鎖骨
鎖骨
鎖骨下面の胸骨端の近くには胸鎖靱帯圧痕、肩峰端のすぐ近くには円錐靱帯結節という粗面があり、それぞれ同名の靱帯が付着する。
鎖骨は結合組織生骨であり、全身の骨の中では最も早く骨化がはじまる(胎生第5週)が、骨化の完了する時期は25歳以後で長骨の中では一番遅い。鎖骨は一般の長骨と異なり髄腔がなく、内部は海綿質でみたされている。哺乳類のうち上肢を歩行以外にも使用する(たとえば、物をつかんだり、からだの前で上肢を交差させる動作など)動物では鎖骨は発達しているが、上肢を前後方向に動かして歩行だけに使用する動物では鎖骨はないか、あっても痕跡的である。したがって霊長目や齧歯目では鎖骨が発達し、食肉目や有蹄目には鎖骨がない。
語源はClavis(腱、カンヌキ)の縮小形で小さな鍵という意味。
[臨床]鎖骨と鎖骨下血管:鎖骨下筋と鎖骨の下面でこの筋を包んでいる鎖骨胸筋筋膜は、鎖骨下血管と腕神経叢の“根”枝を防御クッションのようにおおっており、その結果、鎖骨の骨折片によって危険に晒されることは通常ない。鎖骨下静脈は第一肋骨の骨膜と鎖骨胸筋筋膜に付着しているので、常に内腔が開いた状態になっている。鎖骨が第一肋骨から引っ張られるような運動の度に、筋膜の牽引力によって、この静脈の腔は拡大し静脈血の還流を促進する。鎖骨下静脈は障害されてもつぶれないので傷害部位から空気が引き込まれることがある(空気塞栓の危険)。
鎖骨
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/05 20:06 UTC 版)
骨: 鎖骨 | |
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ヒトの鎖骨 | |
名称 | |
日本語 | 鎖骨 |
英語 | clavicle |
ラテン語 | Clavicula |
関連構造 | |
上位構造 | 肩帯 |
画像 | |
アナトモグラフィー | 三次元CG |
関連情報 | |
MeSH | Clavicle |
グレイ解剖学 | 書籍中の説明(英語) |
ヒトの鎖骨
ヒトの鎖骨は、胸骨と肩甲骨を連結する事で肩構造を支持し、また各種筋肉の起始基盤として機能する。ウマ、イヌ、ウシ、ゾウの様な走行性の哺乳類等では退化している場合も多い。鎖骨がないといわゆる抱きつく所作(前脚を内側に曲げ保持すること)が困難で鎖骨のない動物は木登りができないことから、早期に草原に進出した動物は長距離移動に適応して鎖骨が退化し、長期間森林に生息した動物には鎖骨が残っているのではないかと考えられている。鳥類では左右の鎖骨が癒合し、暢思骨または叉骨と呼ばれる。
ヒトの鎖骨は、人体の中で最も折れ易い骨であり、肩に加わる衝撃を吸収するための、クラッシャブルゾーンの役割を果たしている。こうした特徴に着目し、3点式や4点式のシートベルトや命綱などが開発されている。
鎖骨と関節する骨
内側端で胸骨と関節し胸鎖関節をなし[1]、外側端で肩甲骨と関節し肩鎖関節をなす[1]。
肩鎖関節
肩鎖関節(けんさかんせつ、英: acromioclavicular joint)は肩甲骨と鎖骨を連結する関節である[2]。
肩鎖関節は肩甲骨の肩峰と鎖骨の肩峰端を連結する[2]。両関節面は小さい卵円形であり[3][4]、これらが関節包をもつ滑膜性関節で繋がっている[2][5]。関節腔には関節円板が存在するとされるが、詳細な研究は少ない[6]。
運動方向は前後・垂直・軸周り回転である[7]。鎖骨に対して肩甲骨が約15°内転、約20°上方回旋、約20°後傾し、軸周りに約35°回転する[8]。
肩鎖関節を補強する構造物としては以下が挙げられる[9]:
関節周囲には鎖骨遠位端上面から肩峰上面にかけて僧帽筋上部線維が付着する[10]。この僧帽筋および近傍の三角筋が織り合わさった繊維が関節上面に存在し、肩鎖関節を補強している[11]。
その関節形状から関節そのものの安定性が低く、肩鎖関節脱臼などの損傷が臨床的によくみられる。肩鎖関節脱臼は関節を支える上記の靭帯が断裂することで発生する[12]。
