サンプリング 法律上の定義

サンプリング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/20 00:52 UTC 版)

法律上の定義

アメリカ合衆国の法律事典『Black's Law Dictionary』は「音楽におけるサンプリング」を「サウンド・レコーディングのごく一部を取って新しいレコーディングの一部としてその部分をデジタル処理によって利用するプロセス」と定義している[16]

サンプリングが違法とされた例

ビズ・マーキー

サンプリングによる音楽製作が一般化するにつれ、他方ではこれは著作権の侵害にあたるのではないかという声があがり始めた。

1991年、ヒップホップ・アーティスト、ビズ・マーキーはアルバム『I Need a Haircut』収録曲「Alone Again」でギルバート・オサリバンによる同名の楽曲をサンプリング使用した。これを知ったオサリバンは著作権の侵害としてビズと発売元のワーナー・ブラザースを告訴し、同年12月16日全面勝訴が確定、『I Need a Haircut』は小売店から回収された。これを通称「ビズ・マーキー事件」という[17]。なお、ビズは1993年に『All Samples Cleared』(訳:『全てのサンプリングが許可されました』)というアルバムを出し同事件を皮肉った。

また、1989年にヒップ・ハウスグループ、ザ・クルーはボイド・ヤーヴィスの「The music's got me」を部分的にサンプリングした「Get Dumb! (Free your body)」をリリースしたが、1993年にヤーヴィスはザ・クルーを訴え、ヤーヴィスが勝訴した[17]

これらの判例からアーティストはサンプリングの使用に際して代価を支払うべきという判例が確定し、メジャーレーベルから発表されるサンプリング作品のほとんどは正規にライセンスされたものとなった。また、クラシック音楽などのパブリックドメイン音源からのサンプリングも多くなり、サンプリング用の著作権フリー音源集のCDなども発売されるようになった。

サンプリングが合法とされた例

上記のような判例が出て以降、アメリカでは権利者に無断なサンプリングは違法とされたが、必ずしも全てのサンプリングが違法とされるわけではない。「法は些事に関せず」(デ・ミニミス ) の観点から、質的、または量的に些細なサンプリングは著作権侵害責任を問われないし[18]、「フェアユースの法理」(米国著作権法第107条)の観点から、元ネタとサンプリング楽曲の創作的表現における実質的類似性が立証されなければ著作権侵害責任は問われない[18][19][20]

1993年11月9日、ロイ・オービソンオー・プリティ・ウーマン」をサンプリングし、パロディ替え歌にしたツー・ライヴ・クルー「プリティ・ウーマン」を巡り、オービソンの権利を持つエイカフ=ローズ・ミュージック社がツー・ライブ・クルーを訴えたが、1994年3月7日に裁判所は「ツー・ライブ・クルーの曲は原曲のフェアユースを構成するパロディである」即ち、ツー・ライブ・クルーの曲によってオービソンの曲が売れなくなることはありえないとの判決を下して、ツー・ライブ・クルー側が勝訴した[19][20]。これを通称「プリティ・ウーマン事件」または、「キャンベル事件」と呼ぶ[19][20]

日本の著作権法ではフェアユース規定は存在しないが、知的財産戦略本部は2008年に日本版フェアユース規定(一般例外規定)導入へ向けた審議を開始した。2009年には文化庁でも審議が開始された[21]が、10年を経過した2019年現在も進展はみられていない。


  1. ^ Lott, Ryan. “History of Sampling”. Joyful Noise Recordings. 2013年9月27日閲覧。
  2. ^ Kreps, Daniel (2017年2月18日). “Clyde Stubblefield, James Brown's 'Funky Drummer,' Dead at 73” (英語). Rolling Stone. 2021年9月27日閲覧。
  3. ^ The transparent tape music festival
  4. ^ a b c d 「サンプリングの17年」
  5. ^ Henry Self "Sampling: A Cultural Perspective"
  6. ^ ブラッドリー (2008, pp.333 - 335)
  7. ^ "Guinness World Records 2001"Bt Bound, 2001,ISBN 978-0613342445
  8. ^ ゲンロンカフェ (2019-08-27), 20190213_平沢進+斎藤環 をオンラインで鑑賞 | Vimeo オンデマンド, https://vimeo.com/ondemand/genron20190213 2021年10月12日閲覧。 
  9. ^ hmv.co.jp
  10. ^ ORICON STYLE
  11. ^ ORICON STYLE
  12. ^ 米津玄師「KICK BACK」がアメリカレコード協会でゴールド認定、日本語曲では初の快挙(写真6枚 / 動画あり)”. 音楽ナタリー. 2023年10月26日閲覧。
  13. ^ https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/11/11/kiji/20231111s00041000545000c.html
  14. ^ KICK THE CAN CREW「クリスマス・イブRap」[1]SEAMOルパン・ザ・ファイヤー[2][3]HALCALI「Re:やさしい気持ち」[4] など。
  15. ^ [5]
  16. ^ Bryan A. Garner, editor, "Black's Law Dictionary 8th ed." (West Group, 2004) ISBN 0-314-15199-0.
  17. ^ a b 安藤 2005, p. 187-192.
  18. ^ a b 安藤和宏「アメリカにおけるミュージック・サンプリング訴訟に関する一考察(1) : Newton判決とBridgeport判決が与える影響」『知的財産法政策学研究』第22巻、北海道大学大学院法学研究科21世紀COEプログラム「新世代知的財産法政策学の国際拠点形成」事務局、2009年3月、201-231頁、hdl:2115/43582ISSN 18802982 
  19. ^ a b c CAMPBELL, AKA SKYYWALKER, ET AL. vs ACUFF-ROSE MUSIC, Inc.”. www.softic.or.jp/. 2010年10月23日閲覧。
  20. ^ a b c 野口 2010, p. 211-214.
  21. ^ 野口 2010, p. 210-211.
  22. ^ BMR誌、1990年12月号。p.31
  23. ^ sxbd.net






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