カキ (貝) 主な食用種

カキ (貝)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/20 02:51 UTC 版)

主な食用種

マガキ属 Crassostrea

多くの種は東アジアに生息し、ヨーロッパと北アメリカ大陸に生息するのは1種である[7]。なお、ヨーロッパに生息するマガキ属は、16世紀貿易船による人為移入と考えられている[21]

マガキ(真牡蠣、真牡蛎) Crassostrea gigas (Thunberg, 1793)
最も一般的な種で、潮線上にも生息し比較的大きな礁を形成する[2]。日本でカキといえば本種。本来はであるが、大型で夏でも生殖巣が発達しない「3倍体牡蠣」も開発され、市場に出ている。北海道岩手県宮城県兵庫県岡山県広島県産が有名。
イワガキ(岩牡蠣、岩牡蛎) Crassostrea nippona (Seki, 1934)
潮線下から水深20mまでに生息[17]し大きな礁を作らない[2]。マガキと対照的に夏が旬であり、「夏ガキ」とも言われる。殻の色が茶色っぽく、マガキに比べて大きいものが流通する。天然物と養殖物[22]の両方がある。
スミノエガキ(住之江牡蠣、住之江牡蛎) Crassostrea ariakesis (Fujita, 1913)
有明海沿岸に生息[23]し食用にされるが、他所へはほとんど出回らない。マガキにごく近縁な種で、殻の表面はやや滑らか。産卵は、6-7月[23]
シカメガキ Crassostrea sikamea (Amemiya,1928)
八代海や有明海、福井県久々子湖に分布するカキ[24]
八代海周辺で食用にされたが、1946年頃に熊本県八代市鏡町からアメリカ合衆国に種ガキが輸出され、現地で養殖が進むと八代海では生産されなくなった。輸出されたシカメガキは現在もアメリカ合衆国西海岸ワシントン州沿岸を中心に「クマモト」の名で養殖されている。小振りながらクリーミーで濃い味が特徴。

イタボガキ属 Ostrea

イタボガキ(板甫牡蠣、板甫牡蛎) Ostrea denselamellosa (Lischke, 1869)
かつては多く食用にされ、能登半島淡路島周辺が有名な産地であったが、現在は瀬戸内海地方で僅かに市場に出回る程度で、絶滅危惧種状態[25]。食用のみならず貝殻が最上質の胡粉の原料となる点でも重要であり、本種の復活と養殖技術開発の努力がなされている。
ヨーロッパヒラガキ Ostrea edulis (Linnaeus, 1758)
ヨーロッパ原産で、イタボガキに似た外観で輪郭が丸く平たい貝。別名:ヨーロッパガキ。市場ではフランス牡蠣ブロンフラットなどとも呼ばれる。日本では宮城県気仙沼市の舞根(もうね)などで僅かに養殖され、高級食材としてフランス料理店などに卸される。
かつてのヨーロッパ、特にフランスでカキと言えば本種のことであったが、1970年代以降、寄生虫などにより激減。需要を賄うために日本産のマガキを輸入して養殖するようになった。それ以来フランスなどで流通するカキの相当部分は日本由来のマガキであるという[26]
2011年、東日本大震災津波により宮城県のカキ養殖施設が壊滅状態に陥った時には、フランスのカキ養殖業者達がかつて日本に助けてもらった恩返しとして、養殖施設の復旧を支援した[27]

  1. ^ カキ/牡蠣/かきの意味・語源・由来を解説 語源由来辞典
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  4. ^ a b 横山芳春、安藤寿男、橋本聡子「大規模カキ化石密集層のタフォノミー : 茨城県霞ヶ浦周辺の第四系更新統下総層群を例に」 日本古生物学会誌『化石 Fossils』 (76), 32-45, 2004-09-22, NAID 10017457601
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  6. ^ かき 環境省 せとうちネット
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  8. ^ a b Higginbotham, James Arnold (1997-01-01). Piscinae: Artificial Fishponds in Roman Italy. UNC Press Books. ISBN 9780807823293. https://books.google.com/books?id=cPyDuRqA2jEC 
  9. ^ かき(牡蠣)の歴史 兵庫教育大学大学院 關浩和研究室
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  11. ^ 漁民の森作り 広島県漁業協同組合ホームページ
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  23. ^ a b 田中彌太郎「有明海産重要二枚貝の産卵期-II」『日本水産学会誌』Vol.19 (1953-1954) No.12 P1161-1164, doi:10.2331/suisan.19.1161
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  55. ^ サザエであれば「ふんどし」と呼ばれる部分が相当する
  56. ^ 緑色をしたカキもあるがこれは餌の違いによるもので、あまり一般的ではない
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