マグネシウム 名称

マグネシウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/25 02:19 UTC 版)

名称

マグネシウムという名称は、マグネシア(magnesia)またはその語源である産地のギリシャマグニシア県にちなんで命名された。酸化マグネシウムおよびオキソ酸塩の成分としてのマグネシウムは、苦い味に由来して苦土(くど、bitter salts)とも呼ばれている。日本に初めて紹介されたときは漢字で「麻倔涅叟母」と表記された[3]

性質

ヒトを含む動物植物の生命活動を支えるミネラル必須元素)のひとつであり、とりわけ植物の光合成に必要なクロロフィル配位結合の中心として不可欠である。また、有機化学においてはグリニャール試薬の構成元素として重要である。

マグネシウムリボンの燃焼

酸化数はほぼ常に2価。比重1.74の柔らかい金属で、融点650 °C沸点1090–1110 °C(異なる実験値あり)。マグネシウムには2つの同素体があり、常温、常圧で安定な結晶構造は六方最密充填構造(HCP)だが、温度を上げると、体心立方格子が安定となる。

酸素と結合しやすく、強い還元作用を持つ。空気中で長期間放置すると、表面が次第に酸化され灰色を帯びる。また、二酸化炭素亜硫酸とも反応するが、いずれも不動態皮膜となるためアルカリ金属カルシウムと異なり腐食は進行せず、鉱油中で保存する必要はない。

空気中で加熱するとと強いを発して燃焼する(燃焼熱は601.7 kJ/mol)。さらに窒素二酸化炭素中でも燃焼し、それぞれ窒化マグネシウムMg3N2、生成熱は461.08[4]kJ/mol)、酸化マグネシウム(MgO、生成熱は601.60 [5]kJ/mol)となる。

マグネシウムの異方性
0001:滑り面 0012:双晶面

マグネシウムの結晶構造は室温では2つの面でしか滑りを起こさないため、純マグネシウムや合金を加熱せずに圧延などの加工をすると割れが発生しやすい。加工には加熱が必須となるが、燃焼しないよう注意を払う必要がある。

歴史

マグネシウムは安定な酸化物を作るため、ラボアジエはマグネシア(酸化マグネシウム)を元素としてあげている。1755年スコットランドジョゼフ・ブラック炭酸マグネシウムを熱分解し、酸化マグネシウムと二酸化炭素に分離しているが、これをマグネシウムの発見とする事もある。

単離され金属元素であることが証明されたのは、1808年ハンフリー・デービーによるマグネシアと酸化水銀溶融電気分解による。

商業生産は1886年(明治19年)、アルミニウムと同時期に開始されたものの、精錬(カルシウムとの分離)が困難で普及が遅れた。第一次世界大戦を契機に軍事利用が伸び、1936年には軍事目的を陰に五輪の聖火リレーに利用され、1939年には3万2850トン1943年のアメリカで18万4000トンが生産されている。日本では第二次世界大戦前から1994年(平成6年)まで宇部興産により生産されていた。マグネサイトなどの鉱石資源は、中国北朝鮮ロシアの3国で6割以上を占めている[12]


注釈

  1. ^ a b 第6次改定版(2000年版)では650–700 mg/日とされていた。(第6次改定日本人の栄養所要量について参照)
  2. ^ マグネシウムはNMDA受容体の活性をブロックするモジュレータ()として働く。

出典

  1. ^ Bernath, P. F., Black, J. H., & Brault, J. W. (1985). “The spectrum of magnesium hydride”. Astrophysical Journal 298: 375. オリジナルの2012年1月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120111053354/http://bernath.uwaterloo.ca/media/24.pdf. 
  2. ^ WEBSTER'S DICTIONARY, 1913
  3. ^ 芝哲夫「認定化学遺産 第001号 杏雨書屋蔵 宇田川榕菴 化学関係資料」” (PDF). 公益社団法人日本化学会. 2022年4月5日閲覧。
  4. ^ magnesium nitride” (英語). webbook.nist.gov. 2022年7月5日閲覧。
  5. ^ magnesium oxide” (英語). webbook.nist.gov. 2022年7月5日閲覧。
  6. ^ 東京・町田「マグネシウム火災」工場 無許可操業で過去にも同様の火災!市は放置 - J-CASTニュース(2014/5/15 14:52版 / 2015年11月6日閲覧)
  7. ^ 金属工場火災、鎮火のめど立たず 1人重体、7人重軽傷 - 産経ニュース(2014.5.14 00:59版 / 2015年11月6日閲覧)
  8. ^ マグネシウムの基礎知識:安全な取扱い - 日本マグネシウム協会(更新日不明 / 2015年10月6日閲覧)
  9. ^ 安全データシート-国産化学-硫酸リチウム”. 2020年6月12日閲覧。
  10. ^ 安全データシート-国産化学-硫酸マグネシウム”. 2020年6月12日閲覧。
  11. ^ レイナーキャナム無機化学(原著第4版). 東京化学同人. (2016年10月20日). pp. 134p 
  12. ^ 2.7 マグネシウム(Mg) (PDF) 東北経済産業局(2013年1月21日時点のアーカイブ)
  13. ^ 日本マグネシウム協会
  14. ^ 日本豆腐協会│豆腐のあれこれQ&A Q2. 凝固剤にはどんなものがあるのでしょうか?
  15. ^ 東工大クロニクルNo.402「太陽光レーザー、水、マグネシウムによる革新的エネルギーサイクル」 - ウェイバックマシン(2013年3月20日アーカイブ分)
  16. ^ 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」の報告書を取りまとめました(厚生労働省)」『日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要』(pdf)(レポート)(平成26年8月21日)厚生労働省、2014年3月28日https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf2018年2月3日閲覧 
  17. ^ 「日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要」 p.32 (PDF)
  18. ^ マグネシウム 国立健康・栄養研究所
  19. ^ a b 岐阜県街路樹等整備・管理の手引き 岐阜県建設研究センター、岐阜県造園緑化協会、2022年4月23日閲覧。
  20. ^ a b c d e f 「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書 p.262 (PDF)
  21. ^ 8.マグネシウムの再吸収異常と生活習慣病との関連性について
  22. ^ Barbara A. Bowman, Robert M. Russell 編『専門領域の最新情報 最新栄養学』(第8版)建帛社。ISBN 4767960983NCID BA59068042 
  23. ^ マグネシウム - 素材情報データベース<有効性情報>(国立健康・栄養研究所
  24. ^ 製品安全データシート 0.01mol/1(M/100)-塩化マグネシウム溶液 (PDF) キシダ化学株式会社
  25. ^ マグネシウム摂取と大腸がんとの関連について JPHC Study 多目的コホート研究 独立行政法人国立がん研究センター
  26. ^ マグネシウム摂取不足の解消こそが糖尿病の増加を抑える 日経メディカルオンライン 2012年5月22日
  27. ^ Barragán-Rodríguez, L; Rodríguez-Morán, M; Guerrero-Romero, F (2008). “Efficacy and safety of oral magnesium supplementation in the treatment of depression in the elderly with type 2 diabetes: a randomized, equivalent trial”. Magnesium research : official organ of the International Society for the Development of Research on Magnesium 21 (4): 218–23. PMID 19271419. 
  28. ^ Eby Ga, 3rd; Eby, KL (2010). “Magnesium for treatment-resistant depression: a review and hypothesis”. Medical hypotheses 74 (4): 649–660. doi:10.1016/j.mehy.2009.10.051. PMID 19944540. http://www.medical-hypotheses.com/article/S0306-9877(09)00730-0/fulltext. 
  29. ^ George A. Eby; Karen L. Eby (2006). “Rapid recovery from major depression using magnesium treatment”. Medical hypotheses 67 (2): 362–370. doi:10.1016/j.mehy.2006.01.047. http://www.medical-hypotheses.com/article/S0306-9877(06)00103-4/fulltext. 
  30. ^ Sara A. Chacko, MPH, Yiqing Song, MD, SCD, Lauren Nathan, MD, Lesley Tinker, PHD, Ian H. de Boer, MD, Fran Tylavsky, DRPH, Robert Wallace, MD and Simin Liu, MD, SCD1 (2009). “Relations of Dietary Magnesium Intake to Biomarkers of Inflammation and Endothelial Dysfunction in an Ethnically Diverse Cohort of Postmenopausal Women”. Diabetes Care 33 (2): 304–310. doi:10.1016/j.mehy.2006.01.047. http://www.medical-hypotheses.com/article/S0306-9877(06)00103-4/fulltext. 
  31. ^ Nutrition, Center for Food Safety and Applied (2022-01-10). “FDA Announces Qualified Health Claim for Magnesium and Reduced Risk of High Blood Pressure” (英語). FDA. https://www.fda.gov/food/cfsan-constituent-updates/fda-announces-qualified-health-claim-magnesium-and-reduced-risk-high-blood-pressure. 
  32. ^ Your "Prescription" - Sleep and the Brain”. Coursera. 2022年3月19日閲覧。
  33. ^ 日外アソシエーツ編集部 編『日本災害史事典 1868-2009』日外アソシエーツ、2010年9月27日、89頁。ISBN 9784816922749 
  34. ^ 指導無視、マグネシウム届け出ず 町田工場火災、初動で消防隊が放水、爆発・炎上”. 産経新聞 (2014年5月27日). 2023年10月1日閲覧。
  35. ^ コンテナ火災、台風後1カ月鎮火せず 放水で爆発の恐れ”. 朝日新聞DIGITAL (2018年10月5日). 2023年10月1日閲覧。






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