ポアソン過程とは? わかりやすく解説

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ポアソン‐かてい〔‐クワテイ〕【ポアソン過程】


ポアソン過程

読み方ぽあそんかてい
【英】:Poisson process

概要

\Lambda(t)\,連続な非減少実数値関数とする. 計数過程 \{N(t)\}\,平均測度 \{\Lambda(t)\}\, をもつ (非定常)ポアソン過程であるとは次を満たすことである.

 (1) \{N(t)\}\,独立増分をもつ.
 (2) u < v\,対し N(v) - N(u)\,平均 \Lambda(v) - \Lambda(u)\,ポアソン分布にしたがう.

\Lambda(t)\,微分可能なときは \lambda(t)=\Lambda'(t)\,\{N(t)\}\,強度となる. 特に, \lambda(t)\,定数のときは定常ポアソン過程である.

詳説

 ポアソン過程 (Poisson process) は, ランダムに生起する事象を表す基本的な確率過程で, 客の到着故障発生, 個体出生など様々な現象モデル化使われる. 一方, 出生死滅過程個体出生だけでなくランダムな死滅考慮した確率過程で, 待ち行列理論をはじめ広く利用されている.

ポアソン過程 事象生起時点列を 0 \le T_1 \le T_2 \le ...\, とし, N(t)\, 区間 [0, t]\, における事象生起数, N(u,v) = N(v) - N(u)\, 区間 (u, v]\, での生起数とする. このような確率過程\{N(t), t\ge 0\}\, 一般に計数過程呼ばれる. 計数過程 \{N(t)\}\, がポアソン過程であるとは, 正の実数 \lambda\, 存在して任意の t\ge 0\, および h>0\, に対して



\begin{array}{lll}
&\mathrm{P}(N(t,t+h) = 1 \ | \ T_1,...,T_{N(t)}) = \lambda h + o(h), & \qquad (1)\\
\\
&\mathrm{P}(N(t,t+h) \geq 2 \ | \ T_1,...,T_{N(t)}) = o(h). & \qquad (2)
\end{array}


成り立つことである.

 (1), (2)ランダムな事象生起3つの点で特徴付けている. 第1は, 微小区間 (t, t+h]\, 事象生起する確率時刻 t\, 以前挙動独立であるという点, 第2は, 微小区間2つ上の事象生起する確率無視できるという点, 第3は, 微小区間事象生起する確率時刻によらない点である. 式 (1)\lambda\, 強度 (intensity) または生起率と呼ぶ. これは単位時間あたりの平均生起数を表す. 強度時間関数 \lambda(t)\, 拡張したものは非定常ポアソン過程呼ばれる. 以下はポアソン過程の性質であり, それぞれがポアソン過程の同値な定義でもある.

性質1 ポアソン過程 \{N(t)\}\, において,事象生起間隔の列 U_i =T_{i+1} - T_i\, 互いに独立平均 1/\lambda\, 指数分布に従う. \medskip

性質2 ポアソン過程 \{N(t)\}\, 独立増分過程で, 任意の s<t\, に対して N(s,t)\, 平均 \lambda (t-s)\, ポアソン分布に従う.

 性質1は指数分布無記憶性から自然に導かれる. また, 性質2より複数独立なポアソン過程の重ね合わせは, それぞれの強度の和を強度に持つポアソン過程となることが分かる. また, 次の定理確率変数和に対す少数の法則確率過程版である.


定理1 各 k\, に対して \ell_k\, 個の計数過程 \{N_{k1}(t)\}, \cdots, \{N_{k\ell_k}(t)\}\, 考え, その重ね合わせN_k(t) =N_{k1}(t)+ \cdots +N_{k\ell_k}(t)\, とする. \textstyle \lim_{k\to\infty} \ell_k=\infty\, で, かつ (a) \{N_{ki}(t)\}, \, i=1, \ldots , \ell_k\, 互いに独立, (b) 任意の u<v\, に対して \textstyle \lim_{k\to\infty} \sup_{1\le i \le \ell_k} \mathrm{P}(N_{ki}(u,v) \ge 1) = 0\, 成り立つとすると, \textstyle k\to\infty\, のとき \{N_k(t)\}\, 平均測度 \{\Lambda(t)\}\, の (非定常) ポアソン過程に収束するための必要十分条件は, 任意の u<v\, に対して, \textstyle \lim_{k\to\infty} \sum_{i=1}^{\ell_k} \mathrm{P}(N_{ki}(u,v)=1) =\Lambda(v) - \Lambda(u)\, および \textstyle \lim_{k\to\infty} \sum_{i=1}^{\ell_k} \mathrm{P}(N_{ki}(u,v)>1) = 0\, 成り立つことである. なお, \Lambda(t)\, 微分可能ならば強度\lambda(t) = \mbox{d}\Lambda(t)/\mbox{d}t\, となる.

 定理1は, 実際に起こる様々な現象をポアソン過程を用いて表わすことの妥当性示唆している. 例えば, 電話網のある回線群への接続要求 (呼) は非常に多く電話機からかかってくる呼の重ね合わせとみなせる. この場合, 各電話機独立使われており (仮定 (a)), その頻度は十分小さい (仮定 (b)) と考えられるため, この回線群への呼の発生はポアソン過程としてモデル化きるであろう. この他にも, マルチンゲールによるポアソン過程の特徴付けや, 事象平均時間平均同等性を示すPASTA (Poisson arrivals see time averages) など, ポアソン過程には興味深い性質が多い.


