社会主義 用語

社会主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 15:20 UTC 版)

用語

「社会」の語源はラテン語の「socius」(友人、同盟国などの意味)である。「社会主義」の語の最初の使用は諸説あるが、「自由、平等、友愛」の語を普及させたピエール・ルルーが1832年に「personnalite」(これはフランス語で、個人化、個別化、パーソナライズなどの意味)の対比語として記した「socialisme」(これはフランス語で、直訳では「社会化する主義」、社会主義)が最初とも言われており[1]、ルルーは1834年には「個人主義と社会主義」と題した文書を発行した。他には1827年のアンリ・ド・サン=シモンなどの説があるが、いずれもフランス革命の流れの中で発生した。「社会主義」の語は、後の近代的な意味では色々な主張により使用された[1]

概要

「社会主義」にはさまざまな定義潮流がある。狭義には、生産手段の社会的共有と管理を目指す共産主義、特にマルクス主義とその潮流を指す。広義には各種の社会改良主義社会民主主義無政府共産主義国家社会主義国家共産主義なども含めた総称である。

歴史的には、市民革命によって市民が基本的人権など政治的な自由と平等を獲得したが、資本主義の進展により少数の資本家と大多数の労働者などの貧富の差が拡大して固定化し、労働者の生活は困窮し社会不安が拡大したため、労働者階級を含めた経済的な平等と権利を主張したものとされる。市民革命と社会主義運動は、啓蒙思想近代化では共通であるが、初期の資本主義が経済的には自由放任主義夜警国家)を主張したのに対し、社会主義は市場経済の制限や廃止、計画経済社会保障福祉国家などを主張する。

なお、社会主義を含む19世紀の社会改革運動は、生活環境改善などの物質的な側面だけでなく、理想社会(世俗的千年王国)の建設という主題を含む精神運動でもあり、同じ主題を持つ精神運動であった心霊主義と当初から密接な関係を持っていた[4][5]

第一次世界大戦後にロシア革命が起こり、世界最初の社会主義国であるソ連が誕生した。第二次世界大戦後は社会主義陣営と自由主義陣営の間で冷戦や、朝鮮戦争ベトナム戦争などの代理戦争が続いた。西側諸国内でも資本主義勢力と社会主義勢力と社会民主主義勢力の対立が生まれ、東側諸国でもソ連型社会主義自主管理社会主義の対立、中ソ対立などが起こった。一方で非共産主義諸国でも、西側諸国でのニューディール政策など混合経済化が進んだ。

共産党一党独裁のもとに中央集権型の官僚制が構築されたソ連型社会主義は、ソ連から東欧東アジア中東アフリカの一部に拡大したが、特にブレジネフ指導体制の成立後は停滞する。1989年には東欧革命が勃発、1991年にはソ連が崩壊し、ソ連型社会主義のイメージは世界的に失墜した。現在、共産党一党支配が続く中華人民共和国ベトナム市場原理の導入を進め、事実上の混合経済体制を築いており、経済発展が著しい。一方で、北朝鮮は市場原理の導入を拒否し、経済的には停滞している。

他方、社会民主主義と呼ばれる勢力は、第一次世界大戦後も共産主義者に批判されながらも西側諸国の議会で勢力を拡大した。イギリス労働党フランス社会党ドイツ社会民主党などが代表的なヨーロッパの社会民主主義政党である。これらの政党自由主義民主主義を擁護し、ソ連型社会主義の独裁に対して批判的な態度をとり、第二次世界大戦後は社会主義インターナショナルを結成した。1980年代に新自由主義の台頭により一時党勢を後退させたが、市場原理に一定の評価を下した「第三の道」(ブレア)などの路線によって1990年代には勢力をもりかえし、イギリスフランスドイツイタリアスペイン北欧諸国などでは度々与党の座についている。

また、植民地から独立した第三世界では、社会主義を掲げる国々が多い。有名なのはインドであり、インド憲法には「インドは社会主義の国である」と明記されている。インドの西ベンガル州ケーララ州では度々インド共産党が州政府に選出されている。また、中東のイラクシリアリビアなどではアラブ社会主義のもとに一党支配がなされていたが、2003年のイラク戦争や2012年からのアラブの春によってこれらの独裁政権は崩壊したか、崩壊寸前である。また、キプロスネパールでは共産党系の政党が与党となって国政を担っている。

新自由主義に苦しめられた中南米諸国では、21世紀に入って社会主義政権の伸張が著しい。ベネズエラなどでは選挙を通じて社会主義を掲げる政権が成立し、社会主義路線を進めている。反米左派という点では、ベネズエラの路線は、キューバニカラグアエクアドルの諸政府と一致している。また、ブラジルでも一種の社会民主主義政党である労働党が政権を担当し、社会的公正経済成長を同時に推進している。

