侮蔑 侮蔑の概要

侮蔑

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意義

侮蔑の類義語や現象形態は多数あり、侮蔑の類義語としては、悪態、悪口、罵倒、卑罵、憎まれ口、雑言、そしり、ののしり、皮肉、あだ名、侮辱語、蔑視語、毒舌、罵詈、罵倒、揶揄、非難、皮肉、風刺、陰口などがある[3]

学術研究では卑罵表現という言葉も用いられる[3][4]

浜田1989は、言語行動としての罵りを「対象の持つマイナス面に言及するか、あるいは、マイナスの評価を付し、対象を攻撃する言語行動」と定義している[3]

金田一春彦は「日本語百科大事典」で「喧嘩、口論、もしくは制裁などの場で、悪行を暴露して非難を浴びせ、あるいは弱点を指摘して畏縮させるなど、相手をおとしめ、自己の優位を確立しようとする攻撃的ないいまわし」として、悪口、悪態、皮肉、あてつけ、あてこすり、厭味、陰口、諷刺などを列挙した[3]

他方で、堀内1978は、「罵倒には敵意や悪意のあるものと、親しみを裏返しに表すものがある」と指摘している[3]

敵対というより一歩距離をおいて哀れんで見下げている場合は軽蔑と呼ばれることが多い。軽蔑の意図が薄く敵対的意図が強い場合は侮辱と呼ばれることが多い。風刺の意図が強い場合揶揄とも呼ばれる。

強い侮蔑を罵詈(ばり)といい、罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせるなどと表現があり[5]、侮蔑よりも誹謗中傷の意が強まる。場合によっては暴言と見なされたりする。

侮蔑対象のいないところで侮蔑する場合、陰口、かげごとと呼ばれる[5]

侮蔑に使われる言葉 (侮蔑語)

侮蔑や人種差別に使われる語を侮蔑語、蔑視語、憎悪語、不快語[2]罵語、悪態語という[6]

中国語では「罵人話」「下流話」、罵詈語、罵詈、罵話などと表わす[3]

英語ではpejorative[7] またはスラー(slur)[8](陰でこそこそと言う中傷の意味)と言う[2]。ロシア語圏ではマット(mat)という罵倒語がある[9]

侮蔑語はしばしば公の場所からは排除され、俗語となっている。

また、卑語(Swear Words)、卑罵語(profanity)などもあり、卑罵語は宗教的な冒涜語としても使用される。

特定の人物や、特定の特徴をもつ人や物事を蔑んで(馬鹿にして、見下して)呼ぶ言葉、特に正式名称のある場合の別名を蔑称(べっしょう)といい、英語では差別的な蔑称をネーム・スラー(name slur)、また人種差別的な蔑称はエスニック・スラー(ethnic slur)という[2]

代表的な日本の侮蔑語に馬鹿阿呆・間抜け、古語の「たわけ」などがある。英語ではビッチ (bitch)、マザーファッカー (motherfucker)〔臆病者〕、アスホール (asshole) など、韓国語ではセッキ새끼、ガキ)、ケーセッキ개새끼、犬ころ)、シッパル씨팔、性器)などの侮蔑語彙がある。

法と侮蔑

日本の刑法では、侮辱罪名誉毀損罪などで規定されている。言語による侮辱表現は悪口とも呼ばれ、古くは武家法御成敗式目第12条などで犯罪とされた[10]

ロシアソ連では罵倒語(マット)への検閲は厳しく、小説や学術研究も禁止されて、使用した場合は名誉毀損罪に問われた[9]。ロシア刑法では「屈辱的な発言」が使用した場合を禁止し、インターネットでも禁止されている[9]

宗教と侮蔑

日本では、神道仏教に関連した「穢れ」という概念があり、宗教的・精神的な意味で嫌悪を表現する場合、「けがらわしい」(汚らわしい、穢らわしい)という表現が使われる場合がある。

侮蔑、卑罵表現は反社会的に、タブーとされていることを破るのではないかともいわれる[3]

キリスト教圏などで侮蔑する場合はの概念を用いることが多い。

宗教戦争では相手の宗教を冒涜し、罵倒することが行われる。

ロシア正教では罵倒語(マット)の根絶を目指している[9]

