人工妊娠中絶 方法

人工妊娠中絶

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/20 00:09 UTC 版)

方法

初期中絶(妊娠12週未満まで)

ドイツ[14]フランスイタリアなどのように、法定中絶期限または医学上の理由を除く任意の中絶期限を、この初期中絶相当の時期までに制限する国もある。

薬物による中絶

世界保健機関(WHO)が2012年に改訂した『安全な中絶:医療保健システムのための技術及び政策の手引き 第2版』の中で、ミフェプリストン(mifepristone、RU-486)とミソプロストール(misoprostol)を用いた人工流産を引き起こす内服薬による方法が記載されている[15]。ミフェプリストンは妊娠の維持に必要な子宮内膜や子宮筋のプロゲステロンの作用を阻害し、ミソプロストールは子宮収縮や頸管熟化の作用を有している。2剤を併用することで、人工妊娠中絶の成功率が高まることから、薬剤による人工妊娠中絶の標準療法となっている[15]

メトトレキセートも同様の効果を持つ[16]。世界では、ミフェプリストンや同様の効果を持つ[16]メトトレキセートなどの薬剤も使われる。共に不全流産や出血のリスクがあるが、発生頻度は自然流産と同等とされる。

日本では、プレグランディン腟坐剤が局所投与可能な腟坐剤として小野薬品工業株式会社がPGE1誘導体製剤として開発し、腟坐剤として後腟円蓋部から挿入することにより、妊娠中期において流産効果が認められ、1984年5月30日に「妊娠中期における治療的流産」の効能・効果で製造承認を得た[17][18]

日本では2021年まで早期人工妊娠中絶(妊娠12週未満)は薬剤による方法は承認されていなかったが[15]、ラインファーマ社[19]がミフェプリストンとミソプロストールの承認申請を行っている[20]。2023年4月28日「飲む中絶薬」正式承認。製品名は「メフィーゴパック」。妊娠を続けるために必要な黄体ホルモンのはたらきを抑える薬「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させるはたらきがある薬「ミソプロストール」を組み合わせて使う。対象は妊娠9週までの妊婦。薬の投与は、母体保護法の指定医師に限られる。[21] なおミソプロストールは「非ステロイド性消炎鎮痛剤の長期投与時にみられる胃潰瘍及び十二指腸潰瘍」として承認されていた[22]

Women on Webは、女性の健康と生命を守るための避妊と安全な中絶サービスへのアクセスを提唱し、促進するカナダの非営利団体[23]で、安全な中絶または避妊へのアクセスが必要な人は、Women on Webのwebサイトでオンライン相談を受けることができる[24]

掻爬術と吸引法

真空吸引法
子宮掻爬法

日本やポーランドアイルランドなどのミフェプリストンが未認可の国々では、掻爬術あるいは吸引処置が選択される。子宮穿孔や出血などの合併症のリスクが高く安全性において「薬物による中絶」に大きく劣る。ミフェプリストンが開発される以前は、妊娠初期であっても吸引術や掻爬術がファーストチョイスとして選択されていたが、ミフェプリストンが認可された国々ではリスクの問題のためにファーストチョイスとされない。また、子宮内膜が薄くなる子宮内膜菲薄化、子宮に穴が開いてしまう子宮穿孔[20]や術後にアッシャーマン症候群を起こすことがあり、不妊症となるケースがあるのも欠点である。[要出典]

  • D&C法(dilatation and curettage)- 英語で「拡張と掻爬」という意味で、ドイツ語ではAuskratzungと呼ばれる。胎盤鉗子とキュレットを用いる掻爬術。
  • D&E法(dilatation and evacuation)- 英語で「拡張と吸引」という意味で、吸引器を用いて子宮内容物を吸引除去する方法。
    • EVA(electric vacuum aspiration)- 電動式吸引器を用いる
    • MVA(manual vacuum aspiration)- 手動式吸引器を用いる

2021年10月時点、日本ではD&Cが主流であるが[20]、D&Eは以下の点でD&Cよりも利点が多い[15]

  • 中絶手術における手術時間が短く、出血量が少なく、疼痛が少ない。
  • アメリカ合衆国(米国)などでは1980年代には既にD&Eが一般化している。
  • WHOや英国のガイドラインではD&Cは推奨されていない。
  • 日本でもD&CがD&Eに比べて再手術を要する不全流産と子宮穿孔の頻度が高い。
  • 術中は強い疼痛が生じるため[20]、静脈麻酔を使う。また経腟分娩の経験がない女性は術中に子宮口が開きにくく、術前に子宮口を開く処置を要するが個人差があるが痛みを伴う。

