台風
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/21 04:41 UTC 版)
台風の構造と階級
台風の中心位置、最大風速、中心気圧、暴風域半径、強風域半径などを総称して台風諸元という[2]。
台風の構造
亜熱帯や熱帯で海から供給される大量の水蒸気が上昇して空気が渦を巻きできるのが熱帯低気圧で、これが最大風速17.2m/sを超えると台風となる[15]。この点で冷たい空気と暖かい空気が混ざりあおうとして空気が渦を巻きできる温帯低気圧とは構造が異なる[15]。温帯低気圧では冷たい空気と暖かい空気がぶつかりあっており前線を伴うことがあるが、台風本体は暖かい空気のみでできているため前線を伴うことがない[15]。台風の北上によって冷たい空気が流入したときには温帯低気圧に変化する(「#台風の発生から消滅」参照)。
台風の中心付近は、風向きが乱れているために暴風が互いに打ち消し合う[注 3]。台風の中心付近の下降気流となっている風や雲がほとんどない区域を台風の目と呼び、勢力が大きい台風ほど明瞭に表れるが、勢力が衰えると判然としなくなることがある。
発達した台風では背の高い積乱雲が中心部を取り巻いておりアイウォールと呼ばれている[16]。構造としては、台風の目の周囲付近は中心に向かって周囲から吹き込んだ風が強い上昇気流をつくっており積乱雲が壁のように取り囲んでいる(内側降雨帯)。壁の高さは地上1000mから上空1万mに達する。そして、その外周には外側降雨帯が取り囲んでいる。また、台風本体から数百キロ程度離れた場所に先駆降雨帯が形成されることがあり、さらに、この位置に前線が停滞していると前線の活動が活発になり大雨となる。
なお、台風は一般的にその中心よりも進行方向に対して右側(南東側)のほうが風雨が強くなる。これは、台風をめがけて吹き込む風と台風本体を押し流す気流の向きが同じであるために、より強く風が吹き荒れるためである。気象学上ではこの台風の進行方向右側半分を危険半円と呼ぶ。また、台風の左側半分は吹き込む風と気流の向きが逆になるために相対的に風は弱く可航半円と呼ぶ。しかし、可航半円という概念はかつて帆船が台風の中心から遠ざかる針路をとるとき台風の進行方向左側に入っていれば右舷船尾に追い風を受けながら避航できたこと(逆に、帆船が台風の進行方向右側に入っていると右舷前側に向かい風を受けながら中心に引き込まれないよう保針しなければならなくなる)の名残であり、あくまでも右側半分と比較して風雨が弱いだけであり、可航半円の範囲といえども風雨は強いため警戒を要する。
台風の階級
台風の勢力を分かりやすく表現する目的などから、台風は「強さ」と「大きさ」によって階級が定められ分類されている[17][18]。
強さによる分類は、国際的にはWMOが規定する分類法が使用されているが、それに準じた多少差異のある分類法も熱帯低気圧の等級のようにいくつか使用されていて、同じ台風でも気象機関によって異なるレベルに分類される場合がある。具体的には、米軍の合同台風警報センター (JTWC) では1分間平均の最大風速、日本の気象庁では10分間平均の最大風速によって分類する。例えば同じ台風の同時刻の観測において、米軍の合同台風警報センターが台風の強度に達したと判断しても、日本では強い台風の強度に達せず並の強さと判断する場合も生じる(1分間平均風速は10分間平均風速よりも1.2 - 1.3倍ほど大きく出る傾向にある)。また、最大風速で強さを分類しているが過去には中心気圧が用いられており、その名残りから、日本で発表される台風情報には中心気圧も網羅される。
なお、日本でもマスメディアなどにおいて用いられる「スーパー台風」の呼称については、気象庁における明確な定義は無いが[19]、米国の合同台風警報センターでは最大強度階級130 knot(約67m/s・240 km/h)以上の台風のことを指して「スーパー台風」と呼んでいるほか[20][21]、中華人民共和国(香港、マカオを含む)などでは風速100 ノット (185 km/h) 以上の台風を「スーパー台風」としている。
最大風速 (m/s) | 最大風速 (knot) | 国際分類 | 日本の分類 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
(旧) | (新) | |||||
<17.2 | ≦33 | Tropical Depression /トロピカル・デプレッション (TD) | 弱い熱帯低気圧 | 熱帯低気圧 | ||
17.2 - 24.5 | 34 - 47 | Tropical Storm /トロピカル・ストーム (TS) | 台風 | 弱い | 台風 | (特になし) |
24.6 - 32.6 | 48 - 63 | Severe Tropical Storm / シビア・トロピカル・ストーム (STS) | 並の強さ | |||
32.7 - 43.7 | 64 - 84 | Typhoon / タイフーン (TまたはTY) | 強い | 強い | ||
43.7 - 54.0 | 85 - 104 | 非常に強い | 非常に強い | |||
>54.0 | ≧105 | 猛烈な | 猛烈な |
階級 | 最大風速 (1分間平均) |
---|---|
スーパー台風 | 130 knot (240 km/h) 以上 |
