人権 人権保障の限界

人権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/22 06:42 UTC 版)

人権保障の限界

人権は原則として尊重されるべきものだが、実際の生活においては、人権は常に制限されている。例えば、集合住宅において、大声で歌ったり足を踏み鳴らしたりする権利は無い。また、授業中に、教師の許可なく教室の外に出る権利は無い。あるいは、犯罪を犯した時は、身体の自由を奪われる(逮捕される)場合がある。人権は、少なくとも人権相互の調整という観点から一定の規制は免れ難い[52]

近代立憲主義では法律によって人権の限界が認定されるが、法律による人権侵害の可能性をどう考えるかが問題となる[52]

かつては議会に最終判断権が委ねられ、憲法は「法律の範囲内において」権利を保障するという形式が一般的にとられていた[75]。しかし、この方法では議会のあり方によっては人権保障は実のないものとなる[57]

一方、アメリカ合衆国憲法のほか、第二次世界大戦後に制定された日本国憲法やドイツ連邦共和国基本法では、立法部といえども侵害できない部分をも含む形での保障を採用している[76]。この場合でも私的権利の行使や私的活動が絶対的で無制約というわけではなく、立法による制約の対象となりうるが、ただそれが一定の限度を超える場合には違憲という判断を受けることとなる[77]

日本

大日本帝国憲法(明治憲法)

大日本帝国憲法(明治憲法)は日本で最初の立憲主義憲法である[21]。1850年のプロイセン憲法をモデルとしているが、その権利は恩恵的性格が強いもので、その保障も法律の範囲内で認められるものにすぎなかった[78]。したがって、これらの権利は立法権によりほとんど自由に制限し得るものであった[79](一元的外在制約型)。

日本国憲法

日本国憲法第11条は「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」とし、また日本国憲法第97条は「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」と定めており、これらの規定は自然権の考え方に立脚したものと考えられている[80]

アメリカ合衆国

当初、アメリカ合衆国憲法は権利章典の規定を欠いていた[81]。それは合衆国政府は列挙された権限のみを有する「制限された政府」であり、権利章典を付する必要がないだけでなく、それを付することは「制限された政府」の理念に反すると考えられたためであった[81]。人権保障は各州の憲法や権利章典によって確保すればよいという基本的な考え方がとられていた[81]。しかし、急進派から連邦憲法にも権利章典を追加すべきとの主張が出され、各州の批准手続を経て1791年に修正10カ条が付け加えられることとなった[81]


注釈

  1. ^ 「かように <人権> の理解は一様ではないが、西洋近代の個人主義思想を多かれ少なかれ基本に置いている点では共通」と樋口陽一は説明した。人権を尊重しない政権や、アラブやアフリカ、アジアなどでは、文化の相違などとして反発することがある。だが、一般的に言えば文化の多元性を尊重しつつも、人権価値の普遍性を擁護するという立場が欧米ではコンセンサスを得つつある。[8]