日本産婦人科医会においても、WHOや英国の安全な中絶に関するガイドラインではD&C(掻爬法)は推奨されておらず、また一般的にD&Cを施行された既往のある女性では早産率が高く、不妊治療の経過において子宮内膜が薄い場合があり、3 回以上のD&Cを受けた女性で子宮腺筋症の率が高い点を理解しており、国際産科婦人科連合(FIGO)もそのSafe Abortion(安全な中絶)委員会において強くD&E を勧めていると公表している[25]

ラミナリアによる経管拡張には時間がかかるので、通常1日間の留置が行われる。子宮頚管をラミナリアなどで拡張後に、産婦人科器具(胎盤鉗子やキュレット、吸引器など)で胎児を物理的に直接除去する。苦痛を伴うため、通常経静脈的に鎮静剤の投与が必要とされる

WHOは「掻爬法は、時代遅れの外科的中絶方法であり、真空吸引法または薬剤による中絶方法(Medical Abortion)に切り替えるべき」と勧告している[26]。一方で日本産婦人科医会は、「我が国の掻爬法は、歴史もあり、その手技に習熟した慣れた医師は安全に確実に行っている」と主張している[20]

2021年7月、厚生労働省は公益社団法人 日本産婦人科医会 会長と公益社団法人 日本産科婦人科学会 理事長あてに「人工妊娠中絶等手術の安全性等について(依頼)」として、WHOガイドラインの抜粋を添付し「国際的な動向を踏まえて電動式吸引法と手動式吸引法の周知」を求める厚生労働省子ども家庭局母子保健課長通知を発出した[27]。この通知については日本産科婦人科学会の木村正・理事長(大阪大教授)は吸引法周知に取り組む姿勢を見せつつも、旧手法を長年行って来た医師の新技術取得について懸念と安全性の損失を表明している[28]。一方、世界70カ国・地域が承認しているミフェプリストン・ミソプロストールの中絶薬は外科的手術が不要でありWHOも推奨している。多くの国では手術より薬物中絶比率が高く、フィンランドでは薬物97%、手術3%となっており国際的には薬物中絶が主流となっている[29]

中期中絶(妊娠12週以降 - 21週目まで)

この時期は胎児がある程度の大きさとなるため、分娩という形に近づけないと中絶ができない。そのためラミナリアやメトロイリンテルなどで子宮頚部を拡張させつつ、プロスタグランジン製剤(膣剤、静脈点滴)により人工的に陣痛を誘発させる方法がある。また、海外では中期中絶にも器具を用いるD&E と呼ばれる手法がしばしば行われ、WHOも陣痛誘発法より優先すべきことを推奨している。日本では妊娠12週以降は死産に関する届出によって、妊婦は死産届を提出する必要がある。

妊娠22週までの胎児は肺ができていないため生存継続が不可能だが、心臓が動き数十分生きているため人口死産を引き起こし中絶することに医療関係者は高いストレスを感じる[30]

後期中絶(妊娠22週以降 -)

妊婦側の申し出による中絶は法的に認められておらず、また医療上の理由で母体救命のため速やかな胎児除去の必要性が生じた場合でも、早産の新生児が母体外でも生存可能な時期以降は帝王切開など胎児の救出も可能な方法を優先すべきである。しかし、それが不可能な状況のとき又は他の方法を施しても胎児の生存の見込みが無いと判断されたとき、胎児の体を切断したり頭蓋骨を粉砕したりして産道から取り出すなどの緊急措置が行われることも想定される。胎児縮小術、回生術、部分出産中絶(partial-birth abortion)、D&X(dilation and extraction、拡張と牽出)といった名称で呼ばれる。かつて医療水準が低かった時代には、分娩時に手足が引っ掛かった逆子や胎児の頭が大きすぎて骨盤を通過できず母体が体力を消耗して生命の危機にさらされたとき、こうした救済措置がとられることがあった。


注釈

  1. ^ 例えばアメリカのマサチューセッツ州では、妊娠24週目までの中絶なら合法である。
  2. ^ 例えばアメリカのテキサス州では、妊娠6週目までの中絶なら合法である。
  3. ^ 女性は最高裁の判決が下される前に中絶してしまっていた。
  4. ^ 日本では民法の第四編第三章第二節第五款、第817条の2から第817条の11に規定されている。
  5. ^ 日本では、出産後に出産育児一時金として産んだ子供1人につき42万円が戻ってくるほか、出産時にお金が用意できなくても、出産一時金直接支払制度や自治体の入院助産制度を利用すれば、産む時に費用が直接病院に支払われる。

出典

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