鎖骨から起始する筋肉
鎖骨に停止する筋肉
病理
僧帽筋が鎖骨遠位端に停止しているため[10]、鎖骨遠位端には上方へ引き上げる力が掛かっている。そのため重度の肩鎖関節脱臼を起こした場合、鎖骨遠位端が上方へ突出し押し込んでもまた飛び出すことが臨床的に知られている(ピアノキーサイン、英: piano key sign)[17]。
語源
ラテン語名claviculaは、clavis(「鍵」)の指小形で、「小さな鍵」の意味。
古くは「鎖骨」とは、菩薩の身体にあると言われる鎖状(あるいは蔓状)に繋がった(架空の)骨を指し、仏でいう舎利に相当する聖遺物であり[18][19]、高僧への賛辞にも用いた[20]。
漢方典籍では主に「血盆骨」の名が用いられ、『解体新書』では前野良沢(翻訳係)と杉田玄白(清書係)もこの語を当てたが、『重訂解体新書』では大槻玄沢が訳し直し「鎖骨」の語を当てている[21]。 この鎖骨は血盆骨の別名の一つで、古くは1247年に出版された法医学書洗冤集録に使用が見られる[22]。他に「鎖子骨」「𩩓子骨[23]」「缺盆骨(欠盆骨)」「拄骨」「巨骨」とも書く。鎖骨内側の窪みを「缺盆」と言う。鎖骨外端の経穴を巨骨穴と言う。
近年では、「鎖骨」という名称は、昔の中国で囚人を捕らえておくために、この骨の後ろに穴をあけて鎖をとおしたことに由来するなどと主張する者もいる[24]。
脚注
出典
- ^ a b 森ら, p.124
- ^ a b c "肩鎖関節は,肩峰の小さい卵円形の内側面と鎖骨肩峰端の間にできた滑膜性関節である" Drake 2011, p. 669 より引用。
- ^ "鎖骨の肩峰端は,小さい卵円形の関節面をもち" Drake 2011, p. 665 より引用。
- ^ "肩峰は ... 末端部にある小さい卵円形の関節面で鎖骨と関節する。" Drake 2011, p. 667 より引用。
- ^ "肩鎖関節は,関節包によって囲まれ" Drake 2011, p. 669 より引用。
- ^ "肩鎖関節の関節腔には関節円板が介在するとされるが、肩鎖関節の関節円板についての詳細な解剖学的記述は乏しく ... 今回観察した肩鎖関節において、関節腔を不完全に二分し線維軟骨から成る関節半月様の構造物が 3 側で観察された。" 以下より引用。江村. (2012). ヒト肩鎖関節における関節半月の肉眼解剖学的、組織学的研究. 理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2, 第47回日本理学療法学術大会 抄録集.
- ^ "肩鎖関節 ... この関節では,前後方向と垂直方向の運動,軸まわりの若干の回転運動が可能である。" Drake 2011, p. 669 より引用。
- ^ "上肢が挙上するに従って,鎖骨に対して肩甲骨は約15°内転,約 20°上方回旋,約20°後傾する ... また,回転軸を用いた解析を行うと,肩鎖靱帯と烏口鎖骨靱帯の烏口突起付着部とを結ぶ軸周りに約35°回転運動する" 佐原 2016, p. 751 より引用。
- ^ "肩鎖関節は ... 次の構造物によって補強されている。 肩鎖関節 ... 鳥口鎖骨靭帯 ... この靭帯は,... 菱形靭帯 ... 円錐靱帯 ... からなる。" Drake 2011, p. 669 より引用。
- ^ a b c "肩鎖関節の構造 ... 関節周囲には鎖骨遠位端上面から肩峰上面にかけて僧帽筋上部線維 ... がそれぞれ付着する." 佐原 2016, p. 751 より引用。
- ^ "肩鎖関節の上面には三角筋と僧帽筋の織り合わさった線維があり,関節面の適合性の保持と補強の働きがある." 佐原 2016, p. 751 より引用。
- ^ "肩鎖関節脱臼には肩鎖関節靭帯断裂による不完全脱臼と鳥口鎖骨靭帯断裂による完全脱臼がある." 以下より引用。手島. (1966). 肩鎖関節の手術方法について. 日本外科宝函第35巻 第2号, p.407.