台風 | 63 - 129 knot (118 - 239 km/h) |
熱帯性暴風雨 | 34 - 62 knot (63 - 117 km/h) |
熱帯低気圧 | 22 - 33 knot (41 - 62 km/h) |
階級 | 風速 |
---|---|
スーパー台風 | 221 km/h 以上 |
台風 | 118 - 220 km/h |
激しい熱帯性暴風雨 | 89 - 117 km/h |
熱帯性暴風雨 | 61 - 88 km/h |
熱帯低気圧 | 30 - 60 km/h |
階級 | 風速 |
---|---|
スーパー台風 | 100 knot (185 km/h) 以上 |
強い台風 | 81 - 99 knot (150 - 184 km/h) |
台風 | 64 - 80 knot (118 - 149 km/h) |
激しい熱帯性暴風雨 | 48 - 63 knot (88 - 117 km/h) |
熱帯性暴風雨 | 34 - 47 knot (63 - 87 km/h) |
熱帯低気圧 | 22 - 33 knot (41 - 62 km/h) |
階級 | 風速 |
---|---|
スーパー台風 | 51.4 m/s (185 km/h) 以上 |
強い台風 | 41.7 - 51.3 m/s (150 - 184 km/h) |
台風 | 32.8 - 41.6 m/s (118 - 149 km/h) |
激しい熱帯性暴風雨 | 24.5 - 32.7 m/s (88 - 117 km/h) |
熱帯性暴風雨 | 17.5 - 24.4 m/s (63 - 87 km/h) |
熱帯低気圧 | 17.4 m/s (62 km/h) 以下 |
また日本の気象庁では、大きさによる分類も行っている[22]。風速15m/s以上の強風域の大きさによって分類する。15m/s以上の半径が非対称の場合は、その平均値をとる。なお、以前は1,000ミリバール(現在使用されている単位系ではヘクトパスカルに相当)等圧線の半径で判断していた。
大きさの階級 | 風速15m/s以上の半径 | |
---|---|---|
(旧) | (新) | |
超大型の台風 | ≧ 800km | |
大型の台風 | 500 - 800km | |
中型 (並みの大きさ) の台風 | (特になし) | 300 - 500km |
小型の (小さい) 台風 | 200 - 300km | |
ごく小さい台風 | < 200 km |
これらを組み合わせて、かつては「大型で並の強さの台風」というような言い方をしていた。しかし、組み合わせによっては「ごく小さく弱い台風」となる場合もある。1999年(平成11年)8月14日の玄倉川水難事故を契機に、このような表現では、危険性を過小評価した人が被害に遭うおそれがあるという防災の観点から、気象庁は2000年(平成12年)6月1日から、「弱い」や「並の」といった表現をやめ、上記表の(新)の欄のように表現を改めた。したがって、「小型で『中型で・ごく小さく』弱い『並の強さの』台風」と呼ばれていたものは、単に「台風」、「大型で並の強さの台風」は「大型の台風」と表現されるようになった。
注釈
- ^ ただし、サイクロンは、温帯低気圧を含めた全ての低気圧を意味することもある[要出典]。
- ^ ハリケーンは台風やサイクロンよりも風速の基準が高い。なお、この区域で最大風速が17.2m/s以上32.7m/s未満のものをトロピカルストームと呼ぶ。
- ^ 中心付近は遠心力が強く、中心へ収束しようとする暴風と打ち消し合う。
- ^ 例えばユーラシア大陸からの冷たい寒気が対馬暖流の上を移動する事で、下層と上層の温度差が極地方の海上並みに非常に大きくなる等して発生し得る。
- ^ 船舶向けは1997年(平成9年)7月から。
- ^ 値が空白となっている月は、平年値を求める統計期間内に該当する台風が1例もなかったことを示している。
- ^ 接近は2か月に跨る場合があり、各月の接近数の合計と年間の接近数とは必ずしも一致しない。
- ^ 括弧内は1970年 - 2000年の平均値。
- ^ 「本土」は本州、北海道、九州、四国のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指す。
- ^ 「沖縄・奄美」は沖縄地方、奄美地方のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指す。
- ^ 地方の区分については、気象庁のサイトを参照。
- ^ 「九州北部地方」は山口県を含み、「中国地方」は山口県を含まない。
- ^ 「関東地方」は伊豆諸島および小笠原諸島を含まない。
出典
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- ^ また、柳田国男は、古代語「わき」におそろしい強風という意味が含まれていなかったかと指摘している。参照:山本健吉『基本季語五〇〇選』(講談社学術文庫、1989年)600-601頁。
- ^ 高橋 1976, pp. 155–156.
- ^ 『世界大百科事典』平凡社 1998年
- ^ a b 高橋 1976, p. 155.
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