない間違って記載されていた。そのため多く旅行者無防備マラウイ湖淡水入り英国人旅行者中心として多くの人が罹患しわが国でも感染例報告されている。

かつてわが国にも、甲府盆地をはじめ、九州筑後川流域広島県片山地方静岡県富士川流域などに、日本住血吸虫症幾つかの流行地があった。しかし、中間宿主となる宮入貝対策中心に撲滅計画進み感染者数大幅に減少した結果1976年最後に国内日本住血吸虫新しく感染した例は報告されていない。ただし、河川整備宅地開発影響宮入貝生息地減少し、現在その生息確認できない旧流行地も多いが、甲府盆地小櫃川流域千葉県)には未だ宮入貝多数生息している。これら日本産宮入貝は、フィリピン中国日本住血吸虫にも感受性があり、ヒトや動物移動伴ってそれらの国から日本住血吸虫侵入した場合国内再興感染症となる可能性否定することはできない。この点は、国内中間宿主存在しないマンソンおよびビルハルツ住血吸虫症と大きく異なる。

病原体

1. 主要な住血吸虫3種における卵 a:ビルハルツ住血吸虫 b:マンソン住血吸虫 c:日本住血吸虫


感染動物ビルハルツ住血吸虫ではヒトマンソン住血吸虫では齧歯類ヒヒ日本住血吸虫ではウマイヌなどを含む多く動物である。ヒトを含む感染動物が尿や便中に卵を排泄するが、卵のサイズはビルハルツ、マンソン住血吸虫では110~170×4070 μmであり、前者場合先端部に(図1a)、後者場合一側に有する(図1b)。日本住血吸虫卵は80100×4060 μm長径がやや短く楕円形側面に小有する(図1c)。メコン住血吸虫卵は日本住血吸虫卵に、インターカラーツム住血吸虫卵はビルハルツ住血吸虫卵に類似する卵の中にはミラシジウム形成されるが、これが水中中間宿主としての淡水産貝に侵入するそれぞれの住血吸虫異な淡水産貝に寄生するが、ビルハルツおよびインターカラーツム住血吸虫ではBulinus 属、マンソン住血吸虫ではBiomphalaria 属、日本住血吸虫ではOncomelania 属(宮入貝)、メコン住血吸虫ではTricula aperta である。淡水産貝の中ではスポロシスト経てセルカリア成長するセルカリアは約0.3 mm長さ二分した尾部を持つが、これが淡水中を遊泳しヒトの皮膚貫通して血中侵入するその後ヒト体内で肺を通過してから静脈定着するが、シストソミュールのステージ経て成虫となる。

成虫雌雄異体で、雌が雄抱えた形で静脈内寄生する体長ビルハルツ住血吸虫の雄1015 mm、雌1620 mmマンソン住血吸虫の雄が6~10 mm、雌が7~16 mm日本住血吸虫の雄1220 mm、雌25 mm程度である。これらの成虫定着する静脈には特徴があり、それにより特徴的な病変生ずるが、すなわち、尿路住血吸虫は主に骨盤静脈で特に膀胱周囲腸管住血吸虫門脈腸管静脈)内に寄生する卵は主に前者場合膀胱壁や尿管壁、後者では腸管壁や肝臓沈着する。成虫寿命通常3~5年であるが、まれには30年長きにわたることもある。

臨床症状
皮膚からセルカリア侵入した後、掻痒を伴う皮膚炎セルカリア皮膚炎swimmer’s itch)を起こすことがあるが、ビルハルツ住血吸虫症ではみられないことが多い。ビルハルツ住血吸虫症の急性期には頻尿血尿見られる慢性期入って膀胱壁の線維化進行すると、膀胱への尿管開口部狭窄来たし尿管閉塞から水腎症腎盂腎炎腎不全にも進展する。また膀胱壁の卵が石灰化し、X線検査で明らかとなる。本疾患により、膀胱癌発生30倍に高まると言われている。他に男性では精巣病変生じ精液血液混じることもある。女性では外陰部、膣、子宮頚部卵管などに病変生ずことがある

図2. 日本住血吸虫症における肝組織像。肝臓内の門脈詰まった卵の周囲特異的な炎症反応がおき、肉芽腫形成される。さらに、肝臓の線維化肝硬変へと発展し肝臓脾臓腫大する。
図3. 日本住血吸虫症罹患した小児における顕著な肝脾腫腹水貯留

