かく‐さん【核酸】
核酸
核酸
ヌクレオチドのポリマー(ポリヌクレオチド)で、一般に、3'位と5'位がリン酸ジエステルで架橋された、分岐しない線状ポリマーを核酸と呼ぶ。DNA(deoxyribonuleic acid), RNA(ribonucleic acid)の二種類がある。
構成
DNA
RNA
分光測定
濃度決定
DNAやRNAは核酸塩基に由来する260nm付近の吸収があり、DNA/RNA溶液の濃度や純度を吸光度で決定することができる。濃度の概算は以下のように計算する。
濃度 μg/mL
[dsDNA] = 50 x A260nm
[ssDNA] = 37 x A260nm
[ssRNA] = 40 x A260nm
濃度 μmol/mL (pmol/μL)
[dsDNA] = 50 x A260nm ÷ (N x 660)
[ssDNA] = 37 x A260nm ÷ (N x 330)
[ssRNA] = 40 x A260nm ÷ (N x 330)
濃度決定(塩基数を指定)
λmax | |
---|---|
A | 259nm |
C | 267nm |
G | 253nm |
T | 267nm |
4つの核酸塩基は、それぞれ吸収スペクトルの最大波長(λmax)も吸光係数(εmax)が異なる。特にプリン環(A,G)の吸光度はピリミジン環の吸光度よりも高いため(右表を参照)、正確な濃度決定をするためには各塩基それぞれの数と吸光係数から計算する。
プラスミドやDNA断片などのように長い核酸の場合は上の簡単な計算法で構わないが、プライマーのような短い断片やGC含有量が50%から乖離している場合にはそれぞれの塩基数を指定して計算する。
濃度 μmol/mL (pmol/μL)
[c] = A260 x 100 ÷ (1.5NA + 0.71NC + 1.2NG + 0.84NT)
NA,NC,NG,NT:各塩基の数
純度決定
DNAやRNAなどの核酸の吸収スペクトルとそれ以外の分子(タンパク質や残フェノール)の吸収スペクトルの違いを利用して、純度を見積もることができる。
核酸塩基はどの塩基とも260nm付近に吸収極大λmaxを持つ。一方、タンパク質はチロシン側鎖やトリプトファン側鎖の280nm付近に吸収帯を持つ(タンパク質の定量法)。この違いを利用し、A260nmとA280nmの比を取ることで、溶液中の核酸の純度を見積もることができる。
A260nm/A280nmの目安
核酸塩基
修飾塩基
リボース
化学
RNAの塩基触媒加水分解

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核酸
核酸 [Nucleic acid(s)]
核酸はプリン塩基、ピリミジン塩基、デオキシリボースまたはリボースおよびリン酸から成り、塩基と糖の種類によってデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid: DNA)とリボ核酸(ribonucleic acid: RNA)の2種類がある。すなわちDNAはアデニン、グアニン、シトシン、チミンの4塩基、デオキシリボースおよびリン酸から成る。これに対してRNAは4塩基のうちチミンがウラシルに置き代わり、リボースおよびリン酸から成っている。
一般にDNAはデオキシリボースの3'位と5'位がリン酸と結合して主鎖になっている。その鎖のデオキシリボースの1'位にそれぞれの塩基が結合して、対応する2種の塩基(アデニンとチミン、グアニンとシトシン)が水素結合した二重らせん構造(double strand,double helix)をとっている。部分的には塩基-糖が結合した場合はヌクレオシドといい、塩基-糖-リン酸が結合した場合をヌクレオチドという。したがって、核酸はこれらのヌクレオチドが多数結合(リン酸ジエステル結合)したポリヌクレオチドである。
一般にDNAは遺伝情報を担っている染色体を構成し、真核生物では細胞内の核膜に包まれ、ヒストンという塩基性タンパク質と結合した核タンパク質として存在する(ただし、精子の核にはプロタミンが存在する)。
細菌のような原核生物の核領域には環状の2本鎖DNAのみが存在する。また、細菌の細胞質内には核染色体とは別に、自律的に機能するプラスミド(plasmid) とよばれる小環状のDNAが存在している。プラスミドは細菌の性決定因子、薬剤耐性因子、そのほか特異的な毒素や酵素を産生する遺伝情報を担っている。一方、RNAは通常は1本鎖で細胞質内に存在し、DNAの遺伝情報を伝達するメッセンジャーRNA(m-RNA)、アミノ酸をリボゾームへ運ぶトランスファーRNA(t-RNA)、リボゾーム自体を構成しているリボゾームRNA(r-RNA)の3種がある。なお、ウイルスではその粒子の芯(コア)または頭部にDNAかRNAのいずれかが存在するが、単鎖DNA(ファージφ×174)や2本鎖RNA(レオウイルス)もある。
核酸
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/20 04:30 UTC 版)



核酸(かくさん、英: nucleic acid)は、リボ核酸 (RNA)とデオキシリボ核酸 (DNA)の総称で、塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドがホスホジエステル結合で連なった生体高分子である。糖の部分がリボースであるものがRNA、リボースの2'位の水酸基が水素基に置換された2-デオキシリボースであるものがDNAである。RNAは2'位が水酸基であるため、加水分解を受けることにより、DNAよりも反応性が高く、熱力学的に不安定である。糖の 1'位には塩基(核酸塩基)が結合している。さらに糖の 3'位と隣の糖の 5'位はリン酸エステル構造で結合しており、その結合が繰り返されて長い鎖状になる。転写や翻訳は 5'位から 3'位への方向へ進む。
なお、糖鎖の両端のうち、5'にリン酸が結合して切れている側のほうを 5'末端、反対側を 3'末端と呼んで区別する。また、隣り合う核酸上の領域の、5'側を上流、3'側を下流という。
構造
一次構造
核酸の一次構造とは、(デオキシ)ヌクレオシド成分がホスホジエステル結合によって、連続的に連結され、枝分かれのない、ポリヌクレオチド(ヌクレオチドの重合体。核酸と区別して、20程度の短いものを指すことがある)鎖を形成させるような(デオキシ)ヌクレオシド配列である。
二次構造
核酸の二次構造とは、一本鎖の主にホモポリヌクレオチド(塩基成分が同一のヌクレオチド重合体)の場合には、塩基間の相互作用によって規定されるヌクレオシド成分の空間的配置をさす。2本の相補鎖の場合には、同一の鎖の隣接塩基間の相互作用と、互いに平行している鎖の対向塩基間の水素結合により安定化された規則的な二重螺旋(DNAには三重、四重螺旋も存在する)を意味する。
三次構造
核酸の三次構造は、固定化された二重螺旋とそれ以外のタイプの配列で形成される。
四次構造
核酸の四次構造は、リボソームやヌクレオソームのような核蛋白質と相互作用している高分子の空間的配置を意味する。特に、ポリヌクレオチドとポリペプチドの相互依存による高分子構造を指す。
核酸塩基
核酸塩基 (nucleobase) は核酸 (DNA, RNA) を構成する塩基成分で、主なものにアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルがあり、それぞれ A, G, C, T, U と略す。構造の骨格からプリン塩基 (A, G) とピリミジン塩基 (C, T, U) とに分けられる。
塩基 | 略号 | 分類 | 構造式 | DNA or RNA |
ヌクレオシド | リボヌクレオチド | デオキシリボヌクレオチド |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アデニン | A | プリン塩基 | ![]() |
DNA and RNA |
アデノシン | アデノシン一リン酸 (AMP) アデノシン二リン酸 (ADP) アデノシン三リン酸 (ATP) |
デオキシアデノシン一リン酸 (dAMP) デオキシアデノシン二リン酸 (dADP) デオキシアデノシン三リン酸 (dATP) |
グアニン | G | ![]() |
グアノシン | グアノシン一リン酸 (GMP) グアノシン二リン酸 (GDP) グアノシン三リン酸 (GTP) |
デオキシグアノシン一リン酸 (dGMP) デオキシグアノシン二リン酸 (dGDP) デオキシグアノシン三リン酸 (dGTP) | ||
チミン | T | ピリミジン塩基 | ![]() |
DNA | チミジン または 5-メチルウリジン |
5-メチルウリジン一リン酸 (TMP) 5-メチルウリジン二リン酸 (TDP) 5-メチルウリジン三リン酸 (TTP) |
チミジン一リン酸 (dTMP) チミジン二リン酸 (dTDP) チミジン三リン酸 (dTTP) |
シトシン | C | ![]() |
DNA and RNA |
シチジン | シチジン一リン酸 (CMP) シチジン二リン酸 (CDP) シチジン三リン酸 (CTP) |
デオキシシチジン一リン酸 (dCMP) デオキシシチジン二リン酸 (dCDP) デオキシシチジン三リン酸 (dCTP) | |
ウラシル | U | ![]() |
RNA | ウリジン | ウリジン一リン酸 (UMP) ウリジン二リン酸 (UDP) ウリジン三リン酸 (UTP) |
デオキシウリジン一リン酸 (dUMP) デオキシウリジン二リン酸 (dUDP) デオキシウリジン三リン酸 (dUTP) |
核酸やヌクレオチドの構成単位(の繰り返し数)として、たとえば、10塩基(1本鎖の場合)または10塩基対(2重鎖の場合)などと便宜的に用いる。
塩基対における水素結合
略号 | 塩基(略称の由来) |
---|---|
A | アデニン (Adenine) |
T | チミン (Thymine) |
G | グアニン (Guanine) |
C | シトシン (Cytosine) |
U | ウラシル (Uracil) |
R | プリン (puRine) |
Y | ピリミジン (pYrimidine) |
M | A あるいは C (aMino) |
K | G あるいは T (Keto) |
S | G あるいは C (G と C の結合は強い (Strong)) |
W | A あるいは T (A と T の結合は弱い (Weak)) |
B | G あるいは T あるいは C (A の次は B) |
H | A あるいは T あるいは C (G の次は H) |
V | A あるいは G あるいは C (TU の次は V) |
D | A あるいは G あるいは T (C の次は D) |
N | AGTCのどれか (aNy) |
DNAの場合、アデニン (A) とチミン (T)、グアニン (G) とシトシン (C) は水素結合を形成する。AT対が二つの水素結合を形成するのに対し、GC対は三つの水素結合を形成する。そのため、GC含有量が大きい領域では安定性が高まる。略号の A + T が Weak の頭文字W、G + C が Strong の頭文字Sとなっているわけである。
一方、RNAは、アデニン (A) とウラシル (U)、グアニン (G) とシトシン (C) で塩基対を形成する。塩基としてチミンではなくウラシルで構成されるが、ウラシルもチミン同様ピリミジン骨格であり、アデニンと塩基対を形成する。ウラシルは、チミンのメチル基が水素基に置換された塩基である。
比較的広範囲で使われている略号を示した。分野によってはこれと異なった略号を用いることもある(修飾塩基など)。また、塩基とヌクレオシドを区別したい場合は三文字の略号を使う場合もある。
化学的性質
変性
核酸や蛋白質などの巨大分子に起こる現象の一つで、一般的に二次以上の構造に関係している非共有結合交互作用の破壊を指し、核酸の場合では二本鎖から一本鎖の変換を意味し、[注 1]慣用的に融解といわれる。変性の化学的外因は紫外線、熱、加圧、攪拌、酸・塩基、溶媒のイオンなどである。これらのような刺激を与え続ければ、核酸の螺旋構造(以下、単に螺旋構造といえば二重螺旋の二次構造を指し、螺旋分子といえばその構造を持った核酸分子を意味する)は解けてゆき、最終的には平行していた鎖が完全に解離し、一本鎖となるだろう。この遷移の所要時間をその螺旋構造の安定性といえる。鎖の解離は対向塩基間の水素結合の切断によって進行するが、G/C塩基対の3本の結合より、A/T塩基対の2本の塩基対の破壊が容易であることは明らかである。スタッキング相互作用も安定性に関わるが、それは