醤油 醤油と微生物

醤油

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/14 06:00 UTC 版)

醤油と微生物

麹菌

カビの中で、麹を作る際に用いられる菌が麹菌である。ニホンコウジカビAspergillus oryzae)および、ショウユコウジカビAspergillus sojae)は、ともに醤油醸造に用いられている。

酵母

仕込中期にアルコール発酵を行う酵母を「主発酵酵母」と呼ぶ。過去、主発酵酵母は耐塩性のサッカロミセス属と分類されていたが、現在はジゴサッカロミセス・ルーキシー(Zygosaccharomyces rouxii) と分類されている。古くなった醤油に生える白いカビも同種のもの。また、仕込後期に穏やかに香気成分を生産する酵母を「後熟酵母」と呼ぶ。Candida versatilis等、主にカンジダ属の酵母である。

乳酸菌

過去、Pediococcus属乳酸菌と考えられており、Pediococcus halophilusPediococcus sojaeと分類されていたが、DNA相同性による分類の結果、アンチョビキムチから分離された耐塩性乳酸菌と同種であることが判明し、現在ではTetragenococcus halophilusと分類されている。また、塩分を減少させた減塩醤油では耐塩性乳酸菌が増殖しやすく、耐塩性乳酸菌による"腐敗"が生じる事がある[57]

醤油と日本料理

日本の料理には欠かせない調味料であるが、江戸時代における濃口醤油の発明はその後の日本料理の発展において重要な役割を果たした。握り寿司、蕎麦、蒲焼天ぷらといった江戸で生まれた料理は濃口醤油の誕生なくしては存在していなかったと言っても過言ではない。今日の日本料理の代表となっている多くの江戸料理は濃口醤油と密接に関係している。江戸時代の料理書である『料理早指南』には、味噌汁澄まし汁の味を引き立てるためにたまりを少し差すとの解説がある。これを「影を落とす」と表現するとされ、すでにうま味を与える調味料としての醤油の性格が認識されていることが理解される[58]

醤油に関する諸説

人の髪の毛から作られている
日本では、大正時代から昭和初期と太平洋戦争終戦から数年間にかけ、物資不足解消のため、様々な原料から食品を製造する試みが行われていた。醤油原料としても様々な原料が検討され、それぞれ長所・短所がある独特の製品が作られた。これを代用醤油と呼ぶ。原料としては、魚介類海藻カイコの蛹、鯨ひげ[59] などが用いられた。製造法の代表的なものとして、タンパク質原料を加水分解したものを中和したアミノ酸液を得るものである。また、廃毛髪[60] や、牛の血液を用いたという俗説[要検証]もある。
2017年7月現在の日本でも、都市伝説として、醤油の原料に人毛由来のアミノ酸が使われているという噂があるが、[要出典]2017年7月現在ではキャリーオーバーを除きJAS法や品質表示基準によって植物性たん白質の使用しか認められておらず、髪の毛のような動物性たん白質の使用は禁止されている。また、2017年7月現在の日本において、仮に毛髪由来のアミノ酸を原料として醤油を作った場合、法的にそれを「しょうゆ」と呼ぶことはできない。コスト面においては、毛髪収集に必要なコストは大半が人件費であり、脱脂加工大豆の購入価格がそれよりも大幅に安いため、毛髪からアミノ酸を生産するのは非経済的である。また、味も非常に悪いため、素人が興味本位で作ることはあっても、一般に出回ることはまず考えられない。なお、中国では一部業者によりアミノ酸の基準量を満たす目的で人毛由来のアミノ酸を添加した醤油が製造されているとの報道が2004年1月にあったため、中国政府によって人毛を原料とする醤油の製造が禁じられた。[要出典]
飲めば兵隊に取られない
かつて徴兵制度が実施されていた時代に、検査の前日に大量の醤油を飲むことによって体調を崩し不合格となるといったことが、兵役を逃れる目的で実際に行われていたとされる。醤油は高濃度の塩分を含む液体のため、一時に大量を摂取すれば腎機能や肝機能の検査値に異常をきたすことは確実だが、こうした無茶な行為によって不可逆的な疾病を患ったり、急性症状によって死に至る例もあったと伝えられている。徴兵制度導入初期には免役率が80%以上と高く、徴兵される場合のほうが不運と考えられたため、このような徴兵逃れ行為が横行したが、その後の改訂で国民皆兵が義務づけられ免役率が下がると、むしろ免役されるほうが不名誉と考えられるようになり、徴兵逃れ行為は下火となった。
醤油を使うとガンになる
昭和40年代に広まっていた俗説。はっきりとした根拠は不明だが、麹菌がアフラトキシンを生産する、という噂が一人歩きしたものに、「大量に醤油を摂取した場合には塩分の過剰摂取による体調不良が起きる」ことが付与されて作られた俗説と考えられる。
大手メーカーは2週間で醤油を作っている
本醸造醤油の場合は、混合醸造方式・混合方式を利用することができないため、理論的に2週間では不可能と言ってよい。仕込み開始から2週間、比較的高温で推移させた場合は、麹菌の酵素により諸味は一応液化するが、微生物による発酵過程を経ないため、香りは立たず、色は黒く、歩留まりは悪くなると思われる[要出典]。また、先に挙げた酵素添加による速醸法を用いることで、1か月程度に醸造期間を短縮することができる。しかし醤油醸造は酵素反応で原料が分解されれば終了という単純なものではなく、広く使われてはいない。農林水産省のホームページによると、日本生産の8割を占める本醸造醤油は寝かせる期間だけでも6か月 - 8か月である。
英語のSoyの語源は薩摩弁である
幕末期に薩摩藩が輸出していたこと、薩英戦争後にイギリスと急接近したこと、1867年にパリ万博に出展したことなどから、英語のsoyの語源は当時の薩摩弁で醤油を指す「そい」であるという俗説がある。しかし1688年にはすでにカリブの海賊のウィリアム・ダンピアが太平洋を航海した時の記録にsoyという単語が使われている。また、パリ万博で賞を取ったのは、幕府側代表だった水戸藩の領内で作られたものである。[61]

