シミュレーション 模型などによるシミュレーション

シミュレーション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/04/03 06:10 UTC 版)

模型などによるシミュレーション

木製の馬を用いたシミュレーション訓練。(第一次世界大戦当時)

ミニチュアによる実験など、何らかの物理的な物体で実物を置き換えることもシミュレーションの一種である。これを「物理的シミュレーション」と言うこともある。置換する物体としては、実物よりも小さいものや安価なものが選ばれる。

「物理的シミュレーション」とは、何らかの物理的な物体で実物を置き換えることを指す。置換する物体としては、実物よりも小さいものや安価なものが選ばれる。

コンピュータとシミュレーション

[5]

コンピュータ・シミュレーション

コンピュータ・シミュレーションには、一旦シミュレーションが始まるとあとはコンピュータだけで完結してシミュレーションを行う「非対話型シミュレーション」と、シミュレーション中に人間がなんらかの形で(コンピュータ内に模擬的に作られた世界に)介入し影響を与えることのできる「対話型シミュレーション」がある(その応用形のひとつの形が、フライトシミュレータやドライビングシミュレータなどである)。

コンピュータ・シミュレーションは、実世界や何らかの仮説的状況をコンピュータ上でモデル化するもので、それによってそのシステムがどのように作用するのかを研究することができる。変数を変化させることで、システムの振る舞いについて予測を立てることができる。

コンピュータ・シミュレーションの応用として、コンピュータを使ってコンピュータをシミュレートするというものがある。エミュレータ命令セットシミュレータなどがあり、仮想化仮想機械の項目も参照のこと。コンピュータ科学的にも興味深いテーマである(#計算理論などを参照)。

コンピュータ・シミュレーションは、物理学/化学/生物学における様々な自然科学的システムのモデル化、経済学/社会科学における人間に関わるシステムのモデル化、さらには工学におけるシステムのモデル化において、それらシステムの作用について洞察を得る助けとなる。シミュレーションにコンピュータを使うことの利便性を表す例として、ネットワーク交通量シミュレーションがある。このようなシミュレーションにおいては、その環境についての初期設定を変更するとモデルの振る舞いが変化する。

古来、システムの形式的モデル化には解析学が用いられ、代数的に解を求めることで、あるパラメータと初期条件におけるシステムの振る舞いを予測することがおこなわれてきた。これに対し、数値を具体的に計算することによる手法を数値解析という。コンピュータ・シミュレーションは、コンピュータを使わないことには計算量的に現実的でない数値解析をコンピュータによっておこなう「コンピュータによる数値解析」の一種でシミュレーションによるもの、とみることもでき、代数的な解法や単純な計算では不可能な場合の補助あるいは置換として使われることが多い。コンピュータ・シミュレーションには様々なタイプがあるが、それらに共通するのは、システムが取りうる全ての状態を列挙するのが不可能あるいは現実的でない場合に、そのモデルの代表的シナリオの標本を生成しようとするという点である。

モンテカルロ法確率論的モデリングによるコンピュータ・シミュレーションは、モデル化が非常に簡単という特徴がある。

計算理論など

コンピュータに関係するシミュレーションであるが、前の節で説明しているものとはおもむきが大きくことなるものなので、節を分けて説明する。計算理論では、たとえば万能チューリングマシン(のような、模倣する能力を持つ機械)が、模倣対象(たとえば、なんらかのチューリングマシン)の状態遷移と入力と出力を記述した状態遷移表[6]を実行すること(現代風に言うと、コンピュータがそのようなプログラムを走らすこと)を、シミュレーションと言う。これは、状態遷移系間の関係といった、意味論の研究などで使われている。

少し理論的でないが、興味深いコンピュータ・シミュレーションの応用は、コンピュータを使ったコンピュータのシミュレートである。コンピュータ・アーキテクチャでは、一般にエミュレータと呼ばれるシミュレータを、しばしば実機で走らせるのがめんどう(たとえば、新しく設計されたコンピュータでまだ構築されていないとか、過去のコンピュータで既に存在しないとか)なプログラムを実行するのに使う。また、緊密に制御されたテスト環境でプログラムを実行するのに使う(仮想化も参照のこと)。たとえば、マイクロプログラムやアプリケーションプログラムを、実機に送り込む前にデバッグするのに使う。コンピュータの動作がシミュレートなので、コンピュータの動作の全ての情報をプログラマが直接的に利用でき、速度を変えたりステップ実行したりなど好きなようにできる。一方でいわゆる「ゲートレベル」の完全なエミュレーションは現実的でないことが多く、また普通はそこまで厳密にエミュレーションする必要はないことも多いが、例えばエミュレートしきれない部分の実機にバグがある場合のデバッグはできない。性能が必要な場合は、FPGAなどといったプログラマブルなハードウェアを利用して、エミュレーションないしシミュレーションを行うこともある。

