マグネシウム 用途

マグネシウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/25 02:19 UTC 版)

用途

非常に軽い軽合金材料として重要であり、金属マグネシウムとしてさまざまな合金の第一金属(合金の基本となる金属)や、添加剤に利用される。また、反応性の高さから脱酸素剤や脱硫剤、さらに有機合成用試薬として欠かせない。必須元素であり、食品医薬品のほか、飼料肥料として広く用いられる。

金属として

  • 合金 - 軽量で優れた性質を持ち、特に軽量化が重視される分野で需要が伸びている。安価になればプラスチックを代替する可能性もある。
工業的に使用されているもっとも軽い金属で用途は広く、航空機自動車農業機械工具精密機械スポーツ用具スピーカーの振動板、携帯用機器の筐体、医療機器宇宙船兵器など多種にわたる。かねてより問題であった腐食しやすい性質が改善されるにつれ、利用されるようになっていった。
  • 合金添加剤 - 1998年ごろには世界需要の半数近くを占めた[13]アルミニウム合金などに添加元素として少量付加するだけであっても、その合金としての性質を大きく左右する働きを持つ。この性質から、これまでの合金の硬度強度耐食性耐熱性、その他機械的性質を向上させるための研究が活発に行われている。
  • 鋳鉄 - ダクタイル鋳鉄(FCD)の黒鉛ノジュラー(球状)化剤。
  • 鉄鋼脱硫剤 - 合金用途以外ではもっとも消費量が多く、精錬フェロアロイ(フェロマグネシウム)。
  • 金属還元剤 - ジルコニウムチタンの製錬。
  • 防食 - 防食マグネとして、金属の犠牲電極効果や、酸化物が使用される。
  • カメラフラッシュ - 酸化剤を混合した閃光粉が利用され、「マグネシウムを焚く」と表現した。光量調節が難しく、換算表に規定の使用量を天秤秤で毎回計量することを必要とし、発光時に大量の煙を発生させ、シャッターとの同調も手作業であるため、閃光電球エレクトロニックフラッシュによって置き換えられた。
  • 発火用具(ファイアスタータ)- 水に濡れていても発火できるため、軍事用、キャンプ用、非常用など。通常発火点としてのフェロセリウムと組み合わされており、あらかじめナイフなどで削ったマグネシウム粉を火口 (点火具)とし、フェロセリウム部で火花を起こして点火する。マグネシウム部のないフェロセリウムの発火機能のみのファイヤースターター類であっても「マグネシウム・ファイヤースターター」などの呼称が用いられる例が少なくないが、これは誤用である。
  • スピーカーの振動板 - 単体は合金より内部損失が大きく、酸化防止の樹脂コーティングを施して使用される。

工業

  • 排煙脱硫剤 - 安価で脱硫効率が高い、水酸化マグネシウム放流法。
  • 排水処理 - 石灰と同様、酸性排水の中和(カルシウムが混在したものが使われる)。
  • 水質改善 - アオコ対策、赤潮対策、底質改善。
  • 重金属処理 - アルカリ剤として不溶化処理、ヘドロなど泥土の固化。

有機合成用試薬

マグネシウムはハロゲン化アルキルと反応し、R-MgX(Rは有機置換基、Xはハロゲン)の一般式で表される有機金属化合物を作る。これはグリニャール試薬と呼ばれ、カルボニル化合物などと反応して炭素-炭素結合を生成する。このため有機合成分野において重要な試薬として用いられる。

そのほかにも多くの錯体・塩基性塩などの化合物を合成する。これらはおもに化学実験において、合成試料や試薬として使われる。

農業、食品、医薬

  • 肥料 - 肥料分野においては、苦土の名称が用いられる事が多い。代表的な苦土肥料として、炭酸苦土肥料(もっとも代表的なものとして、炭酸カルシウム(CaCO3)との混合物である苦土石灰)、水酸苦土肥料、硫酸苦土肥料など。肥料としてのマグネシウムの効果については栄養素_(植物)#マグネシウム参照のこと。
  • 食品添加物 - にがり(主成分は塩化マグネシウム(MgCl2))が豆腐製造の凝固剤(塩析剤)として用いられる(豆腐用の凝固剤に用いられるマグネシウム化合物には、ほかに硫酸マグネシウム(MgSO4)がある[14]。)。ほかに、膨張剤炭酸マグネシウム(MgCO3))、栄養強化剤、加工助剤、呈味料など。なお、マグネシウムには呈味効果を有する有機酸との化合物が多数あるが(酢酸マグネシウムなど)、現在(2019年)の日本においては、それらの多くは食品添加物として認められていない。
  • 医薬品 - クエン酸マグネシウムが大腸検査用下剤などとして。また一般用医薬品の分類で酸化マグネシウム製剤や水酸化マグネシウム製剤が市販されている。

次世代エネルギー

燃焼にて二酸化炭素を発生しないことから、化石燃料に替わる次世代エネルギーとしての利用研究が進められている。

水素に比べて常温・常圧下で固体なので輸送・貯蔵がしやすいというメリットがある。水と反応させて燃えるときの熱を利用するほか、同反応により発生する水素を燃料として利用する方法が挙げられる。燃焼後の酸化物をリサイクルするための還元処理に大きなエネルギーが必要となることが最大の課題であり、レーザーによる高温を利用する方法などが提案されている[15]

ただし、マグネシウムを燃料として使用する場合、燃焼させて熱エネルギーに変換したうえで熱機関を利用する以上、カルノー効率を超えることはできない。また、水と反応させて水素を取り出しその水素を燃焼させる場合や生成した水素を燃料電池で電気エネルギーに変換するという用途も同様に効率が低い。

マグネシウムの持つ化学エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換する方法としては、電池の陰極としてマグネシウムを使用する方法が効率がよい。ただし、マグネシウムは反応性が高く水と反応してしまうため、電解質に水溶液を用いることができない。このため、有機系電解質または溶融塩を使用することになる。


注釈

  1. ^ a b 第6次改定版(2000年版)では650–700 mg/日とされていた。(第6次改定日本人の栄養所要量について参照)
  2. ^ マグネシウムはNMDA受容体の活性をブロックするモジュレータ()として働く。

出典

  1. ^ Bernath, P. F., Black, J. H., & Brault, J. W. (1985). “The spectrum of magnesium hydride”. Astrophysical Journal 298: 375. オリジナルの2012年1月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120111053354/http://bernath.uwaterloo.ca/media/24.pdf. 
  2. ^ WEBSTER'S DICTIONARY, 1913
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  4. ^ magnesium nitride” (英語). webbook.nist.gov. 2022年7月5日閲覧。
  5. ^ magnesium oxide” (英語). webbook.nist.gov. 2022年7月5日閲覧。
  6. ^ 東京・町田「マグネシウム火災」工場 無許可操業で過去にも同様の火災!市は放置 - J-CASTニュース(2014/5/15 14:52版 / 2015年11月6日閲覧)
  7. ^ 金属工場火災、鎮火のめど立たず 1人重体、7人重軽傷 - 産経ニュース(2014.5.14 00:59版 / 2015年11月6日閲覧)
  8. ^ マグネシウムの基礎知識:安全な取扱い - 日本マグネシウム協会(更新日不明 / 2015年10月6日閲覧)
  9. ^ 安全データシート-国産化学-硫酸リチウム”. 2020年6月12日閲覧。
  10. ^ 安全データシート-国産化学-硫酸マグネシウム”. 2020年6月12日閲覧。
  11. ^ レイナーキャナム無機化学(原著第4版). 東京化学同人. (2016年10月20日). pp. 134p 
  12. ^ 2.7 マグネシウム(Mg) (PDF) 東北経済産業局(2013年1月21日時点のアーカイブ)
  13. ^ 日本マグネシウム協会
  14. ^ 日本豆腐協会│豆腐のあれこれQ&A Q2. 凝固剤にはどんなものがあるのでしょうか?
  15. ^ 東工大クロニクルNo.402「太陽光レーザー、水、マグネシウムによる革新的エネルギーサイクル」 - ウェイバックマシン(2013年3月20日アーカイブ分)
  16. ^ 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書を取りまとめました(厚生労働省)」『日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要』(pdf)(レポート)(平成26年8月21日)厚生労働省、2014年3月28日https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf2018年2月3日閲覧 
  17. ^ 「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」 p.32 (PDF)
  18. ^ マグネシウム 国立健康・栄養研究所
  19. ^ a b 岐阜県街路樹等整備・管理の手引き 岐阜県建設研究センター、岐阜県造園緑化協会、2022年4月23日閲覧。
  20. ^ a b c d e f 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書 p.262 (PDF)
  21. ^ 8.マグネシウムの再吸収異常と生活習慣病との関連性について
  22. ^ Barbara A. Bowman, Robert M. Russell 編『専門領域の最新情報 最新栄養学』(第8版)建帛社。ISBN 4767960983NCID BA59068042 
  23. ^ マグネシウム - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所
  24. ^ 製品安全データシート 0.01mol/1(M/100)-塩化マグネシウム溶液 (PDF) キシダ化学株式会社
  25. ^ マグネシウム摂取と大腸がんとの関連について JPHC Study 多目的コホート研究 独立行政法人国立がん研究センター
  26. ^ マグネシウム摂取不足の解消こそが糖尿病の増加を抑える 日経メディカルオンライン 2012年5月22日
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