紅茶
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紅茶の歴史
茶の歴史
17世紀
1679年、イギリス東インド会社がロンドンで初めてティー・オークションを開催し、3樽の中国産のボヘア茶(ボビー)が競売にかけられた[21]。ボヘア茶は中国では粗悪な茶として扱われていたが、イギリスではこれが珍しい茶として扱われ、後世の紅茶につながったといわれている[21]。
18世紀
1712年頃にはイギリス東インド会社が中国茶のヨーロッパへの輸入を独占するようになった[22]。1717年にはトーマス・トワイニングが紅茶専門店「ゴールデン・ライオン」を開業して成功を収めている[22]。また、1765年にはいわゆる砂糖革命が起き、中産階級への普及が進んだ[22](砂糖法も参照)。
1773年にはイギリスがフランスとの戦費調達のために重税を課したのに反発した英領アメリカのボストンの住民がイギリス船の茶箱を海に投棄するボストン茶会事件が発生している[22]。
19世紀
1823年、イギリスはインド北部のアッサム地方へのビルマ支配に対抗してイギリス東インド会社の軍隊を送って制圧[22](第一次英緬戦争)。この戦いにイギリス軍の少佐として従軍したロバート・ブルースが後にアッサム種として知られる茶を発見し、中国から茶師を招いて茶の生産を始めた[23]。
紅茶の文化
ヨーロッパで多く飲用される。世界で最も頻繁に紅茶を飲むと言われるイギリスでは[注 3]、朝昼晩の食事だけでなく、起床時、午前午後の休憩にもお茶を楽しむ習慣がある。このため、茶器、洋菓子なども発達し、洗練された。なお、紅茶の文化は18世紀にアイルランドに伝わり、2008年時点で国民一人当たりの消費量ではアイルランドがイギリスを抜いて世界一となっている。
イギリス
1日に数回のティータイムなど、紅茶はイギリス人の生活と深く結びついている。例えば核戦争が真剣に議論された1950年代には、「もし核戦争が起こった場合、紅茶が不足するという深刻な事態が起こる」「パンや肉と並び、紅茶の備蓄の必要性がある」といった議論が政府内で行われていた[24]。
紅茶の入れ方は、ISO 3103によって国際標準規格として制定されている。この規格の元になったBS 6008:1980を1980年に定めた英国標準協会は、1999年度のイグノーベル賞文学賞を受賞した。
スリランカ
1972年にセイロンは国名をスリランカ共和国に変更したが、同年に茶園の国有化を行った[25]。スリランカの茶園が民営化されたのは1990年のことである[25]。
日本
普及
日本では1927年に国産の三井紅茶が発売された[25]。1939年には日本紅茶協会が設立されている[25]。
外国産紅茶の輸入が自由化されたのは1971年である[25]。
現代では喫茶店や家庭で淹れる紅茶以外に、ペットボトル入り(午後の紅茶など)が市販されている。カフェ・ラッテ(カフェラテ)のコーヒー代わり(紅茶ラテ)や菓子・スイーツの風味付けにも用いられており、抹茶の製法を応用して粉末にした紅茶も商品化されている[26]。
資格
紅茶に関連する資格としては日本創芸学院が認定する紅茶コーディネーター、日本紅茶協会が認定するティーインストラクターがある。
紅茶の化学
紅茶の作用
紅茶に含まれる紅茶ポリフェノールに風邪やインフルエンザに対する有効性があるとして注目されている。日常的に飲用することに加え、紅茶を用いてうがいを行うことも予防に有効とされている。また、虫歯予防(フッ素)、食中毒予防(エピガロカテキンガレート)、コレステロール・血圧降下(紅茶フラボノイド、タンニン)、肌の老化防止(カテキン)等の作用もあると報告されている[27]。
紅茶の成分
カフェイン
紅茶茶葉中には、重量にして3%程度カフェインが含まれる。この量はコーヒーの3倍の量に当る。しかし、1杯当りに使用する茶葉・豆の量(抽出の効率も)が異なるため、飲用時のカフェイン濃度はコーヒーの方が高くなる。紅茶の飲用時のカフェイン濃度はコーヒーに比べ半分程度とされるが、品種や抽出条件(加えてコーヒーでは焙煎状態)により大きく変化するため、厳密に評価するのは難しい。なお、紅茶に含まれるカフェインはタンニンと結びつくためにその効果が抑制されることから、コーヒーのような覚醒的作用は弱く緩やかに作用する。