潮流

主な潮流には以下がある。ただし各潮流の定義範囲はさまざまな考えがあり、また時期によっても変化している。

空想的社会主義

シャルル・フーリエアンリ・ド・サン=シモンロバート・オウエンらに代表される、初期の社会主義思想

社会民主主義

社会民主主義議会政治を通した民主的な変革を目指し、マルクス主義暴力革命論を否定する(反共主義)。社会改良主義民主社会主義などや、広義にはマルクス主義の立場を堅持しながら多党制を支持し暴力革命を否定した修正主義構造改革主義ユーロコミュニズムなども含む。国際組織に社会主義インターナショナルなどがある。

イギリス労働党フランス社会党ドイツ社会民主党などが代表的。

無政府主義

無政府主義は個人主義的な立場、自由主義的な立場、社会主義的な立場など多様な思想の総称だが、社会主義的な立場では権力の集中に反対して地域コミュニティや労働組合主義などを目指す。マルクス主義を権威主義と批判する。

サンディカリスム

サンディカリスム労働組合主義)は、コーポラティズム(共同体主義)の側面を持ち、労働組合がゼネストで資本主義体制を倒し、革命後は政府ではなく集産主義的な労働組合の連合による経済や社会の運営を目指す。より急進的で革命的な思想にアナルコサンディカリスムがある。

共産主義

共産主義は、産業の共有によって搾取階級もない社会を目指す。フランス革命時のバブーフは「土地は万人のものである」として物品の配給による平等社会を目指し、「共産主義の先駆」とも呼ばれる。なおマルクス・レーニン主義では、資本主義社会から共産主義社会に発展する中間の段階を「社会主義社会」とも呼ぶ。

マルクス主義(科学的社会主義)
マルクス主義はマルクスエンゲルスにより展開された。従来の社会主義を「空想的社会主義」と批判し、唯物史観剰余価値説による「科学的社会主義」を対置、共産主義革命は歴史の必然とした。1848年や1871年などの革命の経験から、議会制民主主義ブルジョア民主主義として暴力革命プロレタリア独裁を主張したが、19世紀後半にはマルクスは平和革命の可能性も認めており、エンゲルスは暴力革命が時代おくれとなったと述べている。「万国の労働者団結せよ」というプロレタリア国際主義に立つ。
マルクス・レーニン主義
マルクス・レーニン主義は、スターリンによって定式化された、「マルクス主義とレーニン主義の継承と発展」である。マルクス主義を基本としながらも帝国主義論により、職業革命家により構成される前衛党に指導された、反帝国主義と後進国革命を主張した。ロシア革命後も反革命勢力による反動に対抗するためとして一党独裁制を継続し、ソ連型社会主義の基礎となった。
トロツキズム
トロツキーによるマルクス主義理論。マルクスの世界革命論と後進国の革命理論である永続革命論を主張し、スターリンの一国社会主義論を批判した。なお各国共産党において、トロツキストの用語は、しばしば裏切り者の代名詞として用いられた。
スターリン主義
スターリンの発想と実践の総称[注 2]世界革命論を批判して一国社会主義論を主張した。のちのスターリン批判では、その独裁個人崇拝国家主義民族主義などが批判された。
毛沢東思想
毛沢東を中心とした中国共産党の思想。特に文化大革命期の中国共産党の理論・主張をさす。マルクス・レーニン主義を掲げながらも、農民中心のゲリラ戦術などによる武力革命方式を主張した。毛沢東主義とも呼ばれるが、これはあくまで他称であり、中国共産党の自己の理論の呼称は一貫して毛沢東思想である。ただし、文革期の紅衛兵などが毛沢東主義の呼称を使用した例がごく一部に存在している。
主体思想
主体思想(チュチェ思想)は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の独自の思想。当初はマルクス主義の発展と自称していたが、現在では「マルクス主義を基礎にしながらもすでにそれを超克した」と称している。

第三世界の社会主義

第二次世界大戦後、これまでの帝国主義諸国の植民地支配に対する民族運動が盛り上がった。先進資本主義諸国は植民地支配の利害と分かちがたく結びついていたため、反植民地の民族運動は社会主義的な傾向をもった。

中国、ベトナム、ラオス、北朝鮮などではソ連型の社会主義政権が誕生した。

また、ビルマではビルマ式社会主義が追求された。後述の宗教社会主義や国家社会主義の影響を受けているとみられる。

インドは社会主義政党であるインド国民会議派の指導で独立を達成し、憲法に「インドは社会主義国家」と明記した。

中東では1950年代~1960年代にアラブ社会主義が広まった。国有化など反植民地ナショナリズムの傾向を持つ。エジプトナセル、リビアのカダフィーなどが代表的。また、イラクやシリアなどではアラブ社会主義政党(バアス党)による独裁政権が誕生した。

