傘 現代日本における傘

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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/28 12:28 UTC 版)

現代日本における傘

「真美人」1897年 - 楊洲周延
雪道を傘を差して自転車で道行く人(大阪
傘袋(自動)

19世紀後半頃からは、日本においても洋傘が普及しはじめたが、まだまだ庶民の用具とは言えない状況であった。第二次世界大戦後には、著しい速度で生活が洋風化し、またメーカーの商品開発によって防水性の高い化学繊維が傘生地に用いられる、大量生産による価格の廉価化が進むと、昭和時代中期には、洋傘が和傘の生産量を上回るようになった。現代では、単に「傘」と呼称した場合には主に洋傘(こうもり傘)を指すようになっている。

昭和時代中盤頃までは、手作り製品や高級傘は高価な用具であるという認識が依然存在しており、傘の修理を行う店舗・職人も多く存在していたが、現代においては安価な外国製品の台頭により、傘を修理して永年愛用するという消費者意識は僅少となっている。ただ、現代でも自身の趣味やステータスの象徴として、オーダーメード製品やブランド品などの高価な傘を愛用する層も存在する。また、日本メーカー製の傘であれば、国内の専門店や専門店が保有する部品の整合性から充分修理サービスを受けることも可能であり、海外からの低価格攻勢と文化侵害に打ち勝つ「差異化」の手段のひとつとして、アフターマーケットの充実が着目されるケースも見られる。

近年では気象予報の精度が向上したため、あらかじめ雨天を予測して外出時に傘を携帯する人が多い。また、傘を複数所有し、急な降水に備えるために、自宅以外に会社学校など頻繁に訪れる場所に手持ちの傘を備えておく習慣が生まれ、「置き傘」と呼ばれるようになった。 また、傘をテーブルなどに立て置きする場合などを想定した傘ストッパーや傘ストラップなどの、いわゆる便利商品も販売されている。ただ、高級製品に良く見られる天然材木・天然竹材の「焼曲げ加工」を施したハンドルを装備した製品の場合には、ハンドルの先を支点としてテーブル端などに掛けると曲げが戻る、いわゆる「あくび現象」をもたらして造形を損なう要因となる場合も見られるので、取扱いに注意を要する。

小型ドローンによって持ち主の頭上を飛び雨を防ぐことで傘と同等の役割を果たす「空飛ぶ傘」も考案されている。[29]

傘に関する社会問題、迷惑行為、マナー問題

傘は、雨天があがり不要となるとその存在が忘れられてしまうことが多く、交通機関などの公衆の場面における忘れ物として、常に上位に位置しており、毎年大量の忘れ傘が廃棄されている。また、強風で骨が折れてしまった傘がそのまま道端に捨てられていることもよくある。

一方で、傘は自転車とともに公共施設で盗まれやすい物の代表でもある。 天気予報が外れて突然雨が降ってきた日に、折りたたみ傘を持っていない者が、店など公共施設や職場の傘立てに置いてある他人の傘を勝手に使うというケースが多い。 最も盗まれやすい傘は、外観だけで個人の所有物と判別できず、もし盗んでいる所を持ち主に指摘されても「自分の傘と似ているので間違えました」と言い訳できる透明のビニール傘や黒無地の傘であるが、高級ブランド傘も盗まれやすい。 また自分のビニール傘を持っていても、よりきれいで新しいビニール傘が置かれていたら自分の錆びた古いビニール傘と交換していく者もいる。 こうした盗難や交換されるのを防ぐには、高くない柄物の傘を使う、名前を書くといった対策が有効。 傘を盗む者の中には、「透明のビニール傘は共有の財産で、みんながシェアして使うもの」と言い訳をする者もいる。 自分のビニール傘を盗まれた人が、困ったのでやむを得ず自分もまた誰かのビニール傘を盗むといった盗難の連鎖が起きることがある。

こうしたことを受け、コンビニでは忘れ物の傘を無料で貸してくれる所もある。また、交通機関などの駅などでは無料または低価格で傘を貸し出す「貸し傘」も存在し、傘の表面に入れた広告による収入などを原資として運営されるケースも見られる[30]が、傘を貴重品と考えない人がほとんどとなっている現代においては、貸し出された傘をそのまま自宅や勤務先・学校の置き傘に転用したり、別の場所に置き忘れるなどして貸出先に返却しない例も多く見られ、その返却率の悪さから「貸し傘」の運営が廃止されることも多い。

前述のような傘の置き忘れや盗難を防ぐために、雨天の日に公共施設商業施設などに濡れたままの傘を建物内に持ち込む人がいるが、傘から水滴が落ちて床面が水浸しになり、子供や高齢者が転倒してしまうことがある。このような事故を防ぐため、昨今では入り口などに傘袋(アンブレラバッグ)が用意されていることもある。また、鍵をかけられる傘立ても普及し始めている。

また、自転車を傘をさしたまま運転する「傘さし運転」による交通事故が以前から多かったことを受け、2000年代に入ってから、新たに傘さし運転を取り締まる交通ルールが設定された。 その他、傘を水平に持つと、背の低い幼児の顔に当たる危険もあるので、立てて持つようにする、近くに人がいるときは傘を振りまわさない、狭い通路を傘をさして人とすれ違う時は少し閉じたり、背の高い方の人が傘を上に高くあげてぶつからないようにするなど、傘を使う人のマナーや思いやりが求められている。

成人男性が畳んだ傘を横向きに持つと先端が子供の目の高さと重なってしまうため、日本洋傘振興協議会では「U字部分の手元を持ち、石突きと呼ばれる傘の先端が地面の方向に向かうように持ってほしい」とアナウンスしている[31]


注釈

  1. ^ 日本の多くの辞書では和製英語とされているが、英語版ウィキペディアの umbrella には beach parasol でもリダイレクトが貼られ、また図版の説明文にも用いられている。

出典

  1. ^ a b 三省堂大辞林』第二版
  2. ^ a b 【なるほど!ルーツ調査隊】ビニール傘、もとは布傘カバー テーブルクロス材料ヒントに日本経済新聞』夕刊2022年6月27日くらしナビ面(2022年7月2日閲覧)
  3. ^ 手傘(てがさ)とは? 意味・読み方・使い方をわかりやすく解説 - goo国語辞書”. goo辞書. 2024年3月19日閲覧。
  4. ^ 小学館日本大百科全書
  5. ^ a b c d ”. コトバンク. 2020年1月24日閲覧。
  6. ^ 石元明 著『近世日本履物史の研究』,雄山閣出版,1963. 国立国会図書館デジタルコレクション”. dl.ndl.go.jp. 国立国会図書館デジタルコレクション. 2024年2月22日閲覧。
  7. ^ たまにではあるが、街で日傘を差している男性を見掛ける…”. 西日本新聞me. 2024年2月22日閲覧。
  8. ^ 余録:江戸幕府は実にこまごまと暮らしの統制をしたもので…”. 毎日新聞. 2024年2月22日閲覧。
  9. ^ a b c “日傘さす女性は日本だけ!? 中国や韓国など訪日9カ国女性が「使わない」ワケ…アンケートでも「驚き」1位”. 産経WEST (産業経済新聞社). (2016年7月20日). https://www.sankei.com/article/20160720-OCYUT6O4NJK3ZLNO7BFJTAF5WA/ 2016年8月2日閲覧。 
  10. ^ a b “【NOW!ソウル】夏のソウルで日傘韓国女子が急増中!”. 中央日報. (2016年7月21日). http://japanese.joins.com/photo/397/2/159397.html?servcode=800&sectcode=850 2016年8月2日閲覧。 
  11. ^ 小泉和子編『昭和のキモノ』河出書房新社〈らんぷの本〉、2006年5月30日。ISBN 9784309727523 
  12. ^ 「男の日傘:クールに決める…熱中症対策、売れ行き好調」毎日jp(毎日新聞)2013年8月7日
  13. ^ ヒートアイランド現象に対する適応策の効果の試算結果について(2011年8月24日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  14. ^ 日本洋傘振興協議会[出典無効]
  15. ^ 「日傘NGなぜ?小学校 人への危害を恐れ/保護者 熱中症避けたいのに…」『毎日新聞』夕刊2022年9月2日1面(同日閲覧)
  16. ^ 長野県商工会連合会 公式サイト 「信州我が市町村、日本一自慢」(2005年12月28日、Internet Archive
  17. ^ 和傘工房・朱夏 公式サイト
  18. ^ 雑貨工業品品質表示規程”. 消費者庁. 2013年5月23日閲覧。
  19. ^ a b 『傘物語』しばた洋傘店(柴田嘉和:『洋傘ショールの歴史』大阪洋傘ショール商工協同組合(昭和43年刊行)を参考)
  20. ^ a b 古い歴史を更に新しく飾った仙女香 洋傘界流行の先駆者 万朝報 1919.5.10(大正8)/神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫
  21. ^ 対清貿易影響」『大阪朝日新聞』1911年11月14日-1911年11月21日)(明治44年)/神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫
  22. ^ 日印貿易の大勢」『大阪毎日新聞』1912年10月22日(大正元年)/神戸大学経済経営研究所 新聞記事文庫
  23. ^ a b ビニール傘「使い捨てない」壊れにくく長持ち*バッグや帽子に再利用『読売新聞』朝刊2022年7月9日くらし面
  24. ^ 長傘(ナガガサ)とは コトバンク
  25. ^ 洋傘の歴史 - 日本洋傘振興協議会
  26. ^ ビニール傘の消費量世界一No.1の日本。傘をシェアするサービス「アイカサ」渋谷の企業オフィスに無料導入を開始! Smooth Life Magazine スムースライフマガジン
  27. ^ 【昭和史再訪】ビニール傘誕生『朝日新聞』夕刊2011年10月8日4ページ
  28. ^ TBS系『噂の!東京マガジン2009年11月8日放送より
  29. ^ もう持たなくていい 飛ぶ傘が日本で開発 - Sputnik 日本
  30. ^ “貸し傘に企業広告/久我山など7駅で5社/京王電鉄が試み”. 朝日新聞 (朝日新聞社): p. 37(東京). (2003-11-30(朝刊)) 
  31. ^ News Up 傘、どちらに向けて持ってます? - NHK
  32. ^ 金志賢 「相合傘図様の生成 ─菱川師宣『やまとゑの根元』まで時代を遡りながら考える─」『美術史』No.176、美術史學會、2014年3月、pp.355-369。
  33. ^ 『日本庶民文化史料集成 第五巻』(三一書房、1976年)p.364
  34. ^ 『相合傘』と『貸し傘』”. 洋がさタイムズ. 2008年5月12日閲覧。
  35. ^ 図書カード:No.1809『寛永相合傘』”. 青空文庫. 2008年5月12日閲覧。
  36. ^ 連載・日本語塾”. 日国フォーラム. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月12日閲覧。
  37. ^ Men's Fashion Brand NAVI”. 2019年1月3日閲覧。






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