社会における侮蔑

卑罵表現の機能

二重機能

李紋瑜によれば、卑罵表現は直接(顕在)的機能、間接(潜在)的機能の二重機能があるとされる[3]。直接(顕在)的機能では、敵意、憎悪、嫌悪などの感情を直接表出し、カタルシスを得る[3]。間接(潜在)的機能では親愛の表出がある[3]。例えば、親しいものに「アホ」と呼ぶことなど。このように、卑罵表現は人間を互いに敵対させる機能がある一方で、連帯や愛を生む面もあるとされる[3]

また、ロシアでの罵倒語研究では、V•ジェルビスが『罵倒の戦場 社会問題としての悪態』(2001年)において、儀礼、抑圧、悪態の三項から説明し、抑圧された気持ちが表現されたものとした[9]。またモキエンコは「悪態をつく人は昔ながらの伝統的な方法で自分のロシア的な心を吐いて、人生、人々、そして政府に対する不満を表している」とのべた[9]

冗談関係における卑罵表現

世界各地でみられる冗談をいいあう冗談関係においては、卑罵表現が使われ、どのような悪態でからかわれても、それに腹をたてないものとされる[11][12]

北部カメルーンフルベ族とカヌリ族は冗談関係にあるが、通常の冗談だけでなく、悪態、罵倒などもふくみ、「こいつはわたしの奴隷」「無用者」「犬の子」「ハイエナの化け物」「偽善者」「目も見えないくせに」といった言葉も使われ、さらには殴ったり、たたいたり、盗み、服を破ることなどの儀礼的な暴力もおこなわれる[11]

また、ポライトネス理論によれば、同じ言語行動でも、相手との関係によって言語行動の心地よさは変化していくので、攻撃的な冗談であっても許容される[12]。普通の友人であれば侮辱と取られる行動も、親友であれば互いに楽しみうる冗談とみなされる[12]

葉山大地、櫻井茂男によれば、「冗談関係の認知」という関係スキーマ(相互の関係についての知識の枠組み)によって、こうした冗談関係は変化していく[12]

差別と侮蔑

侮蔑は差別いじめ家庭内暴力においても行われる。

社会的立場が弱い人に対する差別に使われる蔑称や侮蔑語は差別用語放送問題用語放送禁止用語とされ、公の場所での使用が禁止されたり、排除の対象になることがある。しかし、差別語の排除が過剰である場合、言葉狩りとして批判されることもある。社会的立場が平均的ないし強い人に対して使われる蔑称は揶揄として取り扱われる場合が多い。近年は差別的な侮蔑発言をヘイトスピーチ(憎悪表現)として制限する動きがある。

コミュニケーションの暴力

社会学者の中村正は、家族などの親密な関係における暴力には「心理的、言語的、感情的な暴力」やネグレクト行為などがあり、これらは「個人の尊厳を傷つけるようにした卑下、降格、侮蔑、罵倒、無視、つまりコミュニケーションの暴力としてある。人の尊厳を傷つけるような儀式のようにして機能するいじめ、罵り、辱め行為がある」と指摘し、侮蔑、罵倒、卑下といった行為を「コミュニケーションの暴力」として論じた[13]

動物行動学、人間行動学から見た侮蔑

ダーウィンは『人及び動物の表情について』において軽蔑・侮蔑は嫌悪の感情、味覚嗅覚との連合があるとしている[14]

また、動物行動学人間行動学者のデズモンド・モリスによれば、言語行動は不適切な状況、時と場所で行われると侮蔑表現になりうると指摘している[15]

侮蔑表現の言語的特徴

セマンティック・チェンジ

侮蔑語、侮辱語と捉えるか否かは所属する社会集団によって変化する。例えばハッカーはマスメディアなどで報じられることにより一般社会ではコンピュータを破壊する者、コンピュータ社会の秩序の乱す者を指す言葉として用いられるため侮辱語といえるが、元のハッカー・コミュニティー内部ではコンピュータのエキスパートという捉え方をするため決して侮辱語ではない(コンピュータ社会の秩序紊乱者を表す侮蔑語としてクラッカーと使い分けをしている)。また逆に、ある社会集団では侮蔑語であったものが、別の社会集団に取り入れられる、もしくは社会集団を超えて広く一般社会全体で使用されるようになると侮蔑語ではなくなる場合もある(例: 元は「チンピラ」を意味する「パンク」)[16]。この現象は言語学における意味変化(意味変質、セマンティック・チェンジ)の一つである。

