江の川
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/13 20:22 UTC 版)
江の川 | |
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浜原ダム付近。 | |
水系 | 一級水系 江の川 |
種別 | 一級河川 |
延長 | 194 km |
流域面積 | 3,900 km² |
水源 | 阿佐山(広島県) |
水源の標高 | 1,218 m |
河口・合流先 | 島根県江津市 |
流域 |
日本 広島県・島根県 |
名称・呼称
「ゴウノカワ」「ゴウガワ」「ゴウカワ」という名の由来は定かになっていない[4][5]。
「ゴウ」とは、川・川岸という意味があり、これに「江」「郷」の字があてられた[4]。河口の江津はゴウの津、つまり川の港から名付けられたと言われている[4][6]。漢字での「江津」という地名は永和2年(1376年)にでてくるが、康保4年(967年)『延喜式』では「ゴウ」という地名で出てくる[4][5][6]。
また広島、特に三次市中心部より上流は可愛川(えのかわ[7])と言われていた。これは養老4年(720年)『日本書紀』に出てくる名である[4]。この可愛に大和仮名の江を用いて江の川としたとする話もある[8][9]。
最上流部である源流から山県郡北広島町大朝までは「大谷川」と呼ばれる[10]。
江の川は、現代に至るまで流域各地で個別の名で呼ばれていた[4]。
- 明治19年(1886年) : 内務省土木局編『六十五大川流域誌』石見国(島根)側が「郷川」、安芸国(広島)側が「吉田川(あるいは可愛川)」と記載[11]。
- 大正8年(1919年) : (旧)河川法に則り、広島県がその管理区間を「郷川」とした[4]。
- 大正12年(1923年) : 逓信省編『水力調査書』島根側が「江川」、広島側が「可愛川」と記載[12]。
- 昭和5年(1930年) : (旧)河川法に則り、島根県がその管理区間を「江川」とした[4]。
- 昭和41年(1966年) : (現)河川法制定に伴い、一級河川指定(国の管理)の際に「江の川」に定められた[4]。
異名として「中国太郎」がある[4]。河川を管理する国土交通省によると、江の川は中国地方最大の河川であり太郎は長男、あるいは最大・最長の一番を意味することから呼ばれるようになったとしている[4]。江津市にある石見智翠館高等学校は旧校名を江の川高校といった。
流域
広島県の山県郡北広島町阿佐山(標高1,217m)に源を発し、北東に進み、三次市中心部で3つの支流が3方から合流する。そこから西進して島根県に入り中国山地内を北に進み、邑智郡美郷町で大きく西南に進路を変え江津市で日本海に注ぐ[1]。
江の川の全流域は、東西方向に約85km、南北方向に約60km [3]。一見すると楕円形であるが神戸川水系が中央付近の北側から島根県飯南町赤来付近にまで約20kmほどくさび状に食い込んでいることから、蝶が羽を広げたような形状に近い[3]。流路延長は約190kmであるが、源流から河口までの直線距離では約50km程度である[3]。流域面積は島根県側が1,260km2、広島県側が2,640km2でほぼ1:2になる[1]。以下、本流および主要な支流にある市町村[1]を上流側から列挙する。
- 上流
阿佐山から南進、北広島町高野で東進する。北広島町大朝で田原川・大塚川が合流した後そこから南東に進み、北広島町壬生で志路原川が合流、土師ダムで八千代湖を形成する。ダムから流下し、安芸高田市吉田町長屋で簸ノ川が合流、吉田町桂で北東へ進み、甲田町下小原で戸島川が合流、そのまま北東へ進み三次市中心部で馬洗川が合流する。そこから大きく西へ進路を変え、神野瀬川が合流、更に西進し江の川取水堰(鳴瀬堰)に入る。
源流から江の川取水堰付近までにあたる[13]。最上流部が大谷川[10]、また上流域は可愛川とも呼ばれている。河床勾配は1/500から1/900、丘陵地や隆起準平原の中を比較的緩やかに流れていく[12][14][15][16]。
- 中流
取水堰から西進する。この区間からは、川が安芸高田市と三次市の市境になる。左岸安芸高田市高宮町船木で生田川が合流、左岸安芸高田市高宮町佐々部・右岸三次市作木町門田で大きく北に進路を変える。左岸高宮町川根で長瀬川が合流、左岸高宮町川根・右岸三次市作木町香淀で左岸側が島根県との県境を越え邑智郡邑南町に入る。ここから左岸側が島根県、右岸側が広島県になり、川が県境となる。右岸三次市作木町下作木で作木川が同地区で砂井谷川が合流、左岸邑南町下口羽で出羽川が合流する。北進し、左岸邑南町宇都井・右岸作木町伊賀和志で右岸側が島根県との県境を超え邑智郡美郷町へ入る。川は町境になるも、すぐ邑南町境は西の内陸部に移り、川面は美郷町内になる。そのまま北進を続け、浜原ダムで浜原貯水池を形成する。
