じゅうしょう‐きんむりょくしょう〔ヂユウシヤウキンムリヨクシヤウ〕【重症筋無力症】
重症筋無力症
重症筋無力症
運動負荷により、容易に筋疲労をきたし、筋力低下をみる病気です。筋力低下は起床時よりも、疲労が蓄積する午後に増悪するなど、日内変動をみるのが特徴的です。
a.病因、病態
末梢神経と筋線維の接合部(神経筋接合部:neuromuscular junction)の異常です。神経からの伝達を、筋肉に伝え場所が神経筋接合部です。筋肉が収縮するときには神経から、筋肉が収縮するように命令する物質が出ます。神経側から出る物質がアセチールコリンという伝達物質で、筋側のアセチールコリン受容体(acetylcholine receptor: AChR)で受け取られます。患者では高率に血清アセチールコリン受容体に対する抗体の上昇があります(自己免疫異常です)。その異常に高くなった抗体はアセチールコリン受容体を抗原と認識し、そこで抗原・抗体反応が起こります。この反応の結果、筋側のアセチールコリン受容体は変性し、数を減らします。すると神経側からきたアセチールコリンに対し、筋側が十分に対応できなくなり、筋力低下となるのです。
本症患者の約50−70%には胸腺腫ないし胸腺過形成がみられます。胸腺摘出により症状が改善することから、胸腺の関与が示唆されています。発育期には胸腺で胸腺由来T細胞が形成され、成熟するとそれは末梢リンパ組織に移行します。しかし本症では胸腺リンパ濾胞形成が著明で、そこでT細胞は末梢リンパ球のB細胞と協力して抗体を産生すると考えられています。
本症には胸腺異常だけでなく、他の自己免疫疾患の合併、血清補体価の低値、抗γグロブリン血症を認めます。治療に免疫抑制剤が有効であることから、自己免疫機構が働いていることには疑いはありません。
b.臨床症状
本症はいくつかの臨床病型に分けられていて、Ossermanの分類が広く使われてきました。現在でも臨床の場ではよく使われています。有病率は10万人あたり約5人とされているので、筋疾患のなかでは比較的頻度が高いといえます。
発症は20−40歳に最も多く、女性:男性は6:4で、女性の方が発症も約10歳ほど早いといわれています。眼症状(眼瞼下垂、複視など)が初発症状として最も多く、半数を占めます。また全身症状が改善しても、眼症状が最後まで残ることが多いのです。全経過をみると眼筋は90%以上の患者で侵されます。眼症状のみの眼筋型(小児に多く、成人では15ー20%)もありますが、経過とともに全身型に移行することもあるので、注意が必要です。
顔面筋が侵されると表情が乏しくなり、頸筋が侵されると首垂れ状となります。全身型では四肢筋の筋力低下で歩行困難、呼吸筋の筋力低下もみるようになります。また球症状(燕下、言語、呼吸障害)を合併したり、これが先行することもあります。これらの症状は安静で改善し、運動、精神的ストレス、感染などで増悪します。
c.診断
日内変動を伴う筋力低下、眼瞼下垂をみたらまず本症を疑います。この病気を疑ったら、まずテンシロンテストを行います。塩化エドロホニウム(アンチレクス)10mgを注射器に入れ、まず2mgを静注し、異常がなければ残りを追加静注します。筋力が数分以内に回復すれば、本症の診断根拠となります。もし2mg静注後コリン作動性反応(副交感神経刺激症状、筋痙攣、脱力)があれば、試験を中止し、症状が強ければ硫酸アトロピン 筋電図では連続電気刺激で、神経筋単位(neuromuscular unit)の振幅漸減(waning現象)をみます。
患者血清中の抗アセチールコリンレセプター抗体陽性率は眼筋型を除き80−90%と高値を示します。抗筋抗体、抗核抗体など免疫不全を示唆する多くの自己免疫抗体が証明されることもまれではありません。胸腺腫、肥大の判定には胸部CT検査が有用です。
d.治療
抗コリンエステラーゼ剤としては効果の長い臭化ピリドスチグミン(メスチノン)がよく使用されます。60mg/日から始めて、300mg/日まで増量可能です。ステロイド治療としてはプレドニゾロン10−20mg/日(成人)隔日投与から開始して、1−2週ごとに5−20mgずつ経過をみながら増量し、最大量60−80mg/日、隔日投与とします。増量中に緩解をみれば、その量を最大量として1−3か月用い、次第に斬減します。
外科的胸腺摘出は以下の状態の時に行われるのが一般的です。
(1)薬物効果が不十分
(2)発症から5年以内で薬物療法に強く抵抗する
(3)胸腺腫がある場合
