真鍮
真鍮とは、亜鉛と銅を混ぜて作られる合金のことである。とりわけ、亜鉛が20%以上含まれている銅合金を指す。亜鉛35%+銅65%の配分が一般的。黄色を呈する場合が多く、「黄銅」とも呼ばれる。五円硬貨(五円玉)の原料。英語では brass(ブラス)という。
「真鍮」と「黄銅」は同じ物質の異称である。真鍮は慣用名として使われやすく、学術的には黄銅と呼ばれることが多い。
亜鉛と銅の合金は、亜鉛の含有率の多寡によって特性が変化する。亜鉛の含有率が5~20%未満のものを「丹銅」、20%以上のものを「黄銅」および「真鍮」、30%のものは特に「七三黄銅」、40%のものを特に「六四黄銅」という。
銅合金は成分の割合や熱の加減によって色や硬さが変わるという性質を持つ。亜鉛の含有率が低い場合は赤味の強い色となり、柔らかい物質となる。亜鉛の含油率が高い場合は金色に近づくと共に硬くなる。
真鍮は電気や熱が伝導しやすく、曲げる、伸ばす、削る、といった加工が比較的容易である。切削性にも優れる。また、硬度の変化にも柔軟であり、高い硬度を持つ真鍮を作ることが可能で、製品の仕上がりは頑丈。しかも美しい。原材料となる亜鉛と銅が比較的安易に入手できる。さらに真鍮は磁性が弱いため、廃棄後は磁石を使った選別が容易、すなわち再利用しやすい。
真鍮は金属であるため酸化する性質を持っている。防錆処理されていない状態で空気に触れ続けると徐々にサビに侵食される。防錆されていない真鍮製品は、裸で保管せず袋などにしまう、湿気の高い場所や水の近くに放置しない、といった点に注意を払うことで発錆をいくらか抑えることが期待できる。
真鍮製品の手入れの方法としては、できるだけ空気に触れないように管理しつつ、専用の液体などで磨き上げるといった方法が挙げられる。サビが付いても落とすことは可能である。
真鍮は金属であるため、人によっては金属アレルギーを引き起こすことがある。真鍮はアレルギーを引き起こす可能性は低い金属だが、汗、または皮脂を放置することによってアレルギーの原因となる物質が溶け出す。メッキ加工やコーティング剤の使用でアレルギーを回避できる可能性はあるが、必ず回避できるとまでは言えない。アレルギーが重度の場合は真鍮から離れる方が無難である。
真鍮は、工業製品の原料として優れた性質をもつと共に、金色に近い色と輝きを放つ美しさも備えており、高級感を演出する素材としても多用される。金を代用する製品として扱われていた時代もある。
真鍮の代表的な用途の例として、トランペットをはじめとする金管楽器の素材が挙げられる。英語では金管楽器を brass instrument(ブラスインストゥルメント)といい、金管楽器を主体とする吹奏楽団を brass band(ブラスバンド)という。
真鍮は光沢が美しく、敢えて磨き上げなければ経年変化して落ち着いた色味に変化してゆく。表札として使われることも多い。仏具にも金属製の花立・りん・仏飯器などには真鍮が用いられることが多い。アクセサリー類の材料としての需要も高い。
しん‐ちゅう〔‐チウ〕【真×鍮】
真鍮
真鍮(しんちゅう)
真鍮
黄銅
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黄銅(おうどう[1]、英語: brass)は、銅と亜鉛の合金で、特に亜鉛が20%以上のものをいう。真鍮(しんちゅう)[1]とも呼ばれる。
歴史
青銅と並ぶ重要な銅合金で、先史時代から使用されていた[2]。初期は、亜鉛が豊富に含まれる銅鉱石を精錬して自然に得ていたと考えられる[3]。考古学では、紀元前3千年紀には、西アジアや地中海東岸地域でごく少数の痕跡が確認されている[4]。また、紀元前5世紀の中国で真鍮の痕跡がある[5]。紀元前後の古代ローマ人は銅鉱と亜鉛鉱を混ぜて精製して使用していた。
しかし製造時に使う亜鉛蒸気が金属として認識されていなかったため、銅亜鉛合金としての真の性質は中世後期まで理解されていなかった[6]。両単体金属を溶かし合わせて作るようになったのは、16世紀に亜鉛金属が発見されてからである[7]。
製法は、ローマ時代までにはセメント化プロセスを使用したカラミンブラスが開発され、19世紀半ばまで類似手法で製造された[8]。その後、16世紀にヨーロッパに導入されたスペルター法に置き換えられた[3]。
なお、古代ローマではドゥポンディウスやセステルティウスなどの貨幣に使用されていた。
物性

配合の比によって外見が変化し、亜鉛の量が増えるに従い銅赤色→黄金色→帯赤銀白色となり、機械的性質も変わるが一般的に引っ張り強さ・硬さ・延びともに良好で加工しやすく比較的安価なため、機械器具や日用品に極めて広い用途を持つ。また、鉛・錫・ニッケルなどを加えると特別な性質を持つので、用途に応じて特殊黄銅(鉛入黄銅・ネーバル黄銅・高力黄銅など)として製作される[7]。
亜鉛のみとの合金では亜鉛の割合が増すごとに硬度を増すが、同時に脆さも増すため、亜鉛45%以上では実用に耐えない。最も一般的な黄銅は、銅65%、亜鉛35%のものである。また、銅と亜鉛の割合によって物性が変化する。JISでは銅合金として扱われ、材料記号は頭文字Cで始まる4桁記号で表される。下記に例を示す。
- C2600:七三黄銅(銅が約70%、亜鉛が約30%) イエローブラスとも言う。
