カルシウム 同位体

カルシウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/20 05:36 UTC 版)

同位体

カルシウムの原子番号20番は陽子魔法数であり、安定同位体が4種と多い。さらに、中性子も魔法数である二重魔法数の同位体を2つ(40Ca、48Ca)持っている。40Caは安定核種の列から外れた位置にあるにもかかわらず、天然存在率が約97パーセントと著しく高い。一方の48Caも周囲を短寿命核種に囲まれながら、半減期430年と極端に安定しており、存在率も46Caの数十倍である。

地球化学

カルシウムは古典的なクラーク数で、第5位に位置し、地殻中の存在率は3.39パーセントとされていた。現在は地球温暖化の主要因となる二酸化炭素を、炭酸カルシウムとして封じ込める役を持つとして関心が高まっている。カルシウムは主に炭酸カルシウムとして世界中の白亜、石灰岩、大理石の塊状鉱床として存在する。

石灰岩の成因は、海水中で炭酸カルシウムの溶解度を超えた水域で沈殿し生成される。

またそのほか、サンゴ虫が形成する外骨格に由来するサンゴ礁の寄与が大きいと考えられている。石灰岩中の二酸化炭素は、自然界では火山による熱変成作用や鍾乳洞でみられるような溶出により大気中に放出されるが、炭酸水素イオンとして水系に取り込まれやすいため、短期間でカルシウムやマグネシウムなどと難溶性塩を生成し、再び固定される。

大理石や石灰岩は建築物の素材としてよく用いられてきたが、酸による腐食作用に弱い性質を持つ

天然に存在する炭酸カルシウムの結晶状態として方解石アラゴナイトバテライトがある。特に方解石の結晶形は2つの異なる屈折率を持ち、2つの像を結ぶため偏光顕微鏡の機能に欠かせないものとなっている。

ドロマイト(白雲石)CaMg(CO3)2は堆積物中に広く分布しており、ヨーロッパのドロミテ山塊全体にも含まれる。構造は炭酸イオンに対してマグネシウムイオンとカルシウムイオンが交互に配列しており、原油の成分である炭化水素の堆積物の多くがドロマイト岩中に存在する。この物質を実験室的に合成するには150℃以上で行う必要があり、地表上の環境条件と異なるため、どうしてドロマイトが生成するのかは謎であった。主流である説としては石灰岩の地表が生成された後地中深くに埋められ、マグネシウムイオンを豊富に含む水が地層中を流れることでカルシウムイオンとマグネシウムイオンとで置換が行われたとする説である。

生化学

ヒトを含む動物植物の代表的なミネラル必須元素)である。カルシウムは真核細胞生物にとって必須元素であり、植物にとっても肥料として必要である。

生理作用

人体の構成成分としてのカルシウムは、成人男性の場合で約1キロを占める。おもに骨や歯としてヒドロキシアパタイトCa5(PO4)3(OH))の形で存在する。

生体内のカルシウムは、遊離型タンパク質結合型沈着型で存在する。ヒトをはじめとする脊椎動物では、おもに骨質として大量の沈着型がストックされているが、細胞内のカルシウムイオンは外より極端に濃度が低く、その差は3桁に達する。同様の濃度差はカリウムナトリウムでも見られるが、カルシウムでは細胞内濃度が厳密に保たれている。これは、真核細胞内の情報伝達を担うカルシウムシグナリングのためと考えられており、細胞膜にカルシウムイオンを排出するカルシウムチャネルが備えられている。

筋肉細胞では、収縮に関わるタンパク質(トロポニン)に結合することが不可欠である[12]。カルシウムイオンは細胞内液にはほとんど存在せず、細胞外からのカルシウムイオンの流入や、細胞内の小胞体に蓄えられたカルシウムイオンの放出は、さまざまなシグナルとしての生理的機能がある。

