人権 人権の適用領域

人権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/22 06:42 UTC 版)

人権の適用領域

特別の法律関係

国民は一般的には国(または地方自治体)の権力的支配に服しているが、これとは別に法律上の特別の原因に基づいて特別の権力的な支配関係に入ることがある[68][69]。このような特別の権力的な支配関係としては、公務員や国公立学校の学生や生徒のように本人の同意に基づく場合と、刑事収容施設の被勾留者や受刑者のような場合がある[68][69]

かつての公法理論である「特別権力関係論」では、このような関係においては法治主義の原則が排除され、特別権力主体には包括的な支配権が認められ、それに服する者に対しては法律の根拠なく権利や自由を制限でき、特別権力関係の内部行為についても司法審査が及ばないとされていた[70]。しかし、現代では、このような人権の制約も、その特殊な法律関係の設定や存続のために内在する必要最小限度で合理的なものでなければならず、権利や自由の侵害に対しては司法審査が及ばなければならないと解されている[71]

公務員関係

在監関係

外部から隔離された刑務所などの刑事施設の処遇をみればその国の人権意識のレベルがわかるといわれている[72]。 日本においては、国際人権規約の下で設置された国連人権委員会において代用監獄の問題を指摘された。人権委員会は1998年の第4回日本政府報告の審査において代用監獄の廃止を勧告している。

憲法の私人間効力

元来、憲法による基本的人権の保障は国家と国民との関係で国家による侵害から国民の自由を保全しようとするものである[73]。私人相互間の問題は原則として私的自治の原則に委ねられ、問題があれば立法措置で対処すべきと考えられていた[73]

憲法には私人間の適用を明示しているものや明示がなくても性質上私人間での妥当性が措定されているものがある[73]。日本国憲法の場合、第15条第4項、第16条、第18条、第27条第3項、第28条などには私人間の適用があると解されている[73]

そのような規定でない場合の私人間効力については問題となる。

  • 直接適用(効力)説
    憲法に定める人権の効力は公私の別を問わず該当するから、私人間にも憲法の適用を直接できるという説。
    直接適用説に対しては、私人間にこのような考え方を徹底すれば「基本的人権」はもはや権利というより道徳的ないし法的義務と化してしまうという批判がある[74]
  • 間接適用(効力)説
    憲法が直接適用されるのは一部の例外を除いて公権力と私人の関係であるが、私法上の解釈において憲法の人権保障の趣旨を汲むことにより私人間における人権保障を図ろうとする説。
  • 無適用(効力)説
    憲法が直接適用されるのは一部の例外を除いて公権力と私人の関係であり,憲法の人権規定は私人間の関係に全く効力を及ぼさないとする説。
    無適用説に対しては、「基本的人権」は私人間に無関係と機械的に割り切るのは現代社会の実情を無視するものであるとの批判がある[74]

日本では、三菱樹脂事件で最高裁が憲法第19条及び憲法第14条について「他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もっぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない」としつつ「場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存する」と判示した(最大判昭和48・12・12民集27巻11号1536頁)。この判例は間接適用説とみられている。しかし実質的に無適用説的発想であるという見解もある[69]


注釈

  1. ^ 「かように <人権> の理解は一様ではないが、西洋近代の個人主義思想を多かれ少なかれ基本に置いている点では共通」と樋口陽一は説明した。人権を尊重しない政権や、アラブやアフリカ、アジアなどでは、文化の相違などとして反発することがある。だが、一般的に言えば文化の多元性を尊重しつつも、人権価値の普遍性を擁護するという立場が欧米ではコンセンサスを得つつある。[8]

出典

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