- C2801:六四黄銅(銅が約60%、亜鉛が約40%) 黄金色に近い黄色を示す。
- C3604:快削黄銅(銅が57.0-61.0%、鉛が1.8-3.7%、鉄が0.50%以下、鉄+錫が1.0%以下、亜鉛は残部) 被削性を高めるために鉛を添加している。
- C3771:鍛造用黄銅(銅が57.0-61.0%、鉛が1.0-2.5%、鉄+錫が1.0%以下、亜鉛は残部)
- C4600台:ネーバル(naval)黄銅(海軍黄銅とも言う) 錫(すず)を添加し耐海水性を高めたもの。
- CAC201:黄銅鋳物1種
いずれの黄銅も展延性に優れており、よく冷間加工で使用される。適度な硬さと過度ではない展延性によって、旋盤やフライス盤などによる切削加工が容易でなおかつ価格もほどほどなので、微細な切削加工を要求される金属部品の材料としての使用頻度が高い[注釈 1]。
特徴
黄銅の比較的低い融点(組成に応じて900〜940°C、1,650〜1,720°F)とその流動特性により、黄銅は青銅や亜鉛などより簡単に鋳造可能である。
鉄鋼材に比べ錆びにくく水気にも強いので、クロームめっきやステンレス材の普及以前は食器、調理器具、水回り配管、建具等にも多用された。
物に当たっても火花が出ないため、火気厳禁の場所での工具に利用された。
- リサイクル性
- 2002年の本によると90%回収されており、強磁性ではないため磁石によって容易に選別可能である[9]。
用途
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前記の特性ゆえに、身近なところでは切削加工を多用する鍵や錠前、時計部品。他には紙幣の印刷機などの精密機械や理化学器械類、蛇口などの水道設備、弾薬の薬莢や金属模型などに広く使用されている。
エッチングして模型に使用される場合もあるほか、市販されている金色の塗料の多くには黄銅の微粉末が使われている。ただし、塗料については、経年により黒く変色し輝きを失うことがあり、ラテックス類・生ゴムに塗ると黄銅の成分(銅と亜鉛)によりゴムを分解腐食させてしまう欠点がある。
金に似た美しい黄色の光沢を放つことから金の代用品にもされ、poorman's gold(貧者の金)と呼ばれる。ただし錆に絶対的耐性をもつ純金と違い、黄銅は表面にくすみを生じるので、銀食器と同様に磨いたり、透明ラッカーでコーティング処理する対策を要する。
日本
日本では仏具、多くの金管楽器(別名であるブラス(brass)は黄銅の英名に由来している)などに多用されている。日本の時代劇において小道具として使われる偽の小判も真鍮製のものが多い。
日本では、12世紀の平安時代には、金の代用品として使われ始め、写経に大量に使われた。これは奈良大学の東野治之らの調査によって判明した(2014年4月21日)[10][11][12]。なお亜鉛は比較的、低温で蒸発してしまうため、精錬が難しく、それまでの通説では、日本での黄銅の製法の普及は江戸時代になってからとされた[11]。
寛永通宝にも真鍮製のものがあり、これは一文銭よりやや大型で裏面に波の模様があり、四文に通用した。
また、1948年から現在に至るまで、日本で発行されている五円硬貨(品位は銅60%-70%、亜鉛40%-30%)の素材としても使われている。日本の貨幣素材としてのこの組成は、戦争に使用した薬莢や弾帯その他の兵器のスクラップを材料に用いたのが起源で、五円硬貨に使われる以前は、終戦直後の五十銭硬貨(大小2種あり)に使われ、また1948年の五円硬貨と同時に発行が開始された一円硬貨にも使われていた。また戦前にも日本で1938年の烏一銭黄銅貨が発行されたこともあったが、これは「黄銅貨」と称しても組成が戦後の黄銅貨と異なり、この硬貨の品位は銅90%、亜鉛10%で、トムバック黄銅と呼ばれる組成である。その一銭・五十銭および一円の黄銅貨はいずれも現在通用停止となっている。
文化
英語の慣用句で、組織のトップを top brass、高級将校を brass hat と言う。また「真鍮色の」という意味の brazen は、「恥知らず、図々しい」という意味をもつ。
- アンモニアによる腐食
- イギリス領インド帝国のイギリス軍内部で、夏場に厩舎に保管されていた弾薬の薬莢がクラックしていたのが発見された。調査の結果、夏場の熱さで厩舎内のアンモニアが蒸発し、それによって弾薬に使用される真鍮を腐食させたと判明した。この現象は、特定の季節に発生したことから、シーズンクラッキングと呼ばれる。
- プレート
- 教会に寄進されるプレート(モニュメンタル・ブラス)に使用された。13-16世紀のイギリスで、プレートに彫られた文字や絵画をプレートの上に紙を置き、炭で擦って複写する技法である乾拓することが流行り、ブラスラビング(直訳すると黄銅擦り)と呼ばれた。
脚注
注釈
- ^ 金属の切削加工材としては、金や純銅などの軟らかい金属は展延性がありすぎて粘りが強く、硬い金属は削りにくく割れやすくどちらも微細な切削加工はしにくい。
出典
- ^ a b 『黄銅』 - コトバンク
- ^ Thornton, C. P. (2007) "Of brass and bronze in prehistoric southwest Asia" in La Niece, S. Hook, D. and Craddock, P.T. (eds.) Metals and mines: Studies in archaeometallurgy London: Archetype Publications. ISBN 1-904982-19-0