江の川取水堰から浜原ダム付近までにあたる[17]。大きく蛇行しながら中国山地内を流れるいわゆる山地流であり、河床勾配は1/300から1/600と上流域よりも急勾配になる[14][17]。先行谷を形成、河岸段丘とごく狭い谷底平野が発達、流路に岩・巨石も露出し、両岸は急峻な斜面が迫る[14][15][18][16]。所々にある狭い氾濫原に集落が点在する[3]。日本海から季節風が吹き込むため、この中流域のことを「江の川関門」と呼ばれる[14][18]。
- 下流
北進していた川は美郷町中心部で大きく南西へ進路を変える。川本町に入り、その中心部で三谷川が、川本町川下で木谷川が合流する。川本町因原で濁川が合流すると、西に進路を変え、江津市に入る。江津市桜江町川戸で八戸川が合流、西北西に進路を変え、江津市松川町下河戸で都治川が合流、江津市渡津町で平野部に入り、そのまま日本海に流れ込む。
浜原ダムから河口までにあたる[19]。河床勾配は1/900から1/6,000[14]。石見高原と呼ばれる隆起準平原の中を進み、中流域からの山地流がしばらく続き、のち川幅は広がり、蛇行する河川の中でわずかながら広がる氾濫原に集落が点在する[15][17][16]。丘陵を抜け出した川はそのまま日本海に注ぐ[15][3]。農地・宅地利用できる大きな沖積平野を作らなかったことから「無能な川(能無川)」とも呼ばれた[20][21]。
自然
地形・地質
江の川の河川形状は、上流と中・下流で全く異なる[16]。源流は中国山地内、上流域が中国山地南の瀬戸内海側にある台地・盆地内、中流域が中国山地内、下流域が中国山地北の日本海側にある台地・平野となる[22]。その流路は中国山地の造山活動前に形成された。
流域地形図
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流域の地形は、まず標高150m-200mの三次を中心とする丘陵地(山麓平坦地)が形成、次に標高400m-600mの隆起準平原(吉備高原・世羅台地・石見高原など)が形成され、最後に標高1,000m-1,300mの中国脊梁山脈が地殻変動によって形成された[14]。この新生代第三紀に起きた山地の造山活動に対し、江の川の下刻侵食力のほうがそれを上回ったためそのまま流路として残り、結果瀬戸内海側から中国山地を断ち切って日本海側へ流れる水系が形成された[14][22][8]。のち新生代第四紀に地殻変動によって相対的に落ち込んだことで三次盆地が形成され、そこへ馬洗川・西城川・神野瀬川なども集まってきたことで本流と支流合流部が形成された[23]。三次付近は開けているが河口の江津付近は狭くその形状から「ひょうたん型河川」とも呼ばれている[12][24]。
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一方中国山地側から見ると、脊梁が江の川で分断されたことになる。中国山地の狭義では江の川より東側を東中国山地、西側を西中国山地あるいは冠山山地と呼称している[25]。
江の川本流・支流の源流点は、多くが中国山地内にある。例えば、阿佐山では南側に流れていくのが江の川本流、北側に流れていくのが江の川一次支流八戸川、西側に流れていくのが太田川水系滝山川になる[26]。一方で馬洗川など流域南側では山の頂上ではなくなだらかな地に源流点がある支流が存在する[26]。これは他の水系との分水嶺も同様である。特徴的なこととして、江の川の後に形成された他の河川に河川争奪されたことで分水嶺となった地点が複数存在することが挙げられる[27]。つまり、江の川流域は当初より数万年かけて小さくなっていったことになる[27]。こうした分水嶺の代表例としては、太田川水系による争奪として上根峠・向原町周辺、斐伊川水系によるものとして王貫峠・三井野原、芦田川水系によるものとして上下町周辺がある[27]。
-
3 島根・広島県道5号上根峠。標高268m。日本における河川争奪地形の代表例。
-
4 向原町泣き別れ。標高190m。典型的な谷中分水嶺[28]。
-
7 三井野原。標高730m。斐伊川水系との分水嶺[28]。