タンニン
紅茶におけるタンニンは、エピカテキンやエピガロカテキンなどのカテキン類とその没食子酸エステル誘導体が主となっている。一般に、カテキン類は苦味を、その没食子酸エステル誘導体は渋味を持つといわれる。生茶葉中にも多量に存在する。紅茶製造においては、発酵過程において生成されるテアフラビンなどの赤色色素の前駆体となっており、その抽出液の茶湯の水色に大きな影響を与える。なお、タンニンはポリフェノール化合物の一種でもある。紅茶には、茶葉重量の11%程度タンニンが含まれている。生茶葉中に、乾燥重量に換算して20 - 25%含まれる。生産量の面で主力となる変種のアッサムチャはタンニンの含量が基本変種に対し1.2 - 1.5倍程度多い。
呈色成分
紅茶の茶湯の水色は主に紅茶フラボノイドによって決まる。紅茶特有の呈色成分として知られるテアフラビンとテアルビジンが良く知られており、これらの茶湯の水色に与える影響は大きい。この二つの成分が多いほど、茶湯の水色は鮮やかな濃い赤色となり、良品とされる。
香気成分
紅茶の香気はリナロール(レモン様)やゲラニオール(花のような)といったテルペン類による影響が強いが、その他にも青葉アルコール(ヘキセノールのこと。青臭い若葉)などのアルコール類、青葉アルデヒド(ヘキセナールのこと。青臭い若葉)のようなアルデヒド類、ネロリドール(ウッディな)、サリチル酸メチル(湿布薬)をはじめ多くの物質が関与している。
なお、リナロールやゲラニオールなどのテルペン類は、生茶葉中では配糖体など不揮発性の前駆体として存在しており、これが萎凋や発酵の過程で遊離すると考えられている。
萎凋における香気成分の変化
萎凋の際、生茶葉に含まれる青葉アルコールや青葉アルデヒドは蒸散し、次第に減少して行く。一方、細胞内の酵素の作用によりテルペン系の香気成分が集積してくる。
発酵における赤色色素の生成
茶葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼ(ラッカーゼとも言うEC 1.10.3.2)の作用により、カテキン類(タンニンと考えても良い)が酸化重合し、テアフラビン(橙赤色)やテアルビジン(赤色)などの赤色色素が生成する。これらの物質は茶葉に元々含まれる紅茶フラボノイドとともに茶湯の水色を決定する。また、この際、いくつかの香気成分も生成される。
乾燥における香気成分の変化
乾燥における熱風処理でかなりの香気成分が散逸する。また、糖のカラメル化も起こる。また、水分量が激減するため、製品の品質は安定する。
淹れた紅茶の化学
紅茶の茶湯の水色は、抽出に用いた水の硬度により大きく変化する。硬水(ミネラル成分が多く、いわゆる硬度が高い水)はミネラルがタンニンなどと結合して沈殿を生じ、茶湯の水色は呈色成分と併せて濃く暗い色調となる。炭酸カルシウム沈殿物とフェノール凝集体が浮いてくる場合もある。蜂蜜を入れた場合も蜂蜜中の鉄分がタンニン鉄を生じてやはり色が濃くなる。
逆に、紅茶にレモンを入れると茶湯の水色は薄くなる。これはレモンに含まれるクエン酸が、呈色成分のテアフラビンに働き、残ったテアルビジンの色のみになるためである。この変化は酸性によって働くため、レモン以外の柑橘類、酢酸などでも同様になる。このテアフラビンはアルカリ性で逆に色が濃くなるが、これはさきほどのミネラル成分との結合とは反応が異なる[28]。
茶葉に含まれるタンニンは、革なめしにも使用されている程、タンパク質と結合して変性しやすい成分である。紅茶では、口の中の粘膜に含まれるタンパク質と反応し、これが「渋み」の原因になる。タンニンは軟水に抽出されやすく、硬水では反応により口に入るタンニンが減るため軟水よりも渋くならない。このため、飲料水の硬度が比較的高い欧州では、緑茶よりも紅茶が好まれている。ただし、茶湯に茶葉を浸している時間が長ければ、茶葉からタンニンが大量に抽出されるため硬水といえども味は渋くなる。茶葉からタンニンが出てくるまでには時間がかかるため、なるべく熱水で紅茶の茶葉を蒸らす時間を加減して、茶葉を早めに引き上げることで、タンニンの抽出が抑えられる。タンニンはミネラルとも反応して沈殿を生じるため、特にタンニンのある紅茶を含む茶類の飲み過ぎは貧血の原因になると指摘されることがある。既に赤血球中にヘム鉄として取り込まれた鉄には影響せず、疾病を伴うものでない限りバランスよく摂れば影響はない。しかし、タンニンなどのポリフェノール類は、体内での働きや他の物質との相関作用はまだ研究途上であり、程度を超えた過剰摂取は体によくない[29]。
風味には好みがあるが、理想的にはほどほどの無機物を含んだ中性に近い水がよいとされる。完成した紅茶はPh5前後のやや酸性の液体となり、風味のバランスが良くなる。蒸留水で紅茶を淹れると深みのない平坦な味になる[30]。
注釈
出典
- ^ 文部科学省『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』
- ^ “世界最高の紅茶産地 ダージリン”. ルピシアだより No.244. ルピシア (2016年5月). 2023年1月23日閲覧。
- ^ Peter G. W. Keen (2016年3月15日). “Clonals - the tea of the future”. Still Steeping. Teabox. 2023年1月23日閲覧。
- ^ 日本紅茶協会『紅茶の大事典』成美堂出版、2013年、263頁。
- ^ a b 日本紅茶協会『紅茶の大事典』成美堂出版、2013年、267頁。
- ^ a b Bruce Richardson (2022年4月14日). “Understanding Tea Blends”. Tea Time Magazine. Hoffman Media. 2022年9月27日閲覧。
- ^ Emily Han (2022年8月3日). “What's the Difference Between English, Irish and Scottish Breakfast Teas?”. kitchn. Apartment Therapy. 2022年9月27日閲覧。
- ^ お茶百科「紅茶の主要産地 スリランカ」伊藤園、2015年7月20日閲覧
- ^ 日東紅茶「紅茶のマメ知識 紅茶の産地」
- ^ a b 「鵜方紅茶」復活へ着々 三重・JA伊勢 専用品種、新たに作付け『日本農業新聞』2020年5月6日(2面
- ^ 丸子紅茶 | しずおか葵プレミアム
- ^ 静岡県/発酵茶ラボとは?
- ^ a b 紅茶の会
- ^ 【食のフロンティア】「和紅茶」クセ少なく人気/杉の葉使った商品も登場『日経MJ』2018年3月5日(フード面)
- ^ 桑原 珠玉「19世紀カリスマ主婦が説く紅茶の入れ方」All About(2015年7月23日閲覧)
- ^ フクナガヒストリー、食に歴史あり 洋食・和食事始め(産経新聞出版)
- ^ http://www.tea.co.uk/tea-faqs
- ^ FAQ About TeaUK Tea & Infusions Association(2020年5月22日閲覧)
- ^ a b c 島尾伸三『中国茶読本』(平凡社 <コロナ・ブックス> 1996 ISBN 4-582-63307-2)pp.57-64.
- ^ 石毛直道『食文化 新鮮市場』(毎日新聞社、1992年)pp.193-199
- ^ a b 日本紅茶協会『紅茶の大事典』成美堂出版、2013年、257頁。
- ^ a b c d e 日本紅茶協会『紅茶の大事典』成美堂出版、2013年、258頁。
- ^ 日本紅茶協会『紅茶の大事典』成美堂出版、2013年、258-259頁。
- ^ 「核戦争の最大の懸念は放射能ではなく紅茶不足、50年代の英公文書」AFP(2008年05月05日付配信)
- ^ a b c d e 日本紅茶協会『紅茶の大事典』成美堂出版、2013年、261頁。
- ^ 「紅茶の抹茶」加工に最適 宮崎県都城市の企業が開発『日本農業新聞』2021年11月13日1面
- ^ 『紅茶の大辞典』日本紅茶学会編 成美堂出版 ISBN 978-4-415-31373-3
- ^ 講談社サイエンティフク-紅茶に重曹を入れたらどうなる?
- ^ チョコレートは危険な食品?健康効果、アレルギーや中毒症状についてここからPRESS(2020年5月22日閲覧)
- ^ Harold McGee 香西みどり訳『マギー キッチンサイエンス』(2008年、共立出版)p.423,429
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