人権 人権の権利性

人権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/09 14:40 UTC 版)

人権の権利性

プログラム規定

1919年のドイツのヴァイマル憲法は社会国家思想を強く打ち出したものであったが、憲法起草時までドイツでは憲法典は政治上の宣言にすぎないと考えられ、憲法典では社会体制や経済的基盤から遊離した政治理想が奔放に述べられた[39]。そのため、憲法典の実施に当たっては裁判所が直接有効な法としての効果を与えるために、「法たる規定」と「プログラム規定」に区分する以外になかった[42]

第二次世界大戦後の各国の憲法典では次のような3つの類型が出現することとなった[43]

日本国憲法では憲法第25条憲法第26条憲法第27条などについてプログラム規定と解する説(プログラム規定説)があるが、安易にプログラム規定と性格づけることは疑問とされている[44]。 また、例えば日本の憲法25条におけるプログラム規定説は、自由権的側面については国に対してのみならず私人間においても裁判規範としての法的効力を認めており、請求権的側面についても憲法第25条が下位にある法律の解釈上の基準となることは認めている[45][46]。したがって、文字通りのプログラム規定ではないことから、このような用語を使用することは議論を混乱させ問題点を不明瞭にさせるもので適当でないという指摘がある[47]

具体的権利と抽象的権利

請求権的性格を有する基本的人権をめぐっては抽象的権利と具体的権利の区別の問題を生じる[35]

例えば、日本国憲法第25条の権利を、抽象的権利と解する説では、憲法第25条を具体化する法律が存在しているときにはその法律に基づく訴訟において憲法第25条違反を主張することができるとしつつ、立法または行政権の不作為の違憲性を憲法第25条を根拠に争うことまでは認められないとする[48]。一方、具体的権利と解する説では、憲法第25条を具体化する法律が存在しない場合でも、国の不作為に対しては違憲確認訴訟を提起できるとする[48][49][50]

ただ、立法不作為の確認訴訟にとどまるものに「具体的」、憲法第25条違反として裁判で争う可能性まで残されているものに「抽象的」といった名称を用いることには疑問の余地があるとする指摘もある[51]

制度的保障

制度的保障とは、一般には、議会が憲法の定める制度を創設し維持することを義務づけられ、その制度の本質的内容を侵害することが禁じられているものをいう[52]。制度的保障では直接の保障対象は制度それ自体であるから個人の基本的人権そのものではないが、制度的保障は基本的人権の保障を強化する意味を有する[52]

制度的保障として捉えられることがある制度には次のようなものがある。

  • 大学の自治
    大学の自治の法的性格については学問の自由を保障するための客観的な制度的保障とする制度的保障論が有力である[53]
  • 私有財産制度
    私有財産制度は財産権の保障との関連で制度的保障として捉えられることがある。
    ただし、日本国憲法第29条第1項(財産権の保障)については、客観的法秩序としての私有財産制の制度的保障のみを認める趣旨であるとする説[54]もあるが、多数説は私有財産制の制度的保障とともに個人が現に有する財産権をも個別的に保障していると解している[55]
  • 政教分離原則
    政教分離原則は信教の自由との関連で制度的保障として捉えられる[56]。ただし、政教分離原則を制度的保障として捉えることは微妙であるとする消極的な見解もある[52]

注釈

  1. ^ 「かように <人権> の理解は一様ではないが、西洋近代の個人主義思想を多かれ少なかれ基本に置いている点では共通」と樋口陽一は説明した。人権を尊重しない政権や、アラブやアフリカ、アジアなどでは、文化の相違などとして反発することがある。だが、一般的に言えば文化の多元性を尊重しつつも、人権価値の普遍性を擁護するという立場が欧米ではコンセンサスを得つつある。[8]

出典

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