アスタチンとは? わかりやすく解説

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アスタチン【astatine】

読み方:あすたちん

ハロゲン族に属す放射性元素の一。化学的性質沃素(ようそ)に似るが、金属性がより強い。最も寿命長い同位体半減期8.3時間)で質量数210元素記号At 原子番号85


アスタチン


アスタチン


物質名
アスタチン
英語名
Astatine
元素記号
At
原子番号
85
分子量
210
発見
1940年
原子半径(Å)
1.45
電子親和力(eV)
2.8


アスタチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/20 09:29 UTC 版)

ポロニウム アスタチン ラドン
I

At

Ts
85At
外見
黒色固体(推定)
一般特性
名称, 記号, 番号 アスタチン, At, 85
分類 ハロゲン
, 周期, ブロック 17, 6, p
原子量 (210)
電子配置 [Xe] 4f14 5d10 6s2 6p5
電子殻 2, 8, 18, 32, 18, 7(画像
物理特性
固体
融点 575 K, 302 °C, 576 °F
沸点 610 K, 337 °C, 639 °F
蒸発熱 40 kJ/mol
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 361 392 429 475 531 607
原子特性
酸化数 7, 5, 3, 1, -1
電気陰性度 2.2(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 1st: 890 ± 40 kJ/mol
共有結合半径 150 pm
ファンデルワールス半径 202 pm
その他
磁性 no data
熱伝導率 (300 K) 1.7 W/(m⋅K)
CAS登録番号 7440-68-8
主な同位体
詳細はアスタチンの同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
210At syn 8.1 h ε, β+ 3.981 210Po
α 5.631 206Bi
211At syn 7.2 h

アスタチン: astatine [ˈæstətiːn, -tɨn])は、原子番号85の元素元素記号Atハロゲン元素の一つ。約30の同位体が存在するが、安定同位体は存在せず半減期も短いため、詳しく分っていない部分が多い。

名称

半減期が短いため、ギリシア語で「不安定な」を意味するastatosが語源。

歴史

アスタチンはメンデレーエフによって「エカヨウ素」として予言された[1]1932年アラバマ工科大学フレッド・アリソンモナザイトから85番元素を発見したと発表し、アラバミン(Alabamine - 元素記号 Ab)と命名したが後に否定された。1940年、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校でセグレが、ビスマス209にサイクロトロンで加速したアルファ粒子を照射することによりアスタチン211を初めて生成した[2][3]

特徴

アスタチンは壊変系列中の短寿命生成物として存在する元素で半減期が短いのが特徴である。したがって、実験している最中にどんどん崩壊して他の元素に変わっていくため、その詳しい化学的、物理的性質は分かっていない部分が多い。融点は302 °C沸点は337 °C(アスタチン210のものと思われる)である。

昇華性があり、に溶け、ヨウ素に似た化学的性質を持つが、ビスマスやポロニウムのように金属と非金属の中間的性質を持つ。アスタチンはヨウ素のように甲状腺に蓄積すると思われている。また色は黒もしくは銀色と推測されている。

また、常温では揮発するが、水溶液は安定しており、四塩化炭素によって水溶液からの抽出も可能である。

自然界にはアスタチン215、アスタチン217、アスタチン218、アスタチン219の存在が知られており、それ以外の同位体は人工放射性同位体である。アスタチンの人工放射性同位体の中で最も普通に作られるのはアスタチン210、アスタチン211である。

用途

アスタチンは強い放射能と短い半減期(アスタチン210でも8.1時間しかない)のため、研究用以外に用途はない。

しかし、アスタチン211は高エネルギーのα線を放出するため細胞殺傷性があり、抗癌剤としての用途が期待されている。現在はアスタチン211の運び屋となる比較的長い半減期を持つ放射性同位体が研究されている。

同位体

アスタチンの同位体は、質量数191から223までの間に30種以上が確認されている。しかし前述のとおり安定同位体は存在せず半減期は一番短いアスタチン213で125ナノ、一番長いアスタチン210で8.1時間と短い。その他、20種以上の核異性体も確認されている。

アスタチン211

アスタチン211は7.2時間の半減期を持つ同位体である。生成法はいくつかある[4][5]が、大量生産には液体ビスマスをターゲットとする209
Bi + α → 211
At + 2n反応が必須とされ[6]、アミノ酸と結合させたアスタチン211製剤が甲状腺がんの放射線治療に使われる[7][8]。日本では、2022年内服療法の第1相臨床試験が開始された[9]

自然界での発生

アスタチンは壊変系列中の短寿命生成物として存在するため、鉱物の主成分とはならず、自然界では非常に稀な元素である。そして、アスタチンはすべての元素の中で地殻含有量が最も少ない元素で、ウラン100万個の原子の中にはアスタチンの原子は数個しか存在しない。地殻中に存在するアスタチンの全量はおよそ1オンス (28 g)といわれている[注釈 1]

アスタチン218(半減期1.6秒)はウラン系列中でポロニウム218のβ崩壊により生じる。また、アクチニウム系列中では、フランシウム223のα崩壊によりアスタチン219(半減期56秒)が、ポロニウム215のβ崩壊によりアスタチン215(半減期0.001秒)が生じ、ネプツニウム系列中では、フランシウム221からアスタチン217(半減期0.323秒)が生じる。