- ^ 森ら, p.297
- ^ 森ら, p.334
- ^ a b 森ら, p.309
- ^ 森ら, p.265
- ^ "左肩鎖関節部に圧痛を認め,ピアノキーサイン陽性であった ... Ⅲ度肩鎖関節脱臼を認めた" p.87より引用。塚原. (1998). 肩鎖関節周辺の骨・靭帯損傷の観血的治療 一補助固定としてのスーチャーアンカーの使用経験. 日本整形外科スポーツ医学会雑誌、VOL.18 NO.2, pp.85-89.
- ^ 白川静『字通』「鎖」→熟語:鎖骨
- ^ 張読 (唐)『宣室志』(唐代)「夫鎖骨運絡如蔓,故動搖之,体則有清越之聲,固其然矣。昔聞佛氏書言,佛身有舍利骨,菩薩之身有鎖骨」
- ^ 蘇軾『書黁公詩后』「霜顱隱白毫、鎖骨埋青玉」
- ^ 『全体新論』と『解体新書』の漢字医学術語について
- ^ 洗冤集錄 : 二十四、殺傷 - 中國哲學書電子化計劃
- ^ 醫宗金鑒
- ^ ブルーバックスB-1537「退化」の進化学 犬塚則久 2007年 講談社 ISBN 4-06-257537-X 63ページ
参考文献
- 原著 森於菟 改訂 森富「骨学」『分担 解剖学1』(第11版第20刷)金原出版、東京都文京区、2000年11月20日、19-172頁。ISBN 978-4-307-00341-4。
- 原著 森於菟 改訂 森富「骨学」『分担解剖学1』、19-172頁。
- 原著 森於菟 改訂 大内弘「筋学」『分担解剖学1』、249-437頁。
- Drake, Richard (2011). グレイ解剖学 (原著第2版 ed.). エルゼビア・ジャパン. ISBN 978-4860347734
- 佐原, 亘 (2016). “鎖骨,肩甲骨のバイオメカニクス”. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (公益社団法人 日本リハビリテーション医学会) 53 (10): 750-753. doi:10.2490/jjrmc.53.750 .
関連項目
外部リンク
- Terminologia Anatomica(1998)に基づく解剖学 系統解剖学 骨格系 鎖骨 - 慶應医学部解剖学教室 船戸和弥
鎖骨
「鎖骨」の例文・使い方・用例・文例
- 鎖骨窩を温めるのはインフルエンザに効果的だ。
- 迷走神経刺激装置は胸部鎖骨下に埋め込まれる。
- 彼女は鎖骨を折った
- ほとんどの鳥類の鎖骨の融合によって形成された二又に分かれた骨
- 鎖骨の下に位置する
- 鎖骨と肋骨の最初の7組につながる平坦な骨
- 腋窩にあり、上部は鎖骨下動脈に、下部は腕の動脈につながる腕の主要な動脈の部分
- 鎖骨下動脈の最初の支流
- 鎖骨下静脈になる尺側皮静脈と上腕静脈の連続
- 内頚静脈と鎖骨下静脈が合流してできる静脈
- 鎖骨下静脈、もしくは外頚静脈の支流であり、下行肩甲動脈に判行する静脈
- 胸筋の血液を排出して、鎖骨下静脈に流れ出て空になる
- 人間における、鎖骨と肩甲骨によって形成された骨のアーチ
- 胸骨と鎖骨から乳様突起と後頭骨まで走る2つのがっしりした筋肉のうちの1つ
- 鎖骨という,胸骨と肩とを連結する骨
鎖骨と同じ種類の言葉
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