日本国憲法第27条
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(にほんこく(にっぽんこく)けんぽう だい27じょう)は、日本国憲法の第3章にある条文で、勤労の権利と義務について規定している。
条文
- 第二十七条
- すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
- 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
- 児童は、これを酷使してはならない。
解説
- 1項
- 条文は国民の権利義務のみを定めたが、実際には同時に国家にも国民が勤労の権利を行使できるよう義務を課したものでもある。国民には勤労をする権利が定められており、国家は国民に勤労の機会を与えなければならない。一方で国民は自らの能力や与えられた勤労の機会を活用して勤労する義務を負っている。しかし、この義務は労働能力あるものは自己の勤労によって生活を維持すべきであるということを意味するにとどまり、国家が労働を強制することを、正当化するものではない。
- 「勤労の義務」の部分は昭和21年(1946年)6月20日からの帝国議会の修正審議において日本社会党から提案され追加された[1]。この時、日本社会党が参照したのは高野岩三郎、馬場恒吾、杉森考次郎、森戸辰男、室伏高信、鈴木安蔵らの進歩的学者グループの「憲法研究会」の憲法草案であった[1]。本条項の「勤労の義務」及び第二項の「休息」の規定は憲法研究会がスターリン憲法から採用したものである[2]。憲法研究会の憲法草案はGHQ民政局の憲法草案起草スタッフにも影響を与えたと言われている[1]。
- 義務については勤労の義務を参照。
- 2項
- 勤労条件の法定を国に命じている。雇用者に対して弱者の立場に立つ労働者を保護する趣旨の規定である。労働基準法や最低賃金法など各種労働法によって具体化されている。
- 憲法25条の健康で文化的な最低限度の生活の保障とも関連するして実効あらしめるため。
- 休息については休息権を参照。
- 3項
- 児童労働における酷使を禁止している。歴史的に、年少者が劣悪な労働環境に置かれてきたことを念頭に置いて規定されたものである。労働基準法第56条に15歳未満の児童の使用を原則として禁止する規定が置かれている。私人間にも直接適用があるとされている。例外として、満12歳以上の児童(特定の事業、健康・福祉に有害でなく、労働が軽易なもの)に限り、行政官庁の許可と修学時間外の使用を条件に就労を認めている。
判例
損害賠償請求事件
東京高判平成19年6月21日:損害賠償請求控訴事件平成18年(ネ)第1635号
事実の概要
第2次世界大戦の終盤における日本軍とソ連軍との戦闘により現在の中国東北地方に国策移民として居住していた控訴人らが難民となり、終戦後も30年以上もの間日本に帰国することができずに中国に取り残され、日本に帰国した後も控訴人らの日本国内での自立に対する十分な支援措置を受けられなかったことについて、控訴人らが、控訴人らに対する早期帰国義務違反及び帰国後の自立支援義務違反が被控訴人の公務員の職務上の義務違反であるとして、被控訴人に対し、国賠法に基づく精神的損害の賠償を求めた事案の控訴審で、被控訴人の各行政機関は、中国残留邦人の早期帰国実現のために種々の政策を講じてきたものであり、これら一連の政策の立案・実行は、全体としてみても、また、個別的にみても、著しく合理性を欠くものとまではいえず、帰国制限措置をしたともいえないから、被控訴人の各行政機関に早期帰国実現義務違反による国賠法上の違法を認めることはできないなどとして、本件控訴を棄却した事例。
主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
理由
1先行行為に基づく条理上の法的義務として早期帰国実現義務が国に認められるとしても、行政機関がその時々に中国残留邦人の帰国実現に向けた具体的措置を講じなかったことが著しく合理性を欠く場合に限り、国賠法上違法となるものと解されるところ、関係行政機関は、敗戦後も引き続き中国残留を余儀なくされた中国残留邦人の早期帰国実現のために種々の政策を講じてきたものであり、これら一連の政策の立案・実行は、全体としてみても、また、個別的にみても、著しく合理性を欠くものとまではいえず、行政機関に早期帰国実現義務違反による国賠法上の違法を認めることはできない。
2行政機関の講ずる自立支援策は、国家財政、経済、社会政策等の諸般の事情を踏まえた国政全般にわたる総合的政策判断として行われるものであるから、その具体的政策の立案や実施等については、各行政機関の広範な裁量にゆだねられており、各行政機関が講じた中国残留邦人に対する自立支援策の立案・実行が著しく合理性を欠くような場合に限り、国賠法上違法となると解されるところ、各行政機関は、中国残留邦人が永住帰国するに際して、自立支度金の支給、日本語教育、就労支援、生活指導等の種々の自立支援策を講じており、総体としてみると、これら自立支援策の立案・実行が著しく合理性を欠くとまではいえず、国賠法上違法ではない。
3国会議員は、立法に関しては原則として国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民に対応した関係での法的義務を負うものでないから、国会議員の立法の不作為については、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために立法措置を執ることが必要不可欠であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合など、例外的に、国賠法の適用上、違法の評価を受けることがあるというべきところ、憲法の各条項は、残留邦人ら主張の自立支援策を講ずべきことを請求できる権利を認めているとは解されず、国に自立支援策を講ずべきことを定めた規定とも解されないから、国会議員に立法不作為による国賠法上の違法があるとはいえない。
道路交通取締法違反道路交通取締法施行令違反義務上過失致傷被告事件
事実の概要
最大判昭和33年9月10日:道路交通取締法違反道路交通取締法施行令違反義務上過失致傷被告事件昭和31年(あ)第38号[3]
主文
本件上告を棄却する
理由
1.禁錮刑は憲法違反である。
憲法27条1項は「すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負う」と定めている。しかし、禁錮刑は受刑者をただ監獄に閉じ込め、労働をさせない制度であり、国家が受刑者を“無為徒食”させる点で憲法の精神に反する。刑罰は教育的・社会的更生を目的とすべきであり、単に自由を奪うだけの禁錮刑は非文化的・非社会的で、報復的かつ非生産的な悪である。よって、禁錮刑を定めた法律自体およびそれを適用した判決は憲法違反である。
2. たとえ違憲でないとしても量刑が不当である。
被告人の過失は重大ではなく、被害も軽微。被害者は全員、寛大な処分を望んでいる。被告人は深く反省し、職を辞めて償いも済ませている。今後再犯の恐れもない。にもかかわらず禁錮4月の実刑は、本人・家族を不幸にし、国家的にも損失をもたらす。よって、原判決は著しく正義に反し、破棄されるべきである。
【最高裁の判断】
禁錮刑は、受刑者の自由を制限し、希望すれば作業に従事できる制度であり、「無為徒食」させるものではない。憲法27条1項は国民一般に勤労の権利と義務を定めたものであり、刑罰によって自由を制限することは当然許される。よって、禁錮刑は憲法に違反しない。また、量刑不当の主張は刑訴法405条の上告理由に当たらない。記録上も非常に不当とはいえず、上告は棄却される。
沿革
ソビエト社会主義共和国連邦憲法
1936年制定のソビエト社会主義共和国連邦憲法、通称スターリン憲法「勤労の義務」「休息」の規定が定められている[1]。
- 第12条
- ソ同盟においては、労働は、『働かざる者は食うべからず』の原則によって、労働能力あるすべての市民の義務であり、名誉である。/ソ同盟においては『各人からはその能力に応じてーー各人にはその労働に応じて』という社会主義の原則が行われる[4]。
- 第118条
- ソ同盟の市民は、労働の権利すなわち労働の量および質に相当する支払を保障された仕事を得る権利を有する。/労働の権利は、国民経済の社会主義的組織、ソヴェト社会の生産諸力の不断の発展、経済恐慌の可能性の排除および失業者の解消によって保障される[5]。
- 第119条
- ソ同盟の市民は、休息の権利を有する。/休息の権利は労働者および職員のために、八時間労働日を制定し、かつ困難な労働条件を有する若干の職業のために、労働日を七時間ないし六時間に、かつ特別に困難な労働条件を有する職場においては、四時間に短縮されることによって保障され、さらに労働者および職員に対して、年次有給休暇を設定し、かつ勤労者に対する奉仕のために、広く行きわたった療養所、休息の家、およびクラブを供与することによって保障される[6]。
大日本帝国憲法
なし
GHQ草案
「GHQ草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
日本語
- 第二十四条
- 有ラユル生活範囲ニ於テ法律ハ社会的福祉、自由、正義及民主主義ノ向上発展ノ為ニ立案セラルヘシ
- 自由、普遍的且強制的ナル教育ヲ設立スヘシ
- 児童ノ私利的酷使ハ之ヲ禁止スヘシ
- 公共衛生ヲ改善スヘシ
- 社会的安寧ヲ計ルヘシ
- 労働条件、賃銀及勤務時間ノ規準ヲ定ムヘシ
- 第二十五条
- 何人モ働ク権利ヲ有ス
英語
-
Article XXIV.
-
In all spheres of life, laws shall be designed for the promotion and extension of social welfare, and of freedom, justice and democracy.
-
Free, universal and compulsory education shall be established.
-
The exploitation of children shall be prohibited.
-
The public health shall be promoted.
-
Social security shall be provided.
-
Standards for working conditions, wages and hours shall be fixed.
-
Article XXV.
-
All men have the right to work.
憲法改正草案要綱
「憲法改正草案要綱」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第二十五
- 国民ハ凡テ勤労ノ権利ヲ有スルコト
- 賃金、就業時間其ノ他ノ勤労条件ニ関スル基準ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルコト
- 児童ノ不当使用ハ之ヲ禁止スベキコト
憲法改正草案
「憲法改正草案」、国立国会図書館「日本国憲法の誕生」。
- 第二十五条
- すべて国民は、勤労の権利を有する。
- 賃金、就業時間その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
- 児童は、これを酷使してはならない。
脚注
参考文献
- 八木秀次『日本国憲法とは何か』PHP研究所〈PHP新書〉、2003年5月2日。
- 訟務月報53巻11号2995頁
- https://lex.lawlibrary.jp/lexbin/WebPdfOut.aspx?Bnbn=27760627&PDF_ID=24013
関連項目
- 労働法
- 児童の権利に関する条約
- 公契約条例 - 「勤労条件の法定」との関係で、合憲性が問題となる[1]。
固有名詞の分類
- 日本国憲法第27条のページへのリンク