ローマ字 ローマ字の概要

ローマ字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/11/14 03:50 UTC 版)

「ローマ字」という呼称

単に「ローマ字」(: the Roman alphabet)と言った場合、本来はラテン文字(ラテン・アルファベット)のことを指す。「ローマ」とは、古代ローマにおいて用いられていた文字に由来することからの呼び名である。

ただし現在の日本では、ラテン文字を用いての日本語の表記法(日本語のラテン翻字)と表記そのもののことをローマ字と呼ぶことが多く、本項での記述はこれに相当する。

非ラテン文字言語をラテン文字で表記することを英語では「romanization」(ラテン文字化)と呼び、日本語以外にも、ロシア語ギリシャ語アラビア語中国語朝鮮語など非ラテン文字言語の多くでラテン文字化の方法が定められているが、日本国内では一般にそれらの表記法を「ローマ字」と呼ぶことはまずない[注 1]。また、英語でも特に日本語からのラテン文字化は「romaji」と呼ぶことがある[1]

東京大学で日本人初の教授となった外山正一が、1884年に発足させた「羅馬字会」に見られるように、かつてはローマ字を羅馬字とも書いた。

ローマ字の使用

日本国外では英語を中心とするラテン文字言語において日本語を表記する際に用いる。発音表記としての意味も担うことが多い。使用はもっぱら日本語の単語語句を引用する場合に限られ、日本語の文章全体がローマ字で表記されるのはまれである。たとえば、国内外の図書館で、日本語の書籍名を登録する際に用いられる。日本語の文字を扱えないコンピュータ環境などで日本語を表記する場合にも用いる。

ヘボン式訓令式など複数の表記法や規格が存在する(後述)。教科書では訓令式、人名や標識など固有名詞ではヘボン式を使用することが多い。しかし、一般には特定の表記法が厳密に守られることはなく、個々の判断で用いられる。また、表記法にはない独自の表記が使われることがある。表記の乱れは長音表記や分かち書きでは甚だしい。ローマ字は和文の転写に過ぎず、元の表記が推察できさえすれば、誤りや乱れは特に問題とされない。

例えば「おー」という音に o, ō, ô, oh, ou, oo の6通りが当てられたり、本来は「 zyo」 または「 jo」 と表記すべき「じょ」という音に 「jyo」 という文字が、「chu」 または 「tyu」 であるべき「ちゅ」の音に「 cyu」 の文字が当てられたりすることがある。例えば、大阪府箕面市では「Minoo」ではなく「Minoh」を公式のローマ字表記として使っている[2]。箕面市長の倉田哲郎は(おそらく英語圏の外国人を念頭に)「『minoo』だと外国人は『ミヌー』と読んでしまうのです。ですからこれは間違いだと思います。」と発言している[3]。また、雑誌『dancyu』は「ダンチュー」(拗音+長音)と読ませている。

人名表記において英語・表記発音などを模した創作表記もよくなされる。例としてSheena RingoJoe HisaishiGeorge TokoroAmy YamadaKie KitanoShioli KutsunaLéonard Foujitaなど。パスポートの氏名表記は長音符号を付けないのが原則であり、小野(おの)・大野(おおの)は、ともに表記が ONO になる。ただし、大野には申請によって OHNO が許されるが、そう綴った場合には制約も生じる[4]。これら表記の不統一が、コンピュータで検索する際などには障害ともなる。有名人や企業名などの名称を悪用すれば、なりすましや偽サイトへ誘導することも技術的には可能である。

こういった事例は中国人韓国人名のローマ字表記(李姓:Li、Lee、Rhee、Yi、I、朴姓:Pak、Park、張姓:Zhang、Jang、Chang、盧姓:Lu、Loo、(韓国語原音のNoではなく)Rohなど)や、本国ではキリル文字を使うロシア人ブルガリア人名のローマ字表記(Иванов:Ivanov、Ivanoff など)においても見られる。

ラテン文字を使う欧米の大半では、人名の姓を後に「名-姓」と表記する。日本でも伝統的にローマ字での氏名表記は「名-姓」と表記される事が一般的であったが、2019年に政府は言語や文化の多様性を意識し、日本の伝統的な人名表記である「姓-名」とすることが大切だとし、公用文等の日本人の姓名のローマ字表記について、差し支えのない限り「姓-名」の順を用いるようにするとした(ただし、国際機関で指定された様式があるなど特段の慣行がある場合を除く)。また、姓と名を区別するために「YAMADA Haruo」の様に姓を全て大文字とするとした[5]国語審議会#日本人名のローマ字表記も参照のこと。

