確率過程とは?

かく りつかてい-くわ- [5] 【確率過程】


確率過程

読み方かくりつかてい
【英】:stochastic process

概要

時間パラメータを含む確率変数系列. 時間経過とともに, 与えられた確率法則にしたがって確率変数の値が変化する. 確率法則与え方, 時間パラメータ定め方, 確率変数が取る値の集合などの違いにより, 様々な確率過程が考えられる. 代表的な確率過程としては, マルコフ連鎖, ブラウン運動, ポアソン過程, 再生過程, マルチンゲール, 自己回帰過程などがある.

詳説

確率過程と標本 確率変数ランダム試行結果で値の決まる変数であるのに対し, パラメータ集合 {\mathcal T}\, によってインデックス付けられた確率変数集まり \{ X(t);\; t \in {\mathcal T} \}\, 確率過程と呼ぶ. 一般にパラメータ集合 {\mathcal T}\, 時間を表すため, 確率過程は時間経過に従ってランダム変化する値の系列と言える. 単に独立確率変数が並んだものも形式的には確率過程であるが, 我々が分析対象とするのは, 異な時点確率変数間に何らかの相関関係がある場合である. 例えX(t)\, をある場所の t\, 時の気温とすれば, X(10)\, X(12)\, の間には強い相関があるであろう. X(t)\, t\, 期の在庫量とする場合も同様である. 確率過程の分析においては, このような変数間の関連性どのように表現し, それをもとにしてどのように確率過程の振る舞い調べていくかが重要となる.

確率過程 \{ X(t);\; t \in {\mathcal T} \}\, は, 時点 t\, 1 つ固定すると根元事象 (確率空間 (\Omega, {\mathcal F}, \mathrm{P})\, における標本空間 \Omega\, 要素 \omega\, ) によって値が変わる確率変数となり, 逆に根元事象1 つ固定して考えると, 時間パラメータ t\, 関数となる. 根元事象固定して得られる t\, 関数を, 確率過程の標本路 (sample path) と呼ぶ. 確率変数の値が根元事象によって異なるように, 根元事象異なれば確過程標本路も違ったものとなる.


離散連続 {\mathcal T}\, 可算集合である確率過程を離散時間確率過程といい, {\mathcal T}\, 連続的集合場合連続時間確率過程という. また, 確率過程 X(t)\, がとる個々の値を状態, すべての状態からなる集合状態空間と呼ぶ. 応用上は, 実数整数, およびそれらの多次元空間状態空間となることが多い. 時間パラメータ集合同様に, 確率過程は状態空間性質によって連続離散分類できる.


確率構造導入 確率過程を定めるには, その確率過程が従う確率法則規定する必要がある. そのため方法の中で最も直接的なのは, 任意の n\, 任意に選んだ n\, 個の時点 t_1, \cdots, t_n\, に対して, (X(t_1), \cdots, X(t_n))\, 同時分布与え方法である. 例えば, どのような時点の組に対して(X(t_1), \cdots, X(t_n))\, n\, 次元正規分布 (n次元正規分布) に従うとき, \{ X(t) \}\, ガウス過程呼ばれる. また, どんな s\, に対して(X(t_1), \cdots, X(t_n))\, 時点s\, ずらした (X(t_1+s), \cdots, X(t_n+s))\, 分布一致する確率過程は定常過程 (強)と呼ばれ, 時系列解析などの基礎となる.

 同時分布定め代わりに, 確率過程の変化量分布特性与えることで確率過程を定めることもできる. 例えば, 重ならない区間での変化量独立, すなわち任意に選んだ時点 t_1< t_2 < \cdots < t_{2n}\, に対して時間区間での変化量 X(t_{2i})-X(t_{2i-1})\ (i=1,\cdots,n)\, 互いに独立である確率過程は, 独立増分過程呼ばれる. 例えば, ランダム動きを表す確率過程である標準ブラウン運動は, 任意の時間区間 [t_1, t_2]\, での変化量 X(t_2)-X(t_1)\, 正規分布 N(0, t_2-t_1)\, に従う独立増分過程として特徴付けられる. また, 再生過程独立同一分布に従う間隔事象が起こるとして, 時点 t\, までに起きた事象の数 N(t)\, 与えられる. N(t)\, ランダム間隔で値が1ずつ増加する確率過程で, 待ち行列理論における客の到着信頼性理論における故障発生を表す際によく用いられる. 特に, 事象生起間隔指数分布に従う再生過程ポアソン過程と呼ばれ, 少数の法則から我々の身の回りでもよく観察される.

 この他に, 隣接する複数時点変数の関係によって確率過程を定めることも可能である. 例えば, K\, 次の自己回帰移動平均過程では, X(n)\, 過去 K\, 時点の値と白色雑音 \{ \epsilon(n) \}\, 加重線形結合 \textstyle X(n)=\sum_{i=1}^K a_i X(n-i) + \epsilon(n)\, で表される. また, 離散時間マルコフ連鎖では, X(n)\, から X(n+1)\, への推移確率によって確率過程の変化規則定める. 例えば, 単純ランダムウォーク \{ X_n \}\, は, 確率 p\, X_{n+1}=X_n+1\, , 確率 1-p\, X_{n+1}=X_n-1\, という規則で値が変化する. さらに, 任意の m\, n\, に対して \mathrm{E}(X_{m+n} | X_1,\cdots,X_m)=X_m\, 成り立つ, すなわち時点 m\, までの履歴与えられた条件付きでの将来時点における期待値m\, での値に一致する確率過程は (離散時間) マルチンゲール呼ばれる. マルチンゲール平均一定で, 公平な賭けモデル化である.


特性 確率過程を利用して何らかの現象モデル化分析する際には, その過程付随する特性量を定量的評価することが必要となる. 例えば, 広い範囲待ち行列システムマルコフ過程として定式化されるが, この場合マルコフ過程定常分布から待ち行列システム平均待ち時間などを求めることができる. マルコフ過程限らず, 定常状態存在する確率過程の分析では, 時間平均分布定常分布関連付けるエルゴード定理が重要な役割を果たす. 信頼性理論在庫理論においても, 長期間における平均コスト分析主な対象となるが, これらのモデルでは取り替え発注によって区切られた区間1つサイクルをなすため, 再生過程によるモデル化再生定理による評価が主に利用される. 一方, 自己回帰過程などを利用した時系列分析では, 過去データからモデルパラメータ同定し, 将来変化予測するため, 過去データに最もよく適合する時系列モデルパラメータ選択が重要となる. また, 数理ファイナンスにおける金融派生商品価格評価理論においては, 原資産価格金利変動確率微分方程式等を用いて記述し, それをもとにマルチンゲール理論などを援用して商品価格評価を行う. そこでは, 実際変動により忠実なおかつ価格評価式の計算が容易なモデル構築ポイントとなる.



参考文献

[1] J. L. Doob, Stochastic Processes, John Wiley and Sons, 1953.

[2] S. Karlin and H. M. Taylor, An First Course in Stochastic Processes, Academic Press, 1975.

[3] S. Karlin and H. M. Taylor, A Second Course in Stochastic Processes, Academic Press, 1981.

[4] S. M. Ross, Stochastic Processes, John Wiley, 1983.

[5] 宮沢政清, 『確率と確率過程』, 近代科学社, 1993.


確率過程

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/05/19 03:49 UTC 版)

確率論において、確率過程(かくりつかてい、英語: stochastic process)は、時間とともに変化する確率変数のことである。


  1. ^ 足立修一「システム同定の基礎」東京電機大学出版局、ISBN 978-4-501-11480-0、page.36
  2. ^ 岩波, 54 確率過程 p.132.


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