同音異義語

日本語では、漢字を輸入した際に同音異義語が多く生じたが、文字表記においてこの特性を生かし、ダブルミーニングによる同音異義語・語呂合わせが蔑称としてよく用いられている。古くは奈良時代平安時代和歌落首で、掛詞という修辞技法を侮辱に応用したものがある。江戸時代のものは多く記録に残っており、最も代表的なものは鳥居耀蔵甲斐守の耀甲斐と妖怪をかけたものがある。現代では新聞一コマ漫画などの風刺インターネットスラングで多く用いられる。

風刺的綴り違い

英語ではスペル入れ替えや、同じ発音でも単語の境目を変える、などの方法で同音異義語の侮辱や風刺を行うことがあり、風刺的スペル違い(風刺的綴り違い、英語Satiric misspelling)という。

接辞の付加

日本語での侮蔑呼称には、罵倒を示す接辞をつけて表現するものがある[17]。罵倒を示す接辞には、「くそ…」「…すけ」「くされ…」などがある[17]。前置される「糞」「腐れ」などは、排泄や腐敗を意味し、ネガティブな意味を付加する。

侮辱語の前に接頭語として「ど」または「どん」をつける事によって侮辱の意味を強めることがある。ど下手ど田舎どん百姓など。ほか、「二級」「下等」「三流」「平」などの接頭辞を付けて、程度や価値が低いことを表現したり(二級国家下等人種三流商社平社員など)、「万年」を付けて、いつまでも地位や技能が向上しないことを表現することもある(万年係長万年補欠万年バイエル[18]万年ヒラなど)。技術が劣ることを意味する下手下手糞下手っぴと接尾辞を加えることもある。

ロシア語圏では、男性性器(フイ)、女性性器(ピズダ)、性交(イェバチ)を表す単語に接頭辞接尾辞をつけたマットという罵倒語が作られ、悪態、侮蔑が行われる[9]。たとえば、性交(イェバチ)に接頭辞ポドを付加した「ポドイェバチ」は「からかう」という意味になる[9]。罵倒語マットは、動詞名詞形容詞副詞感嘆詞など多くの品詞にわたって表現がなされる[9]

比喩による侮蔑

ゴミクズカスクソ・糞・ウンコなどは、それぞれ一般的に価値が低いとされるもので、それを他の人や物に対する代名詞として使うことで、それらへの侮蔑表現として通用する。日本語以外でもほぼ同様である。例えば、英語Shit(糞)は侮蔑的要素が強い卑語である。

動物名に因んで、動物に喩えて、性格的特徴や身体的特徴を表現する侮蔑語がある[17]英語圏(特に米国)に於いては、ニワトリチキン)は臆病者を表し、相手をチキンと呼ぶことは臆病者とののしる意味がある。中南米に於けるヤギも同様である。

日本語では、野菜の名前が侮蔑表現として機能することがある。たとえば足が太い人に対しての大根(もともと色白の足を褒める言葉だったが、後に太い足を侮辱する言葉になったとされる)・侮辱語の一つであるおたんこ茄子(「オタンコナス」で1つの言葉、江戸時代の花魁の符牒で「お短小茄子」=小さな男性器という侮辱から発生した、という説がある)・色白や細身の男へのモヤシ(っ子)[5] などがある。

存在を疎ましく感じる者、または見下すときに、有害なもの、病気を引き起こしたり汚染公害の原因となるものに例えることがある。2003年、水戸家裁下妻支部での裁判で、裁判官が「犬のうんこも肥料として使えるのに、暴走族はリサイクルできない産業廃棄物以下」という発言があった[19]

敬語と侮蔑語

敬語と侮蔑語は対立関係にあるが、佐久間鼎らは敬語研究は侮蔑表現も視野に入れる必要があるとした[3]

また、尊大語を用いたり、場面にそぐわない大げさな敬語を使うことで暗に相手を侮蔑することもある。

造語

俗語スラングとしての侮蔑語のなかには新たに作られた造語もある。漫画アニメのファンを指す蔑称のオタクは、中森明夫の造語である[20]




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