胸腺腫がなくても、全身型では早期からのステロイド剤投与、胸腺摘出を行い、よい結果が得られています。全ての治療に抵抗する重症例では血漿交換、ステロイドのパルス療法が行われています。
重症筋無力症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/10/04 04:32 UTC 版)
重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう、英語: Myasthenia Gravis、略称:MG)とは、アセチルコリンなどの抗体により神経・筋伝達が阻害されるために筋肉の易疲労性や脱力が起こる自己免疫疾患である。
日本では厚生労働省により特定疾患に指定されている難病である。
神経筋接合部は血液脳関門の保護がなく、自己抗体依存性疾患が生じやすい特徴をもっている。重症筋無力症(MG)は、神経筋接合部の疾患のなかで最も頻度が高いものである。
疫学
日本においては、有病率は人口10万人あたり11.8人である。男女比は1:1.7であり女性に多い。幼児発症が7.0%であり後期発症(65歳以上)は16.8%であった。日本でも後期発症MGが増加している。MGFA分類ではIが35.7%、IIaが27.8%、IIbが16.5%、IIIaが9.0%、IIIbが6.6%、IVaが1.1%、IVbが1.4%、Vが2.0%であった。眼筋型と軽症全身型で全体の80%を占めている。ただし最重症時の状態をもってMGFA分類とする原則に従っていない報告もあるため解釈に注意が必要である。また発症後2年間は眼筋型から全身型へ進展する可能性がある。逆に2年以上経過していれば移行しないことが多い。
自己抗体
日本では約80〜85%が「AChR抗体陽性MG」で、数%が「MuSK抗体陽性MG」で、他数%は「double serenegative MG(DS-MG)」と位置付けられている。AChR抗体・MuSK抗体以外では「LDL受容体関連蛋白4(Lrp4)抗体」や横紋筋標的抗原(titin、ryanodine receptor、Kv1.4)等が報告されている。
- AchR抗体
ニコチン性アセチルコリン受容体に神経伝達物質であるアセチルコリンと、抗アセチルコリン受容体抗体が競合結合して生じる。胸腺腫合併症例が多い。
- Musk抗体
AchoR抗体陰性の症例で、筋特異的チロシンキナーゼに対する自己抗体である「抗Musk抗体」陽性の症例。抗Musk抗体陽性のMGの特徴は20〜60歳の女性に好発し、眼症状、球症状、顔面筋脱力が著明でクリーゼになりやすい。コリンエステラーゼ阻害薬は無効なことがあり、胸腺摘除術の効果も少ないと言われている。血漿交換、ステロイド、リツキシマブなどが有効とされている。
- Lrp4抗体
2011年に、長崎大学医学部の本村政勝、樋口理によって、double serenegative MG(DS-MG)患者において、LDL受容体関連蛋白4(Lrp4)抗体陽性があることが報告された。
病態
重症筋無力症における胸腺の主な影響は、抗体産出の場、抗原蛋白質(AChR)の発現部位、AChR特異的T細胞の次奥的活性化、抗原提示細胞の存在部位、MHCクラスII蛋白質の発現、サイトカイン発現亢進、免疫細胞のpositive・negative selectionの異常、胸腺過形成(または胸腺腫)内の抑制性T細胞の機能不全などが考えられている。
年齢
- 成人期発症
MGの患者の約半数が眼筋型MGとして発症し、うち50〜60%の患者が発症2年以内に眼筋型MGから全身型MGに進展する。高齢者の場合には全身型への進展は31%とやや低頻度であり、全経過を通して眼筋型にとどまる頻度が高い。眼筋型と軽症全身型(MGFAIIa)との区別はしばしば困難である。反復刺激検査で四肢でのwaningを認めることが全身型への移行を示唆するものではなく、QMGスコアでは眼筋以外の項目で点数がつくこともある。眼筋型MGに対してステロイドパルス療法を行うと初期増悪として眼症状の増悪、ときに一過性の四肢脱力を呈することがあるが、クリーゼに至ることはなく全身型MGに比べて安全性は高い。
- 小児期発症
MGの好発年齢は通常20〜30歳であるが日本では5歳以下にピークがある。抗コリンエステラーゼ阻害薬で完全寛解にいたる症例が少数ながら認められる。
分類