出典

  1. ^ a b Britannica Japan Co., Ltd. 2018a, p. 「基本的人権」.
  2. ^ 鈴木 1997, p. 94.
  3. ^ a b c 平凡社 2018, p. 「基本的人権」.
  4. ^ Britannica Japan Co., Ltd. 2018b, p. 「国際人権法」.
  5. ^ 田中 2018, p. 「自由主義」.
  6. ^ a b c d e f g 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、176頁。ISBN 4-417-00936-8
  7. ^ a b 『岩波 哲学思想事典』岩波書店 1998年 p.813 樋口陽一 執筆「人権」
  8. ^ 『岩波 哲学思想事典』岩波書店 1998年 p.813 樋口陽一 執筆「人権」
  9. ^ a b c d 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、69頁。ISBN 4-641-11278-9
  10. ^ 広辞苑 第五版
  11. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、177頁。ISBN 4-417-00936-8
  12. ^ a b c 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、71頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  13. ^ 宮沢俊義、芦部信喜『全訂日本国憲法』日本評論社、1978年、195-196頁。
  14. ^ a b c 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、3頁。ISBN 4-842-04047-5
  15. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、3-4頁。ISBN 4-842-04047-5
  16. ^ a b c d 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、4頁。ISBN 4-842-04047-5
  17. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、4-5頁。ISBN 4-842-04047-5
  18. ^ a b c 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、5頁。ISBN 4-842-04047-5
  19. ^ a b c 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、6頁。ISBN 4-842-04047-5
  20. ^ a b c d e f 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、8頁。ISBN 4-842-04047-5
  21. ^ a b c d e f g 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、9頁。ISBN 4-842-04047-5
  22. ^ a b c 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、72頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  23. ^ a b c d 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、9頁。ISBN 4-842-04047-5
  24. ^ a b 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、73頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  25. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、14頁。ISBN 4-842-04047-5
  26. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、74頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  27. ^ a b 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、15頁。ISBN 4-842-04047-5
  28. ^ a b c 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、16頁。ISBN 4-842-04047-5
  29. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、17頁。ISBN 4-842-04047-5
  30. ^ アムネスティ・インターナショナル『国連の人権条約が持っている個人通報制度一覧』
  31. ^ 奥平康弘「人権体系及び内容の変容」『ジあわなよふろュリスト』第638巻、有斐閣、1977年、 243-244頁。
  32. ^ 宮沢俊義『法律学全集(4)憲法II新版』有斐閣、1958年、90-94頁。
  33. ^ a b 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、178-179頁。ISBN 4-417-00936-8
  34. ^ a b c d e f 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、178頁。ISBN 4-417-00936-8
  35. ^ a b 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、179頁。ISBN 4-417-00936-8
  36. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1997年、353頁。ISBN 4-417-00936-8
  37. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1997年、354頁。ISBN 4-417-00936-8
  38. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、140頁。ISBN 4-417-01040-4
  39. ^ a b 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、151頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  40. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、141頁。ISBN 4-417-01040-4
  41. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、141-142頁。ISBN 4-417-01040-4
  42. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、151-152頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  43. ^ a b c d 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、152頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  44. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、180頁。ISBN 4-417-00936-8
  45. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、143頁。ISBN 4-417-01040-4
  46. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、150頁。ISBN 4-417-01040-4
  47. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、150-151頁。ISBN 4-417-01040-4
  48. ^ a b 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、144頁。ISBN 4-417-01040-4
  49. ^ 大須賀明「社会権の法理」『公法研究』第34巻、有斐閣、1972年、 119頁。
  50. ^ 大須賀明『生存権論』日本評論社、1984年、71頁。
  51. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、231頁。ISBN 4-417-00936-8
  52. ^ a b c d e 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、181頁。ISBN 4-417-00936-8
  53. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、126頁。ISBN 4-417-01040-4
  54. ^ 柳瀬良幹『人権の歴史』明治書院、1949年、60-61頁。
  55. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、237頁。ISBN 4-417-01040-4
  56. ^ 橋本公亘『日本国憲法改訂版』有斐閣、1988年、233頁。
  57. ^ a b 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、182頁。ISBN 4-417-00936-8
  58. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、75頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  59. ^ 野中俊彦、高橋和之、中村睦男、高見勝利『憲法』I、有斐閣、2001年、第3版、216-217頁。ISBN 4641128936
  60. ^ 神道信者である事が義務付けられ、皇室典範により結婚・独立には皇室会議の同意が必要で家制度家長制度が存在する。選挙権ももちろんない
  61. ^ a b 西尾『皇太子さまへのご忠言』ワック 2008年(ISBN 4898311245)、「皇太子さまに敢えて御忠言申し上げます」『WiLL』2008年5月-8月号
  62. ^ WiLL』2008年7月号
  63. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、185頁。ISBN 4-417-00936-8
  64. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、77頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  65. ^ 野中俊彦、高橋和之、中村睦男、高見勝利『憲法』I、有斐閣、2001年、第3版、211頁。ISBN 4641128936
  66. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、78-79頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  67. ^ a b 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、79頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  68. ^ a b 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、81頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  69. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、193頁。ISBN 4-417-00936-8
  70. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、193-194頁。ISBN 4-417-00936-8
  71. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、194頁。ISBN 4-417-00936-8
  72. ^ 荒井彰「僕の学校は監獄だった!」『実録!ムショの本…パクられた私たちの刑務所体験』宝島社別冊宝島〉(原著1992年8月24日)、初版、p. 66。ISBN 97847966916112009年11月27日閲覧。
  73. ^ a b c d 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、191頁。ISBN 4-417-00936-8
  74. ^ a b 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、192頁。ISBN 4-417-00936-8
  75. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、181-182頁。ISBN 4-417-00936-8
  76. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、82頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  77. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、83頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  78. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、9-10頁。ISBN 4-842-04047-5
  79. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、10頁。ISBN 4-842-04047-5
  80. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、70頁。ISBN 978-4-641-11278-0
  81. ^ a b c d 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、7頁。ISBN 4-842-04047-5
  82. ^ 畑博行、水上千之『国際人権法概論第4版』有信堂高文社、2006年、8-9頁。ISBN 4-842-04047-5





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「人権」の関連用語

人権のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



人権のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの人権 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2021 GRAS Group, Inc.RSS