ヘビ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/05 22:11 UTC 版)
分布
適応放散により地上から地中、樹上、海洋に至るまで生活圏を広げており[8]、南極大陸・極地を除く全大陸に分布する[5][6](右の図)。毒蛇は熱帯・亜熱帯に多い[9]。
形態
大きさも最大10mといわれるアミメニシキヘビやオオアナコンダから、10cm程のメクラヘビ類まで、様々な種類がある。なお世界最大の毒蛇は、全長5m以上になるキングコブラとされる。
胴と尾の区別は、一般に総排出口から先が尾とされる。骨格を見れば胴体と尾の境界はある。すなわち、胴体には肋骨があるが、尾にはない。
俗に顎を外して獲物を飲み込むとされるが、実際には方形骨を介した顎の関節が2つあり、開口角度を大きく取ることができる。さらに下顎は左右2つの独立した骨で形成され、靭帯で繋がっている。上顎骨や翼状骨も頭骨に固定されておらず、必要に応じて前後に動かすことができる。歯も喉奥に向かって反り返り、これらにより獲物を咥えながら顎を動かすことにより獲物を少しずつ奥に呑みこむことができる[10](後述のように歯の他に牙を持つものもいる)。
鱗には厚さ数ナノメートルの剥がれない脂質が潤滑油として分泌されており、これは2015年12月9日付の「Journal of the Royal Society Interface」誌で発表された研究論文によって明らかになっている[11]。
穴を掘ることができるヘビは、変形した頭や尻尾、荒い鱗など、形態が特殊な形状となっていることが多い[12]。
感覚器
視力は人間などに比べると弱い。それは、目全体を1枚の透明な鱗で覆っているためで、そのためにまばたきの必要もなく[13]、脱皮の際には目の部位も脱皮する[14]。現存する種にも目が退化したものは多い。ただし、立体的な活動を行う樹上棲種についてはこの限りではなく、視覚が発達し大型の眼を持っている種もいる。
また口内にはヤコブソン器官という嗅覚をつかさどる感覚器を持つ(ヘビ固有の器官ではない)。本科の構成種が舌を頻繁に出し入れするのはこの器官に舌が付着させた匂いの粒子を送っているためである。また一部の種では赤外線(動物の体温)を感じ取る赤外線感知器官(ピット器官)を唇にある鱗(上唇板、下唇鱗)や目と鼻孔の間に持つ。耳孔や鼓膜は退化しているため、地面の振動を下顎で感知する。
進化
ヘビの進化的起源には不明な点が多いが、有鱗目のうち、トカゲ亜目の一部から進化したと考えられている[15][16]。1億4500万年前から1億年前の白亜紀前期に派生したと推測されている[10]。Parviraptorなどジュラ紀の初期のヘビ類とされた化石はいくつか知られるものの[17]、これらが実際にヘビに関連しているかについては否定的な意見もある[18]。トカゲ類の中ではオオトカゲ下目に近いとする説がもっとも有力であったが、近年の分子系統解析から、オオトカゲ下目+イグアナ下目から成るクレードと姉妹群を成すことがわかっており、有毒有鱗類と呼ばれる[19]。(かつてはヘビと同じく四肢の退化したヒレアシトカゲ科やミミズトカゲ亜目を姉妹群とする説もあった[15]が、分子系統解析からこれらは否定され、肢の消失は有鱗類の複数の系統で独立に起こった平行進化であることが確定した。)
ヘビの祖先がどのような生活をしていたかについては、水生だったとする説と陸生・地中生だったとする説が対立しており[10][15][16][20]、決着は着いていない。水生説では、ヘビがモササウルス科[20] やドリコサウルス科[10] のような海生オオトカゲ類に近縁であることから、オオトカゲから派生して海中で自在に動けるように進化したと考える[10][15]。特に、約9800万年前の地層から見つかったパキラキスがオオトカゲ類の特徴を残す祖先的なヘビであるとする研究は、水生説を強く支持している[16][20]。パキラキスは前肢を持たず後肢のみを持つヘビで、形態的な特徴から水生であったと考えられる。しかし、パキラキスが祖先的であることを疑う意見もある[20]。
水生説に対して、ヘビが中耳と鼓膜を失っていることや、進化過程で一度網膜が退化したとみられること、脳頭蓋が骨で保護されること、瞼が無く眼が透明な鱗で覆われていることなどは、ヘビの祖先が地中生活をしていたことを強く示唆する[15]。ただし、固い地面を掘り進んでいたとすれば生じたはずの頭蓋骨の強化(ミミズトカゲ類には生じている)はヘビには見られず、地中起源だとしたら軟らかい土壌に住んでいたか[15]、既にある穴や割れ目を利用する半地中生だったと考えられる[16]。化石では、後肢と椎骨を残すナジャシュ、四肢を完全に失ったヘビの中では最古であるディニリシア、頭部にトカゲの特徴(上顎の骨が頭骨に固定されている)を残し地中生だったと推測されるコニオフィスが陸生であることが、陸生説を支持している[10][21]。
2015年には四肢を残す初期のヘビ類としてテトラポドフィスが記載された[22]。しかしながらこの化石は分類が不確実であり、いくつかの研究はこの標本は実際にはドリコサウルス科の一種である可能性が示された[23][24]。化石はブラジルからドイツに不法に輸出されたものとみられており、他の研究者は実際の標本が研究できないことがその分類の混乱を引き起こした[25](当該化石は2024年にブラジル国立博物館に寄贈された)[26]。
体形に合わせて内臓も細長くなっており、2つの肺のうち左肺は退化している。原始的なヘビほど左肺が大きい傾向にある。
一部のヘビには、総排出腔の両脇に後ろ足の名残として蹴爪が見られる。
ヘビの足
四肢を失う進化(退化)自体はそれほど珍しいものではなく、両生類の無足類もまさに同様の進化を経た分類群である。現生のトカゲ類においてもアシナシトカゲやヒレアシトカゲのように四肢が無いかほとんど無いいくつかの群がある。鳥類ではモアが前肢(翼)を失い、哺乳類ではクジラやイルカの後肢が退化している[27]。
四肢に関しては、生まれる前の胚の段階で、2本の脚の原基(肢芽)が確認されており、ソニック・ヘッジホッグ遺伝子の制御を行う遺伝子スイッチ「エンハンサー」の3因子に変異が起きて足を形成せず破壊してしまっている[28][29]。メクラヘビやニシキヘビ科など一部の原始的なヘビに腰帯の痕跡器官を持つ種類がある。一部のニシキヘビには大腿骨も残っている[28]。なお、肩帯のある種類は現存しない。
初期のヘビ類であるパキラキスやEupodophis、Haasiophisやナジャシュなどは後肢を残していた。
移動するための四肢を失ったとはいえ、ヘビはその細長い体によって地上や樹上、水中での移動を可能にし、高い適応性を示している[16]。地上での移動方法にはいくつかの種類があり、代表的なのは以下のものである。
- 蛇行 (行動)
- 直進(腹筋を動かして直進する)
- 横這い(上半身を移動する方向へ持ち上げた後、下半身を引き寄せる。「サイドワインダー」の語源)
-
2本の足を持つEupodophis descouensi
-
胚の状態のマウス(左)とヘビ(右)
-
直進移動(パフアダー)
-
横這い移動
毒
ヘビといえば「長い体」の次に「毒」が連想され、実際、有毒な爬虫類の99%以上はヘビが占めている(ヘビ以外にはドクトカゲ科2種のみとされてきた)。全世界に3000種類ほどいるヘビのうち、毒を持つものは25%に上る。威嚇もなく咬みつく攻撃的で危険な毒蛇もおり、不用意に近づくのは危険である。
毒蛇は上顎にある2本の毒牙の根もとに毒腺があり、毒液を分泌する。クサリヘビ科の種では牙の中は注射器のように管状で毒牙の先に毒液を出す穴がある。コブラ科では牙が管状ではなくその表面に毒液が毛細管現象で流れる溝がある種が多いが、毒牙がほぼ管状になっている種もある。従って、この二者を明確に分けるのは毒牙が管状か否かではなく、毒牙が折り畳み式か否かであり、前者を「管牙類」、後者を「前牙類」と呼ぶ。なかには口を開けて毒牙から毒液を噴射するクロクビコブラやリンカルスのような種類もいる(両者の毒牙は牙前方中ほどに毒腺の穴があいており、2mほど先の標的に正確に毒液を命中させることができる)。クサリヘビ科でもマンシャンハブのように毒液を噴射するものがいる。日本にも分布するヤマカガシの仲間はアオダイショウなどと同じナミヘビ科だが、上あごの奥の牙と首筋の皮膚の2ヶ所から毒を分泌する。これらの仲間は無毒とされてきたが最近になって毒ヘビとして認識されるようになった。実際に日本で人が死亡した例もある。ナミヘビ科の有毒種は毒牙の位置から「後牙類」と呼ばれる。
最も強い毒をもつのはオーストラリアに生息するナイリクタイパンである。その他、非常に攻撃的なタイパンやアフリカ最強の毒蛇であるブラックマンバ、タイガースネーク、アマガサヘビ、幾つかのウミヘビなど。
「頭が三角形のヘビは毒蛇」といわれるが、必ずしも正しいとは言えない。確かに毒を持つクサリヘビ科のヘビ、ハブやマムシは、頭が三角形のような形。ほかのクサリヘビ科のヘビも三角形のような形である。だが、コブラ科のナイリクタイパン、ブラックマンバ等の頭は、三角形というよりは、いわゆる「蛇の頭」形。日本に生息する猛毒を持つナミヘビ科の、ヤマカガシも頭は三角形ではない。また、日本の、毒を持たないヘビ、アオダイショウやシマヘビは、毒の代わりに威嚇するため、頭が三角形に広がることがある。
また、無毒のヘビであっても咬まれれば唾液に含まれる細菌等の影響で感染症を起こす場合がある。さらにこれらのヘビの歯は、くわえた獲物を逃さないよう先端が内側(のど)に向かって曲がっている上に細いため、無理矢理引きはがすと皮膚に食い込んだまま折れてしまう危険がある。
クサリヘビ科に代表される「出血毒」は、消化液(唾液)が変化したもので体の各部に皮下出血を起こし、組織を破壊されて死に至る。これは蛋白質が消化されたために起こる症状である。
コブラ科の構成種に主に見られる「神経毒」は文字通り中枢神経を冒して、咬んだ動物を麻痺状態にし、ヘビはその間に獲物を捕食する。強毒種では出血毒と神経毒の両方の作用がある。毒ヘビに咬まれたときは血清による治療をうける必要がある。
生態
森林、草原、砂漠、川、海等の様々な環境に生息する。環境に応じて地表棲種、樹上棲種、地中棲種、水棲種等、多様性に富む。変温動物なので、極端な暑さ寒さの環境下では休眠を行なう。
膀胱はなく腎臓から排出された老廃物は、ほとんど水分のない粒状の固形物の形で尿管を通り総排出腔から排出される。
呼吸は、人間などのように横隔膜がないので、肋間筋(intercostal muscle)によって肺の膨張圧縮を行う。
寒い地域では、ヘビは冬眠する[31]。繁殖期や冬眠になると群れを作る。また、キューバボアは集団で戦略的な狩りを行う[32]。
- 食性
- ヘビイチゴなどのように植物性のものを食べるという話はあるが、食性は全てが動物食で、主食はネズミ、リス、ウサギ、カエル、鳥類など種類によって異なる。大型の種類ではシカやワニ、ヒト等を捕食することがあるが、変温動物で体温を保つ必要がないため、食事の間隔は数日から数週間ほどである。獲物を捕食するときは、咬みついてそのまま強引にくわえ込む、長い胴体で獲物に巻き付いて締め付ける、毒蛇の場合は毒牙から毒を注入して動けなくする等の方法がある。
- コブラ類を初めヘビを食べるヘビも多い(自らも相手も体が細長いので食べ易い上、栄養を多く摂取できるからだと考えられている。多くのウミヘビ類がアナゴやウナギ等をよく食べるのも同じ理由であると考えられている)。
- 感覚器
- 舌ににおいの分子を吸着させ、口の中の鋤鼻器(ヤコプソン器官)で匂いを確認するため、舌をチロチロと出す動作を行う。また、一部の種は、夜間でもピット器官によって熱を感知して獲物を判断する。
- 外耳がないため、空気中の音をとらえることは出来ず、内耳で地面の振動を感知する。
- 行動
- とぐろを巻く
- 泳ぐ。
- 水陸両棲のウミヘビは、23-141 cm/sで陸上より早く移動できる[36]。
- 陸上移動方法は多彩である。
- 穴を掘る。
- 形態が変化した頭や尻尾を使い穴を掘る[12]。
- 跳躍する。
- 噛みつきや逃げる時などに見られ、逃亡中に行く手を遮るものに対してブロックト・ファイト(blocked-fight)という激しい攻撃を行う際にも見られる[39]。
- 樹上
- 木に登る方法として、アコーディオン式運動、投げ縄式運動(lasso locomotion)がある[40]。
- 特殊な行動
- 脱皮
- 脱皮する。だいたい1-2か月に1回の頻度で、活動の多い夏に多く、冬には頻度が低下する[44][45]。まれに失敗して、脱皮不全を起こし、脱皮できない場所が壊死したり感染症を起こすなどがある。また、ストレスや環境が合わない場合は短期間で脱皮を繰り返すようになる[46]。
注釈
- ^ とりわけ関東地方西部から中部地方にかけての勝坂式土器様式には、写実性に富むものから抽象的なものまで様々な造型がみられる[55]。こうした蛇体文の成立過程をみていくと、土器文様の立体化ならびに加飾性の進展という2つの法則性がみられ、ことに立体化の最終段階に火焔土器が位置づけられる[54]。ただし、縄文人の意識におけるヘビの存在は、能登健(考古学)によれば、ヘビが最初にあってそれが文様にとけ込んだというよりは、むしろヘビをモチーフにしなかったにもかかわらず結果としてヘビに見えたため頭がつけられてヘビになったというプロセスを経ての装飾化であるという[54]。
- ^ 日本の伝統的な焼畑農業に際しては、焼畑開始にあたってヘビに一時退散の唱文が述べられるが、これは地神に許しを請う行為と理解されている[56]。また、『常陸国風土記』には継体天皇の時代のこととして新たな水田を開発しようとしたが夜刀(ヤト=谷戸、すなわち荒蕪地)の神であるヘビに妨げられたとの説話が収載されており、『古事記』や『日本書紀』にはスサノオノミコトの八岐大蛇退治の伝説がある[56]。いずれも地神であるヘビの排斥に関連する伝承である[56]。
- ^ ブームスラングは、ナミヘビ科の毒蛇。日本語版のハリー・ポッター作品では「毒ツルヘビの」と訳されている。詳細はハリー・ポッターシリーズの魔法薬一覧を参照。
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- ^ 弱っていた毒蛇を助けた農夫が、元気になった毒蛇に殺されてしまう話(恩を仇で返す)
- ^ 蛇が不慮の事故で農夫の息子を噛み殺し、農夫の不注意で蛇の尾を切ってしまったことで友情が終わる話(壊れた友情を直すことはできないということ)
- ^ 信濃生薬研究会 1971, p. 23.
- ^ 信濃生薬研究会 1971, p. 90.
- ^ 佐久市志編纂委員会編纂『佐久市志 民俗編 下』佐久市志刊行会、1990年、1385ページ。
- ^ “serpentariumの意味・使い方・読み方”. eow.alc.co.jp. 2022年8月31日閲覧。
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