分類は筋力低下の現れる範囲によって分類する。以前はOsserman(オッサーマン)分類が多かったがMGFA(Myasthenia Gravis Foundation of. America)分類されることが多くなった。また合併する胸腺腫に関しては病理をWHO分類(type Bが多い)で行い、病期を正岡の分類で行う。
- 成人第I型(眼筋型)
- 一側または両側の外眼筋のみ侵される。
- 成人第II型(全身型)
- 外眼筋・頚筋・四肢筋などが侵される。最も高頻度。球麻痺が現れることもある。
- 成人第III型(急性激症状)
- 急激に発症し、広範囲の筋が侵される。呼吸筋も早期に侵されるため死亡率が高い。
- 成人第IV型(晩期重症型)
- I型・II型より約2年の経過で見られることが多く、III型とほぼ同様の症状を呈する。
- 成人第V型(筋萎縮型)
- II型・III型・IV型の内、廃用性の萎縮ではない筋萎縮を示すもの。
- 新生児一過性型
- 胎児の時期に、重症筋無力症の母親から胎盤を通じて抗アセチルコリン受容体抗体が移行するため、新生児に一過性に筋無力症状が生じたもの。
臨床像
重症筋無力症の臨床症状の特徴は運動の反復、持続に伴い骨格筋の筋力が低下し(易疲労性)、これが休息により改善すること、夕方に症状が悪化すること(日内変動)、日によって症状が変動すること(日差変動)である。初発症状としては眼瞼下垂や眼球運動障害など眼症状が多い。発症年齢や病原性自己抗体によっても症状の差が知られている。約36%で羞明が認められる[1]。神経筋疾患において羞明は稀な症状である。
重症筋無力症の増悪では眼瞼下垂の増悪、複視の悪化、頸部筋力低下、四肢筋力低下など様々な形であらわれる。症状の増悪は、当初、夕方や労作時に自覚され、次第にそれが終日認められるようになる。増悪の中で呼吸障害が増悪する場合をクリーゼという。多くの場合はクリーゼでは呼吸障害だけではなく、嚥下障害や構音障害など球麻痺を伴う。増悪の原因は多岐におよび、身体的ならびに精神的なストレス、感染症(特に呼吸器感染症)、外科手術、外傷、妊娠などがあげられる[2][3][4]。
また重症筋無力症の症状が十分にコントロールできていないことも症状増悪の原因になる。また薬剤も増悪の要素になる。特に免疫チェックポイント阻害薬は重症筋無力症を誘発する可能性が高い。
眼筋限局型
全身型(軽症)
眼症状に次いで、頻度の高い罹患筋は四肢の骨格筋であり、頸部筋の筋力低下、四肢の筋力低下が認められてくる。診断時に眼筋型MGであった症例の約20%で経過中に全身型に移行するとされている。構音障害、嚥下障害、咀嚼障害などの球症状、顔面筋力低下、呼吸困難などの症状も示すことがある。自己抗体によって臨床症状の違いがあるとされている。MuSK抗体陽性のMGは、顔面や頸部の筋力低下、球症状がMG症状の中核をなし、クリーゼになりやすいとされている。またMuSK抗体陽性MGには特異的な顔面筋、舌筋、咬筋、側頭筋あるいは頚部筋の筋萎縮を呈する一群があり、罹患筋には個々の筋線維の萎縮や消失といった筋原性変化が見られると報告されている。ryanodine receptor抗体陽性MGには、眼症状の他に球症状と頚部筋力低下の発生率が高いと報告されている。MGには非運動症状が存在する。MGの非運動症状にはMGに合併する他の自己免疫疾患、MGと共通の自己免疫が関連する症状、非免疫学的な機序によるものに分類される。胸腺腫関連MGでは胸腺腫由来のT細胞機能異常が原因となる疾患や症状を合併する場合がある。赤芽球癆、円形脱毛、低γグロブリン血症、心筋炎、味覚障害など多臓器にわたる。
クリーゼ(重症)
症状が呼吸筋に及び呼吸不全をおこし生命を脅かすものである。重症筋無力症の15〜20%では経過のどこかでクリーゼを経験していく。
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- 経過
以下の臨床経過を経ていく
- 口周囲・咽頭筋、頸部の筋肉の麻痺による気道の虚脱
- 声帯外転筋の麻痺による喘鳴の発生
- 頻回の咳嗽に伴った横隔膜の疲労による気道分泌の除去不全
- 横隔膜、肋間筋、腹筋の脱力により有効な維持不能