表記法

各種方式の共通点と相違点を概説する。

母音

アイウエオ」段母音を「aiueo」で表す。

子音と拗音

原則として、「、ガ、ザ、ダ、バ、パ」行子音を「k, s, t, n, h, m, y, r, w, g, z, d, b, p」で表す。拗音(開拗音)は「子音字 + y + 母音字」で表す。

旧ヘボン式および修正ヘボン式では英語発音への近似性から「」を「shi」、「」を「chi」、「」を「tsu」、「」を「fu」、「」を「ji」、サ行拗音を「sh-」、タ行拗音を「ch-」、ザ行拗音を「j-」で表す。

日本式では現代仮名遣いまたは歴史的仮名遣いの厳密翻字に基づき、「」「」「」を「di」「du」「wo」と表記するが、訓令式とヘボン式では表音主義(表音式仮名遣い)に基づき、「ヂ→ジ」「ヅ→ズ」「ヲ→オ」と置換したように訓令式では「zi」「zu」「o」で、ヘボン式では「ji」「zu」「o」で表記する。

撥音と促音

撥音「ん」

原則として、撥音」は「n」で表す。例外として旧ヘボン式では「b」「p」「m」の前に限り「m」を使う。

後者の例1:tempura(天ぷら) - 本項の「ウィキペディア」節も参照のこと。
後者の例2:tombo(トンボ) - 企業名「株式会社トンボ鉛筆」の称 "Tombow Pencil Co.,Ltd." などにも見られる綴り[注 2]
後者の例3:kampō(漢方) - 文字検索すれば確認できるが、現在でも企業名・団体名・商標などに数多く使われている。
撥音+アポストロフィーなど

撥音の後に母音ヤ行音が来てナ行音と区別できなくなった場合は、旧ヘボン式では間に「-」(ハイフン)、修正ヘボン式および訓令式では「'」(アポストロフィー)を挿入する。

後者の例1:shin'ai(しんあい;親愛、信愛) - shinaiでは誤読「しない(竹刀)」を避けられない。
後者の例2:shin'yō(しんよう;信用、ほか) - shinyōでは「しにょう(屎尿)」と誤読されかねない。
後者の例3:Ken'ichi(けんいち;健一、憲一、ほか) - Kenichiでは誤読「けにち」を避けられない。
促音+子音字

原則として、促音は直後の子音字を繰り返す。例外として、旧ヘボン式および修正ヘボン式では直後が「ch」の時は「tch」とする。語末の促音表記については、どの方式でも公式には定められていない。

語末の促音の例:a'(あっ)、doki'(どきっ)、sore'(それっ)などの感嘆詞

長音

長音のローマ字表記は混迷を極めており、ヘボン式からマクロンを除いたり、UやHを加えたりと、日本人の間でも多様な表記揺れが見られる。詳しくは上記の項目を参照。

助詞

助詞の「は」「へ」「を」は、表音主義を採用する訓令式、ヘボン式ではそれぞれ「wa」(わ)「e」(え)「o」(お)と書くが、現代仮名遣いまたは歴史的仮名遣いに基づく厳密翻字では仮名表記どおりに「ha」(は)「he」(へ)「wo」(を)と書く。


注釈

  1. ^ 朝鮮語でもラテン文字のことを一般に「ローマ字」(로마자)と呼ぶことが多く、中国語では「國語羅馬字」、「教會羅馬字」のように表記法まで含め「ローマ字」と呼ぶことがある。「國語羅馬字」、「教會羅馬字」は日本語でも通常それぞれ「国語ローマ字」、「教会ローマ字」と訳される。
  2. ^ 語末の「w」は本項の論旨と無関係。英語 "tomb)" を連想されてしまうのを避けるために付け足された綴りである。
  3. ^ 在来線路線図および九州新幹線では他のJR各社と同じ表記が用いられる。
  4. ^ 第一期開業区間(スポーツセンター駅 - 千城台駅)のスポーツセンター駅を除く各駅。2019年駅ナンバリング導入に伴う駅名標更新の際、通常表記に改められている。
  5. ^ 細部のデザインが製作を担当した看板業者に委ねられていた時代のもの
  6. ^ 駅名標の「群馬」は、本記事「駅名標」の群馬八幡駅の例の通り、「Gumma」が用いられている。

