問題点と課題
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日本国憲法第76条第3項の条文は「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される」であるが、この条文は司法省の後身である最高裁判所事務総局によって完全に死文化された状態となっている。そもそも、前述の通り司法省自体は太平洋戦争終了後に廃止されたものの、それまで司法省から全ての裁判所と裁判官を支配・統制していた官僚たちの多くが事務総局へ移籍し、今度は最高裁判所の内部から全ての裁判所と裁判官を支配・統制する形になってしまった。このため、事務総局は「司法省の戦後の再編成版」とも形容されるほどの強大な権力を有する司法行政の中枢機関となっており、日本国憲法第76条第3項の本来の条文は事務総局によって完全にその機能を奪われた状態が続いている。実際に事務総局での勤務経験もある元裁判官の瀬木比呂志によると、日本国憲法第76条第3項の実態は「すべて裁判官は、最高裁と事務総局に従属してその職権を行い、もっぱら組織の掟とガイドラインによって拘束される」であるという。 最高裁判所事務総局は前記の通り司法省を母体として設立された機関であるため、同じく司法省を母体として設立された行政機関である法務省およびその付属機関である検察庁とは現在も親密な関係にあり、事務総局は法務省や検察庁との間で職員の人事交流さえ頻繁に行うなど、戦前の大日本帝国憲法の時代と変わらない形で司法と行政との癒着を積極的に進めていると批判されている。このような司法機関と行政機関との人事交流は、俗に「判検交流」と呼ばれている。このように最高裁判所事務総局と法務省が事実上一体化しており、後述の通り全ての裁判官の人事権を独占している事務総局が全面的に検察の味方をしている現状にあっては、日本の裁判官たちが刑事裁判において無罪判決を出すことは極めて困難であるため、日本の刑事裁判は有罪判決が全体の99.9%以上を占め、その中には明らかな冤罪判決も多数含まれていると批判されている。 日本国憲法第80条第1項では、「下級裁判所の裁判官は任期を10年とし、再任されることができる」等と規定しており、これを行使する権限は事務総局が握っているため、裁判官たちは任官後10年ごとに事務総局からの再任拒否を受ける恐れがある。このため、日本国憲法第76条第3項に定められている「裁判官の独立」は大日本帝国憲法の時代と何ら変わることなく有名無実のままとなっており、日本の裁判所では、人事面や給与面で事務総局から冷遇されることを恐れて、絶えず事務総局の意向を気にしながら権力者側に都合の良い判決ばかりを書く裁判官(通称:ヒラメ裁判官)が大量に生み出されているのが現状であると批判されている。多くの場合、日本の裁判官(最高裁判所長官及び最高裁判所判事を除く。)が日本国憲法第76条第3項に基づいて良心的な判決を書くことができるのは、自分の定年が間近となり、事務総局からの転勤命令に振り回される心配がなくなった時だけであるとも言われている。 裁判所法第48条は建前上、裁判官は意に反した転勤を強いられることはないと規定しているが、実際に事務総局からの転勤命令を断れば将来的に人事面で冷遇される恐れがあるため、ほとんどの裁判官は事務総局からの転勤命令に逆らうことができない仕組みになっている。この点において、日本国憲法第76条第3項と同じく裁判所法第48条も事務総局によって有名無実化されていると言える。なお、日本以外の諸外国の裁判所においては、真の意味で裁判官の独立を保障するため、日本のような上層部機関の命令による裁判官の転勤制度は存在せず、裁判官のポストに空席が生じた場合の後任については応募制となっている。 このような日本国憲法76条第3項に違反する裁判官の転勤制度については現場の裁判官からの不満も多く、実際にも現場の裁判官からは、事務総局の命令による裁判官の転勤制度を廃止し、裁判官のポストに空席が生じた場合の後任については諸外国の裁判所と同じく応募制とすること、高等裁判所長官・地方および家庭裁判所所長・部総括判事といった重要なポストの任命については選挙制とすることなどが提言されている。また、あまりにも激務な裁判官の労働条件を改善し、形骸化されている裁判官会議を復権させて、日本の裁判所を正常に機能させるためには、裁判官の人数を少なくとも現在の2倍に相当する7000人に増員する必要があるとも提言されているが、これらの提言は未だに実現されていない。 このような司法行政の問題点についての違憲審査は、本来であれば最高裁判所から独立した憲法裁判所が行うべきところであるが、日本国憲法第76条第2項では、最高裁判所から独立した特別裁判所(憲法裁判所など)の設置を禁じているため、日本の司法行政の問題点について第三者機関による違憲審査は不可能となっており、現行の日本国憲法の下では、司法行政の問題点について違憲であるかどうかの審査は日本国憲法第81条の規定に基づいて最高裁判所自体が行うこととなる。無論、最高裁判所が身内の制度を違憲であると素直に認めることは有り得ず、これらの司法行政の問題点は裁判官の弾劾や忌避の条件にも該当しないため、少なくとも日本国憲法第76条第2項と日本国憲法第81条を改正して、違憲審査の権限を最高裁判所から憲法裁判所へ移行しない限り、日本の司法行政のあり方に対する違憲論は最高裁判所によって完全に封殺される形となっている。 最高裁判所事務総局は内部情報を開示することにも極めて消極的であり、一般国民は事務総局の内部でどのような談合や取引が行われているかをほとんど知ることができない。事務総局は2001年に「司法行政文書開示要綱」を定め、国民の要求に応じて事務総局の内部情報を開示することを形式上は宣言しているが、この「司法行政文書開示要綱」は情報公開の制度としては極めて不十分で、文書の内容によっては事務総局の裁量で文書を開示しない自由もあり、実際に開示される司法行政の文書は全体のごく一部に過ぎない。そのため、全ての日本国民が事務総局の内部の実態を詳細に知り、事務総局が勝手に不正を働くことのないよう監視できる体制を築くためには、事務総局の全ての内部情報の公開を法律で義務付ける「司法行政機関の保有する情報の公開に関する法律(裁判所情報公開法)」(仮称)の早急な制定が必要とされるが、このような法律は未だに制定されていない。 この他、日本国憲法第80条第1項において、下級裁判所の裁判官の候補者を指名する権限は最高裁判所にあると定められているため、裁判官の道を希望する司法修習生たちの中でも事務総局の意向にそぐわないと判定された者は司法研修所の教官から任官を拒否されるという問題も指摘されている。司法研修所の教官は、現職の裁判官の中から事務総局によって任命され、司法修習生たちの中から下級裁判所の裁判官の候補者を選別する任務を帯びているとされている。なお、下級裁判所裁判官の任官については、法曹三者6名と学識経験者5名から成る下級裁判所裁判官指名諮問委員会・中央委員会を設置し、その下に全国8箇所の下級裁判所裁判官指名諮問委員会・地域委員会を設置して、これらの委員会が事務総局の諮問を受けて答申・報告を行う制度が2003年から導入されており、外部からの透明性を増すようになっていると、事務総局は説明している。しかし、下級裁判所裁判官指名諮問委員会の意見が実際の裁判官の任官にどれだけ反映されているかを事務総局は明らかにしておらず、実際には依然として事務総局の裁量のみに基づいた任官のままではないかとする疑惑も生じている。 このように下級裁判所の裁判官の候補者を指名する権限が最高裁判所にあると定めている日本国憲法第80条第1項の規定は、必然的に日本の裁判官が最高裁判所事務総局に都合の良い人物だけで統一される反民主的な裁判官の人事制度へとつながっている。このため、真の意味で裁判官にふさわしい人材を日本で確保するためには、日本国憲法第80条第1項を改正して、下級裁判所の裁判官の候補者を指名する権限を最高裁判所から剥奪し、各裁判所の裁判官会議へ権限を移行させることが必要不可欠となる。