アフリカでは1960年の「アフリカの年」以降、急速に独立国が増えたが、社会主義国を名乗る国も多く、旧帝国主義諸国やアメリカと対立して内戦になるケースも多かった。

宗教的社会主義

宗教的社会主義は、宗教的価値観に基づく、あるいは宗教の要素を積極的に取り込んだ社会主義を言う。

国家社会主義

以下の意味で使用される。

新左翼

新左翼諸派の総称。ソ連型社会主義や各国の共産党社会民主主義政党を既成左翼と批判する。多数の潮流・思想・党派があり、日本ではトロツキズム第四インター、「反帝国主義・反スターリン主義」の革マル派中核派マルクス主義復権としてレーニン主義を否定する社青同解放派、その他アナキズム毛沢東主義構造改革派などがある。なおトロツキストや毛沢東派は、自己の潮流こそ正統のマルクス主義であるという認識から、「新左翼」と呼ばれることを嫌う場合が多い。

その他

以下に挙げるものは、通常は「社会主義」とは呼ばれないが、社会主義的側面を持っているとも言われる。

古代の土地公有制度
農耕地を全て公有とし、農民に均等分配して公平を図る均田制や、奈良時代班田収授法インカ帝国の生産手段の公有(私有の禁止)制度は、専制政治の体制下においてのものであるが、社会主義との類似性が指摘される事が多い[注 1]
ケインズ主義
ジョン・メイナード・ケインズの提唱したケインズ経済学は、国家による経済への介入など社会主義的要素を含み、それに反対する立場からは社会主義であるとして批判された。なお、マルクス経済学の立場からは、国家独占資本主義であるという批判がなされている。一般的には、資本主義と社会主義、自由経済と計画経済をミックスした混合経済とされる。
日本型社会主義
戦後の日本は分権的特徴と中央集権的な特徴を兼ね備えた独特の混合経済体制を築き、経済学者の竹内靖雄などによって日本型社会主義と呼ばれる事がある。この場合「世界で最も成功した共産国」と賞賛または皮肉をもって呼ばれる事がある。
エコ社会主義
アルテルモンディアリスム反グローバリゼーションの立場から、緑の政治エコロジー環境主義と社会主義を融合させたイデオロギーである[6]
詳細はエコ社会主義を参照。
協同組合運動
協同組合運動は、空想的社会主義者であるロバート・オウエンの思想を源流とし、資本主義とは別形態の組織として協同組合を結成する、一種の社会主義運動である。産地直接契約など市場に左右されない生産や供給、組合員による生産参加や組織運営なども行われている。しかしながらオウエンの思想からやや現実に妥協し、非社会主義国家においても受け入れられている。その結果協同組合は、流通において私企業と提携、私企業を子会社に持つ、あるいは私企業が集まって協同組合を結成するなど、資本主義・自由市場と並存または補完し合う関係を構築している。
ナショナルトラスト運動
ナショナルトラスト運動は、各国のボランティアが共同の理念で広大な土地を購入し、利益を目的とせず、永続的に維持管理する面で、社会主義の側面を持っている。法的には私有財産であり観光資源としての側面もあるが、逆に国立公園化などの国有化と異なり政権によって民営化される恐れが無く、将来的にも私企業による経済活動を排除・規制できる。

注釈

  1. ^ a b 生産手段の共有化は社会主義に見られる大きな特徴であり、必須の条件のように語られることも多いが、後出のアンリ・ド・サン=シモンのようにそれを掲げていない思想家の例もある。エミール・デュルケームは「社会主義とは、結局のところ経済生活をばそれを規制する中心的機関に結びつけることに帰着するのではないか」と述べている[2]。この言葉に従うならば、社会を組織化することにより人々を支える制度は、例えば富の再分配だけであっても、社会主義の範疇に含めることができる。
  2. ^ スターリンは自らの立場を「マルクス・レーニン主義」と呼んだ。そのためスターリン主義は他称である。
  3. ^ 非公式にはモルドバの一部である沿ドニエストル共和国がロシアの影響下にて事実上のソ連型社会主義を維持している。ただし、国際社会において、同国を承認している国は存在しない。

出典

  1. ^ a b c The Oxford English Dictionary (1970年) C - 701p
  2. ^ 『社会主義およびサン‐シモン』邦訳:森博 恒星社厚生閣 ISBN 4-769-90190-9
  3. ^ 共産主義とは? 社会主義・資本主義との違いを子どもにも分かりやすく説明 | HugKum(はぐくむ)”. hugkum.sho.jp (2020年10月13日). 2022年7月8日閲覧。
  4. ^ 吉村正和 著 『心霊の文化史—スピリチュアルな英国近代』河出書房新社、2010年
  5. ^ 稲垣伸一 著「理想国家建設の夢-ユートピア思想・スピリチュアリズムと社会改革運動」 實踐英文學 63, 89-104, 2011-02-28
  6. ^ Kovel, J.; Löwy, M. (2001). An ecosocialist manifesto 
  7. ^ 日本共産党綱領






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