出典

  1. ^ New Oxford American Dictionary 3rd edition, Oxford University Press, 2010
  2. ^ Multilingual(箕面市公式サイト)
  3. ^ 平成21年8月19日開催分意見概要(箕面市公式サイト)
  4. ^ 氏名に「オウ」音等長音を含む方(パスポート) 愛知県
  5. ^ “公用文等における日本人の姓名のローマ字表記について” (プレスリリース), 文化庁国語課, (2019年10月25日), https://www.kantei.go.jp/jp/singi/seimei_romaji/pdf/moshiawase.pdf 2020年11月10日閲覧。 
  6. ^ 高谷道男ヘボン博士の偉大なる功績」『標準式ローマ字制定七十周年記念講演集』(標準ローマ字会、1957年) 20~25頁
  7. ^ 長岡正利、金窪敏知、「地図におけるローマ字表記の問題点 その経緯と今後」 『地図』1985年 23巻 1号 p.1-12, doi:10.11212/jjca1963.23.1
  8. ^ 松村明編『大辞林第三版』(三省堂、平成18/2006年)「ヘボン式ローマ字綴り」
  9. ^ ヘボン式綴り方-ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2019年11月15日閲覧
  10. ^ 参照:Romanisation systems - GOV.UK
  11. ^ ANSI (1972年). “ANSI Z39.11 - 1972 System for the Romanization of Japanese”. National Information Standards Organization. 2013年7月19日閲覧。
  12. ^ a b 新田原駅の駅名標のローマ字が訂正される”. railf.jp(鉄道ニュース). 交友社 (2019年1月18日). 2019年1月19日閲覧。
  13. ^ 「駅名標の発掘 神戸駅・裾野駅を中心に」レイルNo.109 エリエイ、2019年
  14. ^ 「駅名標こぼれ話 第3回」『レイル』No.106 エリエイ、2018年
  15. ^ ヘボン式ローマ字綴方表 外務省
  16. ^ 道路標識のローマ字(ヘボン式) の綴り方 KICTEC
  17. ^ 上森鉄也「基礎演習でのローマ字教育」『教養センター紀要』、流通科学大学、 1-11頁、 NAID 120005327910
  18. ^ 群馬(ぐんま)のローマ字表記について、群馬県公式ウェブサイト、群馬県企画部国際戦略課、2015年5月10日閲覧
  19. ^ http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19541209001/k19541209001.html
  20. ^ "ISO 3602:1989 - Documentation -- Romanization of Japanese (kana script)" ISO
  21. ^ 大島明秀「細川家のローマ字印文書二種 : 熊本の歴史資料(二)」『文彩』第15巻、熊本県立大学文学部、2019年3月、 32-36頁、2022年11月14日閲覧。
  22. ^ ロドリゲス『日本大文典』土井忠生訳、三省堂、1955年,3頁
  23. ^ ロドリゲス『日本語小文典(上)』池上岑夫 訳、岩波書店(岩波文庫)1993年、20頁、ロドリゲス『日本語小文典(下)』池上岑夫 訳、岩波書店(岩波文庫)1993年、243頁
  24. ^ Arte da Lingoa de Iapam、ロドリゲス『日本語小文典(上)』池上岑夫 訳、岩波書店(岩波文庫)1993年、259頁の脚注
  25. ^ ロドリゲス『日本大文典』土井忠生訳、三省堂、1955年、224頁
  26. ^ ポルトガル語: Arte Breve da Lingoa Iapoa
  27. ^ ロドリゲス『日本語小文典(上)』池上岑夫 訳、岩波書店(岩波文庫)1993年、45〜73頁
  28. ^ a b 杉田幸子『ヘボン博士の愛した日本』いのちのことば社フォレストブックス、p.72. ISBN 978-4264024231
  29. ^ 内閣訓令第3号 SANZYUSSEIKI-NO-MORI
  30. ^ 『国語シリーズNo.23 ローマ字問題資料集 第1集』1955年(昭和30年)3月30日、p.175.
  31. ^ 各種看板、地図、外務省発行の日本国旅券の名前・本籍地都道府県表記、総務省市区町村表記や無線従事者免許証の名前表記等。実例「属性型(組織種別型)・地域型JPドメイン名登録等に関する技術細則
  32. ^ 中川かず子「今なお落ち着かないローマ字表記をめぐる議論」 北海学園大学附属図書館報
  33. ^ このマーク、憶えていますか? けっこう移り変わっているマツダのロゴマーク。MAZDA LOGOモーターファン(2019年4月11日)2019年5月23日閲覧。
  34. ^ 文部省 小冊子『ローマ字教育の指針 ローマ字文の書き方』1949年(昭和24年)






ローマ字と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ローマ字」の関連用語

ローマ字のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ローマ字のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのローマ字 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2022 GRAS Group, Inc.RSS