ゲエズ文字とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 同じ種類の言葉 > 言葉 > 言葉 > > ゲエズ文字の意味・解説 

ゲエズ文字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/17 18:00 UTC 版)

ゲエズ文字
ゲエズ文字でゲエズ (gəʿəz)と書いた例
類型: アブギダ紀元後330年頃まではアブジャド
言語: エチオピアエリトリアセム語 (ゲエズ語アムハラ語ティグリニャ語ティグレ語, ハラリ語など)、ビリン語、メエン語、かつてのオロモ語
時期: 紀元前5世紀-6世紀半ばから現在まで
親の文字体系:
Unicode範囲: U+1200-U+137F
U+1380-U+139F
U+2D80-U+2DDF
U+AB00-U+AB2F
ISO 15924 コード: Ethi
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。
テンプレートを表示
メロエ 前3世紀
カナダ先住民 1840年
注音 1913年

ゲエズ文字(ゲエズもじ、アムハラ語: ፊደል fidäl)は、かつてゲエズ語を表記するために生み出され、現在はアムハラ語ティグリニャ語ティグレ語など、エチオピアエリトリアの諸言語の表記に用いられる文字

ゲーズ文字、アムハラ文字、エチオピア文字とも呼ばれる。サブサハラアフリカでは極めて古い歴史を持つ。アブジャドである南アラビア文字から派生したアブギダであり、左から右へと書かれる。ひとつの文字がひとつの音節を表すことが多い。

概要

子音

ゲエズ文字の基本的な子音は26文字からなる。文字の順序はほかのセム系の文字とは大きく異なり、以下のように並ぶ。

h l m ś r s q b t n ʾ
k w ʿ z y d g f p

これと同じではないがよく似た配列順は古代の南アラビア文字ウガリット文字にも例が見られ、とくに後者は後期青銅器時代の紀元前1200年ごろのものであって[1][2]、古い歴史をもつ順序であることがわかる。ただし、特定の宗教的な文脈では、ヘブライ文字などと同じ順序に並べられることもある[3]

アムハラ語を表すゲエズ文字は、ゲエズ語にない破擦音・摩擦音などを表すために7文字が追加されて33文字になっている。追加文字は、元のゲエズ文字に横棒などを追加することによって作られ(s→š, t→č, n→ñ, k→x, z→ž, d→ğ, ṭ→č̣)、配列上は元の文字の直後に置かれる。

š č ñ x ž ğ č̣

母音記号

基本的な子音文字は母音の ä が後続するものと見なされる。それ以外の母音が後続する場合は、文字の上・下・右などに記号を追加することによって文字を変形する。実際には記号と文字が融合して新しい字のようになってしまっている場合もある。とくに ə が続く場合にどのように文字が変形されるかは暗記するしかない。母音は次の7つがある(例として、子音がbの場合を示す)。

bu bi ba be bo

唇音化した子音(kʷ gʷ qʷ ḫʷ)は、それぞれ唇音化していない子音に唇音化の記号を加える。その上にさらに母音記号が加わることもあるが、唇音化子音には u o は後続しない。

ゲエズ語の表記に使われる文字の総数は、26の子音に7つの母音が後続し、4つの唇音化子音に5つの母音が後続するため、26×7 + 4×5 = 202文字になる。

子音のうしろに母音が続かない場合は、ə が続く場合と同じ表記になる[4]

ゲエズ語には重子音があるが、表記上は重子音とそうでない子音は区別されない[5]

数字

ゲエズ文字にはギリシアのイオニア式数字表記に由来する数字が存在する。ただし、現代では通常アラビア数字を使用する[5]

句読点

伝統的に、単語の後ろにはコロンに似た記号を加える。現代ではこの記号はスペースに置きかえられつつある[6]。コロンに1本の横棒を加えたものはコンマに、2本の横棒を加えたものはセミコロンに、コロンを2つ重ねたものはピリオドに相当する。7つの点で段落の終わりを示す[7]

単語の区切り コンマ セミコロン ピリオド 段落
፣ ፥

歴史

ゲエズ文字で書かれた創世記

ゲエズ文字は、南アラビア文字から発達したことが明らかである。アクスムの地には紀元前500年ごろのサバ語系の南アラビア文字で書かれた碑文が残っている[8]

ゲエズ語はおそくともアクスム王国時代の4世紀には文字に書かれた[9]。サバ語にない p などの文字が新たに追加された。最初は南アラビア文字と同様、子音のみを表していたが、350年ごろから母音記号がつけられるようになった。ゲエズ語を母語としない者が学習する必要が増加したのが原因かもしれないという[10]。ゲエズ文字の母音記号のつけ方はインドの文字とよく似ているが、両者に歴史的な関係があるかどうかはわかっていない[11]