シミュレータを使ってフォルトツリー解析を行うこともある。マイクロプロセッサなどといった高度に複雑なディジタルLSIの論理設計も、実際に製造に入る前にシミュレータでテストされる。シンボリックシミュレーションでは、変数を、未知の値を表すのに使う。

最適化問題の分野では、物理プロセスのシミュレーションが進化的計算と共に使われ、制御戦略の最適化を行う。

コンピュータ・シミュレーションの応用

コンピュータの登場によって、人間の手による計算ではほとんど不可能な膨大な量の総当りでしか行えない計算が比較的短時間で行えるようになったため、コンピュータによるシミュレーションは自然現象や経済活動や人口の推移といったものに使用されるようになった。コンピューターの演算能力の発展は、以前は縮小模型や実物大模型などによって行われていた実験を計算による仮想空間のみで実験・予測することが可能になってきている。

物理学

例えば、木の葉が舞い落ちる動きを通常の手計算で導き出す事は不可能であった。これは重力や空気抵抗だけでなく、木の葉自体の動きによる空気の状態の変化などが複雑に絡み合っているからである。この、カオティックな振る舞いに対して、単純計算を膨大に繰り返す事の出来るコンピュータによって、ある程度の周期性や規則性を見出されうる。

気象学・気象予報

コンピュータによる、台風の48時間の動きのシミュレーション

最近の気象予報には、コンピュータ・シミュレーションは欠かせない。地球という球体上を格子(メッシュ)に区切ったモデルを用いて、スーパーコンピュータを用いてシミュレーションを行っている。コンピュータの性能が向上するにつれて次第に格子の大きさを小さくすることができるようになるとともに、予測精度が向上した。

工学

電子工学

電子工学においては、コンピューター上で回路の設計や実験をするのに、SPICEやSPICEを起源とする電子回路シミュレーション・ソフトウェア等が使われている。電子回路を所定の書式でシミュレーターに入力(GUIによる入力が可能なものも多い)すると、各電子部品の電気的特性を元に回路の動作が計算され、回路の動作を調べることができる。

無線工学

アンテナのシミュレーション

無線工学においては、アンテナの設計をするのにアンテナ・シミュレーション・ソフトウェアが用いられる。アマチュア用途ではMMANAやMMANA-GAL等のフリーソフトがある。アンテナの物理的な形状を入力すると、自由空間や特定の地上高におけるアンテナ上の電圧分布、電流分布、共振周波数、給電点におけるインピーダンス特性、SWR特性などを計算により求めることができる。短縮型アンテナやマルチバンド・アンテナの設計のために、延長コイル、短縮コンデンサ、LCトラップ等を挿入した場合のリアクタンス値を求めることもできる。

電波伝播のシミュレーション

無線工学において、電波伝播(電波の伝わり方)をシミュレーションするのに電波伝播シミュレーション・ソフトウェアが用いられる。VHFUHFのテレビ放送局や中継局のサービスエリアを調べるために、アメリカの研究者 A. G. Longley と P. L. Rice とが1968年にLongley-Rice Modelアルゴリズムを開発・発表した。このアルゴリズムは 20 MHz - 20 GHz の周波数に適用でき、これを基にした電波伝播シミュレーション・ソフトウェアが、日本のいくつかの電気通信コンサルタント会社により開発されている。[7]

シミュレーションするには、ソフトウェアに、大地の導電率比誘電率、大気の屈折率、送信場所や受信場所の標高周波数、電波の偏波面、アンテナの利得や地上高、送信機の出力、受信機の感度などの値を与える。また、シミュレーション対象地域のデジタル地形データ(たとえばNASAのFTPサイト[8]からダウンロードできる)を与える。すると、電波の大気による屈折、地形による反射回折、電波が伝わるうえで受ける減衰等を計算し、電波の届く範囲をシミュレーションする。結果は、数値や、地図上に電波の強さごとにグラフィカルに色分けして示される。[7]

フリーソフトとしてはカナダアマチュア無線家 Roger Coude(VE2DBE)が1988年に開発した Radio Mobile[9] がある。[7]