実際にも日本以外の諸外国の裁判所においては、下級裁判所の裁判官の候補者を指名する権限は各裁判所にあるものと定められており、最高裁判所にはその権限はない。 裁判官は本来、社会の実情を熟知しており当事者の立場から公正に真実を見極めることのできる良心的な人物でなければならず、そのためには弁護士(または法学者)として相応の実務経験を有する社会人を裁判官として任命することが理想的とされる。これを法曹一元制と呼び、日本にもアメリカ合衆国の法曹一元制を模倣した弁護士任官制度が形式的に存在するが、実際の最高裁判所事務総局は権力に従順で扱いやすい若手の司法修習生だけを判事補として採用する現行のキャリア制度に強く固執しており、弁護士任官制度はほとんど機能していない。また、日本の司法界においては、前述の通り「裁判官の独立」とは名ばかりで実際にはほとんど職務上の自由が認められない裁判官への任官を希望する弁護士も少ないのが実情である。もとより、司法修習生の中でも優秀な者たちはそうした反民主的な日本の裁判所の実態を知っているため、優秀な司法修習生ほど裁判官を志望する者が少なくなっており、また現職の裁判官たちにあっても、前述のような裁判所組織の堕落と腐敗に失望して退官を余儀なくされる者が続出しているため、現在の日本の裁判所には真面目で正義感のある優秀な裁判官はほとんど残っていないという。 本来、法曹一元制を実現させるためには、裁判官となるにふさわしい優秀な弁護士が多数存在していることが必要前提条件となるが、かつての日本の司法試験は諸外国と比べて合格者が極端に少なく、当然に弁護士の数も少なかったため、法曹一元制を実現させるに十分な人材を確保することができない状態であった。しかし、21世紀に入って司法試験の制度が改正され、司法試験の合格者が大幅に増加して弁護士の数も従来より大幅に増えている現在であれば、法曹一元制を実現させるに十分な人材を確保できる状態となっており、また前述のような事務総局主導のキャリア制度に基づいた日本の裁判所のシステムが完全に崩壊してしまう前に一刻も早く法曹一元制を実現させる必要性があるとも言われている。 最高裁判所事務総局の要職や高等裁判所の事務局長は、裁判官の有資格者によって占められており、裁判所内部の出世コースに乗る裁判官の多くがここで司法行政に携わる経験を持つ機会を与えられる。このように出世コースに乗る裁判官を司法行政の要職に就かせ、現場の裁判官たちを管理・統制させる裁判所の制度を、俗に「充て判(あてはん)」と呼ぶ。また、この「充て判」の制度によって司法行政の要職に就き、現場の裁判官たちを管理・統制している裁判官たちを「司法官僚」と呼ぶことがある。中でも、第11代最高裁判所長官の矢口洪一は任官以来そのキャリアの大部分を司法行政部門の役職で積み重ねてきた裁判官であり、そのため彼は「ミスター司法行政」と呼ばれた。このように、キャリア裁判官の中から最高裁判所裁判官に任命される者は、裁判官の本来の職務である裁判の実務経験よりも、事務総局における司法行政部門の役職の経験が重視される傾向が強いと言われている。また、法曹三者を養成する司法研修所の教官や、最高裁判所裁判官の職務を補佐する最高裁判所調査官なども、司法行政に携わる重要な役職とされており、いずれも事務総局の勤務経験者から任命される場合が多い。 このような「充て判」の制度は、長年にわたり司法行政部門の職務経験を積み重ねて高等裁判所長官に昇進した反面、裁判の実務経験には乏しい司法官僚たちだけが最高裁判所裁判官に任命され、逆に裁判の実務経験が豊富な現場の裁判官たちは最高裁判所裁判官になれないという、裁判所の長たる最高裁判所としては本末転倒の弊害を生み出している。自らも最高裁判所事務総長・東京高等裁判所長官を経て最高裁判所裁判官・最高裁判所長官へと昇進した経歴を持つ「ミスター司法行政」の矢口洪一でさえ、この問題については「(最高裁判所)事務総長には、長年(最高裁判所)事務総局に籍を置いて行政事務に慣れているかわりに裁判官としての経験の少ない者が任命されるが、その歴代の事務総長が練達の裁判官をさしおいて最高裁判所判事になることは、裁判に専心している裁判官たちの間に不満を醸成し、事務総局と現場の裁判官の間に抜きがたい不信感を生んでいる」と、事務総局の内部の立場から告白している。また、弁護士から最高裁判所裁判官に任命された経歴を持つ色川幸太郎は、裁判所の外部から最高裁判所入りした立場として、「高裁長官や事務総局などの管理職の経験の長い人(最高裁判所事務総局勤務など司法行政部門の要職を経て高等裁判所長官に昇進し、最高裁判所裁判官に任命された裁判官)は人間としてもなかなか練れていますし、視野も広く、概ね立派ですけれど、法律家としてすべての人が必ずしも能力十分とは思われない。法廷から直接きた人(裁判の実務経験が豊富な現場の裁判官)の方が法律家としてすぐれている場合がありはしませんかね」と、苦言を呈している。無論、このように原則として事務総局での勤務経験を有する司法官僚だけが最高裁判所裁判官に任命される人事制度は、日本の裁判所の司法行政部門のみならず裁判部門までもが事務総局の支配下に置かれていることを意味しており、日本国内の裁判官のほとんどが日本国憲法第76条第3項を無視して必然的に事務総局の意向に従わねばならない反民主的な裁判所の体制を作り出している。 その名称についても、最高裁判所事務総局という中央集権的な名称を廃止して、設立当初の「最高裁判所事務局」に戻すべきとの意見もある。 こうした「充て判」の廃止論に対し、事務総局の内部で長年にわたり日本の司法行政権を独占し続けている司法官僚たちは、「充て判」の制度をあくまでも正当化するために、「事務総局の仕事の中には、裁判官でなければできない仕事もある」「優秀な裁判官になるためには、裁判の実務経験だけでなく司法行政事務の経験も必要だ」「裁判はできても司法行政事務ができない裁判官はいるが、その逆はいない」などといった趣旨の主張を並べ立てているが、これらの主張が事実であるという客観的な証拠は何も存在しない。ただし、「ミスター司法行政」の矢口洪一は、「充て判」の必要性について「裁判所の予算等の問題については、裁判官でなければ大蔵省(現・財務省)などの行政機関と対等な交渉ができない」といった趣旨の比較的信憑性が高い理由を述べている。 昭和30年(1955年)の日本における裁判所の予算は国家予算の0.93%であったが、その後は予算の割合が急速に減らされ、現在では国家予算のわずか0.4%前後(平成24年(2012年)にはさらに低くなって0.348%)となっており、日本の行政が裁判所をいかに軽く扱っているかをうかがい知ることができる。
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「北九州市ルネッサンス構想」の記事における「問題点と課題」の解説
商業施設閉鎖前のコムシティ(2007年撮影) 主として経済の回復と浮揚を目的とした構想であったが、計画が長期間に及んだため、1980年代後半から1990年前半にかけてのバブル景気とその後のバブル崩壊、2000年代前半までの平成不況(失われた10年)の影響を大きく受けることとなった。さらに2000年代後半以降も2008年のリーマン・ショックなどによる長期不況が続いたため(失われた20年)、計画終了後も不況などの影響を受け、当初の目論見どおりには進んでいない。 プロジェクト始動には注力したが、事業採算の見通しや事業継続の仕組み作りに問題があったことなどから、施設を運営する第三セクターの経営破綻などにより、多くの不良債権を残すことになった。 コムシティ - 開業から1年半で商業施設の運営会社が経営破綻、現在は八幡西区役所のほか公共施設などが入る複合施設に転換。 ひびきコンテナターミナル - 開港から2年で運営会社が破綻。 また、2大地区として小倉都心・黒崎副都心と明確に位置付けられたが、黒崎副都心計画は事業予算で大きく水をあけられ、計画が後手後手となった。黒崎そごう撤退後は、八幡西区・若松区など北九州市西部では経済が郊外型に変化して沈滞し、2018年現在も回復していない。さらに駅前偏重の都市開発という課題も出ている。 響灘環黄海圏ハブポート構想を掲げ、北九州港にひびきコンテナターミナル等を整備したが、政府の港湾政策が三大都市圏(東京港と横浜港、大阪港と神戸港、名古屋港と四日市港)を強化する方針に転換し、コンテナターミナルとしても福岡市の博多港コンテナターミナルや、同じ北九州市の太刀浦コンテナターミナル(門司区)に水をあけられた状態となっている。
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「北海道・本州間連系設備」の記事における「問題点と課題」の解説
電力自由化後、託送可能空き容量が逼迫していることが問題視されており、さらなる設備増強が検討されている。 2018年9月6日未明、北海道胆振東部地震により苫東厚真発電所が停止したことがきっかけで、全道に渡る停電が発生した。北海道電力では、日頃より不測の事態に備えて北海道・本州間連系設備で融通される枠の多くを空けていたが、停止した苫東厚真火力発電所の能力が融通枠を大きく超えることもあり、対応初期段階において、連携設備を十分に機能させることができなかった。
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「児童相談所一時保護所」の記事における「問題点と課題」の解説
児童相談所職員の支援と介入の機能分化 児童相談所の職員は日常的な困難家庭への支援を行うが、同時に子供の身に危険があると判断した場合には一時保護に踏み切る制度となっている。このため、同じ職員がその両面を担う場合には信頼関係の構築が崩れるため無理があると現場職員は考えている。また、一時保護を行うことで、死んでやる、家族に害を与えるなどの恫喝行為がある保護者の強い敵意に晒されることが日常的に起こっている。東京都では虐待対策班と地区担当が保護後も継続支援する事案には対応する仕組みとなっている。 一時保護の長期化 一時保護の期間は原則として2か月を超えてはならないとされているが、平成27年福祉行政報告例によると都道府県別一時保護所の平均在所日数は29.6日となっており、山形県51.3日、千葉県48.8日など突出した県も存在する。2017年児童虐待対策を強化する改正児童福祉法が14日の参院本会議で全会一致で可決、成立したが、児童相談所による子供の「一時保護」が長期化する場合、家裁の承認を必要とすることを明記してる。 ただし、厚生労働省の新たな社会的養育の在り方に関する検討会では「実際児福審などを通して更新され、長い子どもなら6カ月というケースもある」と語られており、カリフォルニア州のオレンジカウンティでは、日本同様の一時保護は72時間を限度と捉えていることも審議されている。人口が多いところ、社会的養護の受け皿がほぼ満杯なところは、一時保護所の期間も長くなっていく傾向にある。 管理体制 児童相談所の一時保護ついては「行政による神かくし」と表現する者もおり、日常から切り離された児童たちが強いストレスを抱えることがある。 施設に住み込み取材を行った者からは、自由が著しく制限されていること、例えば、一時保護所に入る際、私物は全て没収され、多くの保護所内は、窓は5センチほどしか開かず、もし保護所から逃げ出してもすぐに保護できるようにと、子どもたちは靴下で、職員はスニーカーで過ごすなどの閉鎖性について問題提起されている。「刑務所みたいなところだった」と表現する入所経験者もいる。相模原市では、児童相談所の一時保護所が、困り事などを書いて入れる「意見箱」の用紙1枚がなくなったため、身体検査として女性職員が入所している少女8人を全裸にさせていたという行き過ぎた管理による人権侵害も起こっている。一時保護所はその管理体制から、そこでの経験は多くの子どもにトラウマに近いストレスを与える性質のものだと話す医師もいる。3か月入所していた児童は、施設ではよく叱られて息が詰まるようだと語り、自分を殴る母のいる家でも帰ることを希望していた状況にあった。 2020年4月、札幌市児童相談所の一時保護所において、一部の子どもをトイレなど最低限の場合以外は個室の外に出さず、事実上「拘束」していると道内の児童自立支援施設から改善を求められていると報道されている。 また元職員からは児童に対し、職員も心のケアをまったく配慮できていないとの指摘がある。厚生労働省の新たな社会的養育の在り方に関する検討会でも、施設の課題として、非常勤職員が多く、また多くの保護所はニーズに見合う質と量の確保がされていないこと、一時保護所のマニュアルに関しては、全国の自治体のうち47%しか作成されていないと審議されている。 管理体制に問題が生じることもあり、横浜市の児童相談所一時保護所では2006年当時3歳児の保護児童にアレルギー源を含む食事を与えて過失により死亡させた。 2010年11月には、保護彦根子ども家庭相談センター一時保護所において、嘱託職員の男性(57)による入所男子児童(13)(10)(5)の就寝時でのわいせつ事件が起こっている。 2019年8月には未就学の女児にわいせつな行為をしたとして、宮城県で、強制わいせつの疑いで仙台市児童相談所職員(30)が逮捕された。鳥取県では、米子市にある児童相談所の男性職員(76)が一時的に保護していた女子高校生にキスするなどの行為を繰り返し2020年1月に解雇された。2021年5月には、出所後ではあるが、横浜市中央児童相談所で一時保護された少女2人にそれぞれわいせつな行為をしたとして、一時保護された子どもの指導職員を担当していた、23歳男性及び27歳男性を逮捕した。 2021年11月には、和歌山県の児童相談所に勤める男性職員(29)が、一時保護していた10代の少女に児童相談所の施設内でわいせつ行為をして逮捕された。 2018年1月には愛知県の施設で非行で保護された16歳の少年が居室内で自殺した。父親が引き取りを拒んでいたという。 1965年には山口県で宿直の児童福祉司が保護児童を連れ出そうとした侵入者に刺殺、同年愛知県では宿直の心理判定員が保護児童にバットで殺害、1985年名古屋市では夜勤保母が入所児童に絞殺、1987年には青森県で専任宿直員が外部から保護児童を連れ出そうとした侵入者に殺害されている。またオウム真理教教団施設より100人以上の要保護児童を保護した際には抗議行動が行われている。このように職員や施設が危険にさらされることもある。 厚生労働省は虐待された子供などを一時的に保護する「一時保護所」について、2017年6月に第三者評価のための基準を設ける方針を固めた。現在は職員の子供への対応の質などに、ばらつきがあると指摘されているため、共通基準に基づく客観的な評価を導入する。なお、東京都福祉保健局では既に外部評価を公表している。児童養護施設などは3年に1回以上、第三者評価を受けることが義務付けられているが、一時保護所は任意であり厚労省は昨年4月時点で外部評価を取り入れているのは24%としている。一時保護所の環境改善のため関東地方の若手職員らが「いちほの会」を立ち上げ交流と勉強を行っている。 2019年3月東京都第三者委員会では、子どもを管理するルールを「過剰な規制で人権侵害にあたる」と指摘した。 保護された子供が喧嘩や自傷などでけがをしていることが多発しているとの報道がある。 施設環境 各地の施設を見学した泉房穂明石市長は、一時保護所が小さい部屋に24人詰め込みのタコ部屋状態であったり、外にある庭が周りのマンションから見えてしまっている場所がある施設があり、それらを劣悪な環境で子供をいじめていると評している。 混合処遇 また、一時保護所では非行児童と被虐待児を混合処遇することで生じていると職員が感じている困難性もある。それは虐待・保護者不在などで保護が必要な児童と、不法滞在の外国人で処遇決定までの期間の子ども、中学卒業で非行に走っている子ども、警察の身柄付通告の非行児童など多様な対象を一つの施設で保護することから起因する。