レコード 記録特性

レコード

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/11 01:37 UTC 版)

記録特性

(録音特性などについては、レコードプレーヤー#フォノイコライザーも参照)

音質の向上や盤面の有効利用を目的に、レコードの溝の振幅は(音の大きさが同じならば)周波数による変化があまりなくなるように録音されている[注 1]カートリッジとして一般的な電磁型[注 2]の出力電圧は針先の動く速さに比例するので、このまま増幅すると高音の勝った音になってしまう[注 3]。そこで、録音時の周波数特性(多くはRIAA型)とは逆の特性をもったフォノイコライザを通し、平坦な特性に戻す。

イコライザはアンプやミキサに内蔵されるのが通常だが、廉価な機器に使われた圧電型[注 4]のカートリッジでは、出力は針先の変位つまり移動距離にほぼ比例するので、特別な回路を組むことなく、高音と低音のバランスが取れた音が得られた[注 5]

前述の通り記録・再生の特性が超高周波を含むか否かには疑問があるが、さらにカッティングの信号系統には(ON/OFF可能な)イコライザー、リミッターが含まれており、同じ音源のレコードとCDにさらなる音質の差を生じさせる原因となる。特に古い時代の音源がCD化(デジタルリマスタリング)される際、マスターの録音状態や劣化といった理由でノイズリダクションなどが施され、ここでも当時のレコードとの音質の差が生じている場合もある。

アナログレコードはプチプチと言う雑音などに味があると言われているが、記録特性の問題ではなく静電気や埃の処理などが原因である。そのため、適切に再生されればその様な音は混入しない。

他の類似媒体との比較

物理的凹凸、磁気、光学
カセットオープンリールなどのオーディオテープが磁気媒体であるのに対し、レコードの基本設計(前提)は物理的な凹凸を利用した媒体である(レーザを利用して凹凸をピックアップするレーザーターンテーブルもある)。また、コンパクトディスク (CD) は光学的な記録媒体である。
製造
テープ状の記録媒体はプレスによる製造ができないが、レコードはCDと同様プレスによる大量生産が可能である。
ピックアップ
レコードは針と盤との接触、それによって生み出される振動を利用した再生システムであるのに対し、CDなどはレーザー光の反射を利用した非接触の再生システムになっている。
音量による歪み
音の質を左右する要素はCDなどのデジタル再生では小さい音量ほど歪みが増えるのに対し、テープやレコードでは音量が大きいほど歪みが増える点。これも同じマスターテープでCDとレコードを生産しても同じ音にならない原因である。ステレオ再生ではクロストークの発生が避けられない問題もある。左右幅が縮まることでやはり音の鋭さや奥行きの再現が不鮮明になりやすい上、各カートリッジごとにクロストークに違いがある。
外周と内周の歪みの差
レコードはテープやCDと異なり盤の外周に対し内周で歪みが増えるという特有の欠点がある。正しく調整されたリニアトラッキング・プレイヤーを用いれば問題は無いが、ピックアップ部が弧を描いて動作する通常のトーンアームではインサイドフォースやオーバーハングずれの影響を解消する事は容易ではない。
外周と内周の帯域差
レコードは角速度(回転数)が一定であり、内側に行くほど線速度が遅くなっていく。そのため、内側に録音された音ほど高周波特性が悪く(帯域が狭く)なっていくという特徴がある。この問題はレコードの回転数を上げることである程度は回避は可能であるが、諸々の条件から必然的に限界が存在する。

その他

  • 音楽が販売される媒体として、レコードは長い間、非常にポピュラーだった。このため、レコードがCDにとって代わられた現在でも、音楽を録音したものを制作・販売する会社は「レコード会社」と呼ばれる(世界的に見ても "〜Records" 表記のレコード会社が多い)。CDなどを販売する小売店が「レコード店」と呼ばれることも多い。著作権法でも「レコード」は第2条第5号にて「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう」と定義されており、ミュージックテープやCD、電子的な配信音源も同法では「レコード」である。
  • フランス人はレコードの発明者を自国のシャルル・クロであるとしており、彼の名を記念したACCディスク大賞がある (ACC : Academy de Charles Cros)。
  • 元々多くのレコード盤には帯電防止剤が添加されているが、かつては盤の材料に帯電防止剤を大量に添加する東芝音楽工業(現 : ユニバーサル ミュージック合同会社)のようなメーカーも存在していた。日本ビクターでは「スーパーレコード」、東芝では「エバー・クリーン・レコード」と称し、東芝では区別のため赤い半透明の盤(赤盤)にしていた。しかし経年劣化によりこの添加物が化学変化を起こすためか、久しぶりに聴いたら音が歪んでいたという指摘もなされている。概して日本盤は添加剤のせいでノイズや静電気は少ないが、盤も音も柔らかく寿命が短いとされる。
  • 可変ピッチ記録のLPレコードは溝の疎密から音の大小が推定できるため、慣れると長い曲の聴きたいところを簡単に頭出しすることもできた。
  • 実用性には乏しいが、一枚のレコードの片面に複数の音溝をきざむこともでき、再生してみるまで、そのどれをトレースするかわからない、という趣向のレコードを作れた(実際に、そのランダムさを利用した競馬ゲーム(「スーパーレコードゲーム競馬」「スーパーレコードゲーム実名競馬」)や占い(「ルネ・ヴァン・ダールの星占い/愛の予感」)のレコードが作られた)。また、1994年テクノDJのジェフ・ミルズが、盤面にループしている8本の音溝が刻まれており、再生すると4小節のリズムトラック8種類が無限に繰り返されるというクラブDJ向けの12インチシングルを発表している。
  • レコード盤の溝は一般には音質の良い外側から刻まれるのに対し、反対の内側から録音再生していく方式を採っていた用途もあり、円盤式トーキーのためのレコードや、テープレコーダの普及以前に放送局などで広く用いられた円盤録音機に多く見られる。なお、通常のレコード盤の変わり種としても、実際にジョークのレコードとして販売された例がある。TACETが2012年に発売したLP「oreloB」は、モーリス・ラヴェルボレロを内側から再生するように収録されるなど、より良好な音質を得るためにこのような音溝が彫られることがある。逆に、後のコンパクトディスクにおいては、ディスクの内側から再生する方式が標準とされることになる。
  • 食べられる材質で製造された「食べられるレコード」も存在する。
    • 1924年神戸煎餅レコードが販売されていた。タイヘイレコード設立者の森垣二郎が作ったものとされ、童謡が収録されていた。これを見た落語家初代桂春団治1925年に、今度は大阪市の住吉区にあった「ニットーレコード(日東蓄音機)」の協力のもと、やはり煎餅レコードを作った。湿気ない様に缶にパッケージされていた。春団治のレコードの価格は8枚入りの1缶が1円50銭、10枚入りの1缶が1円95銭だった[19][20]1926年1月に天理教の大祭の人出の多さを当て込んで売り出されたが、値段の高さや、あいにくの雨で煎餅の多くが湿気ったことなどでほとんど売れず、春団治は大損した。落語やコントなどが収録され、「聴き飽きたら食べる」というコンセプトだった。
    • 2012年には、ブレイクボットのアルバム『バイ・ユア・サイド (By Your Side)』の、本物のチョコレートで作られたレコードを限定120枚で発売した。同じ年、Rakeの「フタリヒトツ」を収録したチョコレート製レコード「ChocoRake」が製造された[21]2013年にはクロアチアのロック歌手ジボンニ (Gibonni) のシングル「20th Century Man」のチョコレート製レコードが限定で発売された。
  • 玩具メーカーのバンダイが、2004年に『8盤(エイトばん)』と称する直径8cm、厚さ約2mmの片面で約4分再生可能なレコード(33 1/3回転)と、1960-70年代各メーカーが市場に投入していたポータブル電蓄を模した小型の専用プレイヤーを開発して販売していた。交換針は汎用のT4Pのものが採用された。そのため普通のポータブル電蓄でもピッチコントロール付きだと自己責任ではあるが再生可能であった。当時、レトロ商品のヒットが相次いでおり、バンダイ自身もガシャポンフィギュアの「ぼくの小学校」シリーズをヒットさせていた事などから、新たな昭和ノスタルジー商品として企画された[22]。レコードは1950年代 - 1980年代のアイドル歌謡曲洋楽や子供番組の主題歌を、オリジナルのまま復刻・縮小したもので、おニャン子クラブ(「おニャン子クラブ シングルメモリーズPart1」)・チェッカーズ(「チェッカーズ ディスコグラフィー」)・『ひらけ!ポンキッキ』(「ひらけ!ポンキッキヒットパレード」)・1950年代 - 1960年代の洋楽ポップス(「OLDIES THE BEST」)のシングル、朝日ソノラマのソノシート(「朝日ソノラマセレクションPart1」)の復刻が発売された。しかし、片面盤のためカップリング曲は未収録で、しかもパッケージを開けるまで、何が入っているか全く分からない仕様で人気は出ず、商業的には失敗に終わった。音質はソノシート並み、ステレオで記録されていたが、専用プレイヤーは結局モノラルの機種しか出なかった。イベントなどで展示してあったこの玩具を、レコードのかけ方を知らない若者が内周から針を落とす、という光景も見られたという。
  • 東洋化成が2019年3月から展開している3インチレコードは、先述の8盤そのものである。改めて発売されたプレイヤーはCrosley製でオーディオテクニカ製のカートリッジが搭載されている。
  • 高田渡のシングル盤「大・ダイジェスト版三億円強奪事件の唄」は17cmのいわゆるドーナツ盤だが、スタジオ録音のA面は45 rpm、ライブ録音のB面は33 1/3 rpmと言う様にA面とB面で回転数が異なる。この様な変則7インチシングル盤が少なからずある。
  • SPレコード盤は、太平洋戦争期を中心とした戦時期に、画鋲などの日用品を製造するための代用材料として利用されていたことが知られている[23][24]
  • CD時代の現在においてもレコードの雰囲気を出すためにレコード針がレコードの溝をトレースする際に出るノイズを意図的に挿入した楽曲が製作される。ただ、ブックレットには意図的にレコードノイズを入れた事を記してあらゆる誤解に対処している。