ポアソン過程の一般化 ポアソン過程を特徴付ける3つの条件のうち第2の条件緩め, 事象生起時点列はポアソン過程であるが, 各生起時点同時に発生する事象の数は独立同一分布に従う確率変数である場合, N(t)\, 複合ポアソン過程と呼ばれる. また, 非定常ポアソン過程の強度 \lambda(t)\, 確率過程拡張したものは2重確率ポアソン過程 (doubly stochastic Poisson process) と呼ばれる. 例えば, マルコフ変調ポアソン過程\lambda(t)\, 連続時間マルコフ連鎖に従う例である.


出生過程 性質1より, ポアソン過程は状態空間 \{0, 1, ...\}\, 上の連続時間マルコフ連鎖であることがわかる. 推移速度行列\boldsymbol{Q} =(q_{ij})\, とすると, 性質1から q_{i,i+1} = -q_{ii} = \lambda, \, i\ge 0\, その他の \boldsymbol{Q}\, 要素全て0となる. これを一般化して, i\, から i+1\, への推移速度i\, 依存して \lambda_i\, 定まるマルコフ連鎖出生過程 (birth process)と呼ぶ. 出生過程推移速度行列q_{i,i+1} = -q_{ii} = \lambda_i, \, i\ge 0\, で, その他の要素は0である.


出生死滅過程 出生過程では, 状態は i\, から i+1\, というように1ずつ進んでいくが, i\, から i-1\, へ戻ることも許すように一般化すると, q_{i,i+1} = \lambda_i, \, q_{i+1,i} = \mu_{i+1}, \, i\ge 0\, かつ q_{00} =-\lambda_0, \, q_{ii} = -(\lambda_i + \mu_i), \, i\ge 1\, で, その他の要素は0の推移速度行列得られる. このような3重対角推移速度行列に従う連続時間マルコフ連鎖出生死滅過程 (birth and death process) という. また, \lambda_i\, , \mu_i\, それぞれ状態 i\, での出生率, 死滅率と呼ばれる. 出生死滅過程では, 状態 i\; (\ge 1)\, 滞在する時間の長さパラメータ \lambda_i+\mu_i\, 指数分布従い, 滞在時間終えると確率 \lambda_i/(\lambda_i+\mu_i)\, で状態 i+1\, へ, 確率 \mu_i/(\lambda_i+\mu_i)\, で状態 i-1\, 推移する.

 出生死滅過程隣り合う状態間でのみ推移起きるという特徴を持つため, 定常分布などの特性量が陽な形で得られる. 例えば, 応用上重要な \lambda_i=\lambda\, , \mu_i=\mu\, 出生死滅過程は, \lambda < \mu\, のとき正再帰的で, \rho=\lambda/\mu\, とすると状態 j\, にいる定常確率\pi_j = (1 - \rho)\rho^j, \; j=0,1,\ldots\, という幾何分布となる. なお, \lambda = \mu\, のときは再帰的, \lambda > \mu\, のときは一時的となり定常分布存在しない. この例はM/M/1 待ち行列モデル相当する出生死滅過程であるが, 出生死滅過程はより一般的なM/M/c 待ち行列モデル (M/M/c\, 待ち行列モデル) などのマルコフ型の待ち行列モデルや, 機械修理モデル解析する上で重要な確率過程となっている.



参考文献

[1] P. Brémaud, Point Processes and Queues, Springer-Verlag, 1981.

[2] D. R. Cox and V. Isham, Point Processes, Chapman and Hall, 1980.

[3] R. W. Wolff, Stochastic Modeling and the Theory of Queues, Prentice-Hall, 1989.

[4] 宮沢政清, 『確率確率過程』, 近代科学社, 1993.


ポアソン過程

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/23 16:36 UTC 版)

オープンソースソフトウェアのセキュリティ」の記事における「ポアソン過程」の解説

ポアソン過程(英語版)はオープンソースクローズドソースソフトウェアの間でセキュリティ障害発覚した割合評価するために利用することができる。ポアソン過程において脆弱性の数をNv有償レビュー者数をNpとする。障害発見する無償レビュー者の割合はλv、障害発見する有償レビュー者の割合はλpとなる。無償レビューグループが障害発見する期待時間1/(Nv λv)、有償レビューグループが障害発見する期待時間1/(Nv λv)となる。

※この「ポアソン過程」の解説は、「オープンソースソフトウェアのセキュリティ」の解説の一部です。
「ポアソン過程」を含む「オープンソースソフトウェアのセキュリティ」の記事については、「オープンソースソフトウェアのセキュリティ」の概要を参照ください。


ポアソン過程

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/04 08:20 UTC 版)

ポアソン分布」の記事における「ポアソン過程」の解説

λ は、単位時間当たりの事象平均発生回数などの割合見なされる場合があり、到着率呼ばれる。このとき、Nt時刻 t より前に発生した事象回数とすると、 P ( N t = k ) = e − λ t ( λ t ) k k ! {\displaystyle P(N_{t}=k)={\frac {e^{-\lambda t}(\lambda t)^{k}}{k!}}} となる。この式を満たすものをポアソン過程という。さらに、最初事象発生するまでの待機時間 T は、指数分布による連続確率変数である。この確率分布は、次のように導くことができる。 P ( T > t ) = P ( N t = 0 ) . {\displaystyle P(T>t)=P(N_{t}=0).} 時間を含む場合、すなわち1次元ポアソン過程では、各時間内で事象発生する回数確率変数とする離散ポアソン分布と、待機時間確率変数とする連続アーラン分布両方含んでいる。1よりも高い次元のポアソン過程についても同様である。

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