アルコール 化学的性質

アルコール

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/16 01:00 UTC 版)

化学的性質

アルコールは非常に弱いながらとしての性質を示す。それゆえプロトン性溶媒 (protic solvents) と呼ばれる。メタノール以外は水よりも弱く、アンモニアあるいはアセチレンよりは強い酸で、ヒドロキシ基からプロトンを放出する弱い酸である。共役塩基 (RO-) はアルコキシドアニオンと呼ばれる。弱い酸の共役塩基であることから明らかなように、アルコキシドは強力な塩基として知られる。

なお、同じくヒドロキシ基を持つフェノール類が、アルコールと区別される理由の1つは、一般的なアルコールよりもフェノールの酸性度が強いためである。これは、フェノールのヒドロキシ基がプロトンを放出した後に酸素原子上に残る負電荷が、芳香環へと非局在化できることが主な理由である。

合成

アルコールはアルデヒドケトンエステルなどを水素化リチウムアルミニウムなどで還元することで得られる。アルデヒド、ケトンやエポキシドトリオキサングリニャール試薬などの有機金属を付加後に加水分解するとアルコールを与える。エステルを加水分解するとアルコールとカルボン酸に分かれる。有機ホウ素化合物有機ケイ素化合物は酸化的に分解するとアルコールに変わる。前者の分解はヒドロホウ素化と合わせ、アルケンからアルコールに変換する合成経路となっている。

アルケンにヒドロキシ基を2個付加して 1,2-ジオールとすることができる。四酸化オスミウムシャープレス不斉ジヒドロキシ化が用いられる。特に後者はアルケンに対して面選択的に酸化を行うことができる。

反応

アルコールの反応で最も重要なものは、ヒドロキシ基が他の基に置換される求核置換反応である。実際にアルコールをハロゲン化水素酸(たとえば濃塩酸)と強い条件で反応させると、ハロゲン化アルキルに変わる(ただし求核性の低いフッ素を除く)。実験室的手法としては、ハロゲン化リンやハロゲン化チオニルをアルコールと反応させてもハロゲン化アルキルが得られる。求核置換反応は、求核性の強いクロロ基(あるいはハロゲノ基)の方に平衡が傾く。しかし、条件を変えアルカリ性条件下にすると、ハロゲン化アルカンはアルコールのほうへ平衡が戻る。これが工業的に合成アルコールを製造する1つの方法になっている。

アルコールはそれ自身は求核性を持ち、硫酸を用い低温で脱水するとエーテルになる。また、カルボン酸などオキソ酸との脱水縮合(あるは酸ハロゲン化物との反応)ではエステルになる。硫酸存在下で高温で処理すると、アルコールは脱離反応により水とアルケンを生成する。逆に、アルケンは酸触媒存在下付加反応で水と反応させるとアルコールを生成するが、異性体が混合するので限られた局面以外には合成法としての価値はない。

第一級アルコールは PCC で酸化するとアルデヒド、過マンガン酸カリウムで酸化するとカルボン酸に変わる。第二級アルコールを PCC で酸化するとケトンが得られる。スワーン酸化デス・マーチン酸化ジョーンズ酸化はアルコールからカルボニル化合物を得る人名反応として用いられる。第三級アルコールは酸化されにくく、通常の酸化剤では酸化されない。

毒性

低分子のアルコールは「鼻を突く」と描写される刺激性を持ち、種類によっては特異な臭気を持つこともある。

アルコール飲料としてのエタノールは、とも呼ばれ、有史以前より、多種多様な衛生的、食事、薬用、宗教、そして快楽を得る目的で消費されてきた。それは少量では比較的害が無いか、あるいは有用であると広く認知されている。しかし、一度に大量に摂取すると酔いあるいは泥酔の状態になり、恒久的な健康被害や死をもたらす(アルコール依存症急性アルコール中毒)。また、アルコール飲料は、IARCによる発がん性リスク評価でGroup1(ヒトに対する発癌性が認められる)に分類されている。いわゆる悪酔い二日酔いはエタノールの代謝物であるアセトアルデヒドが蓄積されることで生じると言われている。酒類に微量含まれるアミルアルコールもその原因のひとつであるとも言われる。

エタノール以外のアルコールについては、グリセリンや糖のように生物に不可欠な物質もあれば、メタノールのように強い毒性を持つものもあり、毒性の有無や強さはさまざまである。しばしば毒性が問題になるアルコールには、メタノールとエチレングリコールがあり、これらは体内で代謝されて比較的強い酸を生じるため、アシドーシスにより臓器障害を引き起こし、最悪は死亡に至ることがある。このため、炭酸水素ナトリウムを静脈注射するなどして、血液の酸性化を抑える対症療法が行なわれる場合もある。

また、メタノールは代謝生成物の蟻酸により失明を引き起こすことが知られている。これらのアルコールはエタノールと代謝経路が競合するので、誤飲した場合にはエタノールを多量に投与して管理し、酵素によって代謝される前に体外に排出されるように、代謝されたとしても可能な限り少量ずつにして害が出にくいようにする。そして、葉酸静注によって蟻酸の代謝を促進し、蟻酸による害が出にくいようにする場合もある。

この他、アルコールデヒドロゲナーゼ阻害剤としてフォメピゾールを投与して代謝速度を落として、代謝される前に体外に排出されるようにすることもある。さらに、血液中に回っているアルコール類や、蟻酸などの代謝産物は水溶性であるために、血液透析などの処置が行われることがある。


  1. ^ a b c d e f g h i "アルコール". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 48.
  2. ^ "第一化合物". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 768.
  3. ^ "グリコール". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 361.
  4. ^ "グリセリン". 岩波理化学辞典 (第3版増補版第3刷 ed.). 岩波書店. 5 November 1982. p. 363.
  5. ^ Zeitlicher Hintergrund von japanischen Fremdwörtern - Edo – Zeit - (PDF) (13頁、獨協大学
  6. ^ 資源局の標準用語 今回一定して発表さる 督府官房調査課 川角道夫氏談台湾日日新報 1931年4月3日 - 1931年4月5日)






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