アムハラ語は、14世紀以来この文字で書かれている[12]。アムハラ語にはゲエズ語にない摩擦音や破擦音があるが、これらは破裂音の字の上に横棒を加えることで表される。また ñ(/ɲ/)も、n の字に横棒を加えることで表される。

音節表

文字名称が存在しないのはアムハラ語用の追加文字である。

文字名称 子音 ä u i a e (ə) o wi wa we
hoy h
läwe l
ḥäwt
may m
śäwt ś
rəʾs r
sat s
š
qaf q
bet b
täwe t
č
ḫärm
nähas n
ñ
ʾälf ʾ
kaf k
x
wäwe w
ʿäyn ʿ
zäy z
ž
yämän y
dänt d
ǧ
gäml g
ṭäyt
č̣
p̣äyt
ṣädäy
ḍäppa
äf f
psa p

Unicode

Unicode には 次の領域に以下の文字が収録されている。

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A B C D E F
U+120x
U+121x
U+122x
U+123x
U+124x
U+125x
U+126x
U+127x
U+128x
U+129x
U+12Ax
U+12Bx
U+12Cx
U+12Dx
U+12Ex
U+12Fx
U+130x
U+131x
U+132x
U+133x
U+134x
U+135x  ፝  ፞  ፟
U+136x
U+137x
U+138x
U+139x
U+2D8x
U+2D9x
U+2DAx
U+2DBx
U+2DCx
U+2DDx
U+AB0x
U+AB1x
U+AB2x

脚注

  1. ^ O'Conner (1996) p.790
  2. ^ Daniels (1997) p.33
  3. ^ Haile (1996) p.570
  4. ^ Haile (1996) p.572
  5. ^ a b Haile (1996) p.574
  6. ^ Haile (1996) p.575
  7. ^ 内記 (1981) p.179
  8. ^ Gragg (1997) p.242
  9. ^ Haile (1996) p.569
  10. ^ Haile (1996) p.571
  11. ^ 内記 (1981) pp.177-179
  12. ^ Hudson (1997) p.457

参考文献

  • Daniels, Peter T (1997). “Scripts of Semitic Languages”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 16-45. ISBN 9780415412667 
  • Gragg, Gene (1997). “Geʻez (Ethiopic)”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 242-260. ISBN 9780415412667 
  • Haile, Getatchew (1996). “Ethiopic Writing”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 569-576. ISBN 0195079930 
  • Hudson, Grover (1997). “Amharic and Argobba”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 457-485. ISBN 9780415412667 
  • O'Conner M (1996). “The Alphabet as a Technology”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 787-794. ISBN 0195079930 
  • 内記良一「アラビア系文字の発展」『世界の文字』大修館書店、1981年、159-180頁。 

外部リンク


ゲエズ文字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/30 09:48 UTC 版)

ビリン語」の記事における「ゲエズ文字」の解説

ビリン語表記体系宣教師によって開発された。彼らはゲエズ文字を使用し1882年最初テキスト出版した。ゲエズ文字はセム語派言語使われているが、ビリン語音素はとても似ている。(7つ母音両唇軟口蓋音放出音)。そのためビリン語適合するように文字わずかながら修正が必要となった (子音追加[ŋ]と[ŋʷ])。ビリン語書記するために追加が必要となったいくつかの文字は"エチオピア文字拡張"として Unicodeにおいて、"エチオピア文字"より広い範囲文字コード使用している。 以下にゲエズ文字の一覧表を示す。 音素/h/ /l/ /ħ/ /m/ /s/ /ʃ/ /r/ /kʼ/ /b/ /t/ /n/ /ʔ/ /k/ /x/ /w/ /ʕ/ ゲエズ文字ሀ ለ ሐ መ ሰ ሸ ረ ቀ ቐ በ ተ ነ አ ከ ኸ ወ ዐ 音素/j/ /d/ /dʒ/ /ɡ/ /ŋ/ /tʼ/ /tʃʼ/ /f/ /z/ /t͡ʃ/ /ʃ/ ゲエズ文字የ ደ ጀ ገ ጘ ጠ ጨ ፈ ዘ ዠ ቸ ኘ ጰ ጸ ፐ ቨ ビリン語必要な拡張文字 音素/kʷʼ/ /kʷ/ /xʷ/ /ɡʷ/ /ŋʷ/ ゲエズ文字ቈ ኰ ዀ ጐ ⶓ

※この「ゲエズ文字」の解説は、「ビリン語」の解説の一部です。
「ゲエズ文字」を含む「ビリン語」の記事については、「ビリン語」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ゲエズ文字」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ



ゲエズ文字と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ゲエズ文字」の関連用語

ゲエズ文字のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ゲエズ文字のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのゲエズ文字 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのビリン語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS