人工妊娠中絶 人身売買との関連

人工妊娠中絶

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/28 12:51 UTC 版)

人身売買との関連

インドでは、人工妊娠中絶を希望して来院した女性に対して[187]、病院スタッフが出産するように説得し、その乳児を闇市場に売却して人身売買を行っていた事件があった[187]。書類上は死産扱いとして処理していた[187]。日本でも中絶を考えている女性に対して、「インターネット赤ちゃんポスト」を名乗る団体が「産めば最大200万円援助する」という内容で特別養子縁組を斡旋している[188]。実際に120万円ほどが支払われた事例もあり[188]、マッチングに使用するスマホアプリの使用料や養子縁組成立時の謝礼金50万円などで年間15億円の売り上げ予定としているが[188]、人身売買ではという指摘もあり地方自治体から再三の指導を受けている。

緊急避妊薬市販

経口妊娠中絶薬は1988年にフランスなどで初承認された[189]。アメリカ、イギリス、スウェーデンオーストラリアタイ王国台湾、インドなど65カ国以上で認可され、WHO必須医薬品モデル・リストに指定されている[190]。中華人民共和国では1988年に、チュニジアでは2001年に、アルメニアでは2007年に認可された。2021年時点で認可国は70か国以上となっている[189]

日本

外科手術を必要としない、より苦痛の少ない中絶を可能にする経口妊娠中絶薬は、日本では厚生労働省に市販が認可されていない[191]。インターネットを通じて購入した中絶薬を使った女性が、大量に出血するなどして受診した事例から、個人の輸入を制限し、使用しないよう呼びかけている[189]

日本は妊娠を回避する緊急避妊薬(アフターピル)「ノルレボ錠」は医師の診断なしには処方されずかつ約15000円と高価であるため、「意図しない妊娠のリスクを抱えた全ての女性は、緊急避妊薬(アフターピル)にアクセスする権利がある」とする世界保健機関の勧告に逆行している[192]。なお2019年にジェネリック薬「レボノルゲストレル錠」が適用となり約9000円で処方可能となった[193]

2023年夏より試験的に医師の処方箋なしでの販売の運用を開始することを決めた。[194]

この状況に対し緊急経口避妊薬の市販化への議論が高まったが、日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長は「日本では若い女性に対する性教育、避妊も含めてちゃんと教育してあげられる場があまりにも少ない」「“じゃあ次も使えばいいや”という安易な考えに流れてしまうことを心配している」と2020年7月にNHKでコメントし、物議を醸した[195]

これとは対比的に、富山市では、10代の人工妊娠中絶率はこの5 - 6年、女子の人口1000人あたり1人前後の割合で推移している。対して全国平均は6人前後で、福岡県や沖縄県などは10人前後となっている。1990年代に女子高生などの性が商品化され、全国で人工妊娠中絶が急増したことに危機感を抱いた産婦人科医と富山市は協力し、1991年から性教育の出張授業を始めた結果となっている。性教育とは危機管理を学ぶことという意識で教育が行われている[196]

アメリカ合衆国では、大学校内の自動販売機でこの薬が購入できる一方、日本において人工妊娠中絶は病気でなく、自由診療で相場は15万円前後であるため、緊急避妊薬が容易に手に入るような環境が広まると、結果として産婦人科医の人工妊娠中絶の件数減少により、クリニック収入が減ることを医師が懸念する可能性を指摘する意見もあり[197]、中絶が「罪人に対する処罰」であり産婦人科医の「いい金づる」との批判的意見がされている[198]

一方で、産婦人科医からは中絶薬を使用することで起こる不正出血を防ぐための入院もあり得るとして、開業医の収入は減らず女性自身の負担が増加する可能性を述べる者もいる[199]。世界で承認されている、子宮内避妊システムの小さいものの利用、腕に入れるインプラント、皮膚に貼るシールの利用を含め「産む・産まない」の選択を女性自身が決める「リプロダクティブ・ヘルスアンドライツ」の権利が尊重される必要がある[200]

カナダに拠点をおく非営利団体「ウィメン・オン・ウェブ」(WoW)はオンライン診療を通して日本人女性にも避妊薬・妊娠中絶薬を処方しており、メールは日本語でも可能である。厚労省によると、WoWを通じて処方を受ける場合には制度上「個人輸入」にあたり医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき医師の診断書や指示書が必要になるが、国外の医師の処方せんもこの指示書にあたるため問題がないとされる。しかし、本人を含む、母体保護法指定医以外の人が中絶をした場合、刑法上の堕胎罪に当たる可能性があることも報道されている。この団体代表者レベッカ・ゴンパーツ医師は、社会権規約(ICESCR)に批准している日本政府には、避妊薬、その他の避妊方法、緊急避妊薬、中絶薬を含むWHOの必須医薬品を確保する義務があるため、日本の女性たちには中絶薬を使う権利を持ち中絶薬は安全であり世界中で使用されていると表明している。日本からWoWに連絡をした女性たち、支援を受けた女性たちは年々増加し、2011年から2020年までに合計4175件の相談件数と、2286件の避妊薬・妊娠中絶薬の発送件数があった[201]

岡山県津山市で住宅団地の浄化槽から乳児の遺体が見つかった事件では、岡山県警はベトナム国籍の女性技能実習生について死体遺棄容疑で4月16日に逮捕し処分保留で釈放したが、5月に堕胎容疑で再逮捕している。実習生のため妊娠が発覚したら帰国させられると思った末の犯行だった[202]

しかし彼女がもしベトナムにいたとしたら中絶費用は妊娠初期で500円弱、中期でも1万円強。貧困地域や遠隔地では無料であった。今でも日本では堕胎罪、妊婦自身が行った場合には自己堕胎として罪に問われる問題がある[203]

中絶回避を試みる制度

特別養子縁組

プロライフ団体は中絶ではなく、養子縁組することを提案している。ミシシッピ州の非営利団体「プロ・ライフ・ミシシッピ」の代表は2011年11月の取材で、「2009年以降に991人の赤ん坊を助けました」と語っている[8]。中絶に至る人の中には、妊娠したものの社会的なバックアップを得られず、子供を育てる自信を失って中絶に至るケースが多い。その他女性の状況や妊娠経緯などのさまざまな事情により、子供を育てられないもしくは育てるのが現実的でない場合に、子供の生命と利益と福祉を守るための制度として特別養子縁組制度がある。この制度は海外では一般的であり、例えばアメリカでは実施件数は年間12万件を超え[204]Appleを創業したスティーブ・ジョブズや映画監督のマイケル・ベイなど、養子出身の有名人も多い[205]

日本では宮城県石巻市の医師菊田昇が、中絶を希望してきた女性に出産を奨励し、子供のいない夫婦に斡旋していたことをきっかけに養子縁組の法的枠組みが整備され、1987年(昭和62年)に法律が制定され[注釈 4]、現在では養子縁組支援団体も多数存在し、経緯や障害の有無を問わず多数の養子縁組が実施されている。費用は無償であり、出産後の一定期間は意思が変わった場合は縁組を取り止めることもできる[206]。支援団体の中には出産費用の一部援助[注釈 5]や住む場所がない女性のために住まいを提供する団体もある。

日本における縁組は支援団体や児童相談所が中心となって行うことが多く、医療機関であっせんを行っているのは一部の医師会や産婦人科医のみであったが、2013年9月にあんしん母と子の産婦人科連絡協議会が設置されるなど特別養子縁組の担い手としての医療機関の存在感も増している。同協議会は、14道府県の計20の産婦人科病院や医師が参加し、連携して特別養子縁組に取り組むネットワークである[207]。日本ではまだ特別養子縁組制度の認知度が低いため、認知度を高めるために、日本財団が4月4日を「養子の日」と制定して、毎年養子縁組への理解と深めてもらう周知啓発イベントを行っているほか、「養子縁組推進法」の制定へ向けた政策提言などを行っている[208]

他の中絶や新生児殺害をなくす動きには、こうのとりのゆりかご(通称赤ちゃんポスト)の設置が挙げられる。これはさまざまな事情のために育てることのできない新生児を匿名で引き取り、特別養子縁組を行うための設備であり、日本では熊本県熊本市の医療法人聖粒会が経営する慈恵病院が運用している。この設置に当たってはドイツにおける同様の施設であるベビークラッペが参考にされた[209]。2006年(平成18年)12月15日、慈恵病院は設置申請を熊本市に提出。2007年(平成19年)4月8日に熊本市から設置の許可を受け、同年5月10日から運用を開始し、同時に慈恵病院は、予期せぬ妊娠や赤ちゃんの将来のことを相談する窓口「SOS赤ちゃんとお母さんの妊娠相談」の運用を開始した。

2014年(平成26年)に行われた慈恵病院の理事長であり、医師である蓮田太二による講演によると、2007年(平成19年)から2013年(平成25年)11月までの同病院が相談を受けた事例やゆりかごの使用者のうち、養子縁組に至った事例や自分で育てることに決めたケースがともに200件前後あり、累計で453人の赤ちゃんの命が中絶などから救われた[209]

里親制度

18歳までの子供を(自分の生活が安定するまでなどの)一時的に子供を育ててもらう制度に里親制度がある。里親制度に関する条例は多くの都道府県基礎自治体が制定をしており、希望すれば利用できる。里親制度には、18歳までの子どもを実親が引き取って家庭復帰できるまで家庭内で養育する養育里親、親の病気などの理由などで一定期間だけ家庭を離れなければならない子どもを数日~数年の範囲で預かって養育する短期里親、将来的に里子との養子縁組を希望する養子縁組里親、子どもの3親等以内の親族(祖父母、叔父、叔母など)が里親になる親族里親(この場合叔父叔母など扶養義務のない親族ならば里親手当も支給される)などがある[210]。また類似制度として自治体が短期間子どもを預かるショートステイがある。


注釈

  1. ^ 例えばアメリカのマサチューセッツ州では、妊娠24週目までの中絶なら合法である。
  2. ^ 例えばアメリカのテキサス州では、妊娠6週目までの中絶なら合法である。
  3. ^ 女性は最高裁の判決が下される前に中絶してしまっていた。
  4. ^ 日本では民法の第四編第三章第二節第五款、第817条の2から第817条の11に規定されている。
  5. ^ 日本では、出産後に出産育児一時金として産んだ子供1人につき42万円が戻ってくるほか、出産時にお金が用意できなくても、出産一時金直接支払制度や自治体の入院助産制度を利用すれば、産む時に費用が直接病院に支払われる。

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  207. ^ 「養子縁組 20施設が参加 養父母紹介へ協議会発足」日本経済新聞ニュースサイト
  208. ^ 特別養子縁組の普及および啓発~子どもたちに温かい家庭を~ 日本財団
  209. ^ a b 「こうのとりのゆりかごとSOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」日本財団(2014年1月20日更新)
  210. ^ 公益財団法人全国里親会 里親の種類と要件





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