注釈

  1. ^ 紀元前8世紀頃の『周礼』で、「醤」という漢字が初めて使われた。

出典

  1. ^ 日本酒の「水」を理解する:灘の男酒と伏見の女酒
  2. ^ 龍野の醤油について
  3. ^ 多聞院日記 巻12-巻23 (三教書院 1939)近代デジタルライブラリー
  4. ^ 山科言継言継卿記』永禄2年(1559年)条や1638年成立の『毛吹草』等。
  5. ^ a b ヤマサしょうゆ博士 - しょうゆの歴史 - しょうゆのルーツは「醤(ひしお)」
  6. ^ a b 日本醤油協会 2005, pp. 188-189.
  7. ^ 土浦市史編さん委員会 編 1985, p. 734.
  8. ^ 本堂 1989, pp. 346-347.
  9. ^ 枻出版社 2010, p. 65.
  10. ^ つくば書店レポート部 編 2011, p. 45.
  11. ^ 万能調味料しょうゆの歴史| しょうゆ情報センター
  12. ^ 味噌の醸造技術 中野政弘編著
  13. ^ 豊浜水産物加工業協同組合
  14. ^ 河野酢味噌製造工場
  15. ^ 『日本の味 醤油の歴史』吉川弘文館
  16. ^ ヤマサしょうゆ博士 - しょうゆの歴史 - しょうゆの誕生
  17. ^ 万能調味料 しょうゆの歴史 しょうゆ情報センター(醤油PR協議会)、『味噌・醤油入門』海老根英雄・千葉秀雄
  18. ^ a b 川田正夫『日本の醤油』三水社、1991年。ISBN 978-4915607530
  19. ^ ―醤から醤油へ―しょうゆ発達小史”. 2015年1月25日閲覧。
  20. ^ 松江重頼の『毛吹草』、巻4の諸国の名産「和泉」の項に「酒、醤油溜…」と記載。
  21. ^ 植物学者ツンベルクの『日本紀行』の中に記載。
  22. ^ a b A-G・オードリクール『作ること使うこと:生活技術の歴史・民俗学的研究』 山田慶兒訳 藤原書店 2019年、ISBN 978-4-86578-212-7 pp.36-39.
  23. ^ キッコーマン 『種類による分類』「淡口しょうゆ:塩分は濃く、淡めの色合いとおとなしい香りが特長」
  24. ^ a b c d ヤマサしょうゆ博士 - しょうゆの歴史 - しょうゆの発達
  25. ^ (富山県)上市町史編纂委員会『上市町史』上市町、1970年、p566。
  26. ^ 「しょうゆ四印一本値」『日本経済新聞』昭和25年7月12日3面
  27. ^ a b c しょうゆ業界におけるめんつゆ・たれ類の動向等 独立行政法人農畜産業振興機構 砂糖類情報 2008年10月
  28. ^ “「濃縮めんつゆ」は「めんつゆ」を超えた!?いまや、キッチンの定番アイテムに!〜キッコーマン「濃縮めんつゆ」の使用実態調査より〜” (プレスリリース), キッコーマン, (2005年), http://www.kikkoman.co.jp/news/05028.html 2021年8月7日閲覧。 
  29. ^ 便利に使う市販つゆ類、原材料は?開栓後の消費期限は? (PDF) 社団法人 全国消費生活相談員協会 2007年(平成19年)12月7日
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    ルポ・編集部が行く!! / 大分郷土料理「リュウキュウ」のなぞを解け! 週刊レキオ 2005年1月20日
  37. ^ 沖縄風味「シークワーサー醤油」のプチコーン J-CAST 2008年5月20日
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  40. ^ 下渡 敏治. “中国における醤油の歴史と日本への伝来 日中の食文化形成に関する学際的研究― 食文化の生成・伝来・融合化を中心として 人文科学、社会科学に関する学際研究への助成”. サントリー文化財団. 2020年7月25日閲覧。
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  53. ^ a b 年始のご挨拶や手土産に最適「職人醤油」 All About 2010年1月11日
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  58. ^ 石毛直道『世界の食べもの 食の文化地理』p272 講談社学術文庫
  59. ^ 大村秀雄 『鯨を追って』岩波書店(岩波新書)、1969年、21頁。
  60. ^ 髪の毛から醤油が作れる?(インターネット・アーカイブ)
  61. ^ ヨネビシ醤油 会社沿革






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