通信プロトコルのシミュレーション

TCP/IP等の通信プロトコルの分野では日々新しい方式が提案されている。IEEEITU、あるいは日本の電波産業会(ARIB)などで次世代の通信プロトコルの標準規格が議論されるが、このとき各提案者の案として提示されている規格が、さまざまな条件下でどのような特性を持っているのかを比較検討する必要がある。このような局面で通信プロトコルのシミュレーション が必須となっている。2層(データリンク層)以上の通信プロトコルの規格は状態遷移図で記載されることが多いが、記述された状態遷移等の処理、条件をコンピュータ上で疑似し、スループットやエラー処理などの評価を行う。

学術機関で用いられるシミュレータはns[10] 等のオープンソースソフトウェアが多いが、民間企業や民間研究所のような、資金に余裕があり応用に近い研究を行う組織では、大規模トポロジ構築などを容易に行えるツール群が整備され、より迅速に現実に即した解析が可能なQualnet[11][12]、OPNET Modeler[13][14]等の商用のシミュレータを使用するケースが多い。

この分野のシミュレーションでは信号処理の部分をMatLabやSimlink、電波伝搬の部分をWirelessInSight, Winprop, Atoll等の他のシミュレータや計算ソフトと連携させたりする場合もある。また特に無線、移動体の分野では各通信機の動きも重要な要素となるためその部分に関して他のツールや実際の計測値などと連携させる試みもなされている。

Qualnet、OPNET Modeler等の商用ツールでは実際のネットワーク上を流れる通信パケットをシミュレータと接続できるものもあり、仮想のネットワークを利用した時の動画品質も確認などにも使われている。

軍事

軍事分野においては戦闘状況をシミュレートしたモデル研究が行われており、地形、時間、損害率、兵員数、戦闘価値、移動速度、発見率、命中率などの要素から戦闘の推移、両軍の損害などを導き出すことができる。また指揮官制、補給計画立案、戦術研究、海空軍の訓練などでシミュレーションは用いられている。

また、最近の戦争においては情報を伝達するための通信の確保は戦況を左右する重要な要素であるため、部隊展開時に山間部や市街地などにおいても兵員同士が途切れることなく通信できることをシミュレーションするシステム(JCSS:旧称 NetWars)をアメリカ国防情報システム局(DISA)が開発している[15][16]

歴史的には軍事学的な研究に由来の一部を持つオペレーションズ・リサーチでは、数理的なモデル化とコンピュータシミュレーションは両輪をなしており、経済など社会活動の分析に現代では広く活用されていて、今ではむしろ軍事は単にその応用分野のたった一つに過ぎない。

コンピュータ

#コンピュータとシミュレーションの節を参照。


  1. ^ 広辞苑第6版
  2. ^ simulationの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
  3. ^ 語頭の2音を音位転換させてしまい、「シュレーション」という誤表記・誤発音も犯す人も多い 検索条件 全文: シュミレーションJ-STAGE
  4. ^ a b c ブリタニカ百科事典「シミュレーション」
  5. ^ 歴史的には、シミュレーションという用語はいくつかの分野で独自に使われていた[要出典]。しかし、20世紀になって、一般システム理論サイバネティックスの研究により、コンピュータの各種利用をシミュレーションという用語で表すようになり、用語としての意味が統一されていった[要出典]
  6. ^ 英語版のSimulationの記事がこれを「状態遷移表」としている。等価性としては多分それでもいいと思うが普通は、万能チューリングマシンの議論では、状態遷移表は万能機械を記述する遷移表とし、対象機械の記述はテープの初期状態として与える。
  7. ^ a b c 原岡 充「Radio Mobile を使った中山間地域の電波伝搬シミュレーション」、『CQ ham radio』2009年1月号、CQ出版社東京都豊島区、2009年1月、 pp. 84-89。
  8. ^ NASA デジタル地形データダウンロード・サイト (FTP) - NxxEyyy.hgt.zip の xx は北緯、yyy は東経。注意:アクセスが集中していると接続拒否される。
  9. ^ Radio Mobile ダウンロード・サイト
  10. ^ NS3 NSNAM Home Page
  11. ^ QualNet Home Page
  12. ^ 構造計画研究所QualNet Home Page
  13. ^ OPNET Modeler Home Page
  14. ^ 情報工房OPNET Modeler Home Page
  15. ^ JCSS History
  16. ^ JCSS User’s Manual7.0 Final (OPNET 2.6.4)
  17. ^ 普通科部隊戦闘射撃訓練シミュレーター - 陸上自衛隊
  18. ^ http://distrimobs.fisicadellacitta.it





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