問題点と現状
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/09/30 17:26 UTC 版)
BT饋電方式では約4 kmごとにブースターセクションを設ける必要がある。原理図のとおり1つのエアセクション(二つの電気的に絶縁された架線を並べて配置する区間)にすると、列車進入時はパンタグラフに架線電流がそのまま流れセクション同士が短絡されてBTの吸い上げ機能が機能しなくなるばかりか、進出時に架線電流をパンタグラフで遮断することになるため、過大なアークが発生する。これを防ぐため、エアセクションを2つに分割し、抵抗によって電流を制限することでアークを抑えることとした。しかしながら大きなアークによる架線へのダメージは大きく、架線を断線させる事故は各地で度々発生した。特に1961年(昭和36年)、東北本線越河駅のブースターセクションで発生したアークによる架線断線事故は、BT饋電方式を東海道新幹線に採用することを決定した国鉄関係者へ、大きな衝撃を与えた。新幹線ではブースターセクション通過ごとに惰行運転するのは高速運転の支障となるため、東海道新幹線ブースターセクションを3つに分割し両端を抵抗を介して給電する対策を施した。ブースターセクションという「弱点」を抱えつつも、当時の通信線の妨害耐性が低く、帰線電流を確実にで吸い上げるBT方式が工期の関係もあって選ばれ、分布的な解析がやりきれなかった単巻変圧器を用いるAT饋電方式は避けられた。 BT饋電方式を採用した交流区間を走る動力車は、電気的に接続されたパンタグラフを複数上げることができない。もし電気的に接続された2つのパンタグラフを上げたままブースターセクションを通過するとセクションを短絡してしまい、BTの機能を失わせてしまうばかりか、大きな架線電流が動力車の特別高圧母線を通過してしまう。これを防ぐため、在来線車両と0系車両や100系車両の1編成内の各電動車ユニットを独立させてそれぞれにパンタグラフを1基、設けることにした。したがって16両編成で0系は8基、100系は6基、パンタグラフが近接して並ぶことになった。 しかしこのことは同時に、パンタグラフの架線からの離線率の増加(AT饋電方式の項を参照)、走行抵抗の増大、大きな騒音などをもたらし、後の更なる高速化の際に重大な問題となった。また設備側でも電磁誘導による障害の発生、多数のパンタグラフによる架線の摩耗や振動、ブースタートランスが1基でも故障するとその区間の列車運行ができなくなるなど、問題が多かった。 そのため、ブースターセクションが不要であるAT饋電方式が、後の交流電化の主流となり、山陽新幹線・東北新幹線・上越新幹線、新規交流電化在来線などは、この方式が用いられている。 なお、東北・上越新幹線の開業にあたって製造された初期の200系は、特に上越新幹線や将来の北海道新幹線への延伸など、重耐雪装備を考慮した形式だったため、架線への着氷を考慮して0系同様ユニット毎のパンタグラフ設置(12Mで6基)となっていた。しかし営業運転速度の向上に伴う騒音対策(パンタグラフの実使用数の削減)のため、200系1000番台以降では、その後のE1系などの新型車両のように、特高圧引通線の採用によってパンタグラフの数を削減している。 東海道新幹線では輸送力増強のための変電所増強策を兼ねて1984年(昭和59年)からAT饋電方式と、構内同一饋電方式への変更が始まり、1991年(平成3年)に完成、これによって構内異相セクション短絡問題とブースターセクションでのアーク問題がなくなった。東北・上越新幹線の車両同様に特高圧引通線で編成全体が引き通されてからはパンタグラフの並列運転が可能となり、騒音発生源であるパンタグラフを16両編成で最終的に3基まで減らすことができた。のぞみに充当する300系では当初3基のパンタグラフを装備していたが改良によりパンタグラフを2基にまで減らすことができた。 このように欠点の多いBT饋電方式であるが、架線と並列につなぐ饋電線が本質的に不要なことと、レールから吸い上げた電流を通す帰線(負饋電線)がレールと同電位であるため架線柱の構造はシンプルで済む。一方でAT饋電方式の帰線〈AT饋電線〉は架線電圧と同じだが逆極性(=位相差が180度)の電圧のため電線相互には架線電圧の2倍の絶縁を要する。そのためAT饋電線は離隔距離を大きくとるばかりか、絶縁に使用する碍子も架線電圧の2倍を見込む必要があるため、架線柱への装柱は設計に困難があり、BT饋電方式からAT饋電方式への変更は費用的に高くつく。それゆえに、BT饋電方式からAT饋電方式への変更は輸送力増強のための変電所強化が必要となった東海道新幹線の例にとどまり、2010年(平成22年)現在も在来線ではBT饋電方式の区間が多く存在している。
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