しょうのう‐しっちょう〔セウナウシツテウ〕【小脳失調】
読み方:しょうのうしっちょう
小脳失調
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 06:47 UTC 版)
甲状腺機能低下症は運動失調、感音性難聴、ミオパチー、ニューロパチーなど多彩な神経症状を示す。甲状腺機能低下症に伴った運動失調の報告は1884年Whiteらによって最初に報告され、その後1960年代まで数多く報告され、治療可能な運動失調として重要性が認められていた。この頃の論文では10から30%の患者に運動失調があるという記載まで認められる。1980年以降はわずかな症例報告が散見するのみである。近年は稀な神経合併症と考えられている。症例報告では多くの症例で運動失調の他に神経症状を合併しているのが特徴である。甲状腺機能低下症に伴う運動失調症状はホルモン補充療法に反応して改善するため、病理学的裏付けとなる小脳病変の検討はほとんどされていない。Barnardらは小脳虫部の萎縮と限局的なプルキンエ細胞の消失を報告しているが臨床症状との関連は差し控えている。Priceらは2例の症例報告でプルキンエ細胞の消失、顆粒層のグリオーシスおよび空胞変性、neural myxoedema bodyの出現などの変化を重視した結論を出している。しかしこれらの症例がアルコール中毒を合併している点やneural myxoedema bodyの特異性のついて否定的な報告もある。また甲状腺機能低下症による小脳失調と診断された後に病理解剖で多系統萎縮症やアルコール性小脳失調と診断された例の報告もある。またそもそも失調そのものが小脳性ではなく甲状腺機能低下症に伴う筋収縮時間の延長など末梢性要素が原因ではないかという見方もある。このため小脳病変と甲状腺機能低下症の病理学的な因果関係は検討の余地がある。甲状腺機能低下症における小脳性運動失調の発症機序も十分な解明はされていない。田中らは小脳萎縮が軽度の運動失調を呈した甲状腺機能低下症の患者でPET検査で脊髄小脳変性症に類似した小脳の血流量と酸素代謝量の低下を見出し、甲状腺ホルモンの補充によってPET異常所見も軽快したと報告している。小脳萎縮がない例では小脳血流や代謝の低下、神経伝達物質や神経成長因子遺伝子のプロモーターとして作動していると考えられている甲状腺ホルモンの低下から運動失調が起こされている可能性がある。
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