歴史的にクリーゼは筋無力症性クリーゼとコリン作動性クリーゼに分類されている。筋無力症性クリーゼはMG本来の機序によって神経筋接合部のブロックが呼吸筋に起こることである。あくまで呼吸筋の症状によって作られた概念であり、四肢の筋力は保たれていることもある。相対的なコリン作動性の機序で自律神経症状も伴う。病態としては抗コリンエステラーゼ阻害薬が効果的である。筋無力症性クリーゼでは瞳孔は散大し、縮瞳は認められない。コリン作動性クリーゼはコリンエステラーゼ阻害薬の過剰投与によって起こる。かつてはコリンエステラーゼ阻害薬が大量に使用されていた。ムスカリン様症状(縮瞳、発汗、気道内分泌増加、悪心、嘔吐、疝痛、下痢、徐脈)とニコチン様作用(呼吸不全、クランプ)などが知られている。テンシロンテストにより筋無力症性クリーゼとコリン作動性クリーゼの鑑別がある程度可能になったが鑑別は容易ではない。一般的に見られるクリーゼは筋無力症性クリーゼとコリン作動性クリーゼの混合したタイプであることが多い。
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- 誘因
発症から最初の2〜3年が症状が重く不安定である。この期間にクリーゼが起こりやすい。また胸腺腫を合併している場合はMGの症状が不安定に推移しクリーゼにいたりやすい。また抗Musk抗体陽性のMGでは球症状(構音障害や嚥下障害)や呼吸筋麻痺といったクリーゼが急速に進行することがあり注意が必要である。
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- 感染症:細菌性肺炎やウイルス性上気道炎などはクリーゼの誘因となる。
- 外科手術:胸腺摘除術など外科手術(侵襲)はクリーゼの誘因となる。
- 誤嚥
- 薬剤関連性:抗菌薬(アミノグリコシド系)、抗不整脈薬(キニジン、プロカインアミド)、降圧薬(βブロッカー、Ca拮抗薬)、マグネシウムなどが誘因となる。
- 発熱
- 妊娠・月経
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- 治療・対処
呼吸障害の評価と管理、誘因の除去、免疫調節療法の開始、合併症の予防が治療の基本となる。呼吸状態が生命に危険を及ぼす程劣悪である場合、直ちに気管挿管する。重症筋無力症診療ガイドライン2014では抗コリンエステラーゼ阻害薬は中止することが推奨される。もし使用する場合はテンシロンテストで筋無力性クリーゼとコリン作動性クリーゼの判別を行う。症状が改善した場合、筋無力性クリーゼと判断し、臭化ピリドスチグミン製剤等のコリンエステラーゼ阻害剤を投与する(副作用のムスカリン作用に対しては硫酸アトロピン製剤を用いる)。症状が悪化した場合、コリン作動性クリーゼと判断し、コリンエステラーゼ阻害剤投与を中止して硫酸アトロピン製剤を投与する。なお、コリンエステラーゼ阻害剤により症状をコントロールしている場合、テンシロンテストを行うよりもコリンエステラーゼ阻害剤の投与を中断しての反応を見て判断するのが望ましい。挿管している場合は抜管の数日前にテンシロンテストを行いながら抗コリンエステラーゼ阻害薬は再投与する。免疫調節療法としては血漿交換や免疫グロブリン療法が検討されるが、治療効果の発現が速やかであることから血漿交換が選択されることが多い。
合併症
- 呼吸不全
- 致死的合併症。頻度も高い。特に感染時は、筋無力症状の悪化として起こりやすい。
- 胸腺異常
- 胸腺異常の20%程が胸腺腫(thymoma)、75%程度が胸腺過形成(濾胞過形成、follicular hyperplasia)である。CTやMRI検査によって発見される。男性患者の32%、女性患者の20%は胸腺腫を持つ。逆に胸腺腫の患者の30%は重症筋無力症を合併する。40歳以上で胸腺が拡大していれば、まず胸腺腫を疑う。
- 自己免疫疾患
検査
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- 自己抗体
上述の自己抗体を血液検査にて測定する。
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- 眼瞼の易疲労性試験
患者の上方視を最大約1分程度まで続けさせる。これにより眼瞼下垂が出現または増悪すれば陽性である。感度80%であり特異度63%である。
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- アイスパック試験
冷凍したアイスパックをガーゼなどに包み3〜5分上眼瞼に押し当てることにより眼瞼下垂が改善すれば陽性である。感度は80〜92%、特異度は25〜100%とされている。
