ブラウン運動とは? わかりやすく解説

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ブラウン‐うんどう【ブラウン運動】

読み方:ぶらうんうんどう

気体液体中の微粒子不規則な運動周囲熱運動をする分子衝突不均一なために起こる現象で、R=ブラウン水中での花粉運動から発見。のちアインシュタインランジュバンにより理論化された。


ブラウン運動

読み方ぶらうんうんどう
【英】:Brownian motion

概要

次の性質満たす実数連続確率過程 \{B(t)\}_{t\ge0}.
(1) 重ならない区間における \{B(t)\}_{t\ge 0}増分互いに独立.
(2) B(s+t)-B(s)\,平均0, 分散\sigma^2 t\,正規分布にしたがう.
(3) B(0)=0\, かつ B(t)\,t=0\,連続.
拡散係数 \sigma^2=1\, のときを標準ブラウン運動, B_d(t) = \mu\,t + B(t)ドリフトをもつブラウン運動と呼び, \mu\,ドリフト係数と呼ぶ.

詳説

 ランダム・ウォーク (random walk) とその連続化であるブラウン運動は, でたらめな動き表現する最も基本的な確率過程で, 幅広い応用がある.


ランダム・ウォーク \{X_n\}_{n=1}^\infty\, 互いに独立同一分布に従う確率変数の列とするとき,


S_0=s~(定数),  \ \qquad S_n = s + \sum_{i=1}^n X_i    (1)\,


によって定義される確率過程\{S_n\}_{n=0}^\infty\, ランダム・ウォークと呼ぶ. 特に, ある d>0\, およびすべての n\, に対して, \mathrm{P}(X_n=d)=p, \mathrm{P}(X_n=-d)=q=1-p\, であるとき, \{S_n\}_{n=0}^\infty\, は (1次元の) 単純ランダム・ウォークであるといい, さらに p=q=1/2\, のとき, 単純ランダム・ウォーク対称であるという. また, 「壁」によって動き止められたり, 動く範囲制限されるランダム・ウォーク考えることもできる. X_n\, 独立性より, ランダム・ウォークマルコフ過程となる.

 初期値s=0\, ランダム・ウォークにおいて, n\, ステップ後の位置期待値分散は, それぞれ \mathrm{E}(S_n)=n\,\mathrm{E}(X_1)\, , \mathrm{V}(S_n)=n\,\mathrm{V}(X_1)\, となり, 時間の経過比例する. 分散時間の経過比例することから, ランダム・ウォーク時間が経つにつれて次第拡散していくことが分かる.

 d=1\, , 0<p<1\, として得られる単純ランダム・ウォーク \{S_n\}_{n=0}^\infty\, は, 整数状態空間とする周期2の既約マルコフ連鎖である. このマルコフ連鎖p\ne1/2\, のとき一時的であり, p=q=1/2\, ならば再帰的となる. たとえば p>1/2\, ならば S_n\, はだんだん大きくなっていく傾向があり, 正の方へドリフトする. このため出発点に戻ることは保証できなくなり一時的となるのである.

 2次元対称な単純ランダム・ウォーク(2次元格子点空間上の4つ隣接点にそれぞれ確率1/4\, 推移する) は再帰的, 3次元上の単純ランダム・ウォークはすべて一時的であることも知られている [1].


単純ランダム・ウォークからブラウン運動へ \{S_n\}_{n=0}^\infty\, 初期値s=0\, 対称な単純ランダム・ウォークとする. このランダム・ウォークが1ステップ進むのに T\, だけ時間がかかるとして, T\, d\, 同時に0に近づけることを考える. t=n\,T\, に対して, 時刻t\, ランダム・ウォークx\, にいる確率v(x,t)\, と表すと, v(x,t)\, 差分方程式 v(x,t+T) = \{ v(x-d,t) + v(x+d,t) \}/2\, 満たすので,



  \frac{v(x,t+T) - v(x,t)}{T}
  = \frac{1}{2}\ \frac{d^2}{T}\ 
    \frac{v(x+d,t) - 2\,v(x,t) + v(x-d,t)}{d^2}


得られる. d^2/T=\sigma^2\, (定数) を保ったまま T\to0 (d\to0)\, とすれば



  \frac{\partial v(x,t)}{\partial t}
  = \frac{\sigma^2}{2}\ \frac{\partial^2 v(x,t)}{\partial x^2}
    (2)\,


を得る. 式 (2)拡散方程式 (diffusion equation) と呼ばれ, その解は初期条件v(0,0)=1\, , v(x,0)=0 (x\ne0)\, のもとで, 正規分布 N(0,\sigma^2\,t)\, 密度関数となる. より一般的には, 初期値が0の (必ずしも対称でない) 単純ランダム・ウォークにおいて, d^2/T=\sigma^2\, , (p-q)/d=\mu/\sigma^2\, 保ったまま T\to0\, とすると, 時刻t\, での位置正規分布N(\mu\,t,\sigma^2\,t)\, に従う確率過程得られる [1].