アスタチンの化合物

酸化数は7, 5, 3, 1, -1価をとることがわかっている。うち、他のハロゲン同様-1価が最も安定である。

他のハロゲンと同じように水素との化合物を作ることが知られている。知られている化合物の中では、-1価の化合物が最も多い。

性質はヨウ化水素に似ており、刺激臭を持つ有毒な気体と考えられている。

その他にも AtO、AtO3 などの化合物も確認されている。

脚注

注釈

  1. ^ 地殻中に含まれるフランシウムは20g - 30gと言われており、アスタチンよりも稀な元素である可能性もある。

出典

  1. ^ 桜井弘『元素111の新知識』講談社、1998年、347頁。ISBN 4-06-257192-7 
  2. ^ Corson, D. R.; MacKenzie, K. R.; Segrè, E. (1940-03-01). “Possible Production of Radioactive Isotopes of Element 85”. Physical Review 57 (5): 459–459. doi:10.1103/PhysRev.57.459. https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRev.57.459. 
  3. ^ Corson, D. R.; Mackenzie, K. R.; Segrè, E. (1947-01). “Astatine : The Element of Atomic Number 85” (英語). Nature 159 (4027): 24–24. doi:10.1038/159024b0. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/159024b0. 
  4. ^ 豊嶋厚史 & 篠原厚 2018.
  5. ^ 羽場宏光「理研における核医学治療用ラジオアイソトープの製造」『Drug Delivery System』第35巻第2号、日本DDS学会、2020年、114-120頁、doi:10.2745/dds.35.114ISSN 0913-5006NAID 130007864106 
  6. ^ 石岡典子、渡辺茂樹、近藤浩夫、高井俊秀、古川智弘. がん治療用アスタチン211 の連続製造を可能にする液体ビスマス標的の開発 (pdf). 日本原子力学会 2019年秋の大会.
  7. ^ 渡部直史, 兼田加珠子, 白神宜史, 大江一弘, 豊嶋厚史, 篠原厚「アスタチンを用いた難治性甲状腺がんに対するアルファ線核医学治療」『アイソトープ・放射線研究発表会』第1巻、日本アイソトープ協会、2021年、67頁、doi:10.50955/happyokai.1.0_67NAID 130008085301 
  8. ^ 貝塚祐太, 鈴木博元, 上原知也「がんの標的α線治療を実現する211At標識アミノ酸誘導体の開発に向けた基礎的評価」『アイソトープ・放射線研究発表会』第1巻、日本アイソトープ協会、2021年、120頁、doi:10.50955/happyokai.1.0_120NAID 130008085209 
  9. ^ 注目高まるα線内用療法、アスタチンに期待 日経メディカル 2021/12/03

参考文献

関連項目

外部リンク


アスタチン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 10:03 UTC 版)

半金属」の記事における「アスタチン」の解説

アスタチンは非金属もしくは半金属分類される通常非金属として分類されるが、いくつかの著し金属的な性質有している。1940年、アスタチン原子合成直結し初期の研究者はアスタチンは金属であると考えていた。その後1949年言及では、アスタチンは還元するのが難しく最も不活性非金属であり、同様に酸化するのが難しく比較貴な金属であるとされていた。1950年には、アスタチンはハロゲンであるため活性非金属であるとも言及された。 アスタチンの非金属的な性質としては以下のものがある。 バスタノフは0.7 eVというアスタチンのバンドギャップ計算値を与え、この値は非金属のものと一致している。伝導帯価電子帯切り離されているためアスタチンは絶縁体もしくは半導体である。 アスタチンは非金属のように液体状態である温度範囲狭く融点575 K、沸点610 Kであると推定されている。 アスタチンの水溶液中の化学的ふるまいは、様々な陰イオン種の形成特徴づけられる。 アスタチンの既知化合物としてアスタチン化物 (XAt)、アスタチン酸塩 (XAtO3)および1価ハロゲン間化合物があり、それらの性質ハロゲンであり非金属でもあるヨウ素化合物類似している。 アスタチンの金属的な性質としては以下のものがある。 サムソノフは典型的な金属のように、アスタチンは強酸酸性溶液から硫化水素にすらも沈殿させられ硫酸溶液からはアスタチンが遊離する形で置換させられ電気分解によって陰極上に堆積させられるということ観察したレスラーは、アスタチンの(重)金属的な傾向更なる兆候について、擬ハロゲン化物、アスタチン陽イオン錯体、3価のアスタチン陰イオン錯体ならびに様々な有機溶媒との錯体の形成。を挙げたラオおよびガングリーは、42 kJ/molよりも大き蒸発熱を持つ元素液体状態において金属的である点に着目したそのような元素ホウ素ケイ素ゲルマニウムアンチモンセレンおよびテルル含まれる。ヴァサロスおよびベレイは、2価のアスタチンの蒸発熱をこれらの元素の中で最も低い50 kJ/molであると見積もった。このことから、アスタチンは液体状態において金属的である。2価ヨウ素蒸発熱は41.17 kJ/molであり、42 kJ/molという金属的な性質を示す閾値わずかに足りていない。 チャンピオン他は、アスタチンは強酸酸性溶液中においてAt+およびAtO+として安定して存在し陽イオンとしてのふるまいを示すとした。 Siekierskiとバージェスは、目に見えるほどの大きさ凝集したアスタチンはその激し放射能による熱で直ちに完全に蒸発してしまうが、もし凝集相を形成することができるならばアスタチンは金属であるだろうと推定主張した

※この「アスタチン」の解説は、「半金属」の解説の一部です。
「アスタチン」を含む「半金属」の記事については、「半金属」の概要を参照ください。

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アスタチン

出典:『Wiktionary』 (2021/08/28 14:22 UTC 版)

名詞

アスタチン

  1. 原子番号 85元素記号 At非金属元素安定同位体持たないハロゲン元素単体は、常温常圧では銀白色固体

語源

発音(?)

あ↗すた↘ちん

翻訳


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