地質の基盤は流紋岩が広い範囲で分布する[29][16]。中国山地、つまり源流部・上流域支流・中流域はこれに花崗岩が貫入する[29][16]。風化した花崗岩内に含まれる砂鉄を用いて、かつて流域の広い範囲でたたら製鉄が行われていた[30]。上流域の三次盆地周辺では沖積層の備北層群が、上流域支流馬洗川流域は吉舎安山岩が広く分布する[29][16]。この備北層群からヒゲクジラの化石(ショウバラクジラ)が発見されており、そこから新生代第三紀中新世ごろ三次・庄原つまり江の川上流域は海の中(古瀬戸内海)であったと考えられている[31]。河口部は三群変成岩で形成されている[29][16]。島根県では石州瓦が生産されているが、その瓦粘土の一つである都野津層はこの流域では支流部で小規模に分布する[29]。
気候・水文
中国地方の気候区分は基本的に中国山地で区分され[32]、北側が日本海側気候・南側が瀬戸内海式気候、そして中国山地が山岳気候になる[16]。ただ中国山地より南側にあたる江の川上流域の大部分は内陸性気候が現れる[32]。これに冬には日本海から季節風が流れ込むため、その吹き込み口で江の川関門と呼ばれる中流域は厳しい気象となる[32]。
平均年間降水量は、流域平均で1,650mm[注釈 1][32]。個別で見ると島根県側では約2,000mm [32]。広島県側では江の川と西城川流域が約1,600mm、神野瀬川流域が約1,800mm、馬洗川流域が約1,500mm [32]。つまり島根と比較して広島側が少なく、更に広島でも南の瀬戸内海側に近いほど降水量が少なくなる[32]。
中国地方唯一の中国山地を貫流する河川であることから、島根県側の川が全て日本海に流れるのに対して、広島県側ではほぼ瀬戸内海であるが唯一江の川水系のみ日本海に流れる[33][要校閲]。うち一次支流長瀬川流域のみ、上流が島根県で下流が広島県で江の川に合流する[要校閲]。
上流域の支流は三次盆地に集まる求心型で[16]、中でも馬洗川・西城川・神野瀬川は江の川上流とほぼ同規模[注釈 2]である特徴がある[14]。こうしたことから、合流地点の流量は河口地点での流量のほぼ半分に達する[36]。四方を山々に囲まれ本流・支流が合流する三次盆地は秋から春にかけて大規模な霧が発生しやすい(霧の海 (三次市))[18]。
一方で中・下流域の支流は、先行性の本流に比較的短い流路の支流が流れ込む羽状型である[16]。本流の中・下流は狭隘で両岸まで山が迫り、合流部も含めて大きな扇状地・平野は存在していないため水の逃げ場が無くそのまま流れ込むことから、洪水時では水位が10m以上上昇する[34][37]。
以下2017年度の国管理区間における水質現況[38][39]を示す。経年変化で見ると、河川に関しては影響する人口産業密集地域がないため水質の急激な悪化はない[40]。一方で湖沼(ダム)は富栄養の状態にある[41]。
河川 | 観測地点 | 類型 | BOD | 観測地点 | 類型 | BOD | 観測地点 | 類型 | BOD |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
江の川(代表値) | 三国橋 | A | 1.0 | - | |||||
江の川上流 | 吉田 | A | 1.0 | 栗屋 | A | 0.9 | 尾関山 | A | 1.0 |
江の川中流 | 川本大橋 | A | 0.6 | 川本大橋 | A | 0.6 | - | ||
江の川下流 | 桜江大橋 | A | 0.6 | 川平 | A | 0.7 | 江川橋 | A | 0.6 |
馬洗川 | 南畑敷 | A | 1.1 | - | |||||
西城川 | 三次 | A | 0.9 | - | |||||
神野瀬川 | 神野瀬川 | A | 0.9 | - |
河川 | 観測地点 | 類型 | COD |
---|---|---|---|
江の川 | 土師ダムサイト | A | 3.6 |
上下川 | 灰塚ダムサイト | A | 3.6 |
動植物
純淡水魚ではカワムツ・オイカワが代表種[42]。回遊魚では全流域でアユが生息しており[19]、上流では陸封のもの[13]、中流では尺鮎と呼ばれる大型のものがいる[17]。またサケ、ウナギやサクラマスも確認されている[13][42]。下流の汽水域ではスズキ・クロダイ・ボラなどが確認されている[42]。
