IUPAC命名法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/25 18:20 UTC 版)
IUPAC命名法(アイユーパックめいめいほう)は、国際純正・応用化学連合(IUPAC)が定める、化合物の体系名の命名法の全体を指す言葉。IUPAC命名法は、化学界における国際的な標準としての地位を確立している。
有機・無機化合物の命名法についての勧告は2冊の出版物としてまとめられ、英語ではそれぞれ「ブルー・ブック」「レッド・ブック」の愛称を持つ。
広義には、その他各種の定義集の一部として含まれる化合物の命名法を含む。IUPAPとの共同編集で、記号および物理量を扱った「グリーン・ブック」、その他化学における多数の専門用語を扱った「ゴールド・ブック」のほか、生化学(ホワイト・ブック;IUBMBとの共同編集)、分析化学(オレンジ・ブック)、高分子化学(パープル・ブック)、臨床化学(シルバー・ブック)があり、各分野の用語法の拠り所となっている。
これらの「カラー・ブック」について、IUPACはPure and Applied Chemistry誌上で、特定の状況に対応するための補足勧告を継続的に発表している。
無機化合物・単体
単体
単体は元素名の前にギリシア語数詞(以下参照)をつけることで命名できる。
- 置換命名法ではcyclohexylmethanolとなる。
代置命名法
代置命名法(だいちめいめいほう, replacement nomenclature)は、母体の炭素骨格を他の元素で置き換えたことを表す命名法である。
- DBUを置換命名法+付加命名法で命名すると、2,3,4,5,8,9,10,11-octahydropyrido[2,1-b][1,3]diazepine
一般規則
官能基の優先順位
化合物の名前において、官能基の優先順位は以下のとおりである。化合物が複数の官能基を持つとき、優先順位の高い官能基が接尾辞となり、優先順位の低い官能基は接頭語として置換命名法を用いてあらわす。
1.カルボキシ基 - 2.無水カルボキシル基 - 3.エステル結合 - 4.アミド結合 - 5.ニトリル基 - 6. ホルミル基 - 7.カルボニル基 - 8. 水酸基 - 9.アミノ基 - 10.イミノ基 - 11.エーテル結合 - 12. ニトロ基 - 13. ハロゲノ基
主鎖の決定
3つ以上の炭素と結合している炭素があるとき、化合物は複数の炭素鎖を持つ。このとき、分子の場合は全て、置換基の場合は直接結合する炭素を基点として、鎖を構成する炭素が最も多くなるような鎖を主鎖とする。ただし、R1(R2)C=C(R3)R4 という形の不飽和鎖において、R1-C-R2 あるいは R3-C-R4 を主鎖としてはならない。主鎖でない別の炭素鎖は、水素をアルキル基で置換したものとみなす。
IUPAC命名法がどのように適用されるかを理解するために、Penicillin Gの命名を段階を追って説明する。
Step1 母核の決定
チエナム環が中心なので、これを基幹にして命名する。チエナムは、慣用名 (trivial name) でかつIUPAC非推奨なので、組織名 (systematic name) を使用する。azete環とthiazole環との縮合複素環に水素を置換しても組織名にはなるが (2,3,6,6a-tetrahydro-5H-azeto[2,3-b]thiazole)、不必要に長くなるので採用しない。
したがって二環系炭化水素に代置命名法 (Replacement nomenclature) を適用する。母核となる炭化水素は
になる。
Step2 代置命名法の適用
二環系炭化水素にthiaとazaを置換したラクタムなので、命名は次のようになる:
位置番号は、代置命名法における優先順位の高いNを起点にしてSに振られる位置番号が小さくなる向きに回すので、上の図のようになる。
Step3 置換基の命名(その1: チエナム環の命名)
Penicillin Gは、チエナム母核のフェニル酢酸誘導体なので、まずチエナム環の命名を完成させる。
3位に二つのメチル基、2位にカルボキシル基そして6位にアミノ基があるので、
である。
この段階で2, 5, 6位の立体配置が決まるが、側鎖の命名が完了していないので立体配置の命名をしてはならない。
Step4 置換基の命名(その2: 誘導体の命名)
6位のフェニル酢酸アミド基を命名すると
となる。これで立体配置以外は決定した。
Step5 立体配置の命名(命名の完成)
立体配置を決定するルールの適用を判りやすくする目的で、ルールに関与する原子と結合だけ抜き書きを示す。
まず2位の立体配置から決定する。これまでの図の配置では最小の置換基が手前に来ている。これをいったんひっくり返して図示すると、
2位はS配置であるとわかる。
次に図の5, 6位は最小の置換基が奥を向いている。
このように、5, 6位はいずれもR配置である。
以上をまとめて命名の先頭に立体配置命名を付けると次のようになる。
説明の展開上ラクタムのカルボニルが主基 (principal group) のように扱ったが、置換基間には優先順位があり、この場合はカルボン酸が主基にふさわしい。したがって、7位のカルボニルを接頭語に回し、2位を主基にすると、
- (2S,5R,6R)-6-phenylacetylamino-2,2-dimethyl-7-oxo-4-thia-1-azabicyclo[3.2.0]heptane-2-carboxylic acid
となる。
IUPAC命名法の一覧
- カーン・インゴルド・プレローグ順位則
- 特性基順位一覧
- IUPAC命名法勧告一覧
- 水素化物命名法
- 元素の系統名
脚注
参考文献
- International Union of Pure and Applied Chemistry (1979). Nomenclature of Organic Chemistry, Sections A, B, C, D, E, F, and H. Oxford: Pergamon. ISBN 0-08022-3699.
- IUPAC, the Blue Book; Oxford: Blackwell Science (1993). ISBN 0-632-03488-2.
- International Union of Pure and Applied Chemistry (2004). Nomenclature of Organic Chemistry (IUPAC Provisional Recommendations 2004).
- International Union of Pure and Applied Chemistry (2005). Nomenclature of Inorganic Chemistry (IUPAC Recommendations 2005). Cambridge (UK): RSC–IUPAC. ISBN 0-85404-438-8. Electronic version.
外部リンク
- IUPAC Nomenclature of Organic Chemistry - ACD/Labs
- Nomenclature of Organic Chemistry - IUPAC
- 化合物命名法談義 - ウェイバックマシン(2000年4月11日アーカイブ分)
- 『IUPAC命名法』 - コトバンク
IUPAC命名法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/06 01:11 UTC 版)
以下に示すような方法がある。主鎖のとり方などの詳細についてはIUPAC命名法を参照。 母体化合物 NH3 をアザンとし、これを置換基名に付加する(この方法はあまり用いられていない)。 化合物の名称に対し、主基として接尾語「–アミン」を付加する(接合命名法)。 基の名称に対し、接尾語「–アミン」を付加する(基官能命名法)。 接頭語「アミノ–」を用いる(置換命名法)。 窒素を含むように主鎖をとり、その主鎖の中でメチレン (-CH2-) 基が窒素に置き換わった位置を「n–アザ–」の形で示す(代置命名法)。長鎖ポリアミンなどで利用される。 CH3NH2メチルアザン メタンアミン メチルアミン アミノメタン アザエタン (CH3)2CHN(CH3)2ジメチル(プロパン-2-イル)アザン N,N-ジメチルプロパン-2-アミン ジメチル(プロパン-2-イル)アミン 2-(ジメチルアミノ)プロパン 2,3-ジメチル-2-アザブタン また、許容慣用名が認められている化合物がいくつかある。 C6H5NH2 – アニリン CH3C6H4NH2 (パラ置換) – トルイジン H2N-C6H4-C6H4-NH2 (いずれもパラ置換) – ベンジジン
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