子どもが器物破損や職員・他の子どもへの暴力を行うことも事件も発生している。また、一時保護所は「児童相談所運営方針」により子どもを鍵のかけた個室に拘束することを禁じているため、子どもが中から出ていくことが可能なつくりとなっているため、無断外泊するなど許可なく施設を出る子どももいる。 教育に関する問題 児童福祉法に基づく一時保護が行われている児童生徒は,当該措置が行われる間,学校へ通うことができなくなることがある。児童相談所の一時保護所で一時保護が行われている児童生徒の中には,当該施設において,相談・指導を受け,学校における学習活動に遅れが生じないよう努力している者もいる。このような者の努力を学校として評価し支援するため,一定の要件を満たす場合には,当該施設において相談・指導を受けた日数を指導要録上出席扱いとすることができることとしている。なお、入所児童の在籍校は原則前と変わらないため、一時保護所の近隣の公立小中学校に通うことはない。入所児童の学習は施設内で行われる。入所経験者は一番つらいかったこととして、一時保護所にいると勉強が全然できないことを挙げてる。出てきたあとの学校での勉強についていくことが困難な状況を生み出していたことを語っている。 家庭環境から逃れるために自ら教員に相談して一時保護に至った子供本人は一時保護に感謝を示しつつも、2か月間荷物が没収されたことと授業が受けられないことによる学習の遅れについて困ったことを明かしている。 処遇にまつわる問題 一時保護所に子どもを拉致されたという親などによる児童相談所バッシングが起こることもあるが、一方で一時保護をしていた児童が家庭に戻った後、虐待死した場合には、児童相談所の処遇が問題視されることがある。 兵庫県三木市では、父親から虐待された女児の保護をめぐり、兵庫県三木市立小学校の校長(当時)や市議が、保護にあたった養護教諭のことを父親に漏らしたため嫌がらせを受け休職を余儀なくされ、後に養護教諭が自殺した事件が起こっている。 本人からの保護申し出に対応が図られないことがあり、両親から虐待を受けて保護を求めた中学2年生男子が、放置された結果自殺した事件も発生している。 長期待機 東京都の児童福祉審議会専門部会では、児童養護施設内で暴力や性被害・加害が起こり、その結果として児童の一時保護利用を施設が希望したが、1か月、2か月待ちになるという課題が語られている。 保護解除の判断や時期の妥当性 2019年島根県安来市では男児(10)が一時保護解除後約一週間後に刺され死亡した。重体で発見された母から無理心中をはかられたとみられており、後に母は死亡した。保護解除の判断や時期の妥当性が島根県で検証されている。 離婚後に引きとった親と折り合いが悪く、一時保護を繰り返すも家庭に戻された結果子供が自殺に至った事案もあり、共同親権が実現されるか、または親権がない保護者の意向も児童相談所が施設措置する子供の養育に反映されるようになれば子供の福祉に寄与する可能性がある。 千葉県では、小学校4年の女児が虐待死したことから、再発防止のため「子ども虐待対応マニュアル」で児童相談所が子どもの一時保護を解除する際に、専門家の意見を踏まえた「判定会議」を必ず開き、解除が適切かどうか厳格に協議することなどを盛り込んだ。 親子の面会制限 明石市の乳児が原因不明の骨折で1年3カ月児童相談所に保護され、親子の面会も月1~2回で虐待を認めない場合に帰宅指導を行わないとの方針があったと報道されている。明石市長は一時保護が遅れると救われない事例が出るとしつつも、本件の対応を検証する趣旨の発言をしている。2020年11月、明石市ではこの事件を踏まえ、児童相談所で一時保護された子どもが希望した場合、保護者との面会が毎日できる運用を始め、また学校に通学するため職員による付き添いや車での送迎体制を整えることを決定した。明石市長は一時保護が遅れると救われない事例が出るとしつつも、本件の対応を検証する趣旨の発言をしている。
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