マンソンおよび日本住血吸虫症では、4週間あるいはそれ以上経ってから急性期症状片山熱)が出現し発熱蕁麻疹好酸球増多下痢肝脾腫咳嗽/喘鳴などを生じる。慢性期では、腸管肝臓沈着した卵を中心に結節生じる(図2)。そして、腸管では線維化ポリープ形成により腹痛下痢粘血便がみられ、ときには腸閉塞生ずることもある。肝では肝線維症へと進行し特徴的な画像所見示し長期経過する肝脾腫門脈圧亢進腹水(図3)、食道静脈瘤形成、そこからの出血をきたす。これらの変化日本住血吸虫症の方が顕著にみられる肝臓の病変一見して肝硬変類似するが、肝機能長期間正常に保たれることが多い。日本住血吸虫症では大腸癌肝細胞癌発生が高まると言われたが、最近疫学調査では否定的見解も多い。

さらに、日本住血吸虫症では脳内血管塞栓により、脳腫瘍類似の症状など多彩な神経症状を示すことがある近年駆虫剤のプラジカンテルによる集団治療進んだ結果流行地によっては典型的な肝脾腫を示す例が相対的に減少し神経症状が目立つようになったとの報告もある。ビルハルツおよびマンソン住血吸虫症では神経症状を示す例はまれであるが、やはり脳の病変により脳腫瘍類似の症状脊髄病変により脊髄圧迫症状馬尾症候群生じることもある。


病原診断
尿路住血吸虫症では主に尿沈渣中に卵を検出するが、これには昼間の尿が適している。 定量的にはヌクレポア膜濾過が行われる。ときには膀胱壁の生検材料検出されることもあ る。腸管住血吸虫症では通常便用い直接塗抹あるいはASM III法などの遠心沈殿集卵法 にて卵を検出するときには直腸粘膜生検材料検出されることもある。住血吸虫症の 型と検出検体との関係は絶対的なものでなく、尿路住血吸虫症で便中に腸管住血吸虫 症で尿中卵が検出されることもあり得る

血清反応としては虫周囲沈降反応(COPT)、EIA法などがある。しかし、過去感染現 在の感染区別できないこと住血吸虫種の間での交差反応ありうること、感染後3カ月程度 経過しないと陽性示さないことが多いなどの限界もある。また、可能な限り対象とする住血 吸虫由来抗原用いた血清反応行なうべきである。さらに、間接的であるが、CT検査超音波検査での特徴的な線維化所見腸管住血吸虫症の診断に役立つことがある

治療・予防
いずれの住血吸虫症でもプラジカンテル40 mg/kgの単回投与基本であり、殆どは治癒に至るとされている。しかし、特にマンソンあるいは日本住血吸虫症では30 mg/kgの2~3回投与40 mg/kg/日・分2の2日投与が行われることもある。プラジカンテルの副作用軽微であり、出現しても一過性である。治療3カ月後に検査行い治癒判定をする。

急性期片山熱は基本的に自然治癒するもので、プラジカンテルの投与が必要であるかどうか不明であるが、重症例ではステロイド薬使われる片山熱でプラジカンテルを投与しても、幼虫対す効果顕著でないことから、3カ月後に再投与することが勧められる中枢神経系 病変ではプラジカンテル単独では症状悪化することも懸念されステロイド薬併用される。生検材料石灰化卵が検出されるのみで、卵の排泄みられない場合には、通常治療の要はない。

予防としては危険地域淡水入らないことである。海あるいは通常の塩素処理されプールでは感染することはない。淡水に入るのが避けられない場合には、ゴム長靴ゴム手袋などを着用する淡水曝露されてからタオルなどで丹念に拭いても、予防効果不明である。ま た、プラジカンテルに予防効果はない。

近年抗マラリア薬であるアーテミシニンのひとつアーテメーターが、抗住血吸虫としても注目されている。アーテメーターは住血吸虫幼虫ステージにも効果を示すので、感染早期治療薬としてのみならず、予防にも使用できるとの報告もあるが、まだ一般的にはなっていない


住血吸虫症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/27 15:51 UTC 版)

Schistosomiasis
別称 Bilharzia, snail fever, 片山熱[1][2]
罹患した11歳男児。腹水がみられる。
発音 [ˌʃɪstəsəˈməsɪs, -t-, -s-][3][4]
概要
診療科 感染症学
症状 腹痛、下痢、血便、血尿[5]
原因 淡水巻貝に寄生する住血吸虫[5]
診断法 尿または便中の寄生虫卵、血液中抗体の発見[5]
合併症 肝障害、腎不全、不妊症、膀胱がん[5]
予防 清浄な水へのアクセス[5]
使用する医薬品 プラジカンテル[5]
頻度 2.52億人 (2015).[6]
死亡数・ 4,400–200,000[7][8]
分類および外部参照情報
Patient UK Schistosomiasis

住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう、Schistosomiasis)は、住血吸虫科に属する寄生虫に感染することにより引き起こされる病気の総称である[5]致死率こそ高くないものの、長期にわたり内臓を痛める慢性疾患であり、社会的経済的影響が大きい。淡水産の巻貝中間宿主となっており、汚染された水に皮膚を浸すことで感染する。

歴史的には、灌漑網を整備したメソポタミアエジプトの初期農耕社会ですでに蔓延しており、日本には水田耕作とともに弥生時代に持ち込まれたと考えられている[9][注釈 1]。アフリカや中東にかけてはビルハルツ住血吸虫症が今なお流行しており、ダムや灌漑水路の普及とともにますます拡大している[9]。エジプトでは、1970年完成のアスワン・ハイ・ダムの貯水開始とともに感染が爆発的に拡大した[9][注釈 2]

WHOによれば、世界77か国で2億人以上が感染しているとされる[9][10]。「顧みられない熱帯病」のひとつである[11]

歴史

マラリアとならんで農耕生活の広がりによって拡大した感染症であり、灌漑に用いる河川や湖沼に生息する巻貝が中間宿主となって、人には生水を通して感染する[9]

住血吸虫の保虫者は慢性的な胃や胸の痛み、疲労感、下痢などを訴え、虫卵が膀胱尿管の粘膜に集まるため尿路に障害が生じる[9]。フランス史の英雄、ナポレオン・ボナパルトは尿道の激しい痛みをかかえており、従来、その原因は尿路結石とされていたが、彼の症状を子細に検討した医師によれば、エジプト・シリア戦役の際に感染したビルハルツ住血吸虫症の可能性が高いという報告がなされている[9]

症状

腕に生じたセルカリア皮膚炎

住血吸虫症は基本的には慢性疾患である。住血吸虫が皮膚から侵入したときにかゆみを伴う発疹(セルカリア皮膚炎)がみられる。急性期の症状としては、発熱蕁麻疹下痢、肝脾腫、せきなどがあり「片山熱[12]」と呼ばれているが、目立った症状のない不顕性感染となることも多い。更に、終宿主鳥類の住血吸虫のセルカリア侵入でも皮膚炎が発症するが、虫体は寄生に成功することなくそのまま死滅するため、皮膚炎のみの症状で終息する。

慢性症状は、成虫の寄生部位によって、尿路住血吸虫症と腸管住血吸虫症とに大別できる。(住血吸虫はそれぞれ尿路または腸管を取り巻く静脈叢に寄生する。)

尿路住血吸虫症では、血尿がみられ、進行すると尿路の線維症や腎炎が認められる。合併症として膀胱癌が増えることも知られている。病変は生殖器にも及び、女性では陰部の炎症や出血、結節、性交痛など、男性では精嚢前立腺に異常が見られ、不妊の原因にもなる。

腸管住血吸虫症では、腹痛下痢血便などがみられる。進行すると肝硬変がおこり、門脈圧亢進により腹水が溜まる。食道静脈瘤が認められ、吐血する場合もある。脳腫瘍に似た症状を示すこともある。

病原体

吸虫扁形動物)のうち、住血吸虫科に属する寄生虫が病原体である。雌雄異体で血管に寄生するという点で特徴的。哺乳類終宿主であり、人に感染する住血吸虫としては、尿路周囲の静脈叢に寄生するビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)、門脈など腸管周囲の静脈叢に寄生するインターカラーツム住血吸虫(S. intercalatum)、日本住血吸虫(S. japonicum)、マンソン住血吸虫(S. mansoni)、メコン住血吸虫(S. mekongi)の5種が存在する。

それ以外にも野生動物や家畜に感染する種が知られており、これらが人に対してセルカリア皮膚炎を起こすこともある。

生活環

住血吸虫は哺乳類を終宿主、淡水産巻貝を中間宿主としており、いずれの種もおよそ似たような生活環を持っている。

巻貝

終宿主から排出された虫卵(1)は、淡水に接することで孵化しミラシジウムが泳ぎ出す(2)。 ミラシジウムは淡水産巻貝の体表から感染し(3)、組織内で嚢状のスポロシストへと変態する(4)。 この母スポロシスト内で、幼生生殖により娘スポロシストが形成される。 娘スポロシストは中腸腺へ移行して、ふたたび幼生生殖により多数のセルカリアを形成する。 セルカリアは宿主貝の概日リズムに応じて脱出し、水中を遊泳する(5)。

哺乳類

セルカリアは哺乳類の皮膚にたどり着くと、タンパク質分解酵素を分泌して皮膚内へと侵入し(6)、 その頭部のみがシストソミューラへと変態する(7)。 シストソミューラは2日間ほど皮膚に滞在し、細静脈から血流に乗ってへ向かう(8)。 肺で成虫に変態したあと、感染8日から10日ほどで肝臓の類洞へとたどり着き、 口吸盤を発達させ赤血球を捕食して成熟する(9)。 成熟した住血吸虫は体長10mm程度で、雌がやや短い雄の抱雌管にはさみこまれるように対になり、最終的な寄生部位へと移動して産卵する(10)。 セルカリアの感染から成熟して産卵を始めるまでには6~8週間かかり、数年から20年ほど寄生を続ける。産まれた虫卵は、消化管もしくは尿路から宿主体外へと排出される。

感染経路

遊泳や水飲みなど水と接するときに感染する。漁業や水田の耕作などの作業で水につかったときにも感染し得る。

病理

肝臓に認められた日本住血吸虫の虫卵

マンソン住血吸虫や日本住血吸虫が腸間膜直腸の静脈に移動するのに対して、 ビルハルツ住血吸虫は直腸静脈叢を経由して膀胱、尿管、腎臓などの静脈叢へ移動する。 この寄生部位の差が、腸管住血吸虫症と尿路住血吸虫症という症状の差を生み出す。

しかし感染している親虫が症状を引き起こすのではなく、親虫が産んだ虫卵に対して宿主が免疫応答して激しい炎症反応を起こし、それによって組織が損傷することが各種症状の原因となっている。したがって、駆虫しても虫卵が残っている限りは症状が治まることはない。

とくに日本住血吸虫は1日3000個と大量の虫卵を産み、激しい症状を引き起こすことになる。

診断

診断はELISAにより患者血液から寄生虫抗原を検出することで行われる。顕微鏡下で便もしくは尿中に虫卵を検出することも可能である。またビルハルツ住血吸虫の場合、骨盤X線像に特徴的な膀胱の石灰化が認められる。

治療

抗吸虫薬プラジカンテルで容易に治療することができる。プラジカンテルは安全なうえ低価格だが、それでも治療が必要な患者の14%にしか行き届いていない[10]。そのほか、マンソン住血吸虫にはオキサムニキン、ビルハルツ住血吸虫にはメトリホナートが効く。かつてはアンチモンが用いられたこともある。

予防

中国洪湖市長江の堤防。「住血吸虫がいるため、人や家畜が水に入ることは固く禁じられている」と警告されている。

集団投薬

感染リスクの高い地域では、定期的(たとえば年1回)に全住民にプラジカンテルを投与することで地域全体の虫卵数を抑制する手段が執られる。それほどでもない場合は、学童や、水に接する職業(漁業や農業)に従事する者に限定して投薬する。同時に、衛生教育を行い、糞尿処理を改善するなどの手段を組み合わせる。

貝の駆除

淡水産巻貝の駆除は非常に効果的で、アクロレイン硫酸銅ニクロサミドなどが用いられる。またザリガニの導入などで巻貝の生息数を調整するという手法も考えられる。しかしこれらは人為的に生態系を改変することになる。

ワクチン

ワクチン開発は研究レベルに留まっている。

疫学

住血吸虫症によって失われた人口10万人あたりの障害調整生命年
  データなし
  10未満
  10-25
  25-50
  50-100
  100-150
  150-200
  200-250
  250-300
  300-350
  350-400
  400-450
  450以上

マンソン住血吸虫は南米、カリブ海沿岸、アフリカ、中東など、ビルハルツ住血吸虫はアフリカと中東、日本住血吸虫は中国フィリピンインドネシアなど東南アジア、メコン住血吸虫はメコン川流域、インターカラーツム住血吸虫は西アフリカに分布している。特に上下水道設備が整っていない地域や、家畜により排出された屎尿を直接河川に排出している地域では感染の拡大が懸念されている。

ヒトの寄生虫症の中でマラリアに次いで2番目に社会経済学的影響の大きな疾患とされている。発展途上国74か国で流行しており、2億人以上が感染し、7億人以上が感染リスクに曝されているとされる[13]。また2000万人の患者が重篤な症状に悩まされており[14]、年間死者数はアフリカだけで20万人ほどと見積もられている[10]

住血吸虫症の根絶

かつては日本でも山梨県・広島県・福岡県で日本住血吸虫の感染者が多かったが、1978年に山梨県で確認された患者を最後に、新たな感染者は報告されていない。1990年に福岡県で安全宣言、1996年に山梨県で終息宣言がされ、世界で唯一住血吸虫症を撲滅した国となった[15]

一方、中華人民共和国は、大躍進政策期間中の1958年に「世界初の住血吸虫症撲滅成功」を宣言し、現在でもプロパガンダに使用しているが、実態を伴うものではなかったといわれている[16]。日本住血吸虫症は2000年までに全流行地で撲滅されたが、長江流域などアジア各地ではまだ発生がつづいているのである[9]

脚注

注釈

  1. ^ ビルハルツ住血吸虫は、もともとはカバの寄生虫であったと考えられる。エジプトでは約4000年前のパピルス文書にもその記述があり、ツタンカーメン王ミイラの内臓部からも寄生虫卵の遺存が確認されている[9]
  2. ^ ナイル川流域に生活する80パーセント以上の住民が保虫者とされている[9]

出典

  1. ^ Schistosomiasis (bilharzia)”. NHS Choices (2011年12月17日). 2014年3月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月15日閲覧。
  2. ^ Schistosomiasis”. Patient.info (2013年12月2日). 2015年6月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年6月11日閲覧。
  3. ^ schistosomiasis - definition of schistosomiasis in English from the Oxford dictionary”. OxfordDictionaries.com. 2016年1月20日閲覧。
  4. ^ "schistosomiasis". Merriam-Webster Dictionary (英語). {{cite web}}: Cite webテンプレートでは|access-date=引数が必須です。 (説明)
  5. ^ a b c d e f g Schistosomiasis Fact sheet N°115”. World Health Organization (2014年2月3日). 2014年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月15日閲覧。
  6. ^ “Global, regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 310 diseases and injuries, 1990-2015: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2015”. Lancet 388 (10053): 1545–1602. (October 2016). doi:10.1016/S0140-6736(16)31678-6. PMC 5055577. PMID 27733282. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5055577/. 
  7. ^ “Schistosomiasis chemotherapy”. Angewandte Chemie 52 (31): 7936–56. (July 2013). doi:10.1002/anie.201208390. PMID 23813602. 
  8. ^ “Global, regional, and national life expectancy, all-cause mortality, and cause-specific mortality for 249 causes of death, 1980-2015: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2015”. Lancet 388 (10053): 1459–1544. (October 2016). doi:10.1016/s0140-6736(16)31012-1. PMC 5388903. PMID 27733281. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5388903/. 
  9. ^ a b c d e f g h i j 石(2018)pp.80-82
  10. ^ a b c Fact Sheet 115 Schistosomiasis”. World Health Organization (2012年1月). 2012年10月18日閲覧。
  11. ^ Neglected Tropical Diseases”. cdc.gov (2011年6月6日). 2014年12月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年11月28日閲覧。
  12. ^ Carl AJ, et al. Katayama fever. N Engl J Med 2016; 374:469. doi:10.1056/NEJMicm1504536
  13. ^ Oliveira, G.; Rodrigues N.B., Romanha, A.J., Bahia, D. (2004). “Genome and Genomics of Schistosomes”. Canadian Journal of Zoology 82 (2): 375–90. doi:10.1139/Z03-220. http://www.ingentaconnect.com/content/nrc/cjz/2004/00000082/00000002/art00012. 
  14. ^ Kheir MM, Eltoum IA, Saad AM, Ali MM, Baraka OZ, Homeida MM (February 1999). “Mortality due to schistosomiasis mansoni: a field study in Sudan”. Am. J. Trop. Med. Hyg. 60 (2): 307–10. PMID 10072156. 
  15. ^ 【連載】寄生虫からひもとく風土病探訪記「第1回 忘れてはならない戦いの歴史:風土伝承館 杉浦醫院」”. メディカ出版 (2024年3月21日). 2025年1月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年4月28日閲覧。
  16. ^ Zhou, Xun (2020年8月22日). “Mao's China falsely claimed it had eradicated schistosomiasis – and it's still celebrating that 'success' in propaganda today” (英語). The Conversation. 2021年1月25日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク


住血吸虫症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 07:42 UTC 版)

感染症の歴史」の記事における「住血吸虫症」の解説

詳細は「住血吸虫症」、「日本住血吸虫」、および「地方病 (日本住血吸虫症)」を参照 住血吸虫症の起源古く灌漑網を整備したメソポタミアエジプト初期農耕社会ですでに蔓延していたとみられ、マラリアならんで農耕生活広がりによって拡大した感染症である。河川湖沼生息する巻貝中間宿主となり、ヒトには生水通して感染する住血吸虫の保者は慢性的な胃や胸の痛み疲労感下痢訴えることが多く卵が膀胱尿管粘膜に集まるため尿路にも障害生じる。フランス英雄ナポレオン・ボナパルト尿道激し痛み持病としていたが、従来、その原因尿路結石とされていた。しかし、その症状記録子細に検討した専門家は、18世紀末から19世紀初頭にかけてのフランス軍エジプト遠征エジプト・シリア戦役)の際に感染したビルハルツ住血吸虫症の可能性が高いと報告している。アフリカ中東にかけてはビルハルツ住血吸虫症が今なお流行しており、ダム灌漑水路普及とともにますます拡大している。エジプトでは、1970年完成アスワン・ハイ・ダム貯水開始とともに感染爆発的に拡大した日本には水田耕作とともに弥生時代持ち込まれたと考えられている。日本住血吸虫症は、日本・中国フィリピン等でみられる住血吸虫症の一種で、ミヤイリガイ(オンコメラニア)という巻貝を中間宿主として成長した寄生虫日本住血吸虫)が経皮感染によってヒトウシネコなどに感染することによって発生する感染症である。日本では古くから甲府盆地底部一帯筑後川流域罹病地域として知られてきた。特に山梨県下では「地方病」と称され地域特有の奇病と見なされてきた。1904年桂田富士郎甲府市でこの寄生虫発見し1913年宮入慶之助鈴木稔佐賀県鳥栖市において、寄生虫の中間宿主がオンコメラニアであることを発見したため、病名に「日本」の名が付されることとなった中国湖南省長沙市前漢代の墳墓である馬王遺跡ミイラから日本住血吸虫の生活痕跡検出したことから、中国において、この感染症の流行きわめて古くからのものであることが確かめられている。 中国では、1950年代初頭四川盆地をふくむ長江流域広東省福建省雲南省など広汎地域日本住血吸虫症の流行顕在化し、患者数は約3200万人のぼった推定される中華人民共和国では、建国以来大衆動員によって古いクリーク埋め立て新しクリーク開削する方法によってオンコメラニア対策が採られ、1958年には、江西省余江県での成功にちなんで、当時中国共産党指導者毛沢東は「送瘟神(瘟神を送る)」と題する漢詩つくっている。 日本住血吸虫症は、こんにちでも中国フィリピン中心に年間数千人以上の新規感染患者発生しているが、日本では1978年発生した山梨県罹患者最後に新規感染者確認されておらず、1996年には山梨県知事天野建によって「地方病終息宣言」が出された。

※この「住血吸虫症」の解説は、「感染症の歴史」の解説の一部です。
「住血吸虫症」を含む「感染症の歴史」の記事については、「感染症の歴史」の概要を参照ください。

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