トルエンとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 固有名詞の種類 > 自然 > 物質 > 化合物 > 化合物 > トルエンの意味・解説 

トルエン


トルエン

分子式C7H8
慣用名 トルオールToluolTolueneMethylbenzene、NCI-C-07272、Methacide、CP-25、Antisal 1a、RCRA waste number U-220、(1H8)Toluene、1-Mehtylbenzene
体系名: 4-メチルベンゼン、3-メチルベンゼン、1-メチルベンゼンメチルベンゼン、トルエン、(1H8)トルエン


トルエン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/28 07:05 UTC 版)

トルエン
略称 PhMe
BnH
識別情報
3D model (JSmol)
ChemSpider
ECHA InfoCard 100.003.297
RTECS number
  • XS5250000
CompTox Dashboard (EPA)
特性
化学式 C7H8
モル質量 92.14 g/mol
示性式 C6H5CH3
外観 無色透明の液体
密度 0.8669 g/mL, 液体
融点

−94.97 °C

沸点

110.63 °C

への溶解度 0.47 g/L (20–25 °C)
粘度 0.590 cP at 20 °C
構造
0.36 D
危険性
労働安全衛生 (OHS/OSH):
摂取による危険性
高い
吸入による危険性
高い
GHS表示:
Danger
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
Health 2: Intense or continued but not chronic exposure could cause temporary incapacitation or possible residual injury. E.g. chloroformFlammability 3: Liquids and solids that can be ignited under almost all ambient temperature conditions. Flash point between 23 and 38 °C (73 and 100 °F). E.g. gasolineInstability (yellow): no hazard codeSpecial hazards (white): no code
2
3
関連する物質
関連する芳香族炭化水素 ベンゼン
キシレン
ナフタレン
関連物質 メチルシクロヘキサン
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

トルエン: toluene)は、芳香族炭化水素に属する有機化合物で、ベンゼン水素原子の1つをメチル基で置換した構造を持つ。無色透明の液体で、には極めて難溶だが、アルコール類、油類などには極めて可溶なので、溶媒として広く用いられる。

常温で揮発性があり、引火性を有する。消防法による危険物危険物#第4類第1石油類)に指定されており、指定数量の20 %以上の貯蔵には消防署への届出が必要である。人体に対しては麻酔作用がある他、毒性が強く、日本では毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。管理濃度は、20ppmである。

歴史

トルエンの名は、南アメリカに分布する Myroxylon balsamum という木から得られたトルーバルサムとよばれる樹脂乾留して得られたことに由来する。イェンス・ベルセリウスが命名した。

化学的性質

トルエンは通常の芳香族炭化水素と同様に芳香族求電子置換反応の基質となる。メチル基の存在により、ベンゼンの約25倍の反応性を持っている。

特徴的な臭気を持ち、無色。沸点は約111融点は約−95度であり、通常では液体である。を1としたときの比重は0.87[1]

トルエンは穏やかなスルホン化によりp-トルエンスルホン酸を生成する。また酸化鉄(III)の存在下、塩素により塩素化反応を起こし、オルト・パラアイソマークロロトルエンを生成する。ニトロ化ではオルト・パラアイソマーのニトロトルエンを生成するが、加熱することでジニトロトルエン、最終的には爆発性のトリニトロトルエン (TNT) を生成する。ハロゲン化反応はフリーラジカル条件下でも進行し、そのときハロゲンはメチル基に入る。例えばトルエン中にNBSAIBNを加え加熱すると、臭化ベンジルが生成する。

トルエンのメチル基も他の反応試剤により酸化反応が進行する。トルエンは酸化により反応中間体であるベンジルカチオンを生じさせ、続く水との反応によりベンジルアルコールを生成することができる。生じたベンジルアルコールはさらに酸化されベンズアルデヒドさらには安息香酸となる。またトルエンは過マンガン酸カリウムにより安息香酸を生成するが、その一方でクロム酸化によりベンズアルデヒドを生成する。

トルエンの触媒的水素化はその芳香族性のため進行しにくいが、高圧の水素添加によりメチルシクロヘキサンを生成する。

製造

トルエンは原油中にも少量存在するが、通常は粗製ガソリンであるナフサエチレンプラントでの熱分解、石炭からのコークス製造で生成する粗軽油コールタールクラッキングにより製造する[2]。エチレンプラントで副生する分解ガソリンや、粗軽油・コールタールのクラッキングによる生成物はベンゼン・トルエン・キシレン等の混合物であるため分留によりそれぞれを分離精製する。その精製プラントは代表的な産品の頭文字を取り、BTXプラントと呼ばれる。

純トルエンの2016年度日本国内生産量は1 984 735 t、工業消費量は1 006 165 tである[3]

用途

トルエンは溶媒として一般的に用いられ、ペンキ塗料シンナー、多くの化学物質、ゴム印刷インク接着剤マニキュア皮なめし殺菌剤等、様々なものを溶解することができる。フラーレン指示薬としても用いることが可能である。ポリウレタンの原料であるトルエンジイソシアナートをはじめ、フェノールトリニトロトルエン等の有機化合物の原料である。また内燃ガソリンエンジンのオクタン価向上剤としても用いることができる。工業的には脱アルキル化によるベンゼン生成、不均化によるベンゼンとキシレンの生成などが挙げられる。火薬・爆薬としても用いられ、特に化合物のトリニトロトルエンは爆薬として有名であり[1]自衛隊では1号TNT爆破薬という装備品がある[4]

地球温暖化防止対策として水素の利用が進む中、トルエンに水素を反応させてメチルシクロヘキサン(前述)に転換して貯蔵、運搬する技術が注目されている[5]

また、F1においても、燃料にトルエンを混合させる事によりノッキングを抑えながらもパワーを出せる事で、特殊燃料としてこのトルエンを使った燃料が1980年代に猛威を振るった[6][7]

毒性と代謝

トルエン蒸気の吸入には中毒性があり、強い吐き気を催す。長期にわたり繰り返し吸入を続けた場合、回復不能の脳障害を負うことが確認されている。また耳毒性も確認されている。

トルエンは液体からの蒸気吸入だけではなく土壌汚染地下水汚染等により経皮・経口で体内に入る可能性がある。また、塗料樹脂などの建材溶剤として用いられたトルエンが室内に放出されることがあり、シックハウス症候群の原因物質の1つであると言われている[8]。また排気ガス等にも含まれている。

トルエンは代謝によりその大部分が排出される。ただし、トルエンは水への溶解度が低いため、尿といった通常の経路では排出することができない。そのため、代謝によって、より水溶性の高い物質になる必要がある。トルエンのメチル基芳香環部分と比較して酸化されやすい。そのためヒトの体内に吸収されたトルエンの95 %は、シトクロムP450によりメチル基部分が酸化されてベンジルアルコールとなる。この代謝経路では残りの5 %がが酸化されたエポキシドとして残留する。このエポキシドの大部分はグルタチオン複合体を形成するが、細胞に対する深刻な毒性は避けられない。

トルエンの代謝経路

トルエンが酸化されて生じたベンジルアルコールは、アルコールデヒドロゲナーゼなどの作用によってさらに酸化され、最終的に安息香酸となる。こうして生成した安息香酸は、グリシン抱合を受けて馬尿酸となり、これが尿中へと排出される。このため、ヒトの尿中に馬尿酸が存在することは、トルエンに曝露されたことの指標とされる場合もある。

ベンジルアルコールの代謝経路

日本食品安全委員会では、耐容一日摂取量を、体重1 kgに対して149 μgと定めている[1]

出典

  1. ^ a b c トルエンの概要について” (PDF). 食品安全委員会 (2008年11月12日). 2020年5月23日閲覧。
  2. ^ 芳香族・タールQ&A”. 一般社団法人 日本芳香族工業会. 2024年4月11日閲覧。
  3. ^ 経済産業省生産動態統計年報 化学工業統計編
  4. ^ 防衛省仕様書 1号TNT爆破薬” (PDF). 防衛省 (2014年12月22日). 2020年7月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年5月23日閲覧。
  5. ^ SPERA水素システムについて”. CHIYODA. 2022年12月18日閲覧。
  6. ^ RA167E”. 本田技研興業株式会社. 2025年7月28日閲覧。
  7. ^ RA168E”. 本田技研興業株式会社. 2025年7月28日閲覧。
  8. ^ 室内環境学会編・関根嘉香監修「住まいの化学物質-リスクとベネフィット―」東京電機大学出版局(2015)VOCs

参考文献

関連項目


トルエン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 03:06 UTC 版)

「耳」の記事における「トルエン」の解説

耳以外への毒性などについては「トルエン」を参照 トルエンに暴露されると、聴力にも悪影響があることが知られている。ヒトの場合日常的にトルエンに暴露されていた個体において、聴性脳幹反応の潜時(電位変化現れるまでの時間)が長くなることが確認されている。つまり、音の入力があってから脳で解析されるまでの時間が、健康な個体比べて長くなってしまうのである。 以下は動物実験でトルエンが聴力悪影響与えた事例である。1200ppm(4500 [mg/m3])のトルエンに5週間暴露され続けたラットは、その直後〜数週間程度は何ともなかったが、約10週間後(2.5ヶ月後)には4 [kHz]の音では問題が起こらなかったものの、8 [kHz]の音でわずかに聴力低下12 [kHz]以上の音では顕著な聴力低下見られた。つまり、ラットはトルエンの影響で、特に高い周波数において聴力障害が起こるのである。さらに、聴性脳幹反応見ても、音に対する反応速度低下している(聴性脳幹反応の各波の発生遅くなる)のが見られた。 他にも様々な条件調べられており、 1000ppm(3750 [mg/m3])のトルエンを1日当たり14時間・2週間渡って暴露 1500ppm(5625 [mg/m3])のトルエンを1日当たり14時間・3日間に渡って暴露 2000ppm(7500 [mg/m3])のトルエンを1日当たり8時間3日間に渡って暴露 などの条件ラット聴力低下発生したまた、モルモットでもトルエンは、その蝸牛ダメージ与えることが明らかになっている。 なお、2005年現在なぜトルエンでこのようなことが起こるのかについては判っていない。

※この「トルエン」の解説は、「耳」の解説の一部です。
「トルエン」を含む「耳」の記事については、「耳」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「トルエン」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ

「トルエン」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。



固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「トルエン」の関連用語

1
トルオール デジタル大辞泉
100% |||||

2
メチルベンゼン デジタル大辞泉
96% |||||

3
ビー‐ティー‐エックス デジタル大辞泉
74% |||||

4
ティー‐ディー‐アイ デジタル大辞泉
58% |||||

5
トリニトロトルエン デジタル大辞泉
58% |||||


トルエンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



トルエンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
JOGMECJOGMEC
Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、 機構は本資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。 また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。 したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。 なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
※Copyright (c) 2025 Japan Oil, Gas and Metals National Corporation. All Rights Reserved.
このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。
発泡スチロール協会発泡スチロール協会
Copyright (c) 2025 Japan Expanded Polystyrene Association All rights reserved.
独立行政法人科学技術振興機構独立行政法人科学技術振興機構
All Rights Reserved, Copyright © Japan Science and Technology Agency
京浜河川事務所京浜河川事務所
Copyright (C) 2025 京浜河川事務所 All rights reserved.
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのトルエン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの耳 (改訂履歴)、皮膚ガス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS