インフルエンザ 管理

インフルエンザ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/12 16:58 UTC 版)

管理

まず感染防止のため、患者を直ちに個別室に隔離する[39]。2009年の英国国立医療技術評価機構(NICE)ならびに、2012年の日本感染症学会の診療ガイドラインでは、発症してから48時間以内といった条件を満たした場合、ノイラミニダーゼ阻害薬の投与を行う[39][68]抗生物質は効かないばかりか、薬剤耐性を生み出すので使わない。

2009年のNICEのガイドラインでは、オセルタミビル(タミフル)かザナミビル(リレンザ)が治療に選択されるとしている[68]。一方でNICEは、アマンタジンはインフルエンザの治療に推奨していない[68]。さらにアメリカ疾病予防管理センター (CDC) も2005年 - 2006年のインフルエンザについて、アメリカではアマンタジンリマンタジン英語版(日本未発売)を使用しないように勧告を行った。このシーズンに流行のインフルエンザウイルスの90%以上が、これらの薬剤に耐性を得ていることが判明したためである。

2014年、コクラン共同計画英国医師会雑誌は共同で、出版バイアスを除外して24,000人以上からのデータを分析し、オセルタミビルとザナミビルは、当初の使用の理由である入院や合併症を減少させるという十分な証拠はなく、成人では発症時間を7日から6.3日に減少させ、小児では効果は不明であり、世界的な備蓄が必要なほどの恩恵があるかどうかの見直しの必要性を報告した[7]

2017年には世界保健機関の必須医薬品専門委員会は、そうした新たな証拠があるためオセルタミビルを必須医薬品から補助的な薬に格下げし、重篤な入院患者でインフルエンザウイルスの感染が疑われる場合のみの使用に制限することを推奨した[69]

抗インフルエンザ薬

インフルエンザウイルス自体に対する治療としては、抗ウイルス薬が存在する。多くの場合、発症後の早期(約48時間以内)に使用しなければ効果が無い[39]。しかし、抗ウイルス薬により早期に症状が解消した場合、十分な免疫が得られない[70]

日本感染症学会のガイドラインでは、48時間を経過した患者についても、既に軽快傾向である場合を除いて、積極的投与を検討するとして

抗インフルエンザウイルス薬一覧[71]
作用機序区分 一般名
おもな商品名
剤形・規格 用法・用量(予防投与を除く)
成人 小児
M2蛋白阻害薬 アマンタジン塩酸塩
(シンメトレル)
細粒:10%
錠:50mg, 100mg
1日 100mg
1-2分服
投与しない
ノイラミニダーゼ阻害薬 オセルタミビルリン酸塩
(タミフル)
カプセル:75mg
ドライシロップ:3%
1回 75mg
1日2回(5日間)
幼小児:1回 2mg/kg1日2回(5日間)
新生児・乳児:1回 3mg/kg1日2回(5日間)
ザナミビル水和物
(リレンザ)
吸入:5mg/ブリスター
(4ブリスター/枚)
1回10mg, 1日2回(5日間)
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物
(イナビル)
吸入粉末:20mg 40mg, 単回投与 20mg(10歳未満)
40mg(10歳以上)
ペラミビル水和物(ラピアクタ) 点滴静注液:バイアル
:150mg/15mLバッグ
:300mg/60mL
300mg, 単回投与
重症化の危険性:1日1回 600mg, 連日投与いずれも15分以上かけて点滴静注
10mg/kg, 単回投与症状に応じて連日反復投与可。
最高 600mg/回いずれも15分以上かけて点滴静注
RNAポリメラーゼ阻害薬 ファビピラビル(アビガン) 錠:200mg 1日目は1回 1,600mg,
2日目~5日目は1回 600mg, 1日2回5日間
投与しない
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ) 錠:10mg, 20mg 成人及び小児(12歳以上):40mg, 80mg(80kg以上)単回投与 12歳未満:40mg(40kg以上),20mg(20-40kg未満), 10mg(10-20kg未満)単回投与
※ 北村正樹(2018)「抗インフルエンザウイルス薬[71]」より引用し改変
抗インフルエンザ薬「タミフル」
抗インフルエンザ薬「イナビル」

アマンタジン耐性インフルエンザウイルスや、ザナミビル(オセルタミビル)耐性インフルエンザウイルスの出現も既に報告され、アマンタジン耐性は、主に連続変異によってM2タンパク質の構造が変化することによるとされる。また、ザナミビルとオセルタミビルに薬剤耐性を持つウイルスの出現も、すでに報告されている。

こちらの薬剤耐性機構については、まだよく分かってはいないが、ヘマグルチニンが変異して細胞との結合力が低下して、ノイラミニダーゼの働きが弱くても、細胞からの放出が行われることによって、耐性を獲得する場合があることが報告されている。このような薬剤耐性ウイルスの出現に対抗するため、新薬開発の取り組みも継続されている。

2002年冬、インフルエンザが非常に流行したため、抗インフルエンザ薬が不足する問題が起こったことがある。

漢方薬

一部の医師は、オセルタミビル等の抗インフルエンザ薬に対する治療効果に対し疑問を持ち、漢方薬を使用した治療を研究している[74][75][76]

以下の通り一部の漢方薬には、日本においてインフルエンザ(あるいは流感)の適用を承認されているものがある。同名処方であっても薬事法に基づく製造販売承認上の効能・効果の承認内容が異なる場合がある(2008年10月現在)[77]

  • 麻黄湯 - 「悪寒、発熱、頭痛、腰痛、自然に汗の出ないものの次の諸症:感冒、インフルエンザ(初期のもの)…」との効能・効果の承認がある[78]。また、抗ウイルス薬のタミフルと同じ程度の症状軽減効果があるという報告がある[76]が、患者が気管支ぜんそくなどの基礎疾患を有していると差違が生じるとの報告もある[75]
  • 竹筎温胆湯 - 「インフルエンザ、風邪、肺炎などの回復期に熱が長びいたり、平熱になっても気分がさっぱりせず、せきや痰が多くて安眠が出来ないもの」との効能・効果の承認がある[79]
  • 柴胡桂枝湯 - 「発熱汗出て、悪寒し、身体痛み、頭痛、はきけのあるものの次の諸症:感冒・流感・肺炎・肺結核などの熱性疾患…」との効能・効果の承認がある[80]

一般用医薬品(OTC)や漢方専門医・薬局の処方(自由診療)により、のどの痛みや渇きに効果があるとして用いられる処方もある。

  • 銀翹散[81]、天津感冒片 - 効能・効果 に「かぜによるのどの痛み・口(のど)の渇き・せき・頭痛」と記載がある[82][83]

一般療法と対症療法

患者の体力を温存し軽症で済ませるために、一般療法(安静等)と対症療法が重要である。

  • 暖かい場所で安静にして睡眠をよく取り、水分を十分に摂って生体の防御機能を高める[84]
  • 回復期にも空気の乾燥に気をつける。特に体を冷やさないこと、マスクを着用する方法で、喉の湿度を保つことが重要である[84]
  • 外出はやめる。うつす/うつされる機会をなるべく減らすことが大切である。
  • インフルエンザウイルスは熱に弱いので、微熱はあえてとる必要はない。熱が高く脱水、消耗の危惧がある場合には医師が適宜、解熱剤を使用する[84]
  • 食事が摂取できないなどの場合は、輸液が必要となる。
  • 解熱に使用できる薬剤は、小児ではアセトアミノフェン(商品名:アンヒバ坐剤、カロナールタイレノール)に限られる。ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレンなど)やメフェナム酸(商品名:ポンタールなど)、イブプロフェンアスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs) を、15歳未満の小児に使用するとライ症候群を含むインフルエンザ脳症の併発を引き起こす可能性が指摘されているため、原則使用が禁止されている[85]
    • そのため、小児のインフルエンザ治療においてはNSAIDsは使用せず、よほど高熱の時のみ、アセトアミノフェンを少量使用するのが現在では一般的である。市販の総合感冒薬は効果がなく、むしろ前述のNSAIDsを含むこともあり、避けるべきである。

注釈

  1. ^ 添付文書には「予防接種を受けることが適当でないもの」とされるが、通常の薬剤における「禁忌」に相当する。
  2. ^ 日本の学校保健安全法施行規則では発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児は、3日)を経過するまで[88]
  3. ^ 寛政7年1月9日1795年2月27日)、名横綱谷風梶之助がインフルエンザで亡くなったことから「谷風」と呼ぶ。
  4. ^ 原著はオーストリアの医師ビショフ"Grundzüge der praktischen Medizin"。エルジッキによるオランダ語訳から、伊藤が重訳した。

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