台風
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/21 04:41 UTC 版)
定義
気圧が最も低い位置を「気圧中心」といい[2]、その位置と勢力で台風は定義される。温帯低気圧との最大の違いは、前線を伴っていないことである。
位置
北西太平洋の「東経100度線から180度経線までの北半球」に中心が存在するものをいう[3]。海域としては北太平洋西部(北西太平洋)およびその付属海である南シナ海、東シナ海、フィリピン海、日本海などにあたり、陸域としては東アジア、東南アジア、ミクロネシアのそれぞれ一部が含まれる。
最大風速が17 m/s以上の熱帯低気圧のうち、北インド洋にあるものは「サイクロン」[注 1]と呼ばれる[3]。南太平洋、北太平洋(180度経線以東)、北大西洋の熱帯低気圧のうち最大風速が33 m/s(64 kt)以上のものは「ハリケーン」と呼ばれる[4][注 2]。ただし、台風、サイクロン、ハリケーンともに現象としては同一である[4][5]。これらの熱帯低気圧が地理的な境界線を越えた場合は呼び方が変わる。例えば、2006年に北東太平洋で発生したハリケーン・イオケは、西進して経度180度を越えたため台風12号になった。このように、区域を跨って台風に変わったものを越境台風と呼ぶ。越境で台風でなくなるものもあり、2019年の台風1号は、マレー半島付近で東経100度線を越えたことにより台風からサイクロンに変わった[6]。
なお世界気象機関の国際分類では地理的な領域に関係なく、熱帯低気圧を最大風速によりトロピカル・デプレッション、トロピカル・ストーム、シビア・トロピカル・ストーム、タイフーンの4段階に分類している。この場合における「タイフーン」と本項で述べている「台風」は英語では共に"typhoon"と呼ぶが、概念としては異なる。
勢力
台風の場合、熱帯低気圧域内で最大風速17 m/s以上を満たしたものを指す[3]。
台風の位置や中心気圧、最大風速、大きさの数値は過去の観測データの蓄積により確立されたドボラック法に基づいて人工衛星画像から推定し、地上や船舶で風速が観測できた場合にその都度修正していく方法を採っている[2]ため、「中心付近の最大風速」は必ずしも実測値ではない。例えば洋上にある台風中心の風速を実測するには航空機が必要となり、実際に1987年(昭和62年)までは米軍が航空機観測を実施していた時期もある[7]が、観測員や設備・運用等の負担が大きく、現在日本では航空機による観測は恒常的な手段としては行われていない(学術研究目的での観測例はある)。
なお、世界気象機関 (WMO) の世界気象監視計画 (WWW) により、北西太平洋海域の台風監視活動を行う中枢として、日本の気象庁が「熱帯低気圧プログラムに参画する地域特別気象中枢」(RSMC for TCP) に指定され、気象庁の判断が国際的には公式のものとされるが、この海域では中華人民共和国、台湾、フィリピン、ベトナム、アメリカ合衆国などの気象機関がそれぞれ台風の監視を行い独自に推定を行っているため、機関によって風速等に多少の誤差が出ることもある[8]。
注釈
- ^ ただし、サイクロンは、温帯低気圧を含めた全ての低気圧を意味することもある[要出典]。
- ^ ハリケーンは台風やサイクロンよりも風速の基準が高い。なお、この区域で最大風速が17.2m/s以上32.7m/s未満のものをトロピカルストームと呼ぶ。
- ^ 中心付近は遠心力が強く、中心へ収束しようとする暴風と打ち消し合う。
- ^ 例えばユーラシア大陸からの冷たい寒気が対馬暖流の上を移動する事で、下層と上層の温度差が極地方の海上並みに非常に大きくなる等して発生し得る。
- ^ 船舶向けは1997年(平成9年)7月から。
- ^ 値が空白となっている月は、平年値を求める統計期間内に該当する台風が1例もなかったことを示している。
- ^ 接近は2か月に跨る場合があり、各月の接近数の合計と年間の接近数とは必ずしも一致しない。
- ^ 括弧内は1970年 - 2000年の平均値。
- ^ 「本土」は本州、北海道、九州、四国のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指す。
- ^ 「沖縄・奄美」は沖縄地方、奄美地方のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指す。
- ^ 地方の区分については、気象庁のサイトを参照。
- ^ 「九州北部地方」は山口県を含み、「中国地方」は山口県を含まない。
- ^ 「関東地方」は伊豆諸島および小笠原諸島を含まない。
出典
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- ^ また、柳田国男は、古代語「わき」におそろしい強風という意味が含まれていなかったかと指摘している。参照:山本健吉『基本季語五〇〇選』(講談社学術文庫、1989年)600-601頁。
- ^ 高橋 1976, pp. 155–156.
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