筋肉細胞以外においても、カルシウムイオンは細胞収縮運動に重要な役割を果たす。その一つの例が、カルモジュリンである。これは平滑筋や非筋細胞におけるミオシンとアクチン繊維による収縮運動においてトロポニンの代わりの役割を果たす。カリモジュリンは4つのCa結合部位を持つ。Caイオンが結合することで高次構造が変化して活性型のカルモジュリン複合体を形成する。この4つの結合部位というのがミソで、これらの部位に対するリガンド(つまりカルシウムイオン)の結合親和性が巧みに制御されている。(これをアロステリック調節という。) 一つ部位にカルシウムが結合するごとに、他の部位に対するリガンドの結合親和性が漸次変化することで、リガンドの濃度変化に対して非常に敏感な調節が可能となるわけだ。

植物細胞では、乾燥重あたり1.8パーセント程度のカルシウムを含む。植物においてカルシウムはイオンとして存在し、おもに細胞壁細胞膜外、液胞小胞体に多く分布する一方、サイトゾル内の濃度は低く保たれている。植物細胞におけるカルシウムの生理作用は以下の4点である[13]

  • 細胞壁の安定化
  • 細胞膜の安定化
  • 染色体の構造維持
  • 二次メッセンジャーとして細胞内の情報伝達

薬理作用

カルシウムは便や尿として体外に排泄されるため、これを補う最低必要摂取量として、日本の厚生労働省は1日に700ミリグラム(骨粗鬆症予防には800ミリグラムを推奨)をあげている[14]

いくつかの症状に対し、医薬品として処方されることがある。定番となっている胃の制酸薬以外にも、カルシウム欠乏による筋肉の痙攣、くる病骨軟化症、低カルシウム血症、骨粗鬆症の治療に、おもに経口摂取で用いるほか、血液中のリン酸濃度を抑制したい場合に用いる。また、栄養補助食品も広く販売されており、病気治療で食事制限中の場合や、重度の骨粗鬆症で大量摂取したいとき、食事量が落ちた高齢者などで効果が期待できる。

カルシウムの血中濃度が正常範囲を外れていると、骨からの出し入れ量を調節する副甲状腺機能の異常などが疑われる[15][16]。健常者では体液内濃度は平衡に保たれ、妊娠期の女性も食物からの吸収能力が自然に増すため、偏った食生活でなければ追加摂取は必要ない[17]。過剰摂取は高カルシウム血症やミルクアルカリ症候群の原因となるため、一日摂取許容量上限として2,300ミリグラムが示されている。一方で、尿路結石の構成成分にシュウ酸カルシウムがあるため、カルシウムの摂取は結石形成に促進的に働くと考えられていたが、近年では一定量のカルシウム摂取はむしろ結石予防に有効であると指導するようになってきている[18]。摂取されたカルシウムが腸管内でシュウ酸と結合し難溶性のシュウ酸カルシウムとして糞便で排泄されることで、尿路へと排泄されるシュウ酸量が減少するためである[19]

栄養所要量

推奨摂取量はさまざまに推定されているが長い期間での観察研究が不足しており、牛乳には健康上の懸念があるため、健康的で安全なカルシウムの源はまだ確立されていない[20]。1,000ミリグラムを推奨するような大量のカルシウムの摂取は疑問視されており、それは骨折リスクが減少しないという証拠が集まっていることによる[20]

2002年の世界保健機関の報告書では、動物性タンパク質の摂取量が60グラムから20グラムへと40グラム減少すると、カルシウム必要量が240ミリグラム減少し、同様にナトリウムが2.3グラム減少すると必要量は240ミリグラム減少するという推定がある[21]

疫学

カルシウムは必須元素として以上の効果を期待され、いくつもの疫学調査が行われている。

  • 有効性ありと判定された例[22]
    • 低カルシウム血症
    • くる病・骨軟化症
    • 制酸剤
  • おそらく効果ありと判定された例
    • 閉経前後の骨量減少
    • 胎児の骨成長・骨密度増加(註:リバウンドを含め、出生後の追跡調査例見つからず)
    • 上皮小体亢進症(慢性腎機能障害患者)
  • 可能性ありと判定された例
    • 骨粗鬆症、骨密度減少(ステロイドの長期間服用者でビタミンD併用時)
    • 高齢者における歯の損失
    • 歯へのフッ素の過剰沈着(小児でビタミンC・D併用)
    • 虚血性発作
    • 血圧減少(腎疾患末期)
    • 高血圧、子癇前症での血圧減少(カルシウム摂取不足の妊婦)
    • 直腸上皮の異常増殖、下痢(腸管バイパス手術を受けた人)
    • 妊娠中のこむらがえり