ブラウン運動 イギリス植物学者ブラウン (R. Brown) は, 水面に浮く花粉中の微粒子極めて不規則な動きをすることを見いだした. アインシュタイン (A. Einstein) は, この運動拡散方程式 (2) によって特徴づけられることを示し, その後ウィナー (N. Wiener) らによって確率過程としての基盤築かれた. この確率過程ブラウン運動 (Brownian motion) またはウィーナー過程 (Wiener process) と呼ぶ.

 (1次元の) ブラウン運動\{B(t)\}_{t\ge0}\, 次の性質満たす実数確率過程である:

1. 独立増分過程である.
2. 任意の s\, , t>0\, に対して B(s+t)-B(s)\, 正規分布N(0,\sigma^2\,t)\, に従う.
3. B(0)=0\, かつ B(t)\, t=0\, 連続.

1. より, 時刻 s\, 以降\{B(t)\}_{t\ge s}\, 振る舞いs\, までの履歴には依存しないため, ブラウン運動はマルコフ過程である. さらに, ブラウン運動が強マルコフ性を持つこと, 標本路が連続となることも知られている [2].

 \sigma^2\, 拡散係数呼び, 特に \sigma^2=1\, のブラウン運動を標準ブラウン運動と呼ぶ. また, B_d(t) = \mu\,t + B(t)\, によって定まる \{B_d(t)\}_{t\ge0}\, ドリフトを持つブラウン運動と呼び, \mu\, ドリフト係数と呼ぶ.


鏡像原理 ドリフトのないブラウン運動 \{B(t)\}_{t\ge0}\, に対して \tau_a\, \{B(t)\}_{t\ge0}\, 初めa\, を横切る時刻とすると, \tau_a\, 停止時 (stopping time) となる. t\ge\tau_a\, において \{B(t)\}_{t\ge\tau_a}\, a\, に関して対称標本路を持つ確率過程\{\bar{B}(t)\}_{t\ge0}\,



  \bar{B}(t) = \left\{\begin{array}{ll}
                 B(t),       &\quad t<\tau_a, \\
                 2\,a - B(t), &\quad t\ge\tau_a,
               \end{array}\right.


定める. \{B(t)\}_{t\ge0}\, 強マルコフ性を持つことと, \{B(t)\}\, \{\bar{B}(t)\}\, 対称性から, \{B(t)\}\, \{\bar{B}(t)\}\, は同じ確率法則に従うことがわかる. 一般にこのような性質鏡像原理 (reflection principle) と呼び, 初到達時間分布など求める際に利用される.


拡散過程 ドリフト係数拡散係数位置x\, 時刻t\, 依存した\mu(x,t)\, , \sigma^2(x,t)\, をとるように一般化し得られる確率過程\{D(t)\}_{t\ge0}\, 拡散過程 (diffusion process) と呼び, \mu(x,t)\, \sigma^2(x,t)\, を, それぞれドリフト関数, 拡散関数と呼ぶ. 拡散過程強マルコフ性持ち, その標本路は連続である. 逆に, 連続標本路を持つマルコフ過程拡散過程となることが知られている.

 ブラウン運動や拡散過程標本路は, 連続であるがいたるところ微分不可能という性質持っている. このため拡散過程解析においては, 確率積分確率微分方程式といった通常の微分積分とは異な概念が必要となる [3, 4].



参考文献

[1] W. Feller, An Introduction to Probability Theory and Its Applications, Volume 1, 2nd Ed., John Wiley & Sons, 1957. 河田龍夫監訳, 『確率論とその応用 I』, 紀伊国屋書店, 1960 (上巻), 1961 (下巻).

[2] K. Itô and H. P. McKean, Diffusion Processes and Their Sample Paths, Second Printing, Springer-Verlag, 1996.

[3] 木島正明, 『ファイナンス工学入門 第I部 ランダムウォークとブラウン運動』, 日科技連, 1994.

[4] 渡辺信三, 『確率微分方程式』, 産業図書, 1975.


ブラウン運動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/23 09:12 UTC 版)

2次元でのブラウン運動の1000ステップ分のシミュレーションの例。運動の起点は (0, 0) である。各ステップの x 成分と y 成分は独立で、分散は2で平均は0の正規分布に従う。数学的なモデルでは、ステップは不連続ではないと仮定している。
ブラウン運動のシミュレーション。黒色の媒質粒子の衝突により、黄色の微粒子が不規則に運動している。

物理学における ブラウン運動 ブラウンうんどう: Brownian motion)は浮遊する微粒子が不規則に運動する現象である。

概要

物理学におけるブラウン運動は、液体や気体中に浮遊する微粒子(例:コロイド)が、不規則(ランダム)に運動する現象である。1827年[注 1]ロバート・ブラウンが、水の浸透圧で破裂した花粉から水中に流出し浮遊した微粒子を、顕微鏡下で観察中に発見し[2]、論文「植物の花粉に含まれている微粒子について」で発表した[3]

この現象は長い間原因が不明のままであったが、1905年アインシュタインにより、熱運動する媒質の分子の不規則な衝突によって引き起こされているという論文が発表された[4]。この論文により当時不確かだった原子および分子の存在が、実験的に証明出来る可能性が示された。後にこれは実験的に検証され、原子や分子が確かに実在することが確認された[5]。同じころ、グラスゴーの物理学者ウィリアム・サザーランド英語版が1905年にアインシュタインと同じ式に到達し[6][7]ポーランドの物理学者マリアン・スモルコフスキー英語版1906年に彼自身によるブラウン運動の理論を発表した[8]

数学のモデルとしては、フランス人ルイ・バシュリエは、株価変動の確率モデルとして1900年パリ大学に「投機の理論」と題する博士論文を提出した[9]。今に言う、ランダムウォークのモデルで、ブラウン運動がそうである、という重要な論文であるが、当時のフランスの有力数学者たちに理解されず、出版は大幅に遅れた。

ブラウン運動という言葉はかなり広い意味で使用されることもあり、類似した現象として、電気回路における熱雑音[10][11]ランジュバン方程式)や、希薄な気体中に置かれた、微小な鏡の不規則な振動(気体分子による)などもブラウン運動の範疇として説明される。

アボガドロ定数との関係

ブラウン運動について以下の式が成り立っている。

この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。2023年2月

水中で浸透圧により破裂した花粉から流出した微粒子ではなく、花粉そのものがブラウン運動すると間違われることがある。一般書などに限らず、高名な学者や学術書や教科書にも見られた。最近でもマスコミの記事や、インターネット上の検索サイトで検索すると大学のウェブ上のアインシュタインの業績説明は誤ったままの説明になっていることが多い。

アインシュタインの論文

1905年のアインシュタインの論文[4]によって、ブラウン運動は原子の存在を明白に証拠付ける事実となった。その内容を要約すると以下のようになる[1]

  1. 微粒子が時刻 t に位置 x にいる確率密度 ρ(x, t) は次の拡散方程式を満たす
    (RTF)
  2. ^ Brownian Motion and Molecular Reality
  3. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『ペランの実験』 - コトバンク
  4. ^ ブラウン運動 ... ウィーナー(Wiener)過程と呼ばれることもある.p.9 より引用。井原俊輔「6章 確率過程」『知識の森』電子情報通信学会、2009年https://www.ieice-hbkb.org/files/ad_base/view_pdf.html?p=/files/12/12gun_03hen_06.pdf 

参考文献

関連項目

外部リンク


ブラウン運動

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/02 06:38 UTC 版)

拡散」の記事における「ブラウン運動」の解説

ブラウン運動は不連続的な粒子液体中で拡散するときに起きる。熱エネルギーよるものであるから運動観測できる( v ∼ k B T / m {\displaystyle v\sim {\sqrt {k_{B}T/m}}} )ためには、対象粒子質量は非常に小さいものでなければならない運動の方向ランダムで常に変化している。ブラウン運動は原理的に気体中でも起きるが、気体中の微粒子運動はふつう拡散のほか乱流支配されているため観測しにくい。

※この「ブラウン運動」の解説は、「拡散」の解説の一部です。
「ブラウン運動」を含む「拡散」の記事については、「拡散」の概要を参照ください。

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