紙 紙の製造

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/14 09:32 UTC 版)

紙の製造

紙の作り方

『天工開物』での竹紙の作り方

紙は、植物繊維から次の手順で作る。

  1. 植物繊維を取り出す
  2. 紙をすく
  3. 脱水・乾燥する

こうした紙の作り方は、古代中国で発明されて以来、基本的には変わっていない。中国で末の1637年に書かれた『天工開物』では、竹紙の作り方を次のように記述している。

  1. 斬竹漂塘 - 竹を切り、ため池に漬ける
  2. 足火 - 十分に煮る
  3. 蕩料入簾 - 竹麻を簾(れん)ですく
  4. 覆簾壓紙 - 簾をひっくり返し、紙を積み重ねる
  5. 透火焙乾 - 火を通し、紙を焙り乾かす

植物繊維を取り出す

伝統的な製紙方法では、原料となる植物や木綿やアサのぼろを、アルカリ性の溶液で煮て、軟らかくする。こうして取り出した植物繊維は、パルプに相当する。また、古紙を水につけてパルプを作ることもできる。例えば、牛乳パックからパルプを作ることができる。

植物から繊維を取り出して紙をすくときには、パルプを叩き、繊維が切断・水和・膨潤・絡み合うようにする作業が必要である。こうした作業を叩解(こうかい) という。パルプを叩解すると、繊維はまず内部フィブリル化し、次に外部フィブリル化する。

  • 内部フィブリル化 - 繊維の組織がゆるみ、軟らかくなる。
  • 外部フィブリル化 - 繊維の表面から、ごく短い繊維の束(フィブリル)が出てくる。
紙漉き。イタリアモンセーリチェの中世祭にて

紙をすく

水に溶かしたパルプを簀の子すのこ)や網の上に広げることを「すく」という。「すく」は、手で行う場合は「漉く」、機械で行う場合には「抄く」と表記する。手漉きの場合、紙は1枚ずつすく。一方、機械抄きの場合は連続して紙をすくため、高速で紙を製造できる。

紙料

パルプを水に溶かして散らしたものを紙料(原質、完成原料)といい、紙料から紙は作られる[22]

木材パルプ

木材は、1840年代に木材パルプの製造方法が確立して以来、紙の原料として使われるようになった。日本では、1889年に最初の木材パルプ工場が建設された。木材パルプの原料にはもともとマツ科を主とする針葉樹が使われており、やがて広葉樹も使われるようになった。針葉樹の繊維は広葉樹の繊維より太く長いため、一般的に針葉樹から製造した紙の方が強い。日本では1960年代から広葉樹がつかわれはじめ、その後は広葉樹の方が多くなっている。強度が求められる新聞巻取紙や紙袋、封筒、飲料用紙パックなどでは針葉樹が使われることが多い。一方、現在の印刷・情報用紙の多くは、広葉樹が主原料になっている。

針葉樹では仮道管が、広葉樹では木繊維細胞が主に使われる。その他の組織も紙の中に入り込むが、広葉樹の場合、導管要素は細胞が大きく、成形の不揃いや印刷適性の劣化を生じてしまう[2]

古紙

古紙は木材チップとともに主要な製紙原料である[22]。現在、古紙の利用率は世界で約50%と推定されている。日本では約60%である。

古紙を元に紙を作ることは紙の発明直後から行われていたと考えられ、1100年ごろの中国では古紙再生が奨励されている[2]。日本では平安時代故人が生前に書いた手紙などを漉き直し、法華経を筆写して供養することがあり、これは「故紙」と呼ばれた[2]。江戸時代には江戸の浅草紙、京都の西桐院紙、大阪の港紙などの再生紙が存在した[22]

紙は排出されるゴミに占める比率が高く、家庭では25%、オフィスからは46%(1988年度)が相当する。これらが古紙として再生されることはゴミ軽減の効果が大きい[2]

洋紙の製造

洋紙の製造では、幅広の紙を機械を使って連続的に抄くため、大量生産が可能となっている。洋紙製造には、次の工程がある。

  1. パルプ化工程
  2. 調成工程
  3. 抄造工程
  4. 塗工工程
  5. 仕上・加工工程

パルプ化工程

右手の高い塔が蒸解釜

パルプは、その後の工程と同じ工場の中で製造する場合と、別の工場で製造する場合がある。パルプ製造とその後の工程を両方とも行う工場は、紙パルプ一貫工場と呼ばれる。

洋紙の製造過程では多くの場合、木材からパルプを製造する。木材から製造するパルプは、製造方法により機械パルプと化学パルプに大別される。現在、化学パルプでは、クラフトパルプが一般的である。また、古紙から作るパルプも多く用いられており、古紙脱墨パルプと呼ばれる。白い紙を作る場合、パルプ製造過程でパルプを漂白する。漂白したパルプは、晒しパルプと呼ばれる。

近代的な工場では一般に蒸解釜が使われるが、1950年代までは蒸気加熱したチップを蒸解釜に仕込む1ベッセル方式が主流であった。スウェーデンのカミヤ社が開発した連続式パルプ化方式が実用化されたあとは現在に至るまでチップを蒸気加熱後に、浸透タワーを経由してから蒸解釜に仕込む2ベッセル方式が主流となった。木材からパルプを取り出すにはまず、パルプを煮て柔らかくする必要があり、長時間高温・高圧で煮込む。この方式には釜の大きさに応じた量を1回ごとに煮込む「バッチ式」と、連続して煮込む「連続式」があるが、チップを縦に細長い円筒容器の頂部から投入し、薬液と混入し煮たのち、底部から連続的に取り出す方式が連続蒸解釜であり、カミヤ式連続蒸解釜が主流となった。2ベッセル方式のメリットは、薬液浸透の難しい樹種にも蒸解薬液(白液)をチップに充分にしみ込ませることが可能である点であり、1970年代に開発された[25]。製紙会社によく見る、巨大な塔はこの蒸解釜である。

調成工程

調成工程では、各種パルプを混合し、叩解し、薬品を添加する。叩解には、かつてはビーター、現在はリファイナーという機械が使われる。調成工程を経たパルプを、紙料という。

抄紙工程

抄紙工程では、抄紙機を使い、紙料を1%程度に水で薄めたものを原料に、次の工程で紙を抄く。

  1. ワイヤーパート- 紙料を、網(ワイヤー)の上に流して薄く平(たいら)にすることで、湿紙を作る。水分が重力によって脱落し、紙料の水分は99%から80%程度になる。
  2. プレスパート - 湿紙にフェルト(毛布)を当てて上下から圧縮することで、水分を搾り取る。この工程で、湿紙の水分は55%程度になる。
  3. ドライヤーパート - 湿紙を加温して水分を蒸発させ、水分が8%程度になるまで乾燥させる。

塗工工程

塗工紙の場合は、コーターを使い、紙の表面を顔料などで塗工する。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするオンマシン式と、抄紙とは別工程とするオフマシン式がある。

ロール状の原紙

仕上・加工工程

乾燥し、抄紙機またはコーターから出てきた紙は、次の工程で仕上・加工する。

  1. カレンダリング
  2. リールによる巻き取り
  3. ワインダーやカッターで断裁
  4. 包装
  5. 出荷

紙に添加される薬品

各種洋紙に添加される主な薬品は次の通り。薬品は、調成工程でパルプに混合されたり、塗工工程で紙の表面に塗工されたりする。機械抄き和紙にも合成ねり(粘剤)などの薬品が用いられている。詳細は製紙用薬品を参照。

サイズ剤
水性インクなどのにじみを防ぐ。かつてはロジンと硫酸バンド(硫酸アルミニウム)が広く使われており、そうした紙は酸性紙という。酸性紙は寿命が50年から100年で、図書館での蔵書の保管などで寿命が短すぎることが大きな問題になった。中性紙は、硫酸バンドの代わりに、AKDやASAなどの中性サイズ剤を用いており、寿命は酸性紙の4倍から6倍といわれている。現在、印刷用紙やPPC用紙では中性紙が使われることが多く、酸性紙は新聞や雑誌など長期保存の必要がない用途で使われる。
填料
繊維間の隙間を埋め、不透明度・白色度・平滑度・インク吸収性を向上させる。従来からカオリンなどのクレー(白色粘土)やタルク(滑石)が使われているほか、中性紙では炭酸カルシウムが使われる。填料は、印刷用紙やPPC用紙などには5%から20%程度、辞書などに使う薄葉印刷用紙では25%程度が含まれる。
紙力増強剤
紙の強度を高くする。紙が乾いた状態での強さを上げる乾燥紙力増強剤と濡れた状態での強さを上げる湿潤紙力増強剤に分かれる。主にデンプンポリアクリルアミドが使われる。
染料
染料は、紙に色を付けたり、白さを高めたりする。白さを高めるには、繊維の黄色の補色である青色の染料が使われる。また、書籍などでは、文字を読みやすくするため、淡い黄色の染料を使う。蛍光染料は、白さを特に高めるために使う。
塗料
高級印刷用紙などの美感や平滑さを高める目的で塗料が紙の表面に塗布されることがあり、そうした紙は塗工紙という。塗料は、カオリン炭酸カルシウムなどの白色顔料と、デンプンやラテックスなどのバインダー(接着剤)を混合して作る。

生産・消費量

日本製紙連合会の調べによれば、2012年における世界の紙・板紙の生産量は、前年比0.4%増の約4億トン。国別生産量のトップは中華人民共和国で10,250万トン。次いでアメリカ合衆国の7,438万トン、日本2,608万トンは世界3位に位置している。国民1人当たりの消費量のトップはベルギーで約318kg。次いでオーストラリアの約252kg、ドイツの約243kgが続く。日本は約218kg。

2017年の世界の紙・板紙生産量は、4.2億トンと2016年比1.7%増加。北米や欧州、日本などのこれまでの紙パルプ産業をけん引してきた国が、シェアを落とす中、アジア地域の存在感が増してきている。[26]


注釈

  1. ^ 民営化前における官製はがきのこと。

出典

  1. ^ 日本印刷技術協会編、『製本加工ハンドブック 〈技術概論編〉』日本印刷技術協会(2006/09 出版)、ISBN 9784889830880
  2. ^ a b c d e f g 原 p.71-147 4.洋紙のレシピ
  3. ^ a b c d e f 原 p.15-33 1.紙の来た道“ペーパーロード”
  4. ^ 原 p.35-59 2.文化が育てた“紙”、紙が育てた“文化”
  5. ^ 日本包装技術協会『包装の歴史、3.包装産業の発達』日本包装技術協会、1978年、111-125頁。 
  6. ^ a b 小平征雄, 福田隆真, 梅田素博「目的造形における紙の技法と教材の分類」『北海道教育大学紀要 第1部 C 教育科学編』第39巻第2号、北海道教育大学、1989年3月、p161-177、doi:10.32150/00003593ISSN 03864499NAID 1100043813642023年4月26日閲覧 
  7. ^ a b c d e f g h i 石井大策「スピーカ振動板材料 : 主要材料と技術動向」『日本音響学会誌』第66巻第12号、日本音響学会、2010年、616-621頁、doi:10.20697/jasj.66.12_6162020年6月23日閲覧 
  8. ^ 小林亜里. “中国竹紙紀行~竹紙のふるさとを訪ねて~” (PDF). 2017年10月1日閲覧。
  9. ^ バガス(非木材紙)普及事業”. 地球と未来の環境基金(EFF:Eco Future Fund). 2017年10月1日閲覧。
  10. ^ 人と自然の未来環境のために”. 五條製紙. 2017年10月1日閲覧。
  11. ^ バナナ・グリーンゴールド・プロジェクト
  12. ^ 羊毛紙|紙を選ぶ|竹尾 TAKEO
  13. ^ a b カミグループ・技術開発 | カミ商事株式会社
  14. ^ a b c d 小泉正弘「高填料充填紙について」『紙パ技協誌』第42巻第11号、紙パルプ技術協会、1988年、1022-1028頁、doi:10.2524/jtappij.42.10222020年6月23日閲覧 
  15. ^ 環境性に優れたストーンペーパーのことは株式会社富士美術へ
  16. ^ [1][リンク切れ]
  17. ^ ガラス繊維紙グラベスト|製品情報|オリベスト株式会社
  18. ^ 炭素繊維紙カーボライト|製品情報|オリベスト株式会社
  19. ^ 陶芸紙の扱い方 | ツチノココロ
  20. ^ 化粧紙 - 注目商品 - 事業案内 - 日本紙パルプ商事株式会社
  21. ^ a b c 元興寺文化財研究所. “国立公文書館所蔵公文書等保存状況等調査”. 国立公文書館. 2020年6月22日閲覧。
  22. ^ a b c d e f g 小宮英俊. “紙のはなし”. 日本印刷産業連合会. 2020年6月22日閲覧。
  23. ^ 紙のはなし編集委員会『紙のはなし Ⅰ』技報堂出版、1991年7月30日、2頁。ISBN 4765543072 
  24. ^ 羊皮紙とは
  25. ^ 公益財団法人紙の博物館
  26. ^ 日本製紙連合会 世界の紙・板紙生産量 2017年
  27. ^ a b c 原 p.149-180 5.紙に要求される機能
  28. ^ アビゲイル・セレン、リチャード・ハーパー『ペーパーレスオフィスの神話』(創成社、2007)





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