コリンエステラーゼ阻害剤であるエドロホニウム(商品名:テンシロンまたはアンチレクス)を静注し、改善をみる。副作用となるムスカリン作用として悪心・下痢・流涎・失神(徐脈、AVブロック)などが起こりうるので、硫酸アトロピンを用意しておく。まずコントロールとして生理食塩水を静注し、症状が変化しないのを確認する。次にエドロホニウムを2mg投与しムスカリン効果(腹痛、嘔吐など)が出現しないのを確認してから、残りの8mgを投与し改善を評価する。検者が判断に迷うような改善であった場合は陰性と判定する。
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- 誘発筋電図検査
筋電計を用いた低頻度の反復神経刺激試験(Harvey-Masland試験)において、漸減現象(waning)がみられる。
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- 単線維筋電図
単線維筋電図(SFEMG)でのジッター値が大きくなる。
診断
日本では日本神経学会による「重症筋無力症診断基準2013」が広く用いられている。以下を鑑別する。
- 薬剤誘発性筋無力症
- ペニシラミン、アミノグリコシド系抗生物質、プロカインアミド、ポリミキシンBなどが誘発する。
- 先天性筋無力症候群
- ランバート・イートン症候群 (Lambert-Eaton myasthenic syndrome:LEMS)
- 神経衰弱
- 甲状腺機能亢進症
- ボツリヌス症
- 進行性外眼筋麻痺
- ミトコンドリア脳筋症の一つ。筋生検が診断に必要。
治療
全身型重症筋無力症の治療
成人発症の全身型重症筋無力症ではMGFA Post-intervention Status[7]における完全寛解を長期維持するのは困難である。治療が生涯にわたることを意識し、QOLやメンタルヘルスを保つように治療戦略を立てるべきである。完全寛解とほぼ同等のQOLが得られ、完全寛解より多くの患者が達成可能な治療目標としては軽微症状(Minimal Manifestation、MM)またはそれ以上、MM or betterをPSL1日5mg以下で達成することがよいと考えられている[8][9][10]。MGFA Post-intervention Status[11]における軽微症状は軽微な筋力低下は存在するが日常生活に支障がない状態である。上記の治療目標をMM-5mgという[12]。重症筋無力症における最初の治療目標はMM-5mgであり、これを早期達成するよう治療戦略を考える。MM-5mgは免疫治療開始から約5年間は達成率が増加するが、以後はほとんど増加しないためなるべき早期の達成を目指す[13]。早期速効性治療戦略(early fast-acting treatment strategy、EFT)がMM-5mg達成に有効と考えられている[14]。早期速効性治療戦略は非経口速効性治療(fast-acting treatment、FT)を積極的に行い早期改善と経口ステロイド量抑制の両立をはかる治療戦略である[15][16][17]。非経口速効性治療はアフェレーシス、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量療法、あるいはこれらを組み合わせた治療法である。漸増漸減による高用量経口ステロイド療法は様々な副作用やQOL阻害につながりやすく、かつ完全寛解や早期MM-5mgに関連しないため推奨されなくなった[18]。治療初期から経口ステロイドは少量にとどめカルシニューリン阻害薬を併用することが望ましい[19][20]。眩しさを軽減するため遮光眼鏡の装着をすすめられる。
- コリンエステラーゼ阻害薬
全身型重症筋無力症においては抗コリンエステラーゼ薬は補助的薬剤と考えられている。抗コリンエステラーゼ薬の投与は症状の改善が得られたあとは、早期に減量中止を目指すべきと考えられている[21]。メスチノンとマイテラーゼが用いられる。マイテラーゼの方が効果が強いが副作用も強い。
| 一般名 | 商品名 | 常用量(mg/day) | 適用 |
|---|---|---|---|
| アンベノニウム | マイテラーゼ | 10〜40 | 全身型 |
| ピリドスチグミン | メスチノン | 60〜300 | 全身型、眼筋型 |
| ジスチグミン | ウブレチド | 5〜20 | 眼筋型 |
| ネオスチグミン | ワゴスチグミン | 散剤10〜30、注射0.25〜1.5 | 他剤と併用、筋無力症性クリーゼ |
