侮蔑
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侮蔑表現の言語的特徴
セマンティック・チェンジ
侮蔑語、侮辱語と捉えるか否かは所属する社会集団によって変化する。例えばハッカーはマスメディアなどで報じられることにより一般社会ではコンピュータを破壊する者、コンピュータ社会の秩序の乱す者を指す言葉として用いられるため侮辱語といえるが、元のハッカー・コミュニティー内部ではコンピュータのエキスパートという捉え方をするため決して侮辱語ではない(コンピュータ社会の秩序紊乱者を表す侮蔑語としてクラッカーと使い分けをしている)。また逆に、ある社会集団では侮蔑語であったものが、別の社会集団に取り入れられる、もしくは社会集団を超えて広く一般社会全体で使用されるようになると侮蔑語ではなくなる場合もある(例: 元は「チンピラ」を意味する「パンク」)[16]。この現象は言語学における意味変化(意味変質、セマンティック・チェンジ)の一つである。
同音異義語
日本語では、漢字を輸入した際に同音異義語が多く生じたが、文字表記においてこの特性を生かし、ダブルミーニングによる同音異義語・語呂合わせが蔑称としてよく用いられている。古くは奈良時代や平安時代に和歌や落首で、掛詞という修辞技法を侮辱に応用したものがある。江戸時代のものは多く記録に残っており、最も代表的なものは鳥居耀蔵甲斐守の耀甲斐と妖怪をかけたものがある。現代では新聞の一コマ漫画などの風刺やインターネットスラングで多く用いられる。
風刺的綴り違い
英語ではスペル入れ替えや、同じ発音でも単語の境目を変える、などの方法で同音異義語の侮辱や風刺を行うことがあり、風刺的スペル違い(風刺的綴り違い、英語Satiric misspelling)という。
- 長い単語の中の一部分を切り出すと別の単語になる場合 (Hidden puns)。無能な大統領に対しpResident(Resident=ただの住人)と揶揄したり、愛国者法はpatRiot Act(Riot Act=暴力法)にすぎないと批判したり、セラピストをthe/rapistと表記し(セラピストは強姦犯)と皮肉る、というように使われる。
- アルファベットの一部を見た目が似た記号に置き換えることがある。最も典型的なものは、対象が金に汚いという意味を込めて、S→$、E→€、L→£、Y→¥など通貨記号で置き換えるもので、マイクロソフト社 (Microsoft,MS) をMicro$oftないしM$と表記する例は世界中で用いられる。日本国内で見られるものとしては日本音楽著作権協会 (JASRAC) をJA$RA¢などと表記する例がある。
- 黒人差別などの人種差別への批判として、CやKをKKKに置き換える場合がある。具体的には、アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国に対するSouth Afrikkkaという表記例などがある。現在のアメリカ合衆国についても、Amerikkkaとの表記が使われる。
接辞の付加
日本語での侮蔑呼称には、罵倒を示す接辞をつけて表現するものがある[17]。罵倒を示す接辞には、「くそ…」「…すけ」「くされ…」などがある[17]。前置される「糞」「腐れ」などは、排泄や腐敗を意味し、ネガティブな意味を付加する。
侮辱語の前に接頭語として「ど」または「どん」をつける事によって侮辱の意味を強めることがある。ど下手、ど田舎、どん百姓など。ほか、「二級」「下等」「三流」「平」などの接頭辞を付けて、程度や価値が低いことを表現したり(二級国家、下等人種、三流商社、平社員など)、「万年」を付けて、いつまでも地位や技能が向上しないことを表現することもある(万年係長、万年補欠、万年バイエル[注 1]、万年ヒラなど)。技術が劣ることを意味する下手を下手糞、下手っぴと接尾辞を加えることもある。
ロシア語圏では、男性性器(フイ)、女性性器(ピズダ)、性交(イェバチ)を表す単語に接頭辞や接尾辞をつけたマットという罵倒語が作られ、悪態、侮蔑が行われる[9]。たとえば、性交(イェバチ)に接頭辞ポドを付加した「ポドイェバチ」は「からかう」という意味になる[9]。罵倒語マットは、動詞、名詞、形容詞、副詞、感嘆詞など多くの品詞にわたって表現がなされる[9]。
比喩による侮蔑
ゴミ・クズ・カス・クソ・糞・ウンコなどは、それぞれ一般的に価値が低いとされるもので、それを他の人や物に対する代名詞として使うことで、それらへの侮蔑表現として通用する。日本語以外でもほぼ同様である。例えば、英語Shit(糞)は侮蔑的要素が強い卑語である。
動物名に因んで、動物に喩えて、性格的特徴や身体的特徴を表現する侮蔑語がある[17]。英語圏(特に米国)に於いては、ニワトリ(チキン)は臆病者を表し、相手をチキンと呼ぶことは臆病者とののしる意味がある。中南米に於けるヤギも同様である。
日本語では、野菜の名前が侮蔑表現として機能することがある。たとえば足が太い人に対しての大根(もともと色白の足を褒める言葉だったが、後に太い足を侮辱する言葉になったとされる)・侮辱語の一つであるおたんこなす(「オタンコナス」で1つの言葉、江戸時代の花魁の符牒で「お短小茄子(=小さな男性器)」という侮辱から発生した、という説がある)・色白や細身の男へのモヤシ(っ子)[5] などがある。
存在を疎ましく感じる者、または見下すときに、有害なもの、病気を引き起こしたり汚染や公害の原因となるものに例えることがある。2003年、水戸家裁下妻支部での裁判で、裁判官が「犬のうんこも肥料として使えるのに、暴走族はリサイクルできない産業廃棄物以下」という発言があった[18]。
敬語と侮蔑語
敬語と侮蔑語は対立関係にあるが、佐久間鼎らは敬語研究は侮蔑表現も視野に入れる必要があるとした[3]。
また、尊大語を用いたり、場面にそぐわない大げさな敬語を使うことで暗に相手を侮蔑することもある。
造語
俗語、スラングとしての侮蔑語のなかには新たに作られた造語もある。漫画やアニメのファンを指す蔑称のオタクは、中森明夫の造語である[19]。しかし、アニメや漫画が日本の文化として一定の地位を築いている現在では「オタク」が蔑称としての用法は薄れつつある。
注釈
- ^ 「バイエル」は多くの日本の年少者が用いる初歩者用ピアノ教則本で、フェルディナント・バイエルが作曲した。但し、一般的には医薬品メーカーのバイエルと受け取られ、特にサッカーの世界ではバイエル・レバークーゼンに長年在籍し、または応援した者のことと受け取られるので、通常は使用しない。
- ^ タイトルに使用した漫画作品に『あばれブン屋』集英社、1996年-2001年がある。
- ^ 江戸時代の代言人(現在の弁護士)が一回三百文で代言を引き受けていたことから
- ^ 「ボッシュ」の用法は、時代的・社会背景的に前述「ジャップ」と並んで多用された経緯から、第二次世界大戦、分けても対ナチスドイツ戦線をテーマとする映画においてしばしば見受けられる。
- ^ 当時の4大女性週刊誌(週刊女性、女性自身、女性セブン、微笑〔現在は廃刊〕)が挙って採り上げ、表題でりえ痩せと称した。
出典
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品詞の分類
名詞およびサ変動詞(侮蔑) | 賤蔑 軽蔑 侮蔑 蔑如 侮慢 |
名詞およびサ変動詞(低評価) | 蔑如 愚弄 侮蔑 薄遇 藐忽 |
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