日傘効果とは? わかりやすく解説

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ひがさ‐こうか〔‐カウクワ〕【日傘効果】


日傘効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/07 14:03 UTC 版)

日傘効果(ひがさこうか)とは、火山の大規模噴火や人為的起源などのエアロゾル粒子が、大気の上層で日射を遮り、地表の平均気温を下げる効果をもつという理論[1][2][3]

理論の歴史

マウナロア山における太陽放射の大気透過率の変化。1958年以降、度々の火山噴火により低下している。

日光を遮る日傘と同じようなはたらきをすることからこの名がある[1]英語parasol effect[1]umbrella effect[1]vailing effect[4]の訳語で、雨傘効果という場合もあった[1]

古い「日傘効果」の理論は、火山の噴火により大量に噴出した火山灰が、大気上層で太陽光を散乱するなどして遮り、地表の気温を低下させるというものだった[1][2][3]

噴火の後に寒冷化することがあることは古くから知られ、18世紀にはベンジャミン・フランクリンが火山灰による寒冷化を論じていた[3]

しかし、エアロゾルの直接採集や1980年代に始まったLIDARによる測定により、理論は修正される。成層圏に長期間浮遊しているエアロゾルは、火山灰ではなく硫酸液滴が主体であることが分かったためである。また、硫酸液滴は0.1マイクロメートル級と小さく長期間浮遊しやすいサイズであることも分かった[3]

火山について言えば、成層圏に大量の二酸化硫黄などが達する噴火ではエアロゾルによる日傘効果が生じうるが、同時に温室効果をもつ二酸化炭素水蒸気などほかの火山ガスの影響、短期的には火山灰による影響などが複合する。火山によって、噴出物の量などによって気候への影響は異なる。同じように大規模な噴火であっても、同じように大きな気候への影響があるとは限らない[5]

さらに地球温暖化気候変動予測と関連して、エアロゾルが気候に与える影響を評価する研究が進められた。波長ごとの光学的厚さをみると、対流圏エアロゾルと成層圏エアロゾルはともに地球放射近赤外線)領域の値が可視光線領域の10分の1で、日射に対して遮蔽の効果が大きいことが確認された[6]

一方、特に対流圏を中心とする人為起源のエアロゾルについては、エアロゾル自体が光・赤外線などを反射・散乱する直接効果だけではなく、雲核としてを増加あるいは減少させるはたらきを通した間接効果もあり、また粒子の種類や分布する環境条件によっても異なる複雑なプロセスであることが理解されるようになった[6][7]

地球温暖化にまつわる初歩的な科学として、「化石燃料燃焼により排出される微粒子が地球を冷却する効果を持つのであれば、温暖化対策で化石燃料の使用を減らすと温暖化をかえって促すのではないか?」という問いが投げかけられることがある。実際には、地球全体で考えると温室効果ガスによる温室効果が上回るため使用を減らした方が温暖化対策となり、他に大気汚染による健康影響を軽減するメリットがあるとされる[7]

他方、別側面の温暖化対策の一案として、成層圏エアロゾル注入(Stratospheric aerosol injection)の議論もある。意図的に硫酸エアロゾルなどを成層圏に注入し、人為的な温室効果による放射強制力を相殺して冷却を図るものだが、気候に予測困難な副作用を与える懸念や、急な中止が急激な昇温をもたらすため安定して継続する必要があるといった問題がある(地球工学も参照) [8]

日傘効果による天候異常の事例

過去25年間の気温変化。"Pinatubo Volcano"と示されている期間中、ピナトゥボ山噴火に伴うエアロゾルにより気温が低下した。
1783年 アイスランドラキ山噴火
火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、冷害によりヨーロッパなどで飢饉、日本では天明の大飢饉が発生。
1815年 インドネシアタンボラ山噴火
火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、ヨーロッパ北部・アメリカ北東部・カナダで冷害。1816年は"Year Without a Summer"(夏のない年)と呼ばれた。
1883年 インドネシア、クラカタウ噴火
火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、北半球全体の平均気温が0.5〜0.8°C低下。世界各地で夕焼けの鮮明化を観測。
1991年 フィリピンピナトゥボ山噴火
火山性エアロゾルが成層圏まで広がり、日本でも日射量、全天日照射量が減少した。

脚注

  1. ^ a b c d e f 気候学・気象学辞典 1985, p. 442「日傘効果」(荒生公雄 著)
  2. ^ a b 平凡社版気象の事典 1986, p. 430「日傘効果」(朝倉正 著)
  3. ^ a b c d 岩坂 1996.
  4. ^ 日傘効果”. eicネット. 環境用語集. 環境イノベーション情報機構 (2009年10月14日). 2025年3月5日閲覧。
  5. ^ 火山学者に聞いてみよう -トピック編- 火山活動と気候変化”. 日本火山学会. 2025年3月5日閲覧。
  6. ^ a b 浅野 1999.
  7. ^ a b ココが知りたい地球温暖化 Q11.エアロゾルの温暖化抑止効果”. 国立環境研究所地球環境研究センター (2024年2月). 2025年3月5日閲覧。
  8. ^ 杉山昌広、西岡純、藤原正智「気候工学(ジオエンジニアリング)」(pdf)『天気』第58巻第7号、日本気象学会、2011年7月31日、577-598頁、CRID 1050282677904914816 

参考文献

関連項目


日傘効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/18 14:14 UTC 版)

地球薄暮化」の記事における「日傘効果」の解説

日射量変化に密接に関係するのが、エアロゾルの量と面積である。 面積は、蒸発量大気対流具合地上上空気温差、凝結核となる微粒子の量などによって決まる。気温の上昇は蒸発量増加もたらしまた、凝結核となるエアロゾル増加によってができやすくなり、それぞれ面積増加し地上へ日射量減少する。 これらエアロゾルもたらす地球表面への日射減(地上気温低下)は、日傘効果として知られている。

※この「日傘効果」の解説は、「地球薄暮化」の解説の一部です。
「日傘効果」を含む「地球薄暮化」の記事については、「地球薄暮化」の概要を参照ください。

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