| エドロホニウム | アンチレクス | 診断、投与量の調節 |
- ステロイド
1970〜1980年代の漸増、漸減投与法による経口副腎皮質ステロイド治療が普及し、全身型MGによる重症例、死亡例は減少し、生命予後は軽快した。しかし成人発症MGの完全寛解は得難いため、治療が長期に渡ることを意識する。MG治療における最初の到達目標は経口プレドニン5mg/day以下でMMレベルであり、これを早期達成するように治療戦略を考える。経口ステロイドは少量としカルシニューリン阻害薬を早期から積極的に用い、残るMG症状は強力で速効性の治療を用い短期間に改善させる治療方法(早期強力治療戦略)が提案されている。かつては初期増悪に注意して漸増した。40%前後で投与後1〜2週間以内に症状の増悪(初期増悪)をきたし、約10%でクリーゼにいたる。初期増悪の機序に関しては未だ不明である。経口ステロイドによる初期増悪のリスクは胸腺腫関連MG(TAMG)であること、早期発症MG(g-EOMG)であること、40mg/日以上の高用量のPSLとされている[22]。初期増悪のリスクは少量導入やアフェレーシスや免疫グロブリン大量療法を併用することで軽減できる。軽症MGにおいてはステロイド導入せずに胸腺摘除術を施行することが一般的である。亜急性進行で呼吸筋、球筋の障害が目立ち術後増悪が懸念される症例に限って、胸腺摘除術に先行してステロイドを導入することにより手術を安全に施行することができ、術後クリーゼを回避できる可能性を示唆している。
経口ステロイドは有効例(responder)と効果不良例(poor-responder)が存在する。経口ステロイドの増量や投与期間延長は必ずしも良好な治療成績に結びついていない[23]。免疫治療開始早期からの低用量経口ステロイド療法がMM-5mg達成を促進する[24]。
- 胸腺摘除術
重症筋無力症の10~20%に胸腺腫が認められる。胸腺腫は悪性腫瘍としての管理が必要なためNCCNガイドラインでは胸腺癌とともに胸腺上皮性腫瘍としてまとめられている[25][26]。胸腺腫と抗AChR抗体陽性重症筋無力症は傍腫瘍性神経症候群として確立しており胸腺摘除と免疫治療が推奨される。
スペインの検討では胸腺腫を伴う抗AChR抗体陽性の重症筋無力症は胸腺腫を伴わない抗AChR抗体陽性の重症筋無力症よりも重篤な傾向があり、治療抵抗性および死亡率が高値であった[27]。イタリアの検討では胸腺腫関連重症筋無力症で胸腺摘除を行うと約72%で神経学的に寛解し、96%で改善または寛解に達した[28]。以上のことから腫瘍の予後改善、神経学的な機能改善の両方から胸腺摘除が推奨される[29]。その一方で一定の頻度で神経学的な機能改善を認めない例もあることから国際コンセンサスガイドラインでは「胸腺腫の摘出は腫瘍を除去するために行われるものであり必ずしも重症筋無力症の改善をもたらすとは限らない」と記載されている[30]。胸腺摘除後も重症筋無力症が寛解しない場合は末梢での自己免疫プロセスが持続していると考えられる[31][32]。
胸腺摘除術の一般的な方法は胸骨を縦切開して、周囲の脂肪組織を含めて摘出する拡大胸腺摘除術であり、その効果は数ヶ月以上先に現れる。胸腔鏡や縦隔鏡による術式もある。胸腺腫関連MGでは全例胸腺摘除術の適応と成る。摘除後は速やかなMG症状の改善やAChR抗体減少が得られないことが多い。胸腺摘除が有効な非胸腺腫MGは一部に限られ、若い発症、病初期のACh抗体陽性過形成胸腺例とされている。おおむね60歳以下の全身型で抗AChR抗体陽性、ステロイド薬を使用しても十分なコントロールが得られない場合に適応とされている。眼筋型や抗AChR抗体陰性の場合は適応がないと考えられる。
- 免疫抑制剤
カルシニューリン阻害薬であるタクロリムス水和物製剤やシクロスポリンの他に、アザチオプリン製剤、シクロホスファミドが用いられる。副作用としてはシクロスポリンでは感染症、血圧上昇、耐糖能異常、腎障害、歯肉肥厚、多毛などがある。タクロリムスでは感染症、耐糖能異常、白血球増多、筋痙攣などがみられる。カルシニューリン阻害薬やシクロホスファミドは症状改善効果が期待できるがアザチオプリンは効果発現に2〜3年必要とされている。タクロリムスは抗アセチルコリン受容体抗体陽性の眼筋型重症筋無力症に対して単剤で有効という報告もある[33]。
- 免疫グロブリン療法
免疫グロブリン療法はクリーゼの際になどに用いられる。
- 血漿交換
単純血漿交換のほか、トリプトファンカラムによる免疫吸着療法なども行われる。
他の治療法で効果が十分でない場合に検討される。長期的効果と早期効果の両者が認められる[34](日本では認可されていない)。
- C5阻害薬
C5阻害薬にはエクリズマブ、ラブリズマブ、ジルコプランが抗アセチルコリン受容体抗体陽性全身性重症筋無力症に使用可能である[35]。髄膜炎菌感染症の予防のためワクチンの接種が必要である。C5阻害薬で効果不十分の場合はFcRn阻害薬へ変更を検討する[36]。C5阻害剤薬投与中に増悪が認められた場合は血漿交換や免疫グロブリン大量療法を行う[37]。血漿交換後と免疫グロブリン投与後にC5阻害薬の補充が必要になる。エクリズマブ投与中止後に重症筋無力症が悪化した報告例がある[38]。
- FcRn阻害薬
FcRn阻害剤薬にはエフガルチギモド アルファやニポカリマブやロザノリキシズマブがある。エフガルチギモド アルファでは初回3サイクルは固定間隔で投与(4週間の週1回投与、サイクル間は4週間の休薬)で4サイクル目以降はサイクル間は臨床評価に基づいて個別に決定することで高い治療効果をあげた報告がある[39]。FcRn阻害剤薬投与中に増悪が認められた場合は血漿交換や免疫グロブリン大量療法を行う[40]。
- ブリッジ療法
増悪に対する血漿交換や免疫グロブリン大量療法に対して治療抵抗性、あるいは免疫抑制剤が副作用などで利用できないときに早期で分子標的薬である抗補体薬やFcRn阻害薬を導入する治療法をブリッジ療法という[41]。
治療効果判定
重症筋無力症の治療効果判定はMGFA Post-intervention Statusで行う[42]。この分類は完全寛解(Complete Stable Remission、CSR)、薬理学的寛解(Pharmacologic Remission、PR)、軽微症状(Minimal Manifestation、MM)、改善(Improved、I)、不変(Unchanged、U)、増悪(Worse、W)、再燃(Exacerbation、E)、MG関連死(Died of MG、D of MG)の8つの分類である。
- 完全寛解(Complete Stable Remission、CSR)
1年以上MGの症状がなく、この間MGに対するいずれの治療も受けていない。神経筋疾患に熟練した医師が注意深く診察しても全ての筋で筋力低下が認められない。ただし眼輪筋のみの筋力低下は問わない。
- 薬理学的寛解(Pharmacologic Remission、PR)
抗コリンエステラーゼ薬以外の治療によって完全寛解と同じ状態になっているもの。抗コリンエステラーゼ阻害薬を内服している場合は薬理学的寛解ではなく軽微症状に分類する。
- 軽微症状(Minimal Manifestation、MM)
軽微な筋力低下は存在するが日常生活に支障がない状態。
- 改善(Improved、I)
臨床症状の改善またはMGに対する治療薬の減量がみられる。QMGスコアが3点以上改善するもの。
- 不変(Unchanged、U)
臨床症状の改善またはMGに対する治療薬の減量がみられない。QMGスコアの変化が3点以下のもの。
- 増悪(Worse、W)
臨床症状の増悪、またはMGに対する治療薬の増量がみられる。QMGスコアが3点以上増悪したもの。
- 再燃(Exacerbation、E)
完全寛解、薬理学的寛解、軽微症状の基準を満たしたものがこれらの基準を超えて増悪したもの。
- MG関連死(Died of MG、D of MG)
MGやMGの合併症による死亡、胸腺摘除後30日以内の死亡
予後
MGの長期予後は免疫療法の普及により改善した。寛解率は20%未満であるが、生活や仕事に支障がない軽微症状(Minimal Manifestation、MM)まで改善する頻度は50%以上である[43][44]。MGの死因のうちクリーゼなどMGに関連する死亡は2%以下になっている[45]。MGに関連した死亡はほとんどなくなっており、クリーゼによる死亡が大きく減少した影響が大きい。MG患者の死亡率は健常者と比べ高いという報告もあり、そうでもないという報告もある、MGの死亡に影響する因子としては、悪性腫瘍の合併、肺疾患、心疾患と高齢者ではQOLの低下があげられる。
その一方で複数の免疫治療を行っても十分な改善が得られない、あるいは副作用や治療に伴う負担のため十分な治療の継続が困難である難治性MGが10~15%存在するとされており、その頻度はさらに高いと考えられている[46][47]。胸腺腫関連MGの場合には腫瘍の再発や心臓合併症に注意を要する。
その他
トピックス
悪性腫瘍と重症筋無力症
重症筋無力症患者の10~20%に胸腺腫が認められ、逆に胸腺腫患者の約30%が重症筋無力症を発症する[48]。胸腺腫は完全に良性とも悪性とも分類できない腫瘍である。NCCNガイドラインでは胸腺腫と胸腺癌をまとめて胸腺上皮性腫瘍として悪性腫瘍としての管理が必要と記載されている[49]。実際に胸腺腫は組織学的に良性に見えても局所浸潤・胸膜播種・再発の可能性がある。完全切除後も10年以上経過してからの晩期再発が報告されている。
胸腺腫以外の悪性腫瘍の合併に関しては複数の研究が報告されている[50][51] [52][53][54]。特にスウェーデンからの研究[55]とイスラエルからの研究[56]と台湾からの研究[57]では胸腺外腫瘍の合併率が増加している。なおスウェーデンからの研究では抗アセチルコリン受容体抗体陽性例と陰性例で胸腺外腫瘍の合併率に差がないと報告している。また複数の研究で悪性リンパ腫のリスクが高値になっていることが注目に値する[58][59]。
重症筋無力症では約30%で悪性腫瘍としての管理が必要な胸腺腫を合併し、約6.8〜22.4%で胸腺外腫瘍を合併するため悪性腫瘍の合併が多いと考えられる。その一方で、悪性腫瘍のリスクは上がらないという見解もある[60]。
胸腺腫と重症筋無力症は傍腫瘍性神経症候群として確立している[61][62][63]が、それ以外の胸腺外腫瘍は原則としては腫瘍が神経筋抗原を発現し免疫応答を誘導する傍腫瘍性機序ではなく共通の免疫調節異常を背景とした併存と考えられている[64]。
なお、悪性腫瘍治療で使用される免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象も重症筋無力症の原因として重要である。
胸腺腫と抗アセチルコリン受容体抗体陽性の全身型重症筋無力症、肺小細胞癌とランバート・イートン症候群以外に傍腫瘍性神経症候群と報告されている症例も少数認められる。肺小細胞癌を合併する抗アセチルコリン受容体抗体陽性の全身型重症筋無力症に対して免疫治療で神経症状が改善せず抗癌剤の投与追加で神経症状が改善した報告がある[65]。肺小細胞癌は多彩な傍腫瘍性神経症候群を起こすことが知られているが[66]、肺小細胞癌自体がアセチルコリン受容体を発現し、傍腫瘍性の機序で重症筋無力症を起こしたと考えられる報告がある[67]。また腎細胞癌と抗アセチルコリン受容体抗体陽性全身型重症筋無力症の合併例が報告されており、腎摘後に寛解した例もあった[68]。傍腫瘍性の機序が疑われた。
甲状腺疾患と重症筋無力症
重症筋無力症では甲状腺乳頭癌の合併率が高いという報告がある[69]。また重症筋無力症の患者は甲状腺疾患の有病率が高いという研究がある[70][71]。合併する大部分はバセドウ病や橋本病など自己免疫性甲状腺疾患である。
出典
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参考文献
外部リンク
- 重症筋無力症(指定難病11) - 難病情報センター
- 重症筋無力症とは - 全国筋無力症友の会
- 筋無力症 - NPO法人 筋無力症患者会
重症筋無力症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/05/03 06:56 UTC 版)
詳細は「重症筋無力症」を参照 エクリズマブは重症難治性全身性筋無力症の治療薬として臨床的に意味のある利益をもたらす。重症筋無力症は稀な神経系疾患であり、自己抗体により補体が活性化して神経筋接合部が攻撃される疾患である。第II相臨床試験では14名の患者が登録され、エクリズマブが重症度スコアを偽薬よりも有意に改善し、より速やかに改善することが示された。
※この「重症筋無力症」の解説は、「エクリズマブ」の解説の一部です。
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「重症筋無力症」の例文・使い方・用例・文例
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固有名詞の分類
| 病気の別名 |
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