注釈

  1. ^ 「音楽では低音が大音量のため高音が雑音に埋もれないよう高いほうを強めている」といった説明がなされることもあるが、一般に低音楽器が大振幅であるのは事実としても、本質的な理由ではない。
  2. ^ 針先の位置変化でコイルを貫く磁界を変化させ、ファラデーの電磁誘導の法則により出力を得る方式。この法則では起電力(電圧)は磁界の変化の割合に比例するので、針先が早く動くほど出力電圧は大きい。
  3. ^ 高い音では振動するものが低い音より速く動いている。レコード溝の振幅が同一であっても、針先の振動は音が高いほど激しい。つまり針先の速度は音が高くなるほど大きくなる。
  4. ^ 物質に加えられた力を電圧に変換する圧電効果を利用している。得られる電圧は力の大きさに依存し、その周波数つまり変化の速さとは基本的に無関係である。
  5. ^ 変換に使用する物質(圧電素子)に加わる力は、針先の変位にほぼ比例する構造となっている。ゆえに出力電圧は溝の振幅の変位に比例し、録音された音の大きさが同じなら、周波数とは殆んど無関係である。なお素子のインピーダンスが容量性で、内部抵抗は周波数と共に小さくなることも与っている。

出典

  1. ^ レコードはどうやって音を出しているの?原理を簡単に解説! |” (日本語). www.science-kido.com (2018年1月25日). 2021年11月4日閲覧。
  2. ^ a b c d e 日本放送協会. “アナログレコード “世界的な人気” 生産現場はフル稼働”. NHKニュース. 2021年11月4日閲覧。
  3. ^ DJやレコード通がよく使う言葉「ヴァイナル」ってどんな意味?”. snaccmedia.com (2018年11月10日). 2021年6月14日閲覧。
  4. ^ その儀式性と触れる喜びを侮るなかれ。ヴァイナルはかくしてデジタル時代にも生き続ける”. wired.jp (2019年5月11日). 2021年6月14日閲覧。
  5. ^ 出品10万枚 音楽の宝探し 金沢駅で「秋の音盤祭」:北陸中日新聞Web” (日本語). 中日新聞Web. 2021年11月4日閲覧。
  6. ^ 会えなくても「推し活」、ホテルの部屋でライブ映像鑑賞…ミラーボールで盛り上げ : 経済 : ニュース” (日本語). 読売新聞オンライン (2021年10月27日). 2021年11月4日閲覧。
  7. ^ a b ピエール・ジロトー 『レコードのできるまで』白水社、1970年9月10日。 
  8. ^ “瓦版”に引っ掛けた洒落。アナログレコードの音楽を手軽にデジタル録音できるプレーヤー - 日経BP セカンドステージ
  9. ^ 2億1800万ドル -なぜ今? アナログレコード大ブームの理由
  10. ^ アナログレコード人気再燃 ソニーが29年ぶり自社生産 2タイトルを21日発売 産経新聞 2018年3月17日
  11. ^ アナログレコード国内生産が16年ぶり100万枚越え。音楽ソフト全体は微減 - CNN
  12. ^ レコードの売り上げ、CDを抜く 1980年代以降で初めて - AV Watch
  13. ^ 100% Pure LP ユニバーサルミュージックジャパン
  14. ^ 超高音質LP 「100% PureLP」 12月発売! ユニバーサルミュージック公式リリース 2012年10月2日
  15. ^ A Short History of Twentieth-Century Technology
  16. ^ オーディオ50年史 4章1節
  17. ^ “100kHzまで対応のレコード「HD Vinyl」'19年発売へ。開発社CEOに聞くその可能性”. PHILE WEB. https://www.phileweb.com/news/audio/201804/17/19668.html 2018年4月17日閲覧。 
  18. ^ 菅野沖彦「私のアナログ感覚」季刊analog、17号・18号
  19. ^ その15「食べるレコード」、金沢蓄音器館、2010年6月。
  20. ^ 9月20日(木)おもしろ神戸ひょうご楽、三上公也の“G”報アサイチ!、2012年9月20日。
  21. ^ Rake、チョコで作ったレコード“ChocoRake”製作大成功、BARKS音楽ニュース、2012年2月15日 12:19:49。
  22. ^ 「8盤レコード」シリーズを2004年2月中旬に発売、バンダイ、2003年9月1日。
  23. ^ 木村源知「戦時期における金属代用品の多様性と変遷―画鋲に着目した事例研究―」『生活学論叢』Vol. 28, 1-15, 2016.3.31. 
  24. ^ 木村源知「戦時期における代用材料としてのレコード盤―画鋲の実物資料を用いた実証的研究―」『道具学論集』Vol. 24, 14-26, 2019.3.31. 






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