骨粗鬆症診療ガイドラインでは、カルシウムのサプリメントの摂取は骨密度を2パーセント増やすが骨折率には変化がないため、すすめられる根拠がない(グレードC)に分類される[23]。2015年のシステマティックレビューでは、ほとんどの研究がカルシウムと骨折との間に関連性を見出していないため、食事からのカルシウム摂取の増加が骨折を予防するという証拠はなく、カルシウムのサプリメントでは弱い証拠しかないがその結果に矛盾があった[24]

ハーバード大学の公衆衛生大学院によれば、カルシウム摂取のために乳製品がもっともよい選択かは明らかではないとする。乳製品以外のカルシウムの摂取源として コラード、チンゲンサイ豆乳ベイクドビーンズ が挙げられている[25]

ビタミンDは、小腸の腸細胞の柔もうを通じてカルシウムを吸収する際に、カルシウム結合タンパクの量を増加させるカルシウム吸収の要因として重要である。ビタミンDは、腎臓において尿からカルシウムが損失することを抑制する。

癌との関わり

2つの無作為化比較試験[26][27]の国際コクラン共同計画によるメタ分析[28]によると、カルシウムは大腸腺腫性ポリープをある程度抑制しうる可能性があることが発見された。

最近の研究結果は矛盾したものであるが、1つはビタミンDの抗癌効果について肯定的なものであり(Lappeほか)、癌のリスクに対してカルシウムのみから独立した肯定的作用を行っているとしたものである(以下の2番目の研究を参照のこと)[29]

ある無作為化比較試験は、1,000ミリグラムのカルシウム成分と400IUのビタミンD3は大腸癌に何も効果を示さなかった[30]

  • ある無作為化比較試験は、1,400 - 1,500ミリグラムのカルシウムサプリメントと1,100IUのビタミンD3が塊状の癌の相対的リスクを0.402まで低下させることを示した[31]。ある疫学的研究では、高容量のカルシウムとビタミンDの摂取は更年期前の乳癌の発生リスクを低めていることが発見された[32]
  • 日本の国立がん研究センターが4万3,000人を追跡した大規模調査では、乳製品の摂取が前立腺癌の発症率を上げることを示し、カルシウムや飽和脂肪酸の摂取が前立腺癌のリスクをやや上げることを示した[33]