- ^ a b Craddock, P.T. and Eckstein, K (2003) "Production of Brass in Antiquity by Direct Reduction" in Craddock, P.T. and Lang, J. (eds) Mining and Metal Production Through the Ages London: British Museum pp. 226–7
- ^ Thornton 2007, pp. 189–201
- ^ Zhou Weirong (2001). “The Emergence and Development of Brass Smelting Techniques in China”. Bulletin of the Metals Museum of the Japan Institute of Metals 34: 87–98. オリジナルの2012-01-25時点におけるアーカイブ。 .
- ^ de Ruette, M. (1995) "From Contrefei and Speauter to Zinc: The development of the understanding of the nature of zinc and brass in Post Medieval Europe" in Hook, D.R. and Gaimster, D.R.M (eds) Trade and Discovery: The Scientific Study of Artefacts from Post Medieval Europe and Beyond London: British Museum Occasional Papers 109
- ^ a b 小学館編『世界原色百科事典 1 あ-おそ』小学館、昭和41年、p.565「黄銅」
- ^ Rehren and Martinon Torres 2008, pp. 170–5
- ^ M. F. Ashby; Kara Johnson (2002). Materials and design: the art and science of material selection in product design. Butterworth-Heinemann. pp. 223–. ISBN 978-0-7506-5554-5 12 May 2011閲覧。
- ^ “平安期の金字経から真ちゅう 制作者、費用ごまかす?”. 日本経済新聞. (2014年4月21日) 2014年4月21日閲覧。
- ^ a b “平安の金字経に黄銅 利ざや稼ぐ? 発色のため?”. 東京新聞. (2014年4月22日). オリジナルの2014年4月22日時点におけるアーカイブ。 2016年10月7日閲覧。
- ^ “真鍮合金、平安期に - 定説覆す発見/奈良大が分析”. 奈良新聞. (2014年4月22日) 2014年4月29日閲覧。
参考文献
- 門間改三『機械材料』SI単位版,実教,1993年,ISBN 978-4-407-02328-2
関連項目
- 丹銅(たんどう):亜鉛が5 - 20%未満、赤みが強い。ゴールドブラスとも言う。
- 洋白(銅と亜鉛とニッケルの合金)
- 青銅(銅と錫の合金)
- 砲金(銅と錫の合金)
- 白銅(銅とニッケルの合金)
- 赤銅(銅と金の合金)
- セバ屑(銅含有量が65%、亜鉛含有量が35%位の板の新くず)
- コーペル屑(銅含有量が60%、亜鉛含有量が40%位の板の新くず)
- 脱亜鉛腐食
外部リンク
真鍮(外向き、押し)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/12/08 04:27 UTC 版)
「ミストボーン」の記事における「真鍮(外向き、押し)」の解説
相手の感情をなだめる。真鍮を燃やす者は「なだめ屋」と呼ばれる
※この「真鍮(外向き、押し)」の解説は、「ミストボーン」の解説の一部です。
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真鍮
「真鍮」の例文・使い方・用例・文例
- 私は古い真鍮のティーポットが好きです。
- 金は色が真鍮と似ている。
- 真鍮細工
- 真鍮細工師
- 真鍮音楽隊
- 真鍮磨き粉
- 真鍮の装飾または付属品を持つさま
- 祭壇の上の輝いている真鍮
- 建設業界において、そのような商人は、『真鍮銘板』商人として記述されている
- 真鍮色の塗られた顔
- 磨かれた真鍮のノッカー
- 音が鳴っている真鍮と鈴の音のシンバル
- 2番目に低い真鍮楽器
- 古代の真鍮銃
- 真鍮製の記念碑
- 真鍮でできた装飾品または家庭用具
- (色または硬度などが)真鍮で作られた、または、真鍮に似ている
- 真鍮が埋め込まれたお椀
- 凹面の真鍮ディスクから成る打楽器
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