流域の植生はほぼ二次林である[15]。中国山地およびその北側、つまり島根県全域と広島県備北地方にかけての広い範囲でコナラ林が分布する[15]。一方でその南側の低地になる吉備高原面ではクリ・コナラなどの落広葉樹を含むアカマツ林が広く分布する[15]。上流部支流の源流付近、備北地方の中国脊梁山脈付近はミズナラ林が多い[15]。自然植生は、上流域北部高地に分布するブナ林、上流域低地の社叢にわずかに残るシラカシ林、中・下流域のところどころでシラカシ林が残っている[15]。また中・下流域の広い範囲の河岸に水害防備林として竹林が植えられている[19]。
鳥類は流域によって異なる。下流域が河原や海岸を生息の場とする種、中流域が山地内であるため林を生息の場とする種、上流域は中流域とほぼ同じ構成であるが川に沿って農地が広がるため林に強依存する種は少なくなる[43]。
2003年・2008年・2013年に行われた河川水辺の国勢調査において確認された、種の保存法(希少野生動植物種)・文化財保護法、環境省・島根県・広島県の各レッドリストに登録されている特定種の数は以下の通り[44][45]。
うち希少野生動植物種としては、コウライアイサ・オオタカ・クマタカ・ハヤブサ、オオサンショウウオが確認されている[44][45]。一方で、上流・下流の一部では河床の撹拌不足による環境劣化が確認されており、上流域の広い範囲で要注意外来種のオオカナダモが生息し、ダム湖などではオオクチバスなど外来種が繁殖している[46][17]。
-
コウライアイサ
-
オオタカ
-
クマタカ
-
ハヤブサ
-
オオサンショウウオ
景勝
流域の地形は、大きく分けて脊梁山脈/高原面/平坦地が階段状に形状されている[47]。江の川支流の中にはこの段差した地点で数千年もの歳月をかけ滝や渓谷を作り出した[47]。以下、代表的なもの[48][49][50][51][52][53]を列挙する。
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- 小掛峡 12
- 神之瀬峡 13
- 砂が淵 14
- 那智の滝 16
- 手洗滝 17
- 品の滝 18
- 日野滝 19
- 鳴滝 20
- 雄滝・雌滝 21
古くから河川舟運・漁業が盛んであった江の川流域では、良好な漁場、あるいは航行に危険のある箇所として淵・瀬に名がつけられている[54]。これらは人々の信仰の対象であったり、伝説が作られたり、景勝として観光名所となった[47][10]。本流中流域には厳島神社(美郷町明神岩)[49]・金比羅社(美郷町荷越の瀬)[10]と水あるいは舟の神を祀る神社がある。本流上流(安芸高田市釜ヶ淵)と本流下流(江津市スイジンサン)には別々の猿猴にまつわる伝説がある[10]。
藝薇四十八川流 合作一江通石州 兩岸劔鋩千嶂碧 斷腸未必待猿愁 — 頼杏坪『江河』、[9]
中村憲吉は新聞のコラムの中でこう表現している。
山陽、山陰両道の河川は殆ど何れもが中国山脈を分水嶺として、瀬戸内海と日本海とに注いでゐるのにひとり両道第一の長流江の川のみは、その源を山陽道に発し且つその流程の半はこれを通過しながら、下は遠く山陰に入り日本海に流れ去つてゐる。備後の北部が安芸国と境を接し、それに雲石二州の国境が相迫らうとするところに広袤方約二里のいはゆる三次盆地がひらけてゐて、江の川五十余里の水源の大部分は、ここに会する吉田、馬洗、西城、神瀬の四大川によつて涵養されるのである。しかも江の川が石州に入つて流れる廿五里は、全然大谿谷中の流程であるから、河川としての灌田牧水の用は、この上流地域で尽されてゐるわけである。従つて自余は古くから舟楫の便を日本海へ通じてゐるほかは春北風の潮風をこの奥地に迎へ、秋にこの閑郷の錦葉を日本海の波へ送るに過ぎない。ただ季節が夏に向ふときにはこの河の支流といふ支流にはその細渓に至るまで河口から無数の香魚が遡つてその清躯を岩瀬に躍らし、この河一帯の地に活境が俄にひらかれる。 — 中村憲吉、『大阪朝日新聞』1926年(大正15年)8月3日付[55]
源流付近が西中国山地国定公園、上流域支流の西城川源流付近の吾妻山から道後山一帯が比婆道後帝釈国定公園、江の川本流下流域の三瓶山周辺が大山隠岐国立公園三瓶山地域。上流域支流の神野瀬川流域が神之瀬峡県立自然公園(広島)、本流中流域の県境から下流側が江の川水系県立自然公園(島根)、下流域の景勝が千丈渓県立自然公園(島根)、断魚渓・観音滝県立自然公園(島根)に指定されている[16][56]。
注釈
出典
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- ^ 「川」と「川を渡る橋」の情報と資料 - 中日本コンサルタント
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