注釈

  1. ^ 日本の漆喰とは異なる。

出典

  1. ^ http://www.encyclo.co.uk/webster/C/7
  2. ^ 村上雅人 編著『元素を知る事典~先端材料への入門』
  3. ^ 桜井 弘 『元素111の新知識』 講談社、1998年、118頁。ISBN 4-06-257192-7 
  4. ^ コンクリート(セメント)の歴史について知りたい。 国立国会図書館 レファレンス事例詳細
  5. ^ 村上雅人 編著『元素を知る事典~先端材料への入門』
  6. ^ 鋼を作る日本石灰協会・日本石灰工業組合
  7. ^ チタン精錬反応の物理化学的評価
  8. ^ 還元拡散法による希土類機能性材料の製造に関する基礎的研究科学研究費補助金データベース
  9. ^ 小川芳樹, 「原子炉用材料特集」『窯業協會誌』 1956年 64巻 725号 p.C303-C306, doi:10.2109/jcersj1950.64.725_C303
  10. ^ 奥田茂, 「緻密なウラニウム精錬用弗化カルシウム容器」『窯業協會誌』 75(857), 9a, 1967-01-01, NAID 110002304124, 日本セラミックス協会
  11. ^ 酸化物陰極を備えた真空管ekouhou.net
  12. ^ 筋収縮を調節する分子メカニズムの一端を解明 科学技術振興機構
  13. ^ 間藤徹、馬建鋒、藤原徹 編『植物栄養学 第2版』, 文永堂、2010
  14. ^ 骨粗鬆症TOP 国立病院機構 西埼玉中央病院
  15. ^ 影岡武士、カルシウムが高い時 日本臨床検査専門医会 記事:2002.10.01
  16. ^ 斎藤 公司, 友常 靖子, 山本 邦宏 ほか、「著明な白血球増加と高カルシウム血症とを合併した甲状腺原発扁平上皮癌の1例」 『日本内科学会雑誌』 1979年 68巻 11号 p.1466-1472, doi:10.2169/naika.68.1466
  17. ^ 妊産婦のための食生活指針 -「健やか親子21」推進検討会報告書- 厚生労働省 平成18年2月 食を通じた妊産婦の健康支援方策研究会
  18. ^ 日本泌尿器科学会、日本泌尿器内視鏡学会、日本尿路結石症学会『尿路結石症診療ガイドライン 第2版』金原出版、2013年。ISBN 978-4307430531
  19. ^ Tiselius, H. G. (2001). “Possibilities for preventing recurrent calcium stone formation: principles for the metabolic evaluation of patients with calcium stone disease”. BJU Int. 88: 158. 
  20. ^ a b Calcium: What’s Best for Your Bones and Health?”. Harvard T.H. Chan School of Public Health (ハーバード公衆衛生大学院). 2017年8月11日閲覧。
  21. ^ joint FAO/WHO expert consultation. "Chapter 11 Calcium", Human Vitamin and Mineral Requirements, 2002.
  22. ^ カルシウム - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所
  23. ^ 『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版』骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会、ライフサイエンス出版。2006年10月。ISBN 978-4-89775-228-0。34-35、77頁。
  24. ^ Bolland MJ, Leung W, Tai V, Bastin S, Gamble GD, Grey A, Reid IR (September 2015). “Calcium intake and risk of fracture: systematic review”. BMJ 351: h4580. doi:10.1136/bmj.h4580. PMC: 4784799. PMID 26420387. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4784799/. 
  25. ^ The Nutrition Source Calcium and Milk: What's Best for Your Bones? (Harvard School of Public Health)
  26. ^ Baron JA, Beach M, Mandel JS (1999). “Calcium supplements for the prevention of colorectal adenomas. Calcium Polyp Prevention Study Group”. N. Engl. J. Med. 340 (2): 101–7. doi:10.1056/NEJM199901143400204. PMID 9887161. 
  27. ^ Bonithon-Kopp C, Kronborg O, Giacosa A, Räth U, Faivre J (2000). “Calcium and fibre supplementation in prevention of colorectal adenoma recurrence: a randomised intervention trial. European Cancer Prevention Organisation Study Group”. Lancet 356 (9238): 1300–6. doi:10.1016/S0140-6736(00)02813-0. PMID 11073017. 
  28. ^ Weingarten MA, Zalmanovici A, Yaphe J (2005). “Dietary calcium supplementation for preventing colorectal cancer, adenomatous polyps and calcium metabolisism disorder.”. Cochrane database of systematic reviews (Online) (3): CD003548. doi:10.1002/14651858.CD003548.pub3. PMID 16034903. 
  29. ^ Lappe, Jm; Travers-Gustafson, D; Davies, Km; Recker, Rr; Heaney, Rp (2007). “Vitamin D and calcium supplementation reduces cancer risk: results of a randomized trial” (Free full text). The American journal of clinical nutrition 85 (6): 1586–91. PMID 17556697. 
  30. ^ Wactawski-Wende J, Kotchen JM, Anderson GL (2006). “Calcium plus vitamin D supplementation and the risk of colorectal cancer”. N. Engl. J. Med. 354 (7): 684–96. doi:10.1056/NEJMoa055222. PMID 16481636. 
  31. ^ Lappe JM, Travers-Gustafson D, Davies KM, Recker RR, Heaney RP (2007). “Vitamin D and calcium supplementation reduces cancer risk: results of a randomized trial”. Am. J. Clin. Nutr. 85 (6): 1586–91. PMID 17556697. 
  32. ^ Lin J, Manson JE, Lee IM, Cook NR, Buring JE, Zhang SM (2007). “Intakes of calcium and vitamin d and breast cancer risk in women”. Arch. Intern. Med. 167 (10): 1050–9. doi:10.1001/archinte.167.10.1050. PMID 17533208. 
  33. ^ 乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について―概要― PMID 18398033





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